第三話「放課後」
第三話「放課後」
チャイムが鳴る。
その瞬間、
教室の空気が一気に緩んだ。
椅子を引く音。
笑い声。
部活見学へ向かう生徒たち。
夕方になっても、
熱気は全然引いていなかった。
「終わったぁ〜……」
渚が机へ突っ伏す。
「疲れた?」
小雪が聞く。
「疲れた〜」
「初日だもんね」
「お腹すいたよ〜」
小雪は少し笑った。
教室には、
まだ何人か生徒が残っていた。
「小雪って部活入るの?」
突然、
渚が顔を上げる。
「え?」
「まだ決めてない?」
「……うん」
小雪は少し考える。
中学時代も、
特に部活へ熱中していたわけではなかった。
東京にいた頃は、
放課後になるとよく図書館へ行っていた。
「渚は?」
「んー」
渚は椅子をくるっと回した。
「バイトしたい」
「またそれ」
「だってお金欲しいじゃん」
現実的だった。
「何するの?」
「あ、そっか」
渚は思い出したみたいに笑う。
「うち夜市で大鶏排屋やってるんだ」
「ダージーパイ?」
「めっちゃデカい唐揚げ!」
両手を広げる。
「顔より大きいよ!」
「そんなに?」
「ほんとほんと!」
渚は楽しそうに笑った。
「林鶏排って名前!
今度来る?」
その時。
ぐぅ〜……
小さな音がした。
数秒、
沈黙。
渚がゆっくり小雪を見る。
小雪の顔が赤くなる。
「……今のなしで」
「小雪もお腹空いてんじゃん!」
「やめて」
渚は耐えきれず吹き出した。
「じゃあさ!」
渚が突然立ち上がる。
「かき氷食べ行こ!」
「かき氷?」
「台湾のかき氷めっちゃ美味しいよ!」
外へ出ると、
夕方なのに空はまだ明るかった。
見慣れない街並み。
東京とは違う景色。
小雪は歩きながら、
何度も周囲を見回していた。
「そんなキョロキョロしてると観光客みたい」
渚が笑う。
「いや、実際ほぼ観光客みたいなものだし……」
「でも今日から半分台湾県民ね」
「半分なんだ」
「あと半分は東京の人」
渚はけらけら笑った。
しばらく歩くと、
路地の奥に小さな店が見えた。
店先では、
山みたいな氷が削られている。
「うわ……」
小雪は思わず足を止めた。
大きい。
想像していたかき氷と違う。
マンゴーが大量に乗っていた。
「これ、一人分?」
「一人分」
「多くない?」
「余裕余裕」
渚は慣れた様子で席へ座る。
店内の扇風機が、
ぶんぶん回っていた。
しばらくして、
かき氷が運ばれてくる。
「……でか」
「でしょ!」
渚は嬉しそうに笑った。
そして。
「いただきまーす!」
勢いよくスプーンを突っ込む。
「頭痛くならないの?」
「なる」
「なるんだ……」
小雪も恐る恐る一口食べる。
冷たい。
「……美味しい」
「でしょ!?」
渚が身を乗り出す。
距離が近い。
でももう、
少し慣れてきた。
店の外では、
夕方の光が街を赤く染めはじめていた。
スクーターの音。
人の声。
知らない街。
知らない空気。
なのに。
小雪は少しだけ、
ここが嫌いじゃないと思い始めていた。




