映画館で出会った女子高生(……なんか犯罪感ない?)
「え、予約時間間違えてた?!」
「ごめんー……」
平日のとある田舎の映画館。そこまで大きくない場所での声は響いて、視線が集まっている。それに気づいた少女たちは、軽く頭を下げ小声で話始めた。うーん、日本人!!
「……てことは、次の映画じゃなくて、その次ってこと?」
「そーですー……」
「あと3時間はあるんだけど……」
つい聞こえてしまった言葉に、ちらっと映画の上映時間のモニターを見上げる。もうすぐ始まる映画で、さらに3時間後にもあるものを探す。あらビンゴ。ちらっと彼女たちとそのカバンを見る。身長は、うん。大丈夫。カバンに装飾は特にないけど、あの映画ならだれでも行ける、はず。
一つ頷き、スマホのマイクに向かって話しかける。めっちゃドキドキする。
「時間がありそうな、あちらの2人組に話しかけようと思います」
そのドキドキのせいか、声が小さくなる。いやだって、やろうと決めたとはいえ初めてのことだし緊張するんだが……。いやほんと、なんでこんなことしようなんて思ったんだろ……。あ、やばい。昨日寝られなかったのも相まって心拍数がヤバい気がする。
「あのー……こんにちはー……」
あ、自信ない感じのあまりにも小さい声。明らか不審者じゃん!ほらー、彼女たちも困惑してるのまるわかりだし。そうですあなたたちに声かけました、私です。ひとまずカメラは向けずにおく。
「すみません、いきなり声かけて。あの。『Dear』ってアプリ、知っていますか?」
「?はい。動画見られるアプリですよね」
「よかった!あの。私そのアプリに動画を投稿しているんですね!それでインタビューをさせてもらっているんですけど、ほんの少しお時間いいですか?」
「あー……いいですよ。顔が映んなきゃ」
「ありがとうございます……!!」
やった!やったよ!!あぁ感無量……って、ここで終わりじゃないんだよ、やっと始まりなんだよ自分!!ほらぁさっき声かけたときとの声量差にひかれかけてるじゃん!!うれしくても声が大きすぎたぁ……他からも視線が……。
……気を取り直して!!
「ごめんなさい、人に声かけるなんて苦手で。了承を得られたものだからうれしくて、つい」
「え、なんでインタビュー投稿者なんてしているんです?」
「うん」
それな
いや、自分が頷いてどうするよ。ほらぁ、またひかれてんじゃん。とりあえず、咳ばらいをしてごまかす。
「えっと、じゃぁインタビューさせてね。2人とも学生さん?」
「はい」
「大学生かな?」
「高校生です」
「え、高校生?!今日平日だよ?!」
「期末が終わったので、息抜きに」
「期末……もう遠い過去の話だわ……」
「え、お姉さんいくつ?」
「女性に年齢聞かない!28歳です」
「「みえなーい!!」」
「ありがとう」
すっごい驚いてくれてうれしいわ……若く見てくれているんだよね?年上じゃなくって。そうだよね?
嫌な予感は振り払い、気を取り直して本題へ。
「今日は何の映画を見に来たんですか?」
「ヨウテン……『妖刀が転生したので主を幸せにする』、です」
「やっぱり!ヨウテン、いいですよね!まさか映画化までするとは思いませんでしたけど……」
「え、お姉さん原作勢?」
「原作も番外編もファンブックも制覇しています!!」
ちなみに『妖刀が転生したので主を幸せにする』について、簡単なあらすじ。
まぁタイトルまんまなんだけど。妖刀と呼ばれていたとある刀、それに宿る付喪神が主人公。唯一認めた主を守り切れず、折れてしまった。と、思ったら人に転生してしまった。しかも最後の持ち主で守り切れなかった主が転生した人のすぐそばに!妖刀らしからぬ情を抱いた彼……紅蓮は今度こそ主を守り、さらには幸せにするために奮闘する。そんな話。
いや、結構面白いんだよ。兄弟刀が妹に生まれていたり、主を殺してさらには自分が折れるきっかけになった人物の生まれ変わりにフラグ立てられたり、主のじれったい恋愛事情とか主従漫才とか。あの人間模様や刀故の感性だったり。はたから見たら鈍感系主人公だけど、刀だから人の機微がわからないのは仕方ないと思うんだよね。転生先が全く違う魔法世界っていうのも面白いし。
「マジで?!」
「マジで。アニメ化はしても映画化まではするとは思ってなかったですね……」
「「それな!!」」
そっから始まるオタトーク。いいね!推しはオタクを、世界を笑顔にするんだよ!好きなマンガの話だし、私も聞くだけで楽しい。まぁ、動画として投稿するときは割愛することになると思うけど。
オタトークが一段落したところを見計らい、さっそく……ようやく?本題。本音はまだまだ話を聞いていたいし頷きたいけど。え、本題って何?って?
「インタビューに答えてくれた2人には、このチケットをプレゼント!」
「え、なにそれ」
ちょっと訝し気な目を向ける2人に、うんうん、初対面の人に警戒心を向けるのは正解だよ!いや、今その状況作ってんの私だけどと思いつつ、手作りのチケットを見せる。結構装飾にはこだわった逸品である。厚紙だけど。
「『きもので推し活してみよう!! 体験無料チケット』……?」
チケットに大きく書いていたからね。触れないでも読んでもらえるのは助かる。しかも声に出してもらったから、動画を投稿するときに編集が楽だわぁ。
「実はね。私の動画投稿の活動を一言でいうと『日本文化を身近に感じてほしいな』ってものなの」
オタクは同志には垣根が低くなる。敬語はあっさり外れてしまった。おかしい……私、普段は初対面の人には基本敬語なのに。相手が年下で、しかも同志というのは大きいのか……。
さて、ここからが本番だ。
「ここから5分くらい歩いたところに私のお店があるんだけど……。
私の野望はきものをはじめとした日本文化を多くの人に知ってほしい。興味を持ってほしい。ってことなの。そのお店はきっかけになればって感じなんだけど。
そこではきもののレンタルができるんだ。着付けも私がするから、そこは安心してください。
で、アニメも日本の文化だと思うので、アニメときもの、日本の文化を両方布教するにはどうしたらいいかと思って始めたのが『きもので推し活』なの!
というわけで、ヨウテン、きもので見てみない?」
2人は顔を見合わせ思案中。そりゃそうだ。ぶっちゃけ怪しいもんね。私だったら本当に無料かどうか確認するし、そもそも初対面の客引きについていこうとは思わない。まぁ、過去に断れなくてついていったことはあるけどね!!自己主張できない日本人なんです……。
「怪しいと思うの、ごもっとも。安心材料になるかはわかんないけど、本職が別にあるからそっちの名刺みせるし、会社のHPにも私の写真付きで人物紹介されてるから、確認してくれていいよ」
「え、本職あるのに店やってんの?それってありなん?」
「ぶっちゃけなしかな!!でも副業OKの会社だから、休みの時だけ店やってます。
自宅に招くよりかは店ってした方がお招きしやすいと思って開業届けだしました。
あと、さらにぶっちゃけると、私の目的は『日本文化を身近に感じてほしいきっかけ作り』だから、お店って言っても売り上げとかは一切考えてないんだよね!確定申告とかメンドイし。むしろ布教活動?」
最後の単語に2人が反応したのが分かった。だーよねー。オタク(かはしらんけど)は布教活動、大好きだよね。まぁ同担拒否過激派とかはいるけど。でも、さっきのオタトークからいって、布教するのが大好きな部類と見た。
「私は自分の好きなアニメときものを布教したい。
推しコーデさせてもらって、その写真を投稿させてもらいたいんだ。もちろん、顔は写さないよ。そういう推し活もあるんだって知ってほしいだけだから。
で、きもので推し活を喜んでもらえたらうれしいし、日本文化を身近に感じて興味を持ってもらったらさらにうれしい、って感じなの。どう、かな?」
私の手札は全部さらした。あとは2人の気持ち次第。
再度顔を見合わせた彼女たち。ちらっと差し出した名刺を見てきたから、見やすいように掲げる。そして同時にスマホを触りだした。おそらく私の本職を確認しているんだろう。最悪、会社に苦情いれられるしねぇ……。その際は店長、ごめんなさい。でも無理強いなんてしないんで!苦情はいかないと思います!
「……ほんとに無料ですか?」
「当然!逆に聞くけど、あなたたち、布教活動するときに対価を求める?高校生だったら難しいかもだけど、財力あったら自分用・保存用・布教用って3つそろえてタダで本とか貸し出さない?」
「「する」」
「むしろ自分用もタダで貸す」
「好きなシーンまでは絶対読んでって言ってから貸す」
「でっしょー?つまり、そういうこと」
オタクの布教活動っていうのは、それすなわち『相手に興味を持ってほしい。一緒に推し活したい』ってのが大部分だと思うんだよね。私が今しているのは、それだから。異論は認める。
自分と一致したからか、彼女たちは頷いてくれた。
「ありがとう!!私が何かやらかしてたらすぐ言ってね!さすがに会社に苦情が言ったらクビになるから!」
感無量!感動して思わず万歳してしまった私に、苦笑が返ってくる。ごめんね、変な大人で……。
「じゃぁ、さっそく行こう!映画に間に合わなかったら意味ないからね!」
「え、まだ3時間もあるけど」
「うん……」
「甘い!!」
私は知っている。きものじゃなくても服がたくさん並んでいたら、女の子たちは目移りするんだよ。しかもきものは小物が多いから、コーディネートは無限大。本職が本職だからね、知ってるんですよ。
「推し活に、時間が足りるってこと、あると思う?こだわればこだわるほど、時間はいくらあっても足りないんだから!」
「それは……」
「そうかも……」
「ということで、移動時間も無駄にしないため質問するね。あ、2人のことはなんて呼んだらいいかな」
「みおで」
「しょうこです」
「みおさんにしょうこさんね。オッケー!じゃぁ、まずは誰の推しコーデしたい?」
「えっと……」
推し活に年齢差なんてないんだなと実感。なんて、推しについて話していたらあっという間についた。




