Let’s ! 選品大会! 弐
さて、やってきました仕立て上がりコーナー。別名『親孝行コーナー』。
「莉央さまの身長から行くとLサイズになります。ですので、ここからここまでが対象ですね」
「私は?」
「みおさまもLサイズです、が……」
チラッとお母さまに視線を向ける。ゆっくりと首を振られた。ですよね。
「さすがに2人いっぺんにっていうのは支払い的に無理。実央は父さんと相談してからね」
「えー」
ですよねー。
めっちゃ残念そうだけど、そうなるとは思っていたので苦笑を浮かべてしまうのは仕方ないと思う。双子でもない限り、1度に2人分をどうにかするという心構えはないだろうし。それに莉央さまはもともと振袖を着るつもりがないと言っていたし、その予算をすでによそに回しているかもしれないしね。
ただ、お連れ様が不満そうなまま進めるのはよくない。楽しんでもらうのは莉央さまが1番だけど、全員が楽しむのが大事だからね。ちなみにその中には私も含まれます。
「みおさま、お姉さまと趣味は違うとは思いますが、今回お姉さまが当店で運命の出会いを果たし無事ご縁をいただきましたら、2か月後にはおうちに届きます。その時軽く羽織られたらいかがでしょう。本日もお時間が許すならご試着くらいはご案内することは可能ですし。でも、今日着てしまうとそのままレンタルしてしまいたくなるお嬢様が多いので、今日試着するかはお母さまとご相談くださいね」
「……」
「それか、お母さまが許されたら、また私のお店に来てください。お姉さまをご紹介くださったということで、サービスしますから」
「……次は紫咲で」
拗ねているの、かわいいなぁ。お姉さんとお母さんがいるからか、妹モード炸裂じゃん。高校生が家の外で拗ねるって、なかなかできないと思うけど、私の前でもリラックスしてくれているって証拠かも、なんてうぬぼれかな。楽しんでもらうにはまず緊張を解くことが大事だから、今の段階でリラックスしてくれているのだけで、大成功だわ。
まぁこの方法は私の副業を知っている人にしか使えないけど。ほかの対処方法ももっと考えないとね。とりあえずは機嫌が戻ったみたいなのでよしとしましょう。後のことは後で考える。今は今に全力投球!
「はい、承知いたしました」
「え、ずるい!私も友達連れていくんでサービスしてください!」
「え、はい。承知いたしました」
なんて。内心「やるぞ!」と力入れていたら、別方向、莉央さまからまさかの言葉。
うえ。どうしよ、職場で趣味の営業活動をしてしまった。いや、お客様と外で会うことは禁止されていないから大丈夫なはず。うん。趣味友ということで大目に見てもらおう。もともと知り合いだし(1人は)。というよりもここで便乗しないでくださいな、と思ってしまったことは許してほしい。
「でも、お母さまの許可はとってくださいね?」
「お小遣いの範囲内なら好きにしなさい。さすがに大きな買い物だったら止めるけど、千葉さんの趣味の店というだけあって利益度外視なのはHPで知っているから心配はしていないわ。バイト代をつぎ込むようだったら止めたいけど、あんたたちのバイト代って基本推し活?に使うためって知っているからね。止める労力がもったいないから、自己責任でやりなさい。借金は許さないけど」
HPまで見られていたでござる。
……うん。お母さまの信頼を得られていたということで、いいってことにしておこう。うん。騙されていないか確認するのも当然だよね。
あと、お店っていう形をとっているから料金表は作ったけど、ご存じの通り、布教活動のためのお店なので。そこまだ料金設定高くないので借金するほどのものはありません。ご安心ください。
「……よろしければ、お母さまも来ていただいて大丈夫ですよ。そのほうが安心だと思いますし」
「私、別に推しってないから」
「推し活がメインではありますが、私の店の理念は「日本文化を知るきっかけを増やしたい」なので、見学だけでも大丈夫です。何ならきものを着る練習としていかがでしょう。最近は前撮りの時家族写真を撮られる方も増えていますし、その際お母さまもきものを着られることが多いですよ」
これはマジで。やっぱね、何かきっかけがないときものって着ないから。せっかくだからときものを着るお母さまって多いんだよね。お父さまは基本スーツだけど、こないだ来店されたお父さまは紋付袴だった。あれには驚いたなぁ。
家族写真も同じく、きっかけがいるんだろうねぇ、って感じ。
「え、私ピンでいいんだけど」
「もちろん、お1人で写真を撮られる方も多いですが、こういう機会でもないと家族写真ってとらないですから。以降はお嬢さま方の旦那様が入ってくることになりますし……純粋な松永家の家族写真という意味でもオススメです」
「旦那様……見つけてくれるのかしらねぇ」
ため息交じりのお母さまに、2人はそっと視線をそらせた。うーん、表情そっくり!ここは触れないが吉!
「まぁ、それはこれからですから。あ、あとは推しと一緒に写真を撮る方も増えていますね。うちの提携先のスタジオではお嬢さまの振袖写真をアクスタにもできますので、推しと最高にきれいなお嬢さまを並べて飾ることも可能です」
「夢要素はないから自分のアクスタはいらないけど、推しと一緒に写真はいいかも」
「うちわもいいですよ」
「うーん、悩む……すっごい楽しそう」
「まぁ、まずは本日の振袖選びで悩みましょうか」
そこでハッとしないでください。今日のメイン、莉央さまの振袖選びですから。写真はその付属なのでね。後々で大丈夫です!
「では、振袖選びを始めましょう。先ほどもご案内しましたが、今は畳んでいる状態なので、一部しか柄がわからないです。気になるものは私が広げていきますので、どんどん見ていってください」
「じゃ、さっそくだけどこれ!さっきから気になってたの!」
もう目星をつけていたでござる。まぁわからんでもない。脱線長引いちゃったもんね。その点はごめんなさい。
莉央さまが気になるという振袖を取り出し、広げる。落ち着いた紫の地に辻が花の総柄。うーん、派手!でも確かに上様っぽい。
「いかがでしょう。莉央さま的にアリですか、ナシですか?」
「超アリ!」
でしょうね。超笑顔がまぶしいです。
「では、こちらは着てみましょう。きものって、実際体に当てるまで似合う似合わないってわかりませんから」
畳みながら、ちらっと値札を確認。うん。やっぱり。それくらいですよね。
「えー。お姉ちゃんにはこれじゃない?」
そう言ってみおさまがすすめてきた。なんだかんだでやっぱ仲がいいんだなぁ。
先ほど莉央さまが選んだ振袖を鏡のわきにおき、今度はみおさまが選んだ振袖を広げる。深めの青に、四季の花が入っているタイプ。正面は色とりどりの花が入っているけど、後ろ姿は柄が控えめ。帯が映えるタイプの振袖だ。
「莉央さま的にはいかがでしょう」
「うーん……」
「少しでもアリよりでしたら着てみることをおススメします。というのも、成人式当日は周りが振袖姿。周りの人たちを見て『もしかしたらあの色や柄、似合っていたかも……』と、後悔されることが多いらしいんですね。そういった後悔をなくすためにも、試着の段階で似合う似合わないはもちろん、似合ったけど自分が着たかったのはこっちと、自信を持っていただけるとそういった後悔もなくなりますから。なのでできるだけいろいろ試していただけたらと思います。もちろん、莉央さまのテンションが一番ですので、着たくないものを無理に着る必要はありませんよ」
先輩によっては「選択肢が多かったら悩んで決められない人もいるからある程度絞ったほうがいい。時間も体力もいるし」という人もいる。でも私は、一生に一度のハレの日を憂いなく笑顔で過ごしてほしいから。だからいろいろ試してほしい。今日は時間があるって言っているお客様だしね。時間がない方だったら控えめにしますよ、もちろん。そこは臨機応変にやりますとも。まぁ、確かに優柔不断なお嬢さまには悪手だけどね。その見極めはいまだに難しい。
でもせっかくの機会。できるだけいろいろ楽しんでほしいから、私は許される限りいろいろ着てもらいたいってスタンスで行くつもりだ。試着はタダですからね!
「じゃ、アリで!」
「かしこまりました」
先ほど選ばれたきものの近くに畳んでおいておく。振り返るとお嬢さま方があーでもないこーでもないと話している。
お母さまは、と視線を向けると目線が動かない。何か見つけたのかな。
「お母さまは何か莉央さまへの振袖を見つけましたか?」
「……いえ。私と莉央は趣味が違うから……」
「たとえ趣味は違っても、『お母さまが莉央さまに似合うと思った』ということが大事ですよ」
お母さまの視線のピントが、私にあったのが分かる。そんなに意外なこと言ったつもりはないんだけど。
「今日会ったばかりの私より、20年の付き合いのあるお母さまが選ばれるものというのは、大きいですから。実際、お母さまが選ばれた振袖を当ててみてあまりにも似合ったという話は結構あります」
「でもきものは洋服とは勝手が違うから」
「そうですね。きものの合う合わないは正直体に当てるまではっきりとはわかりませんから。でも、お母さまが勧めてくれる……すなわち、『自分の成人のためにいろいろ考えてくれる』ということは、案外うれしいものだと思いますよ。そこから着る着ないはお嬢さま次第ですが」
「……」
お母さまは数秒何かを考えた後、膝をつき、1枚の振袖を取り出した。私はそれを笑顔で受け取る。
「莉央さま。お母さまがこちらも似合うのでは?とのことですが、いかがでしょう」
莉央さまとみおさまの視線がこっちに移ったのを確認し、持っていた振袖を広げる。
赤地に大きな牡丹がメインの振袖。桜と菊がのし柄と一緒に散らばっている。花だけでなく、縁起物も描かれているタイプの振袖だ。
「え、赤?」
「そうですね。でも、赤でもかなり落ち着いた色なので、莉央さまの雰囲気に合うと思いますよ」
近くにある他の赤系統の振袖も持ち上げ、見比べてもらう。朱赤と比べると、かなり落ち着いている赤色だ。けれど、かなり柄が入っていて豪華で、でも品があるタイプ。私的にはありだと思うな。ま、着る着ないを決めるのは莉央さまだけど。
「莉央さま的にいかがでしょう」
「似合うかなぁ……」
「莉央さまと20年来の付き合いのあるお母さま推薦、というのは結構侮れませんよ?私も似合うと思いますし。抵抗がないようでしたら、当てるだけ当ててみませんか?」
「んーじゃぁ、アリで」
あ、お母さま喜んでいる。やっぱすすめたの受け入れてくれたらうれしいよね。私もコーディネートを認められた時、めっちゃうれしいからよくわかる。
それからいくつかさらに選び、鏡の横に振袖の列ができた。とりあえず、これだけあればいいかな。さらにさがっすのは数を絞った後でも問題ないしね。
それではお嬢さま。着装のお時間です。




