推し活に妥協はない、それが推しへの礼儀だから
小さな日本家屋。築ウン十年のおかげで、私みたいな若者でも借りられた。田舎万歳。自宅兼店舗である。
カラカラと引き戸を開く。建付けよくなってよかった。最初内見に来たときは築年数にたがわないすごい重さを感じたものだ。大家さん、リノベありがとうございます!
「さ、入って入って。あ、扉は開けたまんまでいいからね」
日本の治安の良さに乾杯。こういう時日本の田舎っていいよね。扉開けたまんまだと、彼女たちの安心も買えるだろうし。店って言っても普通の家だしね。
靴を脱いでもらって、ご案内。玄関からすぐのふすまを開けた。
「うわぁ……」
「畳だぁ……」
だよね。最近の家には畳ってあんま見ないよね。学校に歴史の一部として再現されたりしているところもあるくらいだし。でも、せっかくだもん。日本文化もできるだけ興味を持てもらえる幅は広げたいと思ったんだ。畳ももしかしたら何かのきっかけになるかもしれないし。大家さんがリノベの時「フローリングにする?」って聞かれたけど、この反応から言って断って正解だね!
「さぁどうぞ。きものはこっち。2人の身長だったらどのきものでも大丈夫だからね」
「「うわぁ……」」
私の年齢からいって、個人所有としてはそこそこの枚数があると思う。店って言っても趣味のオタ活用だしね。非営利活動にしては多いでしょ。これも同類であるオタクの推し活のため、私の布教のため。でもまだまだ私の推し活すべてはカバーできない。今回のヨウテンだったら大丈夫なだけだからね。……今後の映画情報を確認しつつまたそろえていこうっと。やっぱり映画鑑賞をきものでっていうのがハードル下がると思うし。ほかにも布教方法考えよう。
「まず、希蝶の推しコーデがしたいしょうこさんには、彼女の瞳の色である紫の地に蝶の柄が入ったこれか、コスプレみたく彼女の袴姿と同じ白地に紫の小花が散ったのはどうかな?もちろん、この中から自分で見つけてくれてもいいよ」
道中で聞きだしたしょうこさんの推しについて、自分のおすすめを提案する。
ちなみに希蝶は紅蓮の妹で、転生前は兄弟刀。でも主が女性だったからか自身が女の子だからか兄に向けられているフラグにはきちんと気づくんだよねぇ。ツンデレブラコンだからこっそりフラグたたき折っているところもかわいい美少女だ。フラグの折り方が爽快で、見ててスカッとするんだよね。さすが元刀。切れ味が鋭い。
「え、え、どうしよ……。きものなんて初めてだからよくわかんないよ……みおちゃん、どうしよう」
「自分で決めな。推し活だよ?自分で決めないと推しに失礼でしょ。私は自分で探したいから見てみてもいいですか?」
「どうぞー」
きものをかけている場所から目をそらさないみおさんの雑なアドバイスにもかかわらず、しょうこさんは「確かに……」と頷いている。まぁ、せっかくなんだもん。いろいろなきっかけを得てほしいし、楽しんでほしいから、みおさんのアドバイスは渡りに船だわ。
「えっと。じゃぁ、紫の方で。そっちの方が希蝶っぽい気がするから……」
「了解!じゃぁ、衿はそのまま白にしようか。気高い希蝶だったら半衿は遊ばないほうがいいかな」
「はんえり……?」
「んっとねぇ……」
長襦袢ときものの写真を取り出す。資料作りもこだわっています!……まぁ、初めて作ったものだから、今後ブラッシュアップしていくので、粗さには目をつぶってもらいます。ごめんね。
「きものを着ている絵とか、見たことあると思うんだけど……このきものの衿のところの下に、白い衿があるでしょ?」
「はい」
「ここが半衿。長襦袢っていう、きものの下に着る……まぁ、下着みたいなものかな。洋服と違って衿の部分は見せるけど。で、柄が入った衿だけを縫い付けたりして雰囲気を変えるんだ。最近は刺繍が入ったものとか、色を丸っと変えたりするんだ」
「え、それって黒色もあります?!」
みおさん、きもの探しに集中していたと思ったら話をちゃんと聞いていたでござる……。すっごい勢いで振り返ってきたからさすがにビビった。しょうこさんは慣れているのか、普通に会話しているよ。
「あぁ、紅蓮って確かに黒イメージだよね」
「そう!それにファンアートで、きもののトコの衿が黒いのがあって、それがめっちゃかっこよかったんだ!」
テンションが高めのみおさんに、しょうこさんは「わかる」とうなずいている。私も黒の半衿にはロマンを感じるのでわかる。
みおさんがしたい推しコーデは主人公でもある希蝶の兄・紅蓮。転生前の刀の時も黒い鞘に納まっていたし、普段着も黒いもんね。あとオーラと腹も。
「黒の半衿はもちろんあるよ。黒の着流し……男性用のきものもあるけど、半衿でいいの?」
「え、男性用のきものって私が着ていいの?!」
「逆になんで着ちゃダメなの?」
身分によって着るものが決められていた時代ならいざ知らず。あらゆるものが自由なこの世界で男物のきものを着たらだめなんて法律はないのだ。男の娘が流行る時代だぞ?逆があって何が悪い。男装麗人なんて大好物です。
「みおさん、今日黒のブーツはいていたでしょ?黒の着流しに黒のブーツでもいいかと思ったんだけど。白の着流しに黒の半衿もいいかもだけど」
「え、どうしよ……」
「それか……えーっと、あ、あった。墨流しに赤の蓮が描かれたこれとか?ほら、『紅』に『蓮』で」
「あー!!」
頭を抱えてしまった。わかるよ。その気持ち。叫ぶ気持ちも。田舎でよかったパート2。お隣さんと距離があるのでオタ活で叫んでもご近所迷惑にならない。でも声枯れたら大変だから抑えてね。気持ちはわかるけど。
「みおちゃん……自分で決めるんじゃなかったの……」
「はっ!そう!そうだよ!自分で決めるんだよ!!……まぁ、参考にはさせてもらいます……」
「もちろん。推し活楽しんで!」
そうして2人は再び真剣にきものや小物に向き合うのであった――。
2時間後。
小物選びでも悩みに悩み出来上がったのがこちら。
みおさんはいくつかきものをあて、自分の雰囲気にもあう白の着流しをチョイス。半衿は最初にいっていたように黒一色でブーツと合わせることに。羽織は紫で、羽織紐には紅蓮の瞳の色である赤と、彼の主のカラーである緑のトンボ玉がついているものをチョイス。黒の足袋と草履で迷っていたけど、歩きやすさを重視した結果である。刀モチーフのイヤーカフもつけてみた。かっこいい極振りです。
しょうこさんは紫の地に蝶柄のきもの。あんまり濃すぎない色だから、希蝶がいつも着ている臙脂色の袴にもよく似合うんだけど、今回はコスプレじゃなく推し活だからと袴はやめることに。でも蝶が牡丹の周りを飛んでいる柄は、花にたとえられた希蝶の元主との関係性に見えるからいいと思う。帯締めと帯揚げは希蝶の瞳の色である赤、帯留めは髪の色である黒色の蝶と家紋の三日月の2つ使い。かわいすぎずクールすぎずといった感じかな。希蝶っぽい。
で。実はおそろいのところもある。それは色違いの雲取の半幅帯。雲取って、「輪廻転生」って意味があるんだ。転生してまで自分の主のために尽力する2人にピッタリ。おそろいコーデで兄弟感も出してみました。みおさんは男物だから貝の口、しょうこさんは蝶っぽいってことでパタパタ帯。映画鑑賞には不向きかもだけど、半幅帯は柔らかいし、ゆったりもたれてもらってもオッケー。映画鑑賞なら兵児帯のほうがいいかなぁとも考えたけど、兵児帯は紅蓮と希蝶のイメージには合わないからやめた。
さらにもう1つ。それは髪飾り。2人とも同じ藤の簪をみおさんはポニーテールに、しょうこさんはハーフアップでつけている。動くたびにしゃらしゃら言って結構涼し気だから、クール兄妹にぴったり。ちなみにこれは2人が溺愛している末っ子・紫咲から。藤の美しい時期に生まれたから紫咲と名付けられた末っ子を、紅蓮はわかりづらく、希蝶はわかりやすく溺愛している。兄弟の両親も同じ感じ、愛され天然末っ子。ただしこちらも元刀なので、そのふわふわな雰囲気に似合わない切れ味抜群な舌鋒が最高なギャップ萌えキャラ。
なので藤紫色のおそろいの簪は、2人の推しコーデにピッタリってわけ。若干色に濃淡の差があるから、溺愛度のわかりやすさとわかりづらさをアピール。……まぁ、映画見るので椅子にもたれづらいと思うけど。そのあたりは外してしまうか、あえて帯に刺すのもありかな。私は結構簪を帯び飾りに使ったりするとは説明しておいた。
「……完璧では?」
思わずつぶやいてしまった私に、鏡の前に並び立つ2人も頷いてくれる。いや、完璧でしょ。コスプレもいいけど、推しコーデもやっぱいいと思うのはこういう時。わかる人にはわかるというやつもいいと思う。
2人が無言でおもむろにケータイをお互いに向ける。そして無言で撮影会を始めた。
「ねぇ、しょうこ。希蝶みたいに右手頬にあてて首傾げてよ」
「みおちゃん、腕組して視線そらしてくれる?あ、もうちょっと下に視線向けて」
と思ったらポーズのリクエストを始めたでござる……。えー。コスプレじゃないのにー?まぁ、2人が楽しいならいいけど。
しばらく見学していたけど、ある程度落ち着いてきたみたいなので声をかけることにする。
「楽しんでもらえた?」
「「はい!!」」
「その返事と笑顔が1番うれしいわ」
仕事の時も思うけど、この笑顔を見るために動いているといっても過言ではないと思う。
「うっわ、きものとか初めてだけど、自然と背筋が伸びている感がすごい」
「ね。何もしていないのに」
「玄関まで歩いてきたからわかるけど、歩幅も小さいから自然とおしとやかな歩き方になるよね」
「紅蓮もだけど、なんできものキャラってこの動きにくい服であんだけ動き回れるんだろ……」
「「それな」」
おっと。私も本音が出てしまった。でもすごいよね、侍キャラとかほんと、なんであんなに動けるんだろ……。
「じゃぁ、2人のコーディネート、写真で撮って投稿してもいいかな。もちろん、顔は隠すよ」
「「いいですよ」」
うーん、この笑顔を見てもらえないの、ほんと、残念。めっちゃ輝いてんだよねぇ。
スマホ越しに見る2人に、思わず私の口角が上がっていたのは誰にも気づかれることはなかった。
余談として。
映画のあと、喫茶店で推しコーデのまま映画の感想を語らっていた2人が「喫茶店でヨウテンの宮守兄妹のコーデをして映画の話している人がいる」とSNSで少し話題になったらしい。まぁ、田舎って話題ないから。そういうことでもSNSに投稿する人はいるんだなァと思いました。まる。




