第二十九話「お盆」
第二十九話「お盆」
午前七時。
石原家の墓へ到着した。
台湾の墓とは随分違う。
四角く縦長の墓石。
整然と並ぶ墓地。
石原家の墓は、
周囲と比べて少し立派だった。
ここに。
小雪の母、小絵が眠っている。
小雪は墓の前へ立つ。
そして自然に手を合わせた。
何も言わない。
けれど。
渚には何となく分かった。
きっと。
「ただいま」
そう言っているのだろう。
「さて」
孝男が腕まくりをする。
「掃除始めるぞ」
「うん」
小雪が頷く。
「私もやる!」
渚も答えた。
「ありがとう」
小雪は少しだけ笑った。
孝男は墓石を丁寧に磨く。
小雪と渚は周りの草を取る。
花立の水を替える。
新しい花を供える。
夏の日差しは強かった。
しばらくして。
「こんなもんでいいだろ」
孝男が腰を伸ばした。
「ご先祖様も喜んでるぞ」
今日はお盆。
今夜、
ご先祖様達は石原家へ帰ってくる。
「さて」
「線香あげて帰るか」
「うん」
小雪が頷く。
台湾の晴明節とは少し違う。
渚は辺りを見回した。
静かだった。
聞こえるのは蝉の声と風の音だけ。
台湾の墓参りはもっと賑やかだ。
親戚が集まって。
お供えを並べて。
子供達が走り回る。
まるで宴会のようになる。
だけど、
本土の墓参りは違った。
静かで、
少しだけ寂しくて。
でも不思議と温かかった。
小雪は線香を供える。
そして静かに手を合わせた。
去年までは父や祖父母に連れて来てもらっていた。
今年は違う。
春から始めたアルバイトでお金を貯めた。
決して大きな金額ではない。
それでも、
自分の力でここまで来た。
その事実が、
いつもの墓参りを少し特別なものにしていた。
渚は隣から小雪を見る。
小雪と出会ってまだ数ヶ月。
だけど、
もし小雪のお母さんが生きていたら。
今日のことを、
どんな風に話しただろう。
台湾のこと。
学校のこと。
友達が出来たこと。
アルバイトを始めたこと。
そして、
自分を連れてきてくれたこと。
そんなことを考えていたら、
胸の奥が少しだけ苦しくなった。
墓参りを終え、
三人は石原農園へ戻った。
「ありがとう」
小雪が言う。
「付き合ってくれて」
「全然!」
渚は笑った。
「家のお墓参りも来てくれたじゃん」
その時だった。
渚が作業場の方を見る。
「あれ何?」
作業場には大量の桃が積まれていた。
「多分加工用かな」
小雪が答える。
「ジャムとか瓶詰めとか」
「柔らかくなった桃を使うの」
「ふーん」
渚は桃を見つめる。
そして、
何かを思いついたように顔を上げた。
「小雪!」
「ん?」
「あの桃、少し使ってもいいかな?」
「大丈夫だと思うけど」
「おばあちゃんに聞いてみるね」
「何するの?」
渚は満面の笑みだった。
「かき氷!」
「桃でかき氷作ったら絶対美味しい!」
小雪は少し考える。
台湾で食べたマンゴーかき氷。
山盛りの果肉。
冷たい氷。
甘い香り。
あの味を思い出した。
「……うん」
「絶対美味しい」
「でしょ!」
渚は嬉しそうだった。
「今日のご飯のデザートにしようよ!」
今日は親戚が集まる。
きっと賑やかになる。
「作ってみよっか」
小雪も笑う。
「でもレシピは?」
「任せて!」
渚は胸を張った。
そして。
「とにかくスーパー行こ!」
「う、うん」
小雪は苦笑した。
こういう時の渚は。
誰にも止められない。




