43 武闘会
「今のサイガ流をこのまま放置していてはいずれ内部分裂を起こし争いとなる。そうなれば領主様の信頼を失い最悪、軍を差し向けられるやもしれんのぉ」
「サイガ流の滅亡ですか。それはブルーノ子爵としても痛手でしょうね。何とか回避する道を探さないと」
キルオテ村の内乱が激化すれば領軍が出動する事になり、その混乱はいずれ隣接するブラウン領にも波及する可能性もある。
そうなればブルーノ子爵家は厳しく責任を追及され王国内での影響力も低下する事になるだろう。
「この騒動、もしかしたら他所の貴族家によるブルーノ子爵家の力を削ぐ事を目的にした秘密工作なのかもしれないわね」
「その可能性は十分にあるじゃろうな。元々、知略を巡らすより腕っ節に訴えるような連中の集まりじゃて。上手く口車に乗せられたんじゃろ。いずれにせよ穏便に事を納めるのはもう不可能かもしれんのぉ」
「いざとなれば俺の手で片を付けなければならんだろう」
「ジンハ! 滅多な事を言わないで下さい。当主自らが門人を殺めればサイガ流は終わりですよ!」
「領主の軍に潰されるよりはマシだ。今ならば最低限の名誉は守られる。欲に駆られて領主に牙を剥く位なら、最後の当主としてサイガ流の幕引きをする。そうでなければあの世で初代と親父に顔向け出来ん」
余程に追い詰められているのかジンハは本気でサイガ流を終わらせる覚悟があるようだ。そんなジンハにニーニャは反論するが、ケンゴウは瞑目しジンハの考えを否定しなかった。
「あのよ~」
と、そこへ呑気な声でダンテが口を挟んだ。
「いっぺん話しを整理すっとよ。サイガ流の単純バカ共が厚待遇を求めて他所の貴族に鞍替えしようとしてて、アンタらは止めたい訳なんだよな」
「その通りだ」
「じゃあ当主のアンタが『大人しくしやがれっ!』つって連中をボコして黙らせるんじゃ駄目なのか?」
「残念だがそれで押さえつけた所で連中が心変わりする事は無いだろう。むしろ余計に反発する事になりかねん」
「ふむふむ、連中からしてみれば目の前のご馳走に飛びつこうとしないアンタに不満なんだな。連中にはそのご馳走に罠があったとしても自分達ならどうとでも出来るって自信がある訳だ。その自信を支えているのが『自分達の実力』ひいては『サイガ流武術』の力か……だったらよぉ、サイガ流の本家連中の根底にある『俺達は誰よりも強い』って気持ちを根元からポッキリ折ってやれば少しは静かになるじゃねぇか?」
「簡単に言うけど、貴方解っているの? サイガ流の強さを。前にニーニャと模擬戦をしたオリオンがほとんど手も足も出なかったのよ。そんな使い手がゴロゴロしているサイガ流の本家連中の心を、ジンハ殿以外の誰がポッキリ折れるって言うのよ」
ザザティークでの模擬戦についてはダンテにも話してあり、ニーニャの強さを多少は理解している筈である。そしてニーニャも相当な使い手ではあるが、それ以上の戦士も本家には存在する。
「まぁその辺は俺に考えがある。相当に分の悪い賭けだけどよ、やっぱ賭けってのは大穴を狙った方が面白いよなぁ。どうする当主の兄ちゃん、この分の悪い賭けに乗ってみるか?」
ニヤリと笑うダンテの誘い文句にジンハが答える前に横からニーニャが口を挟んだ。
「村と流派の存続が掛かった重要な話しをしているんです! 賭けになど乗れるわけ……」
「どういう賭けだ?」
「ジンハ!?」
ダンテの話しに乗ろうとするジンハをニーニャが諌めようとする。
「現状打つ手が無い以上、奴の言う賭けとやらを聞いてみる価値はあるだろう。それとも推進派の連中を粛清する以外の策があるのか?」
「それは……」
ニーニャが口ごもるとジンハはダンテに視線を送り、話しを促した。
「賭けってのは単純だ。推進派も反対派も闘技場の上に上げて殴り合わせるのさ。そんで最後に残った勝者に当主であるアンタが褒美を与えるってぇ寸法さ」
「? それのどこが問題解決になる訳? 本家の誰かが勝者になるだけじゃないの」
「まぁ話しを最後まで聞きなって。ただ殴り合わせるんじゃない、一晩中続けるのさ。あるいは心が折れるまでな」
少し興味が出てきたのか、全員がダンテの話しに耳を傾けた。
「まず闘技場の上で一斉に戦わせて場外に落ちた者は一時的に敗者となり、闘技場に最後まで残った者がひとまずの勝者となる。そしたら戦意のある者を再び闘技場に上げて、また戦わせる。そうやって何度も何度も戦っているうちに戦意を喪失した者が脱落していくだろう。一晩中続けて夜明けの最終戦で勝者になった者にアンタは褒美を与えるのさ。当主の座でも特別な武具とやらでも、何でもな」
「なるほど、その最終戦で反対派の者が勝者になれば……」
「違う」
ニーニャは納得しかけるが、ダンテがその言葉を否定した。
「推進派でも反対派でも無い外部の人間が最後の勝者となる。そうすりゃ本家連中の強さに対する過剰な熱量に冷や水をぶっかける事が出来んだろ」
「ふむ……外の人間の強さを知り、自分達の実力を今一度冷静に見詰め直せる良い機会になるか。それで、その戦士の当ては?」
ジンハの問いにダンテが視線を向ける。吊られて皆が同じ方を向く。
「え? 俺?」
皆の視線がオリオンに集中する。ダンテは面白がるような目で、シャーリィとパティは心配そうな目で、ニーニャとケンゴウは疑うような目で、そしてジンハは。
「で、どうなんだ? 仲間はアンタを推しているようだが相当に危険な役目だ。覚悟はあるのか?」
「……やります」
「本当にいいのか? 巻き込まれただけのアンタに命を懸ける理由は無いだろう。聞いた話しではニーニャと試合をしたそうだな、コイツもそれなりの使い手だが本家には愚兄のガビを始め手練れ揃いで血の気も多い。一歩間違えれば大怪我では済まなくなるぞ……無理をする必要は無い」
「お心遣い、ありがとうございます。しかし俺も冒険者の端くれ。命懸けの戦いも経験していますし、サイガ流の戦士と存分に戦える貴重な機会に恵まれたと思っています。正直、最後まで戦えるかは解りませんが全力を尽くします」
ジンハは試合の辞退を勧めたが、急な話しにも関わらず動じていない様子のオリオンを見て納得したのか口元に少しだけ笑みを浮かべ頷いた。
「よし、では任せるとしよう。骨は拾ってやる。存分に戦うがいい」
ジンハは了承したが戦闘経験のあるニーニャはやや不安顔である。ダンテの作戦、あまり成功率は高くないと見ているのかもしれない。
「ついでによ、もう一つ罠を仕掛けようと思うのよ」
「罠?」
「おう。上手い具合にオリオンが優勝出来たらよぉ……」
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キルオテ村の主だった者達が村の広場に集められた。急な招集に皆が不審に思っていると当主のジンハが現れた。
「急な呼び立てに応じてもらい感謝する。昨今、我がサイガ流内部での意見の違いによる対立が激化しつつある事は当主である俺の責任だ。そこで今一度、サイガ流の思いを一つにする為に武闘会を開く事にした!」
武闘会と聞いて皆がどよめき、騒然とする。
「ただの武闘会ではつまらん。闘技場の上で参加者全員が一斉に戦うバトルロイヤル方式を一晩中繰り返す。そして夜明けの最終戦で勝ち残った勝者には望むものを与える。賞金だろうと何だろうと……ここに用意した初代サイガの五つの秘武具だろうと与えよう!」
ジンハが台座の上に掛けられた布を取り払い、並べられた五つの秘武具を披露した。
「おぉ! あれはニーニャが持ってた三錬鋼じゃねぇか。それに当主様の獣爪牙もある」
「雷信剣に皇波盾、それに無幻弓……初めて見た」
「望むものは何でもって……本当かよ」
皆が動揺する中、一人の獣人の大男が前に出た。ガビだ。
「その望むものってのは……当主の座でもいいのか?」
「構わん。最終戦の勝者がそれを望むなら当主の座を明け渡そう」
群衆の中にいる一部の者達の目付きが変わる。サイガ流当主の座、本家の誰もが一度は望みながら諦めていたものが目の前にある。
サイガ流の獰猛な戦士達は気持ちを昂らせて歓声を上げた。




