表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千葉弥咲の布教活動~きっかけ作り、はじめました~  作者: 日沖 伊朝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

きものが和風モノだけだと誰が言った

 はい、本日もやってまいりました、地元映画館。

 最近は自分が推しているアニメとかの映画は少ないんだよね。公開期間短くない?と思う日々である。数か月くらい映画館上映してほしい。次に来る映画、何があるんだろう。あ。


「あ、『エジプト王女の嘆き』、映画化するんだ」


 あっれ、私声に出してたっけ?口に手を持っていくと閉じていた。つまり私の言葉ではない。まぁそもそも声が違う。でも一言一句同じ言葉を考えていたから、そう勘違いしても仕方ないと思う。タイムラグ0とか普通ないよね。


 さて。それでは先ほど声がしただろう方向を探し出す。田舎の映画館だ。広くはない。女性なのは確定で、情報が表示されたモニターを見られる場所にいる人。となると、1人しかいないんよね。


 というわけで、今日はあちらの方に声をかけようと思います。


「あの、こんにちは」

「え、はい。こんにちは?」

「いきなりすみません。私、動画で投稿をしているんですけど、インタビューさせてもらってもいいですか?」

「え……動画はちょっと……」

「声だけでもダメですか?」

「……」

「なんでしたら、声はぼかすようにします」

「……まぁ、それなら……」

「ありがとうございます!」


 ありがたい。まだまだ投稿者としては手探り状態だから、どうしたらいいとかよくわかんないんだよね。カメラではなく録音モードにしておいて、と。


「先ほど『エジプト王女の嘆き』について声に出されていたかと思うのですが、原作読まれたんですか?」

「あ、はい。私、歴史ものが好きで。今度エジプト旅行行くからそっち関係の小説ないかなぁ、と思っていた時に読んだんです」

「エジプト旅行!いいですね!まぁ確かに、そういった機会がないと、よっぽど興味がある人しか読まない系統ですよね。でも魅力いっぱいの登場人物がこれでもかって出てくるので私も原作楽しみました。ただ、なじみのない名前が多くて、誰が何やっていたか途中で分からなくなったりしたんですよね……」

「わかります。でも、それってどの小説でもそんなですから。私はキャラクターを書きだしながらじっくり読んでいます」


 そこからいろいろと話し込んで、最初の警戒心は小さくなってきたかな?と思ったところで本題を切り出す。


「そういえば、映画館でこんなに話し込んでしまってすみません。みられる予定の映画は何時のですか?」

「私はもう見終わったのでそれは大丈夫です。職場の人に勧められたんですけど、趣味ではなかったんですよね。まぁ、話題としてはありかと思ってはいます。でも私にはあんまり合わなかったので、食事だけしてから帰ろうかと」

「そうなんですね。でしたら、少しお時間があるようでしたらこちらもご協力いただけませんか?」

「……?」


 そうして取り出したのは、お手製のチケット。


「『きもので推し活してみよう!! 体験無料チケット』……?」

「はい。私、日本文化を広めたいなっていう気持ちで動画投稿しているんです。で、先ほど『エジプト王女の嘆き』について、特に主人公の妹ネフェルトについて語ってくださいましたから、彼女の推しコーデをきものでしてみてもらえませんか?」

「推しコーデ……?」


 おっと。そこからだったか。まぁ、推しがいないとあんま思いつかない概念だよね。


「推しコーデとは、推しキャラクターや作品の世界観を表現したファッションコーデのことです。キャラクターそのままに扮するコスプレとは違って、概念だったり、雰囲気だったり、一部だけ取り入れたり、といった感じですかね」

「推し……?私、ネフェルトが推しなんですかね……?」


 まさかの推しの概念すらあやふや!推し活って言葉、結構世間にあふれている気がするんだけどな……。まぁ、脳みそは興味のない単語は受け流すって聞いたことがあるけど、こういうことか。だって私は推し活に人生かけているからね!推し活の概念がないということが分からないんだわ……。今回のことはいい経験です。


「うーん。推しっていうか。好きなキャラクターって思っていただけたらと思います。かなり深く読み込んでいるのは話していてわかりましたけど、ネフェルトについてはかなりがっつり熱量マシマシでしたよ?」

「そうなんですかね……?」


 これは、あれかな?好きなものが何かわからない感じ?


 最近の人たちって、忙しすぎて趣味をする時間がなかったり、やりたいことが分からなかったり。そして好きなことを忘れる人も増えていっているって聞く。この人もそうなのかもしれない。

 いやだって、主人公であるイシスや、人気イケメンキャラであるウセルでもなくわき役に徹しているネフェルトについてめっちゃ語っていたのよ。それなのに、無自覚、と。

 これはぜひとも自覚してほしい。なぜって?推しがいると人生潤うから。おせっかい?笑顔でいたほうが楽しいでしょ。周りだってそのほうが穏やかでいられるしね。推し活仲間を増やしたいって気持ちもあるけども。

 ほかに推しがいたらそっちで対応するかぁと思っていたけど、推しの概念すらなかったのならこれを機に自覚してもらおう。ネフェルトよりも推しができたらそれはそれ。この人の人生が潤えば儲けものでしょ。


「では暫定推しとして、ネフェルトのきもので推しコーデを試してみませんか?話のタネにいかがです?きものって着る機会もないと思うし、良ければきものを着てランチとかも楽しいですよ」

「確かに……」


 あ、多分これはやってくれるな。この人、結構知的好奇心が強いんだと思う。未知の体験をすることに興味があるタイプ。だって、「話のタネ」とか「機会がない」に目が輝いたもの。特に「試してみる」は顕著だった。

 そもそも歴史ものが好きっていうことは自覚しているし、『エジプト王女の嘆き』はかなり知識欲を刺激するタイプの小説なんだよね。私も読んでて「勉強になるー」って思うことがかなりあったもの。


 そんなこんなで、彼女――まりさんは私の店に来てくれることになったのだった。





「……きものって、思ったより色があるんですね」


 私の自宅兼店のきもの部屋を見てのまりさんの第一声がこちらである。まぁね。どんな色が好きな人がいるかはわからないから、結構幅広くそろえているつもり。

 そもそも日本古来からの色の名前が数百種類あるといわれているのだ。細かく分けたらかなりの種類が用意できるだろう。だからまりさんが色の多さに驚くのも当然といえる。同じ色でも、細分化したら果てしないしのよ。いやマジで。ま、これは日本人だけの感覚らしいけど。


 さて、色のことは置いておいて。今回は、まりさんの推しコーデがメイン。お昼も直前なので、お店が混み合う前には送り出したほうがいいだろう。それに推しって概念もないのだ。今回は私がおすすめするものの中から選んでもらうほうがいい気がするので、私はネフェルトの推しコーデに使えそうだと思っていたきものを次々と取り出す。


「まず、きものですけど。ネフェルトが愛したナイル川をイメージして青地に流水柄か、よく瑠璃のペンダントをつけているので、瑠璃色に控えめな蓮の花があしらったこっちだと、どっちが好きですか?」

「……」


 2着を掲げてみるけど、首をかしげるだけ。きもの初心者あるあるだけど、未知のもの過ぎて似合う似合わないっていうのが分からないから「好み」って言葉もハードル高かったりするんだよね。選択だとさらに難易度は上がる。

 でも時短で行きたいから、ここはサクサク行きます。


「好き、が難しかったら、どっちがネフェルトっぽいかで選んでください。まりさんに似合うだろうっていうのを提案していますから、どちら選んでも大丈夫ですよ」

「青色のほうかな」


 うーん。やっぱり、自分の好きを理解していないというか、そんな感じだな。で、やっぱりネフェルトが推しっていうか深堀しているのは確定。表面的だったり、挿絵を思い出したら後者を選ぶと思うけど、私にとってネフェルトは知識欲が豊富で、姉を支えるためにいろいろと身につけている。大局を見て、流れを意識しているってイメージなんだよね。華やかなだけのお姫さまではないのだ。美人なお姫さまってだけだったら、華やかな蓮のきもののほうが「らしい」からね。


 これは腕が鳴るわー。


 小物を選びながら、思わずこっそりと笑ってしまったのは仕方ないと思う。




 そんなこんなで。1時間後。完成したコーディネートがこちら。お昼前に何とかなってよかったー。


 最初に選んだ青地に流水柄のきものをベースにコーディネート。ちなみに流水柄には「清め」っていう意味もある。これは大好きな姉のためなら何でもするというネフェルトの強い意志の反映も兼ねているつもり。姉・イシスの歩く道を清めていくって感じで。あと「流す」っていう意味もあるから、イシスの邪魔する人はことごとく洪水のごとく流しているところも含んでみた。

 で、これはまりさんにもすっごい驚かれたんだけど。帯はエジプト壁画調の柄にした。そう。きものや帯って、和風柄ばっかりじゃないんだよ。おなかっていうか表はアラベスク文様っていうのかな。中東系な柄が大部分だけど、ヒエログリフとかカルトゥーシュが散らばっていて、お太鼓の部分がエジプト壁画調。まぁ、こんな帯をまずは見ないよね。ところどころに銀糸も入っているから、王女であるネフェルトの高貴さをイメージしているともいえる。重ね衿は控えめなレースがあしらわれた薄金。これも帯に同じくって感じ。

 帯留めにはせっかくだから蓮モチーフにしてみた。やっぱり古代エジプトといえば蓮が連想されやすいし。ちなみに帯締めは帯留めと同系色の赤色をチョイス。帯が黒地だから帯締めまで寒色系にするのはなぁと思っていたら、ここはまりさんが自分から選びました。少しづつ好みが出てきたのか、推しコーデの概念が分かってきたのかな。

 足袋はめちゃくちゃ天気が良くて暑いくらいだからレースものにしてみた。まりさんが履いていた編み込みのサンダルのほうがエジプトっぽいと思うんだけど、トータルコーディネート的にちょっと違うなということで草履にしました。

 最近は暦の上では春なのに温暖化の影響で熱いからね。きものには羽織といわれるけど、ぶっちゃけ無理!なので今回羽織はなし。まりさんの白い日傘にもマッチする白いショールを羽織代わりとすることに。


 うーん。高貴なお嬢さんって感じ。美人系のまりさんによく似合っていると思う。結構いけているのではと内心自画自賛してしまった。


「……」

「いかがです?」


 姿見から目をそらさないまりさんに控えめに声をかける。うーん、私の趣味押し付けすぎた?実は私もネフェルト推しなんだよね。だからこんなのがいいかなぁと進めたいという欲求そのままで進めてみたけど……。もちろん、まりさんの雰囲気とかは意識してだよ?

 せっかくだし、ちょっと散歩がてら推しコーデでこの辺りを散策してもらいたいなぁなんて考えていたけど、まりさんが楽しくなければ意味ないし。どうすべ。


「まさか……」

「はい?」

「まさか私が青い服を着るとは思ってなかったです」


 あ、なるほど見慣れなかったのか。いや、きものは成人式以来って言ってたし、きもの姿が見慣れていないっていうのは当然なんだけど。確かに私服はモノトーンだったもんなぁ。


「洋服では着られなくても、きものだったら着られる色や柄っていうのはよくありますからね」

「そうなんですか」

「洋服って、各々デザイン性があって違いますでしょう?でもきものって全部形が一緒なんです。だから形で差別化する洋服だと同じ色でも着るのに抵抗があっても、きものだったら色での差別化だけなので着るハードルが下がるんですよ。それに洋服と違って「民族衣装」や「伝統衣装」って冠もつきますから。洋服だったら抵抗のあるものでもきものだったら着れるっていうのはそういうことです」

「……あの」

「はい」

「……私、なんとなくこれ、好きです。ネフェルト、推しなのかもしれないです」


 控えめな笑みとその言葉に、私は嬉しさで言葉が出なかった。


 私が勧めてみたものを喜んでくれた。好きだと言ってくれた。推しが分からなかった彼女に推しができた。私は推しがいることで人生潤っているから、もしかしたらまりさんの人生の潤いの一端になれたかもしれない。


 これ以上にうれしいことってある?まぁ、あるだろうけど、今思いつかないからひとまず私のうれしさは天元突破したってことでいいでしょ。うれしさ楽しさの上限は更新されていくほうが幸せだと思うから、とりあえず現段階のうれしさ上限に届いたということで。何考えているのかわからなくなってきた。若干パニック。それくらいうれしいということが結論でいいかな。あ、ちょっと泣きそう。


「……せっかくおめかししましたし。このままランチとかいかがです?」

「え、行っていいんですか?」

「もちろんです。おなかもすいてますでしょう?そこまでキツく着付してないので、ゆっくり食事しできると思います。初めての推しコーデでお出かけ、楽しんでくださいね」


 この笑顔を映像に残せないことだけが残念だな。


 まぁまりさんのスマホフォルダには残っているけど。顔から下だけでも写真掲載許可が出てよかったと思う、今日の動画(ほぼ音声)でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ