表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも台湾が日本だったら〜小雪と渚、二人の少女の物語〜  作者: Taky.Bates


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/41

第二十八話「雲海」

第二十八話「雲海」


午前三時。


まだ夜の色が残る石原農園。


「さて、出発するぞー」


孝男が玄関を開けた。


「はーい」


小雪はすぐに立ち上がる。


「ねむーい……」


渚は半分目を閉じたままだった。


「本当に行くの?」


「行くよ」


「富士山見たいって言ったじゃん」


「昨日の私は元気だったの…」


小雪は思わず笑った。


三人を乗せた車は、

静かな農道を走り出した。


三十分後。


登山者用駐車場へ到着する。


車を降りた瞬間。


辺り一面が白かった。


「うわ……」


渚が辺りを見回す。


霧。


どこを見ても霧だった。


「おじいちゃん」


小雪が空を見上げる。


「こんな霧で富士山見えるの?」


孝男は笑った。


「大丈夫だ」


そして少しだけ空を見た。


「今日は当たりかもしれないぞ」


「当たり?」


渚が首を傾げる。


「富士山に当たりとかあるの?」


「あるさ」


孝男は頷く。


「毎日違うからな」


渚にはよく分からなかった。


歩き始める。


登山といっても舗装された道路だ。


それでも、

朝の三時台には十分きつい。


「しんどーい……」


渚がぼやく。


「まだ十分しか歩いてないよ」


小雪が呆れる。


「十分も歩いたんだよ!」


「まだ三十分ある」


「うそでしょ……」


渚は空を見上げた。


真っ暗だった。


四十分ほど歩いた。


ようやく目的地が見えてくる。


「さ」


孝男が指差した。


「あとはこの階段だけだ」


渚は固まった。


「まだあるの?」


目の前には長い階段。


百八十段ほどある。


「あと少し」


小雪が笑う。


「頑張ろ」


「絶対騙された……」


渚は文句を言いながら登り始めた。


階段を登りきる。


息が上がる。


「はぁ……」


「もう無理……」


しゃがみ込む渚。


孝男はその先を見ながら言った。


「二人はここで待ってなさい」


「え?」


「ちょっと様子を見てくる」


そう言って先へ歩いていった。


数分後。


孝男が戻ってくる。


顔が少し嬉しそうだった。


「今日の富士山は凄いぞ」


「へー……」


渚はもう疲れ切っていた。


富士山どころではない。


「さあ」


「行こう」


少し歩く。


そして。


霧が切れた。


渚は立ち止まる。


その先に。


富士山があった。


真っ白な雲海。


朝日に染まり始める空。


その中心に。


富士山だけが静かに立っていた。


まるで空に浮かんでいるようだった。


誰も喋らない。


風の音だけが聞こえる。


「綺麗……」


小雪が小さく呟いた。


ふと横を見る。


渚が動かない。


「渚?」


渚は黙ったまま富士山を見つめていた。


そして、

頬を涙が伝っていた。


「やばい……」


「こんなに綺麗だなんて思わなかった……」


声が震えていた。


「写真と全然違う」


小雪は何も言わなかった。


ただ頷く、

それしか出来なかった。


しばらくして、

孝男が静かに口を開く。


「富士山はな」


「コノハナサクヤヒメ様って神様が宿る山なんだ」


渚は黙って聞いている。


「だから昔から」


「みんなが手を合わせてきた」


朝日に照らされた富士山は、

確かに神様のように見えた。


孝男はリュックから水筒を取り出した。


「ほれ」


「ブラックだけど飲めるか?」


紙コップへ注ぐ。


湯気が立った。


「ありがとう」


小雪が受け取る。


渚も受け取った。


一口飲む。


苦い。


でも温かかった。


三人は並んで富士山を眺める。


ゆっくりと太陽が昇っていく。


雲海が金色に染まる。


誰も急がなかった。


その時間が。


とても特別だった。


しばらくして。


渚が口を開いた。


「おじいちゃん」


「ん?」


「ありがとうございます」


孝男が振り向く。


「すっごく感動しました」


渚は少し照れながら笑った。


孝男も嬉しそうに笑う。


「そうかそうか」


「喜んでもらって良かったよ」


そして立ち上がる。


「さあ」


「そろそろ降りてお墓の掃除に行こうか」


「うん」


小雪が頷く。


「渚」


「もう少し付き合ってね」


渚は笑った。


「もちろん!」


「そのために来たんだから!」


さっきまでの眠気はどこかへ消えていた。


帰り道。


さっきまで文句ばかり言っていた渚が。


一度も疲れたとは言わなかった。


雲海の向こうに浮かぶ富士山は。


きっと。


ずっと忘れられない景色になるのだろう。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ