第十六話「赤い封筒」
第十六話「赤い封筒」
五月下旬。
夜市は、
いつものように賑わっていた。
小雪もアルバイトに、
すっかり慣れた頃だった。
「小雪ちゃん、
お会計!」
「はい!」
「お冷運んで!」
「はい!」
皿を下げる。
テーブルを拭く。
料理を運ぶ。
気付けば、
店の中を自然に動けるようになっていた。
「よし」
大将が時計を見る。
「今日はそろそろ閉めよう」
「うちも終わりにしようか」
海太が店じまいを始める。
夜市の灯りも、
少しずつ落ち着き始めていた。
すると。
「小雪ちゃん」
大将が手招きする。
「こっちにおいで」
「はい」
その隣では。
海太が渚を呼ぶ。
「渚もこっち来い」
「はーい」
二人が並ぶ。
大将は引き出しを開けた。
そして。
赤い封筒を取り出す。
「四月は下旬からだったからな」
「五月分と合わせてだ」
封筒を差し出す。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
小雪は思わず両手で受け取った。
少し厚みがある。
自分で働いて貰ったお金だった。
なんだか。
今まで貰ったお小遣いとは、
全然違う気がした。
大将は少し照れくさそうに言う。
「無駄遣いすんなよ」
「はい」
「……まぁ、
少しくらいならいいけどな」
店のみんなが笑った。
その隣では。
海太が封筒を渡す。
「やったー!」
渚が飛び跳ねていた。
「給料日だー!」
すると。
美鈴がすっと手を出す。
「はい」
「え?」
「返しなさい」
「なんで!?」
「小雪ちゃんのお父さんに、
お金返すんでしょ」
渚が固まる。
「そんなー!」
「当たり前でしょ」
美鈴は容赦ない。
「このお金は、
お母さんが預かっておきます」
「えええー!」
渚は封筒を抱き締める。
「半分!」
「ダメ」
「三千円!」
「ダメ」
「千円!」
「ダメ」
「横暴だー!!」
封筒はあっさり回収された。
「私のバイト代〜……」
店中に笑いが広がる。
しばらくして。
小雪が渚へ声を掛けた。
「渚」
「ん?」
「明日、
少し付き合ってくれる?」
「いいけど」
渚が首を傾げる。
「どうしたの?」
小雪は少し考えてから言った。
「お父さんに、
何かプレゼントしたくて」
「おおー」
渚が嬉しそうに声を上げる。
「私、
こっち来たばっかりだから」
「お店とか全然知らないし」
渚は思わず両手で顔を覆った。
「なんて良い子なのー」
そして。
ぽんっと小雪の頭を撫でる。
「乖乖」
「グァイグァイ?」
小雪が首を傾げる。
「台湾弁で、
いい子って意味!」
「そうなんだ」
小雪は少し笑った。
「じゃあ、
明日ね!」
「うん」
「また明日」
小雪は給料袋を、
大事そうにカバンへしまった。
歩きながら、
何度も確認してしまう。
ちゃんと入っているか。
落としていないか。
そんなことばかり気になった。
初めての給料だった。
お盆まで。
あと三ヶ月。
目標まで、
少し近付いた。
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