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44 乱戦

 日が沈み、幾つもの篝火が焚かれて闘技場を照らしている。闘技場中央にある頑丈な石造りの舞台上に数十人の鼻息を荒くして殺気立った戦士が試合開始を待っていた。


「本家の野心家どもに分家の腕利き、それに外様の弟子が数人か……」


 舞台を見下ろせるように組まれた観覧席でジンハは参加者の顔触れを眺めていた。特別に用意された観覧席にはジンハの他に長老衆と試合に参加しない本家の者が並んでいた。その傍らには参加者の戦意高揚を狙ってか、五つの秘武具が置かれている。


「どいつもやる気十分じゃのぉ、本音を言えばお主も参加したかったのではないか?」

「俺が参加したら立場を気にして遠慮する奴もいるだろう。どうせ開くなら後腐れなくしたいからな」

「そうか……ならばこの催しが上手くいく事を願いたいの」


 武闘会参加者が揃った所で司会役を買って出たダンテが拡声器のマイクを片手に現れた。


『よぉし! これより第一回サイガ喧嘩祭りを開催するぞぉ! 簡単にルールを説明するから足りねぇ頭に叩き込め! まず武器の使用は禁止だ、そして舞台の外に落ちたら負け、負けた野郎は大人しく場外で待機してろ! 最後の一人になるまで殴り合い、勝者が決まった時点で戦う気のある敗者は舞台に上がれ! 朝日が昇るその時まで繰り返して、最後の試合で勝者になった者が優勝だ! 優勝者は当主の座をぶん取るも良し、秘武具をかっさらうも良しだ!』


 優勝を狙う者達が舞台の上からギラついた目で台座に並ぶ五つの秘武具を食い入るように見る。秘武具を授かる機会など滅多に訪れない、このチャンスを逃すまいと推進派、反対派関係なく誰もが優勝を狙っている。


『野郎ども準備はいいか? そんじゃ一回戦、開始ぃ!』


 司会役のダンテの宣言と同時に舞台上で激しい攻防が繰り広げられる。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️

 

 巨漢の戦士が自慢の剛力を発揮し、周囲の戦士達を次々と吹き飛ばしていく。


「どけどけぇ! 当主の座は俺のもんだぁ!」

「邪魔だ、デカブツ」


 勢い付く巨漢の戦士の背後から獣人の戦士が後頭部に膝蹴りを食らわせ、よろめいた隙に別の戦士がバランスを崩した巨漢の戦士を場外へと投げ飛ばした。


「隙有りぃ! 『岩砕拳』!」

「甘いわ! 『水震波』!」


 別の場所では属性攻撃を繰り出した二人の戦士が相討ちとなり衝撃で両者共に場外に落ちた。


「オメェ……見ない顔だな」

「ども、特別参加の冒険者オリオンと言います」

「けっ……他所者が。これでも食らいな!」


 年嵩の老戦士が突進と共に身を屈めた。先日のニーニャとの模擬戦で最初に食らった後ろ蹴りだと察知したオリオンは瞬時に飛び上がり老戦士の蹴りを躱すと眼下の老戦士の顔面に拳を叩き込み気絶させた。

 戦闘を終えても息吐く暇もなく別の戦士が挑みかかって来た。


「やるじゃねぇか! サイガ流本家ジャコウ様が相手してやるよ」


 石畳の地面を滑るように移動し間合いを詰めてくる蛇顔の戦士がオリオンの顔面目掛けて手刀を繰り出す。


「おっと」

「ぬっ! 小癪な」


 顔を狙った手刀を慌てる事なく躱して腕を掴むと蛇顔の戦士が反対の手で追撃をかける。

 その追撃も躱して相手の両腕を掴み腹を蹴り上げて背後へと放り投げた。


 試合開始から十数分で闘技場にいる戦士は残り僅かとなった。


「小僧、次はワシが相手じゃ! 『震攻脚』!」

「うわっ!」


 小柄な戦士がオリオンの前に出ると地揺らしの技を繰り出し、オリオンはバランスを崩した。


「もらったわい、『岩砕…』」

「まとめて消えろ! 『波動掌』!」


 オリオンの隙を突こうとした戦士の背後から狼頭の戦士ガビが乱入し戦士の背中に技を当ててオリオン共々、場外へと吹き飛ばした。


『決着ぅ! 一回戦の勝者はサイガ流の戦士ガビィ! だが油断するなよ、まだ祭りは始まったばかりだ! さっさと舞台に上がれ、雑魚ども!』


 舞台の外で試合の再開を待っていた戦士達が再び舞台へと上がる。気絶した者以外、やる気に満ちた者達が上がるとダンテが二回戦の開始を宣言した。


『二回戦、開始ぃ!』


 一回戦目で早々に場外に落ちた者が怒りを込めて近くの者に襲いかかる。


「食らえぇ! 『烈火掌』!」

「うるせぇ! 『水震波』!」

「この野……うぎゃあ!」

「オラオラオラオラァ!」


 まだまだ力が有り余っている者が多く、一回戦同様に周囲を巻き込んで派手に技の応酬が繰り広げられた。


 その中でも一際派手に立ち回っているのがガビだ。一回戦目の勝者になった事で勢い付いているようだ。


「オラァ! 消えろ雑魚ども、『剛・流連打』!」


 体格を活かして繰り出されるガビの強力な連打が戦士達と舞台を砕いていく。


 止まる事の無い猛攻を前に次々と戦士達が場外へと追いやられ、その攻撃がオリオンへと向けられる。


「サイガ流でもねぇカスが……目障りだぜ」

「そう思うなら追い出してみな」


 カビの鋭い爪がオリオンを引き裂こうと襲い掛かる。


「気に入らねぇんだよ……腰抜けの当主も話の分からねぇ分家も小煩いジジィどもも。俺が全て潰してやらぁ!」

「個人的な感情で突っ走っても誰も着いてこないんじゃないか?」

「うるせぇ!」


 石造りの舞台にカビの爪跡が刻まれていく。まともに食らえば致命傷になりかねない攻撃だがオリオンは次々と躱していく。

 獣人特有の高い身体能力で繰り出されるガビの高速連撃をオリオンはしっかりと捉え、新しく手に入れた高速機動スキルを駆使して対応していく。


「ちぃ……ちょこまかと、うざってぇな!」


 攻撃が決まらない事に苛立ったカビの動きが荒くなり、次第に大振りになっていく。


 ガビの単調な攻撃を読んだオリオンは、振り下ろされた大振りの一撃を躱して懐に飛び込むと強烈な肘打ちを鳩尾に食らわせた。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 観覧席で試合を観ていたケンゴウが顔をしかめた。


「カビの奴め、相変わらず堪え性が無いのぉ。苛立つとすぐに動きが雑になる、悪い癖が出おったわ」

「奴はすぐに心を乱すからな。体格に恵まれ技を覚えるのも早かったが、徒に相手を痛めつけようとする傾向が強い。精神鍛練を積んで己を抑えられるようになっていれば、もしかしたら俺では無く奴が当主となっていたかもな」

「そうじゃのぉ。お主とガビ、幼い頃は双方ともどうしようもない悪童じゃったがお主はガビのようにはならなかったな……やはりニーニャの影響かの。ほっほっほ」


 ケンゴウがからかうような目で視線を向けるとジンハは嫌そうな顔で悪態を吐いた。


「黙れ、ジジィ。俺にとってニーニャは目障りな存在なのは変わりない。成長する切っ掛けになったのは確かだが、それ以上に不愉快な存在でもあった……ガビの周りには付き従う者はいても奴を超えようとする者はいなかったな。奴自身、そういう者は遠ざけていたように思う。それが俺と奴の違いか」

「そうじゃのう。本家の中での地位を高める為に手下を集め徒党を組むようになった結果、力に偏執するようになり、技の研鑽も怠るようになって……すっかり成長が止まってしもうた」


 舞台上ではよろめいたガビの背後から手下の戦士がフォローに入り、オリオンと交戦している。さらにそこへ分家の戦士が乱入し、戦況は混沌とし始めた。


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