第十九話「エプロン」
第十九話「エプロン」
翌日の福來炒飯。
開店前。
「おはようございます」
「おう」
大将が鍋を磨いていた。
小雪は少し緊張していた。
昨日、
お父さんにはネクタイを渡した。
今日は、
もう一つのプレゼントだった。
「大将」
「ん?」
小雪は紙袋を差し出した。
「これ」
「なんだ?」
「プレゼントです」
大将が目を丸くする。
「俺に?」
「はい」
「いつもお世話になってるので」
大将は頭を掻いた。
「だから無駄遣いするなって言っただろ」
「無駄遣いじゃないです」
小雪は少しだけ笑った。
大将は観念したように包みを開く。
中から出てきたのは。
黒いエプロンだった。
「おお、いいねぇ」
思わず声が漏れる。
丈夫そうな生地。
余計な飾りのない、
いかにも職人向けのエプロンだった。
「どうですか?」
小雪が聞く。
大将はエプロンを広げる。
そして。
厨房の隅へ目を向けた。
そこには。
女将さんの写真。
「まだまだ働けってことだな!」
大将は照れ隠しのように鼻を鳴らす。
「ありがとうな」
「大事に使うよ」
その時だった。
「はーい!」
元気な声が響く。
渚だった。
「私もあるよー!」
「なんだなんだ?」
海太が笑う。
渚は得意げに紙袋を掲げた。
「いつもありがとう!」
海太が包みを開く。
「お?」
中にはエプロン。
しかも二枚。
「なんだこれ?」
広げてみる。
すると。
二枚合わせた胸元に。
大きなハートが現れた。
「なんだこれ!」
「面白いでしょ!」
渚は満面の笑みだった。
海太は大笑いする。
「渚らしいな!」
その隣では。
美鈴が固まっていた。
「え……」
「渚が買ったの?」
「うん」
美鈴の目が潤む。
「あー!」
渚が慌てた。
「ダメー!」
「だって……」
美鈴は涙を拭く。
「嬉しいじゃん……」
「お母さんそういうの弱いんだから」
海太が苦笑した。
「ありがとな」
そう言って。
渚の頭をぽんと撫でる。
渚は少し照れくさそうに笑った。
「ちゃんと使ってよ?」
「もちろんだ」
「勿体なくて使えないよー」
美鈴が涙を抑えながら言う。
すると。
渚が即座に突っ込んだ。
「ちゃんと今日から使うの!」
「貴重なお年玉使ったんだから!」
店内に笑いが広がる。
しばらくして。
開店時間。
大将は新しい黒いエプロンを身に付けていた。
海太と美鈴も。
例のペアエプロンを着けている。
「大将、お似合いだね!」
海太が笑う。
「お前たちもな」
大将も照れくさそうに笑った。
気付けば。
福來炒飯は今日も賑やかだった。
初めての給料は少し減った。
でも。
それ以上に。
大切なものが増えた気がした。
福來炒飯の一日は、
今日も賑やかに始まろうとしていた。
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