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千葉弥咲の布教活動~きっかけ作り、はじめました~  作者: 日沖 伊朝


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13/14

千葉弥咲の過去と思いとこれからと

「ところで動画配信の時いつもある前書き。いつも思うんですけど予防線張りすぎじゃないですか?」


 先日職場にきて驚かせてくれた松永姉妹が、宣言通り私の自宅兼店にやってきた。いらっしゃいませ。


 今日は紫咲の推しコーデをしたみおさんが持ってきた(紫咲の好物である)抹茶と上様の推しコーデの莉央さんが持ってきた(上様の好物である)みたらし団子で、縁側でティータイムをしている。

 なお先日話していた莉央さんの友人は都合がつかなかったらしく、別の日にまた莉央さんと一緒に来てくれるらしい。ありがたい。


 ちなみに、今日の推しコーデはというと。


 みおさんは紫咲の名前の通り紫色の地に白色の藤の花が描かれたきもの。帯は先日と同じ雲取柄の色違い。前回のしょうこさんとのと合わせて兄弟お揃いコーデというわけだ。合わせて簪も当然藤の花。きものの柄に合わせて、こっちは白色だけどね。帯留めは逆に紫色の藤が入っている透明なガラスのもの。兄妹の中では控えめな性格をしているから、半衿とかは入れないことに。まぁ、きもの自体華やかだから、顔回りに何かアクセントはいれなくても大丈夫だ。外には出ないので羽織はなしにしました。


 莉央さんは振袖とは逆に今日は柄は少なめ。謁見の間にいる時のお仕事モードの上品系にしたいとのことでえんじ色に牡丹が大きく描かれているきものをチョイス。……派手ではないって言ったけど、大きな牡丹というだけで華やかだわ。帯は高貴な深紫の半幅帯、帯留めとか帯締めはなしで、簪もトンボ玉がついているものとシンプルイズベストでそろえた。黒地の陣羽織を羽織って覇気を演出してみたとのこと。上様コーデでも派手だけじゃないんだなぁと、改めて解釈はたくさんなんだと思ったコーデだ。


 そして何より。ここまでのコーデ、私は特に何もアドバイスをしていない。全部2人が試行錯誤しながら選んだ。これにはめっちゃ驚いた。ほんとに先日まできものは七五三以来だったのかと聞きたいくらいスムーズ。私は今日着付けしかしていないんだよなぁ。


 で、今日は推しコーデでお茶をしたいとのことで縁側へご案内してみた。庭っていうほどの庭ではないけど、時代物の雰囲気を味わうという意味ではありかなぁと思う。さすがに庭を整える技術も資金もありません。


 そんな推しコーデお茶会に私も誘われたので、私も別の推しコーデをしてみた。転生妖刀兄妹の母、マリア。2人が濃い目の色のきものなので、私は薄緑色を選択。といっても、百合柄にしたいなぁと思ったらそれしかなかったというのが正解だけど。『白百合の君』なんて言われているマリアだから、まぁそのまんまだよね。帯は髪色のシルバー系にしようかと思ったけど、豪華すぎたので白にした。帯締めは旦那である嘉月のカラーである黒、帯留めは家紋の月だ。簪は嘉月コーデをした時と同じものにしてみた。なんだかんだで彼女も旦那大好きだからね。



 そんなのんびり推しコーデお茶会でゆったりまったりしていたわけだが。唐突にみおさんから冒頭の質問が投げかけられた。私はありがたくいただいていたみたらし団子を咀嚼しながら、何のことだと首をかしげる。


「ほら、動画の説明文に『センスはない』とか『批判はやめてほしい』とかあるじゃないですか。あれ、けっこうな予防線だと思うんですよね」

「あ、それ、私も思った。どの動画もアドバイスは的確だと思ったし、私の振袖選びだって楽しく私が着たいものを言語化してくれていたじゃないですか。あの説明文は過剰だと思います」

「あー……」


 みたらし団子を飲み込み。私はちょっとだけ遠くを見つめる。そういってくれるのはとっても嬉しいけど、これは私の根っこの問題だからねぇ……。あぁ、でも。その誉め言葉を素直に受け入れられるようになったのは成長かな。この仕事する前だったら、「そんなことないよ」って否定しまくっていた気がする。

 ……少しは自信、ついたのかなぁ……。


「……個人的なことになるんだけど。私にも兄弟がいるのね」

「そうなんですね」

「で、すぐ下の妹が何もかも秀でていて。勉強もスポーツもできてさばさばしているの。女の子にモテる系女子って言ったらわかりやすいかな?」

「「へー」」


 2つ年下の妹、衣睦いちか。なんでも要領よくこなす彼女を自慢に思いつつも劣等感を抱かせてくれていた。ほんと、小さい頃は結構複雑に思っていたものだ。


 かわいいけど。きれいだけど。好きだけど。憧れだけど。……嫌いだった。まぁ、今でも結構複雑だけどね。


「私と違ってかなり社交的でおしゃれさんでもあるのよね。で、そんなおしゃれさんな妹に、『姉ちゃんはセンスないんだからおしゃれしない方がいいよ』って言われたのよねえ」

「「……は?」」


 おー。鳩が豆鉄砲を食ったような顔だ。いや、実際にそんな鳩見たことないから知らんけど。

 まぁでも。けっこうな言葉よね。小さいころだからこそ言えたセリフだと思う。いや、今でもあいつは言うわ。それくらい確たる自分っていうのを持っているから。姉を姉とも思っていないから遠慮なんてないし。


「大人になって就職して、転職しようって考えていた時テレビで『日本の伝統工芸の職人が減っていっている』っていう特集を見て、何かしたいって思ったの。そんな時振袖コーディネーターの募集があったから応募してみたけど、面接のとき『万が一採用されても私にはセンスないし、足手まといになるんだろうなぁ』なんて考えていて。だから採用されたときは『うれしい』と同時に『センスのない自分は大丈夫だろうか』って思ったわ。

実際、入社したばっかりのころはコーディネートのダメ出しの雨あられだったし。当時は推しコーデとか考えていなかったから自分の手持ちのきものを先輩たちに見てもらったら『地味すぎる』『きものでお客様の前に立つこともあるんだからもっと華やかに』って言われてねぇ。当時の自分が『好き』って思って買ったきものを全否定されて。やっぱり私ってセンスないんだぁって思ったよね」


 愚痴になってしまった。申し訳ない。しかもこれから社会に出る、未来に希望を持っているだろう彼女たちに。

 でも、今回も動画投稿に……私の布教活動に協力してくれている2人に嘘は言いたくなくて。とりあえず、後でなんかフォローしよう。


「振袖コーディネーターとして経験を積んで、お客様たちに楽しんでほしいって思っていろいろ考えて。何ができるかはわからないけど、今の仕事に就くきっかけになった職人の後継者不足とかってそもそも興味のきっかけとかないとそんな職業があることも気づかないんじゃないかって思って。もともと日本文化が好きだったから、私の好きなものを知ってほしいって思って少しづつきものや小物をそろえて。で、唐突に『そうだ動画配信しよう』って思ったんだよね。何かを知ってもらうのに、動画は費用とか技術とかのハードル低くて、私でもできるなぁって」

「「……」」

「振袖コーディネーターになって成約も増えて、お嬢さんどころかご家族にも喜んでもらえて。ちょっとは自信を持てるようになったけど、でも根っこは妹に『センスのない人』、先輩に『好きを全否定された人』っていうレッテルは、依然として私にはあるの。だからこれ以上滅入りたくない、でも布教はしたいっていう思いから、あの前書きになったの」


 ちなみにその妹である衣睦には私の布教活動は『お金の無駄』『時間の無駄』『姉ちゃんに何ができるっていうの』といわれたことがある。というか今も言われる。

 弟の由卯ゆうは私と同じオタク属性だからどっちかっていうと賛成寄りではある。ただ、兄弟の力関係は衣睦が強いというか一強だから、あいつにいろいろ言われた時に肩ポンされるくらいだけど。たまにきもので推しコーデデートしてくれるし。男性の着付けも練習できるからほんとありがたい。


「……すごいですね」


 ちょっと弟妹に弱い姉という自分に遠い目をしてしまったら、ぽつりとみおさんがつぶやいた。え、何が?

 意識が少し遠のいていたから、最初何を言われたのか分からなかった。いや、ほんと。何が『すごい』なの?


「千葉さんすごいですよね。そういう、否定的なことを言われていたのに、それでも自分ができることって行動に移されて。私がお姉ちゃんにそんなこといわれたら引きこもりますよ」

「いや、あんたなら私と大喧嘩でしょ。で、母さんに怒られるまでがセット」

「それもそうか。でも、たぶんトラウマにはなると思う。先輩にもそんなこといわれてそれでも仕事続けられて。動画も投稿して。そういえば、最初に話しかけてきたときかなり挙動不審でしたね……」

「……その節は、申し訳なく……」

「あ、いえ、謝られることじゃないです!私は、話しかけることが苦手なのに人に話しかけて、きっかけ作りをするのがすごいなって!だって、人に着せるより自分がコーディネートしたものを写真で投稿するだけでもいいじゃないですか!」


 それもそう。


 あれ、私、なんでそんなこと思いつかなかったんだろ。

 いやだって、きもので自分をコーディネートしたものだけSNSにアップしても、きっかけとしては弱いかなぁって。手軽にできるんだよって知ってほしくって。


 だれがどんな推しかはわからないから自分の趣味とはかけ離れているものもいろいろ片っ端から集めて、何やってんだろって思うこともあったし、衣睦の言葉もいまだに棘として刺さっているのに、人に話しかけるなんて自分でも苦手と自覚していること、なんでやろうと思ったんだろ。いやマジで。


「……自分だけのじゃなく、人の推しや解釈も知りたくって。そこから私の推しへの深堀もできるかもだし。私の解釈だけだったら、似たようなものしかできないから、私もいろいろ知りたくて」


 言葉にして、『あぁ』と思った。そうだ、私の原動力は変わらない。


 『好き』を知ってほしい。誰かの『好き』を知りたい。そしてもっと、自分の『好き』を深めたい。


「推しが私の世界を救ってくれたから、私も推しに何かしたかったの。推しを知ってほしくて、そして誰かの推しを知りたかった」


 ……私って、結構猪突猛進タイプだったんだなぁ。


 私は布教活動にはこの方法しかないって思っていた。でも、みおさんが言うように、ほかにも方法があるわけで。あぁ、でも確かに昔っからそれしかないって思ったら突っ走るタイプだったわぁ。変なところで行動力もあるしね。


「まぁ、推しが原動力っていうのはわかります。私もそういうところあるし。でも布教活動のために、そこまで苦手なこと、トラウマになっているようなことできちんと行動している千葉さん、すごいと思いますよ」

「だね。今日の話を聞いて、推しコーデ楽しませてもらったのと合わせて、私も千葉さんの活動応援しますよ。千葉さんの布教活動で私も実央も視野が広がったし。そうだ、今度一緒に同人誌出しません?ほかにも布教活動の方法、あると思いますよ!」

「お姉ちゃん……またページ数足りないの?」

「違う!今度の上様本に描くきものの柄とかのアドバイスが欲しいの!千葉さんがイラストかけるならページ数稼ぎたいけど!」

「お姉ちゃん……」


 あきれたような視線のみおさんに、いろいろ反論している莉央さん。ほんと、仲がいいなぁ。


 でも。そっか。


 私、トラウマになっていることにも挑戦していたんだ。転職を繰り返していたから何事も続けられないと思っていたけど、続けられていたんだ。布教のきっかけ作り、楽しんでくれていたんだ。ほかにも方法があるんだ。応援、してもらっているんだ。



 あぁ、なんだかとっても、すがすがしいなぁ。



 2人の姉妹喧嘩をBGMに見上げた空は、とても高く、まぶしかった。

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