第十三話「小雪と一平②」
第十三話「小雪と一平②」
「ただいまー」
玄関の扉を開ける。
部屋の中には、
夕飯の匂いが少し残っていた。
「おかえり」
一平が新聞から顔を上げる。
「今日は遅かったな」
「うん」
小雪は靴を脱ぎながら答えた。
「渚の家のお店行ってた」
「そうか」
ビールを飲みながら一平が答える。
その時。
小雪が少し真面目な顔になる。
「お父さん」
「ん?」
「私、
週末からアルバイトすることになった」
「アルバイト?」
一平が少し驚く。
「渚ちゃんのお店で?」
「ううん」
小雪は首を横に振った。
「お隣の炒飯屋さん」
「炒飯屋?」
「うん」
そして。
少しだけ視線を落とす。
「……なんでまた?」
一平が静かに聞く。
小雪は小さく息を吸った。
「お盆に、
お母さんのお墓参り行きたいから」
「渚も一緒に。
あと、
北海道にも行きたい」
部屋が静かになる。
一平は小さく目を細めた。
「……それなら、
お父さんがお金出すよ」
「いい」
小雪はすぐ首を横に振った。
「自分のお金で行きたいの」
「そんな必要ないだろ」
少しだけ、
一平の声が強くなる。
小雪は少し黙る。
そして。
静かに言った。
「……自分のお金でお墓参り行きたいの」
小雪は続けた。
「台湾でも、
ちゃんとやれてるってお母さんに伝えたい」
静かな沈黙が落ちた。
一平は視線を落とす。
気づけば。
小雪は少しずつ、
自分で前へ進こうとしていた。
一平は小さく笑う。
「……そうか」
「お盆なら、
飛行機早めに取らないとな」
「早めって?」
「……GW前後かな」
小雪の顔が固まる。
「え」
そして。
少し困った顔になる。
「それじゃ、
バイト代まだ全然足りない……」
一平は小さく息を吐いた。
そして苦笑する。
「わかったよ」
「え?」
「それじゃ、
お父さんが先に予約しておく」
小雪が少し驚く。
「渚ちゃんの分も一緒に取っとくから」
「えっ!?」
「お金は、
バイト代入ってからでいい」
小雪は少し黙る。
「……ありがとう」
一平は照れ隠しみたいに笑う。
「ちゃんと働いて返せよ?」
「うん」
小雪は小さく頷いた。
少し空気を変えるように、
小雪が口を開く。
「炒飯、
凄く美味しかった」
「そうか」
「お父さんも食べに来てね」
少し楽しそうな声だった。
「口は悪いけど、
大将すごく良い人だから」
一平は苦笑する。
「わかった」
そして。
少しだけ父親らしい顔になる。
「でも、
勉強もしっかりやるんだぞ」
「わかってるよ」
小雪は少し呆れたように笑った。
窓の外では、
台北の灯りが静かに揺れていた。




