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千葉弥咲の布教活動~きっかけ作り、はじめました~  作者: 日沖 伊朝


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Let’s ! 選品大会! 壱

「……以上が当店のプランになります。質問などはありませんか?」

「多分、大丈夫です」

「承知いたしました。まぁ、1度にいろいろ話してしまいましたから、また気になることがありましたら気軽に聞いてください。都度お答えします」

「ありがとうございます」

「では早速、振袖を選びに行きましょうか」

「「はい!」」


 姉妹でハモったね。仲がいいなぁ。


「いや、なんで実央が楽しそうに返事してんのよ。今日は私の日なんだけど!」

「私だって楽しんだっていいじゃん!私も2年後なんだよ!」

「は?あんたも振袖着るの?!成人式めんどくさそうって言ってたんじゃん!」

「着物楽しかったから私も着ることにしたの!ぶっちゃけ成人式自体はどうでもいい!」


 そうでもなかったでござる。いや、喧嘩するほど仲がいいってやつか?まぁ、兄弟が遠慮なく言い合えるのはいいことです。

 それにしても、しょうこさんと一緒にいた時とだいぶ雰囲気違うなぁ。しっかり者っていうのはそのままなんだろうけど、今は全力で妹をしている印象だわ。


「こら、2人とも。外で騒がない。家じゃないのよ」

「「はーい……」」


 お、注意してくれるタイプのお母さまだった。最近はねぇ、注意してくれるお母さま少ないんだよね。この時間帯はほかにお客様がいないとはいえ、ありがたや。 まぁみおさまも礼儀正しい人だと思っていたからね。やっぱりお母さまの教育がいいんだろうなぁ。


 小さな小競り合いをする姉妹を、振袖が置いている場所へと案内する。荷物を置いて、準備は万端!


 それでは、お嬢様。選品のお時間です。


 気分はお嬢様に尽くす執事やメイド。そう考えて接客するのが私にとって一番テンション上がるんだよね。仕事を楽しむコツである。


「さて、今回レンタルをご希望とのことですので、簡単に説明いたしますね」


 うちの店は振袖のレンタルはもちろん、購入もできる。今回はレンタル希望とのことだし、そっち中心で案内する。レンタル希望で購入にするお客様もいるしね。そこは臨機応変に。


「当店のレンタルは2種類ございます。まずはこれから仕立てる仮縫いの状態のもの。ファーストレンタルといわれるものですね。そしてもう1つはすでに仕立てあがっているもの。莉央さまの先輩たちが仕立てて、袖を通したものですね。いわゆるセカンドレンタルというものです。私たちコーディネーターは別名『親孝行コーナー』と呼んでいます」

「え、何そのコーナー」

「そうですね、分かりやすく説明すると……。まず、セカンドレンタルっていうことで、金額が抑えられるんです。ほら、本だって新刊より古本屋のほうが安いでしょ?それに、きものを仕立てられる人も減少傾向にあるんです。そのため仕立て代も上がってしまっていて……。なのでこれから仕立てるもの、となるとそこそこお値段が必要なんですね。これらの理由から仕立て上がりレンタルのほうが費用を抑えられるということで、私たちはこのコーナーを『親孝行コーナー』と呼んでいます」

「「へー」」

「実央も振袖を着るっていうのなら、ぜひともそっちから選んでほしいわね」


 まぁ、それはそうだよね。振袖、レンタルでもそこそこお値段がする。それが2人分となると、スポンサーとしては経費を抑えたいと思うのは普通だ。そういうご家族は多い。


「……ちなみに莉央さまは160センチと伺いましたが、みおさまの身長は何センチですか?」

「163センチです!」

「身長負けちゃったんだよね……」

「あー、それは悔しいですよね。私も妹のほうが身長高いので、学生時代は悔しかったです。今はもう諦めましたけど。

そうですね、身長差が3センチくらいでしたら、購入にして同じ振袖を着る、ということもできますが、その点はいかがでしょう。小物だけ変えるのでもかなり雰囲気変わりますし」


 正直、レンタル2回のほうがお店の売り上げとしてはおいしい。でも私はもちろん、うちの店はお客様に寄り添うことが第一義。お客様が損をすることがあってはいけないのだ。人生一度の晴れの日を、憂いなく笑顔で過ごしてもらう。それは主人公であるお嬢様はもちろん、ご家族もだ。


 私はお母さまに視線を向ける。え、なにそのあきらめましたと言わんばかりの表情。雰囲気も肌の色も似ているから、似合う振袖は重なると思うよ?小物を変えるだけで本当に結構雰囲気変えられるし。


「私としてはそのほうが家計的に助かるけど、この子達、好みが対極で、無理なんです」

「あー……それは……よくありますね」


 それはそう。同じ姉妹……例えば双子だとしても好みが一致しないなんてよくある話。それでも家計的に同じ振袖を強制的に着せられる姉妹というのも多い中、好みのものを着てもらおうと奮闘されるお母さまに、私は尊敬してしまう。いや、ほんと。多いんだよ。いくら経済が昔よりも上向き傾向とはいえ、それでも「気持ち」上向きなのであって……。まだまだ経済は回りきっていないのだ。

 それにしても。そんなに好みが違うのかな?今着ている服装、そこまでかけ離れている気はしないけど……。ちらっと2人を見比べてみる。


 お姉さま……莉央さまは深い緑のトップスにベージュのボトム。アクセサリーのピアスもネックレスも控えめな一粒系。

 みおさまは黒系のトップスに、同色のパンツ。薄手のカーディガンは赤系なのを見るに、前回会ったときのように紅蓮の推しコーデと見た。アクセサリーはちょっと派手目なのも紅蓮っぽい。


 お2人とも系統的にはシンプル系でスタイリッシュな感じだけど。色味もどちらかといえば落ち着いた感じだし。似ていると思うんだけど……。

 首をかしげてしまった私に、莉央さまが満面の笑み。え、なに。


「私、きもの着るなら派手なのがいいんです!」


 あー……。

 なるほど。洋服ときものではベクトルを変えるタイプか。……いや、違う。言われて気づいたが、チラ見できるインナーは確かにいろいろカラフル。なるほど、似合うように外側は大人しめだけど、内側で推しコーデ、と。似合う格好と着たい服が違うって感じか。

 着たい色が落ち着いた色って言ってたからそこまで洋服の雰囲気と離れていないと思っていたけど、柄で結構変わるかもだわ。古典柄がいいことしか聞いていなかったけど、雰囲気も確認しておけばよかったか?いや、実際きものって体にあてるまで分からないものだし、選品しながら聞き出す予定だったからまぁオッケーってことにしておこう。


 ま、洋服では着られない派でな柄ものでもきものだったら着られるってことは結構あるからね。期待に応えましょう!


 で、希望の色が青系統ってことやインナーの雰囲気から見るに、推しはたぶん……。


「……ヨウテンだと、有紗か上様推し?」


 思わずつぶやいてしまった。どうやら聞こえてしまったらしく、莉央さまの笑顔が輝いた。いやまぶしいな。


「そう!私上様推しなんです!千葉さんにしてもらおうと思っている推しコーデはヨウテンの上様か、『タロットワークス』の太陽・ミリアムです!」

「あー……それは、確かに……お好みは正反対ですね……」

「あ、わかるんですね。私にはさっぱりです」


 めっちゃ笑顔で言われたキャラに、みおさまの推しである紅蓮と正反対だということはわかった。なるほどね。簡単に言うと忍と主君、陰で支える側と目だち支えられる側。キャラクター性が全然違う。それこそ太陽と月だろう。ビジュアルもかなり違うし。あたりまえだけど。

 で、私のつぶやきに驚かれているのがお母さま。そうだよね、何言っているかわかんないよね。これはね、オタクだからこそというか。アニメはわかっても推し判別までは難しいよね。グッズを身に着けているわけでもないし。お母さまがアニメを知っているとも限らないし。非オタには厳しいよね。


 まぁ、でも。今回の主役は莉央さま。莉央さまがテンション上がって似合うもの、見つけていく。いつもと変わらない、でもお嬢さまごとに何もかもが違う。それでも今日は即効で好みがわかったからやりやすいわぁ。


「莉央さまの好みはなんとなくわかりました。それでは探しに行きましょうか。売り場に置いてある振袖はすべて畳まれている状態です。一部しか見えないので、気になったものは私が広げていきますので、着てみたい・別にいいと判断していってください。大体5~10着くらい皆様お選びになります。それらを軽くあわせて、1着に絞ります。そこからフルコーデ、という流れになるのですが、2~3時間はあっという間に過ぎますが、お時間大丈夫ですか?」

「え、そんなに時間かかるんですか?」

「お嬢様方は、服を買いに行くとき時間かけない感じですか?」

「……めっちゃかける」

「ですよね。今回は洋服ではなくめったに着ないと思われるきものです。それ以上の時間がかかると思ってくださいね」

「覚悟しています」

「お母さま……ご満足いただきつつも、精一杯時間も短めにできるよう努めますね!」

「千葉さん……よろしくお願いいたします」


 いや、だって、めっちゃ覚悟決めている顔をしているんだもん。まぁ、忙しい現代人。2~3時間かかるって言われると身構えるよね。

 それに今日はこの後の予約はないからいいけど、この1組2~3時間。もっとすごい人だと5時間くらいかかるからね。それらをさばいていくにも、できるだけ時短できるようにするのもコーディネーターの腕の見せ所だから。


 ま、でも。私の目的は『お嬢様に楽しんでもらうこと』だから。削れない部分は、ご容赦くださいね。


「では、ひとまずはお母さまのご希望でもある『親孝行コーナー』から見ていきましょう。そこで運命の出会いをすればよし、運命の相手がいなければ仮絵羽……ファーストレンタルコーナーに行きましょう」

「運命の……」

「相手……?」


 あら。首をかしげるしぐさがそっくり。さすが姉妹。

 そうだよね。まるで恋人みたいな言い方は意味わかんないよね。でも、この2年振袖コーディネーターをしている身としては、そういう表現がぴったりだと思うんだ。


「振袖との出会いは一期一会。タイミングは大事ですよ」


 いやマジで。人との縁と同じく、振袖との縁も結構運命的なんだよね。さて、今日はどんな運命を見せてくれるのかな。


 お嬢様たちとは別ベクトルの楽しみを予感しながら、私は一歩踏み出した。

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