46 特別試合
「どりゃああぁ! 覚悟せぃ小僧!」
「はぁ……はぁ…はぁ、元気な爺さんだな。まったく」
ガビ戦で高速機動スキルを全開にした為、消耗し切っているオリオンとは違い、いまだ意気軒昂な老戦士にうんざりしながら突進を躱して、場外に蹴り飛ばして落とした。
『さあ、これで舞台上に残る戦士はあと四人だけ! 朝日が昇り、これが最終戦となる。優勝するのはサイガ流の戦士か、はたまた外部からの参加者オリオンか。栄誉を勝ち取るのは一体誰だぁ!』
舞台に残ったオリオンを含む四人の戦士が互いを見合う。
太陽の光りが徐々に広がり、空の色は漆黒から深い青、茜色へと次第に移り変わろうとしていた。最終戦も佳境となり、場外で試合を見守る戦士の応援にも熱がこもる。
「負けるんじゃねぇぞ、テッカン!」
「優勝まであとちょっとだ。ガンガン攻めろ!」
「遠慮はいらねぇ! サイガ流を食っちまえ小僧!」
「ミャオン、獣人の誇りを見せてみろ!」
「他所者なんぞに負けんじゃねぇ! まずは小僧から倒せ!」
「頑張れ、ミャオン! 本家の年寄りなんざブッ倒せ!」
「くっそ~……勝ち残れなかったぜぇ。こうなりゃ……全員場外で、再戦させろ!」
「アホか。再戦したところでお前はまた負けんだろ。引っ込んでろ」
慎重に間合いを計っていた戦士の一人が意を決してオリオンに攻め掛かるとそれに合わせて残りの戦士達も動いた。
戦士の連続蹴りをオリオンは後ろに飛んで躱すとすかさず残りの二人が連携して攻撃してくる。同じ流派ゆえの息の合った三人がかりの連続攻撃に押され、防戦一方のオリオンが少しずつ舞台端へと追いやられる。
「いけいけいけぇ! もうひと息だ。小僧を落とせ!」
「やべぇぞ、踏ん張れ小僧!」
「三対一たぁ、ズルいじゃねぇか」
「バ~カ、これも戦略だろうが。勝負に綺麗も汚いもねぇよ。どんな状況でも勝ったもんが生き残るのよ」
「……ガビを倒した手練れでもここまでか」
観客の大半がオリオンの敗北を予想し、舞台上の戦士がトドメの技を繰り出した。
「これで終わりだ。あばよ、オリオンとやら! 『岩砕拳』!」
「それは……何度も食らった。『岩砕拳』!」
「何ぃ!?」
戦士の放った地属性の技をオリオンが真似て繰り出すと戦士は驚き、思わず動揺した。
同じ技でも精神に隙のある方が押し負ける。
ぶつかり合う二つの拳。技が崩れたのは戦士の方だった。
押し負けて吹き飛んできた戦士の身体を避けようと猫獣人の女戦士が慌てて飛び上がった。
「わわっ!」
「隙有り、だ」
オリオンから意識を外していた女戦士は反応が遅れ、身動きが取れない空中で蹴り飛ばされて場外に落ちた。
残るはオリオンとサイガ流本家の犬獣人の戦士だけとなった。
「今の……」
「何だ?」
「今の攻撃、アンタの位置からなら阻止出来ただろ。そうすれば二対一の体制を維持出来て有利に戦えたんじゃないか?」
「ふん、考え無しに飛んだアイツが間抜けなんだ。あんなもの食らう方が悪い」
「んだと! この、クソ犬!」
貶された女戦士が場外からヤジを飛ばすが無視された。
「それに折角の祭りだ。綺麗に締めたいじゃないか。サイガ流本家、サーク。推して参る!」
「そうか……冒険者オリオン、受けて立つ!」
双方ともに連戦による疲労で大技を繰り出すほどの魔力も残ってはいない。それでも残された力を振り絞り、激しい攻防を繰り返す。
戦況は地力で勝るサークの方が僅かに優勢で、防御をすり抜けた一撃がオリオンの顔面に命中し体勢が崩れた。
その瞬間、残りの力を込めてサークが仕掛ける。
「もらったぁ! 『鬼炎連脚』!」
赤い闘気を纏った必殺の蹴りがオリオンの胸に命中しサークは勝利を確信した。
だが予想に反し、オリオンの身体は微動だにしなかった。サークの放った蹴りはオリオンの身体に触れる直前で見えない壁に阻まれていたのだ。
「(まさか、これはサイガ流の防御技『防殻』か!? 何故、奴が……そうか。奴は見様見真似で岩砕拳を使った、つまり土属性の適性があるのか。その応用で防殻まで……)」
「っりゃあ!」
オリオンの気合いとともに防殻が弾け、攻撃を跳ね返されたサークの身体が浮き上がった。
「し、しまっ……!」
「せぇりゃああぁ!」
オリオンの渾身の拳を食らい、サークは地面に叩き付けられた。
「はぁ、はぁ……はぁ」
「くっ……」
オリオンの疲労はピークに達し、膝が崩れそうになるのを必死に堪えて地面に倒れるサークを睨み付けた。
上体を起こし何とか起き上がろうとしているサークだったが、最後には諦め降参を宣言した。
『けっ……ちゃぁくっ! 長い戦いの末、喧嘩祭りを制したのはハーベルの冒険者オリオ~ン!!』
「うおおぉ! やりおったぞ、あの小僧!」
「サークの奴め、負けおったか。サイガ流を名乗るもんがあそこで立てんとは情けない」
「早々に負けたテメェが言ってんじゃねぇ。何時間も戦い続けるなんざ本家の修行でもやらねぇ事だ。最後まで残っただけでも大したもんじゃねぇか」
「ぬうぅぅ、私はまだまだやれるぞ! おいオリオン、後で私とサシで勝負しろ!」
「ガハハハッ! そりゃいい、ついでにワシともやろうじゃないか!」
「体力馬鹿どもが……」
『騒がしいぞ、観客ども! 静かにしろぃ! 優勝者オリオンにはサイガ流当主から……』
ダンテが場外で騒ぐ野次馬を注意して祭りを進行させようとしていると、観覧席からジンハが舞台上へと降りてきた。
『おっと、これはどうした事だ? 当主ジンハ殿が舞台に降りてきたぞ』
「何、素晴らしい戦いぶりを観てどうにも身体が疼いてな。ただ見ているだけと言うのも詰まらん。俺にも一戦、戦わせろ」
『お~っと、見ているだけでは物足りないと、ここに来て当主自ら乱入だぁ! 優勝者オリオン、これを受けるのかぁ!?』
「……受けてやる」
オリオンの言葉に場外の戦士達が一斉にどよめいた。
「おおぉ! 流石はサイガ流に喧嘩を売っただけはある。逃げずに受けよったぞ」
「いやいや、無茶が過ぎる。相手は当主様だぞ?」
「それにもう立っているのも限界だろ。無理するな、オリオン!」
「でも、もしかしたら……」
「いや、ないない。条件が悪過ぎる……筈?」
オリオンの実力を身を以て知った戦士達は、ジンハからの挑戦を受けたオリオンを無謀と言いながらも心のどこかで番狂わせがあるのではとも思っていた。
『双方の合意が取れたっつぅ訳で、特別試合を開始するぜ。喧嘩祭り制覇のオリオン対サイガ流当主ジンハの一戦、全員見逃すんじゃねぇぞ! そんじゃ……始めぇ!』
会場にいる者の視線が舞台上の二人に注がれる。
「まずは優勝おめでとう。そして俺の挑戦を受けてくれて感謝する。その勇気と健闘を称えて、サイガ流当主の本気をお見せしよう」
言うや否や、ジンハは気合いともに闘気を爆発させた。
「これがサイガ流の真なる奥義だ……『灼化』!」
ガビの使った灼化とは違う、まるで燃え盛る業火のような激しい闘気を身に纏いジンハが笑う。
「そしてこれが俺の必殺拳だ。死ぬなよ、オリオン……『炎狼昇天』」
目の前にいたジンハが僅かな火片を残して姿を消したと同時に、下から突き上げるような衝撃を受けてオリオンの身体が宙に浮かんだ。
「がぁっ……」
怒濤の連続攻撃を食らい空高く打ち上げられたオリオン。ジンハの闘気を含んだ高熱の拳を受けた身体は痛みを通り越して麻痺してしまった。
宙を舞うオリオンの、更に上を取ったジンハがトドメの一撃を放つ。
「『追牙』!!」
ジンハの掌から放たれた衝撃波がオリオンの身体を貫き、意識を失ったオリオンが地面に落ちた。
『しゅ~~~りょ~~~!! 圧倒的な攻撃によりサイガ流当主ジンハの勝利ぃ!』
「なな、なんちゅう攻撃じゃ……」
「瞬殺じゃねぇか。いくら試合のダメージがあったとはいえ、反応も出来んとは……とんでもねぇな」
「あれが当主の実力か。うむむ」
「やはり、あの状態で当主とやり合うのは無理があったな。オリオンは大丈夫か?」
ジンハの実力を目の当たりにして会場のあちこちがざわめいた。完全なサイガ流の奥義やジンハの必殺拳を目にして多くの戦士が若き当主に畏怖の念を抱いた。
会場にいる全ての人々の関心が舞台に注がれ、当主ジンハの姿に釘付けとなっていた。
そんな中、観覧席の脇に置かれている筈の五つの秘武具が忽然と消えている事に、ほとんどの者が気付いていなかった。




