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千葉弥咲の布教活動~きっかけ作り、はじめました~  作者: 日沖 伊朝


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14/14

千葉弥咲の新たなスタート~事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものである~

『世界一周、プレゼントすることにしたわ』


 What's ?



 

 それはある休日。

 私に英語を教えてくれるリザとパソコンを通して話しているときだった。


 リザはもともと私が地元で活動している「日本文化を広めたい」という動画投稿企画に参加してくれた観光客の1人だった。きものが着られただけでなく、推しのモチーフをふんだんに取り込んだのがお気に召したのか、めっちゃ喜んでもらった。

 それから彼女は「イギリスに来るときは絶対会いましょうね!」と言ってくれたし、私の英語力向上のための協力もしてくれている。ほんと、何がそんなに気に入ってくれたんだろ。推しコーデを着るっていうのはあんまり海外ではないらしいから、そういう体験ができたからかな?ありがたいことなので、次に会ったときはもっと推しコーデを充実させるからね!といろいろと知識を深めたり、小物とかも増やしていっている。


『ねぇ、いつイギリスに来てくれるの?』

『あー……いつになるかなぁ……』


 私だって、いけるものなら今すぐ行きたい。

 もともと、私は歴史とか文化が大好きなのだ。それは日本だけではなく、さまざまな国のものも。だから観て聴いて体験したいという思いは、小さいころからすさまじく大きかった。イギリスだって、いろいろな歴史があることを知っている。それを観て聴いて体験したいに決まっているんだ!あぁ、楽しみ!


 そんな私だから、「日本文化を『世界に』広めたい」っていう気持ちが大きいし、それは現地に行って、知ってもらって、そしてあわよくばその土地の文化を体験したい。それこそが私の野望だ。リザはそれを知ってくれている。

 でも、ね。私はどうしたらその野望が達成できるかわからないの。どれくらいの予算、人脈、時間が必要なのかもわからない。あまりにも夢が遠すぎて、どうしたらいいかわからない。


 それでも。今の私にできること。

 誰にでもできて、予算もそこまでかからない。海外に出た時でもできることを増やすため、いろんなコーデや作品理解を深めたり。動画で配信したりってしている。小さなきっかけが、もしかしたら私の夢を後押ししてくれる方法を教えてくれるかもしれない。

 学びながら、その方法が分かる日を待っている。他力本願というなら言えばいい。待っているだけじゃダメだろ、と呆れるなら呆れろ。私はそれでいいと思っているから。


 だって、私、自分が変わっていくこと、わかっているもの。

 2年前の私は、きものが好きでも着付なんてできなかった。1年前の私は、動画配信なんて思いつきもしなかった。海外に友人ができて、英語力を磨くことを手伝ってくれるなんて考えたこともなかった。

 私は私が変わっていったことを知っている。だからいつか、どんな方法かはわからないけど。

 『夢は叶うかもしれない』と思えるようになった私なら、叶うかもしれない方法が分かる日をのんびり待っているのもいいんじゃないかなって思うの。そこまで焦ってないし。まだまだ自分自身、学びが必要なのも分かっているからね。


 私の考えを拙い英語ながら伝えるも、リザは不満そうだ。えー、なんで。


『私は今すぐにでもあなたにこっちに来てほしいの。こちらは私と同じように、日本文化を知りたい、体験したいって人は多いのよ?』

『え、うれしいな。じゃぁ、もっと理解深めて、英語ももっとうまくなって、いつかそっちに行ったときに喜んでもらえるようもっと勉強するね』

『……』


 納得してないでござる。


 リザはますます「不満です」って表情になるけど。やっぱり美形ってすごいね。それでも美人が全く損なわれることがない。ある意味すごいな。え、めっちゃ深いため息はくじゃん。


『……私はね、ミサキ。あなたに感謝しているの』

『いきなり何』


 いやマジで。いきなりどうした。


『私の大好きな『風は海を凪ぐ』のモデルになった土地に行って、たまたまあなたがそこで私に声をかけてくれて。あこがれのキモノを着れただけでなく、大好きなコマチのモチーフを身に着けてあの舞台を歩けたこと。本当に涙が出るくらいに感動したの』


 まぁ、実際泣いてたもんね。私もオタクだからその気持ちはわかる。聖地で推しコーデしたら、そりゃ号泣もんだよね。


『あなたには本当に感謝しているの。でもね。許せないこともあったわ』

『え』


 マジか。え、私何かしたっけ?お国柄とか宗教的に何かまずいことしちゃったのかな。それなのに今日まで英会話教室してくれてたとか?え、優しすぎん?


『あの感動体験が!無料だったってことが!!ほんっとうに!!許せなかったの!!』


 と、思っていたら。全く別ベクトルだったでござる。

 えー、そうはいうけどさー。


『……そもそも私の動画に出てくれたじゃん。そのお礼だよ?』

『それだけじゃ釣り合わないって話よ!』


 あらぶっておられる……。

 うーん、リザってば律儀ー。

 でもさぁ、私としては全世界に(あれ?あのアプリって全世界対応してたっけ?まだ一部だった?……まぁ、感覚的には全世界ってことで)配信される動画に出てもらっているんだよ?きもの着せて、小物持たせて、私レベルでの写真を撮ってくらいしかしていないんだけど。それでお金もらうのもなぁって思うわけだよ。もとはといえば、私の布教活動だし。


 うん。そう。布教活動なのよ。だから私がお金もらうのは違う気がする。つまり私は間違っていない。なんて、自分では超納得している私に、リザはにっこり。え、なんか怖い。


『だから、ね。私、あなたに世界一周、プレゼントすることにしたわ』


 What's ?

 何言ってんだこいつ……。

 そう思った私は悪くないと思う。え、私おかしくないよね?


 私の困惑なんてなんのその。リザの言葉は続く。


『私、思ったの。私の夢を叶えてくれたあなたの夢、私が叶えられたら素敵じゃない?って』

『……そうはいうけど、リザ、私の英会話力向上のための協力だってしてくれてるじゃん。むしろ私が対価を払う必要があるんじゃない?』

『私もこの時間で日本文化を教えてもらっているからイーブンよ!』


 そうなのかな?

 めっちゃ自信満々に告げるリザに、私もそんな気がしてきた。いや、でも、英会話で日本文化を教えるって、英会話授業と相殺されるん??相場が分からん。

 困惑している私を置いて、リザは続ける。


『今度私の会社で世界一周クルーズの企画があるの。半年の航海だから船での催し物がそれなりに必要なのよね。そこに日本文化のワークショップがあったら楽しいだろうなぁって思って、企画書を書いているの。それにミサキ、あなた参加してくれない?』

『はぁ?!』


 突拍子もないこと言いだしたぞこいつ。え、マジで何言ってんの……?


『……冗談は』

『本気よ』

『……』


 かぶせるように伝えてくるリザの瞳は、確かに真剣だった。あまりにも強い視線に、私は息をのむ。視線が合わせられない。なんでこんな強気なんだこいつ。私が断わるわけないって思っているな?確かに何でもかんでも引き受けるといわれる日本人だし、私もその典型だけど、でも、できることとできないことは自覚できているから。できないことは言っておかないと、後で自分の首を絞めてしまうから、無理はしないのだ。

 1回、息を吸って。ゆっくり吐き出した。リザの言葉を咀嚼する。


『……私、まだまだ英語拙いから、仕事とか無理だよ』

『この半年でどれだけ向上したと思ってんのよ。まだ時間があるし大丈夫。というより、それだけできれば十分だと思うけど?』

『……全然日本文化を知っているとは言えないし、航海の半年も語れるだけのものはないし』

『あなた、この半年私に何語ってきたと思っているの?私に教えてくれていたでしょ?それに歴史ある日本のすべての文化を全部覚えるなんて不可能じゃない?学者じゃないんだし。あなたの知識やお話は、いつも私を感動させてくれるわ』

『……ワークショップするならきものとか小物とかさらにいろいろ買わないとだけど、貯金ないし』

『経費に決まっているじゃない。支度金はもちろん払うわよ』

『……企画書、英語で書ける自信ない』

『そんなの私が教えるし、何ならプロを紹介するわ。もちろんそれも経費よ』

『……』


 ことごとく、論破されてしまう。


『……なんでそこまでしてくれるの?』

『いったでしょ。夢を叶えてくれたお礼がしたいって。でも、そうね。一番は私がした感動を、私の仲間にも体験してほしいって思ったから』

『……私利私欲で会社に企画をねじ込むってどうかと思う』

『あら、企画を挙げるのは会社のノルマよ?自分が情熱をかけられるものじゃないと、企画なんて通せないでしょ。普段真面目にしているんだから、こういうときくらいは好きにしたいわ。それに採算がとれるつもりだし、もし取れなくてもほかの企画で埋め合わせできる見通しもあるしね』



『いろいろ言っているけど。ミサキは本当はどうしたいの?』



『…………………………………………やってみたい』


 ためにためた私の言葉に、リザはにっこりと笑った。美人の最上級の笑顔だ。あまりにもまぶしすぎたから、私の目がカバーするためにうるんでしまったのは仕方ないと思う。


『だから今度は私があなたの夢を叶える手伝いをするわ』


 それが私の人生一多忙を極める日々の……そして私の夢を大きく前進させる大きな一歩への、始まりだった。

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