第三十話「かき氷」
第三十話「かき氷」
近所のスーパー。
渚は牛乳と練乳を手に取った。
「これでいいかな!」
「これだけ?」
小雪が首を傾げる。
「桃が美味しいから余計なものはいらない!」
「牛乳で何するの?」
「牛乳を凍らせて削るんだよ!」
「そうなんだ」
二人は買い物を済ませて石原農園へ戻った。
「おばあちゃん」
小雪が声をかける。
「作業場の桃とジャム使ってもいい?」
「いいけど、どうしたんだい?」
「今日みんな集まるから」
「渚とデザート作ろうと思って」
「あと、かき氷器あるかな?」
鶴子は少し考えた。
「あったかなー」
「もう何年も使ってないけど」
「あとで台所に持っていくわ」
「ありがとう」
台所。
「さ、やるぞ!」
渚はやる気満々だった。
アルバイトの時くらい生き生きしている。
「何したらいい?」
小雪が聞く。
「何って、あんまりやることないんだけどね!」
牛乳パックに練乳を入れる。
そしてよく混ぜる。
「これを凍らせるだけ!」
「簡単だね」
「でしょ?」
「凍ったら削って」
「桃を乗せて」
「桃ジャムと練乳をかけて完成!」
「それだけ?」
「うん!」
渚は笑う。
「あー、夜が楽しみ!」
夕方。
親戚が集まり始めた。
小雪の母、小絵の兄。
孝一。
その妻の美幸。
従兄弟の孝樹。
従妹の恵理。
孝一は石原農園の後継ぎだ。
「おーい、小雪!」
孝一が手を振る。
その瞬間。
「雪姉ー!」
恵理が飛びついた。
「恵理ちゃん、久しぶり」
「孝樹くんも」
「う、うん」
孝樹は少し照れくさそうだった。
「雪姉、その人だーれ?」
恵理が渚を指差す。
「台湾のお友達だよ」
「渚だよ!」
「よろしくね!」
「恵理ちゃん!」
「孝樹くんも!」
恵理は嬉しそうに笑う。
孝樹は少しだけ会釈した。
その時。
「そろそろ迎え火焚くぞー!」
孝男の声が響いた。
「はーい!」
一同が返事をする。
石原農園の入口。
おがらに火をつける。
線香を供える。
全員が手を合わせた。
渚が小声で聞いた。
「迎え火って何?」
「ご先祖様が迷わないようにする目印だよ」
小雪が答える。
「なるほど」
孝男が笑った。
「さ、ご先祖様も帰ってくるから」
「家に入ろう」
広間には沢山の料理が並んでいた。
寿司。
唐揚げ。
ピザ。
子供達が喜びそうな料理ばかりだった。
広間の奥には仏壇。
その前には。
きゅうりと茄子。
しかも足が付いている。
「小雪」
「あれ何?」
「精霊馬だよ」
「しょうりょううま?」
孝男が説明する。
「きゅうりが馬」
「茄子が牛」
「ご先祖様には馬に乗って早く帰ってきてもらって」
「帰りは牛に乗ってゆっくり帰ってもらうんだ」
「へぇー」
台湾とはまた違う文化だった。
「さあ」
鶴子が手を叩く。
「みんな食べよう」
「いただきます!」
賑やかな食事が始まった。
「小雪」
孝一が笑う。
「台湾は慣れたか?」
「うん」
「毎日楽しいよ」
「よかったな」
「その子は?」
美幸が渚を見る。
「渚」
「台湾のお友達」
「林渚です!」
「お邪魔してます!」
元気よく頭を下げる。
「今日は富士山見てきたのよね」
鶴子が言う。
「うん」
「すっごい綺麗でした!」
渚が身を乗り出す。
すると。
「渚、泣いてた」
小雪がさらりと言った。
「ちょっと!」
「小雪!」
「やめてよ!」
一同が笑う。
「でも本当に感動したんだもん!」
「恵理も行きたかったー!」
「今度みんなで行こうね」
小雪が言う。
「でも朝早いんだよ」
「やだー!」
「行きたいー!」
食事も終わりに近づいた頃。
「そろそろ作る?」
小雪が立ち上がる。
「うん!」
渚も立ち上がった。
二人は台所へ向かう。
凍らせた牛乳を削る。
たっぷり盛る。
切った桃を乗せる。
桃ジャムをかける。
最後に練乳。
「完成!」
渚が胸を張った。
「じゃじゃーん!」
「渚と二人で作った」
小雪も少し誇らしそうだった。
「台湾風の桃かき氷です!」
「おおー!」
歓声が上がる。
「美味しそう!」
恵理の目が輝いた。
「でしょー!」
「溶けるから早く食べよ」
「いただきます!」
一斉に食べ始める。
そして。
「うまっ!」
「美味しい!」
「桃すごい!」
次々に声が上がった。
「これどうやって作ったの?」
目を丸くした美幸が聞く。
「牛乳凍らせて」
「桃乗せて」
「ジャムと練乳かけただけです!」
「えー!」
「簡単!」
孝一が大きく頷く。
「明日から農園で出すか!」
「渚ちゃん、使ってもいいかな?」
「もちろん!」
「うれしー!」
「名前も考えないとな」
孝男が笑う。
「ももミルクかき氷!」
恵理が元気よく言った。
「そのまんまじゃん」
孝樹が呆れる。
一同が笑った。
その時。
鶴子が台所から箱を持ってきた。
「渚ちゃんからのお土産だよ」
箱を開ける。
ふわりと甘い香りが広がった。
「おお」
孝一が目を丸くする。
「良い香りだなぁ」
中には大きなマンゴーとパイナップルが入っていた。
「これ台湾のマンゴー?」
美幸が聞く。
「はい!」
「お母さんが選んでくれました!」
「すごーい!」
恵理が目を輝かせる。
「恵理、マンゴー食べたことない!」
「本当?」
渚は少し驚いた。
「じゃあ切ろう!」
孝一が包丁を持つ。
切った瞬間。
さらに甘い香りが広がった。
「うわぁ……」
恵理が思わず声を漏らす。
「いただきます!」
一斉に口へ運ぶ。
「甘っ!」
「美味しい!」
「何これ!」
あちこちから声が上がる。
「台湾のマンゴーってこんなに美味いのか」
孝一も驚いていた。
渚は嬉しそうに笑う。
その時だった。
「恵理ちゃん」
「ん?」
渚は食べかけのかき氷を指差した。
「これも乗せてみて」
マンゴーを一切れ。
かき氷の上に乗せる。
「いただきます!」
恵理が口へ運ぶ。
そして。
「おいしー!」
満面の笑顔になった。
「でしょ!」
渚も得意そうだった。
「台湾のマンゴーかき氷はね」
「本当はもっといっぱい乗ってるんだよ!」
「えー!」
「食べたい!」
「パパー!台湾行きたい!」
恵理が叫ぶ。
家中に笑い声が響いた。
この桃かき氷が。
後に石原農園の名物になる。
「そうだ」
鶴子が思い出したように言った。
「明日は小学校のグラウンドでお祭りがあるから」
「渚ちゃんと行ってきなさい」
「う、うん」
「お母さんが着てた浴衣があるんだよ」
「二人に着せてあげるからね」
「浴衣!?」
渚の目が輝く。
「浴衣なんて着たことない!」
「めっちゃ楽しみ!」
こうして。
笑い声に包まれながら。
山梨の夜は更けていった。




