38 事件後
「ふぅ、街の被害は大きいけど致命的な損害じゃないだけマシね」
街中の被害の調査を終えたシムニアが避難所に戻ってきた。
「ご苦労様、シム。仕事は終わったの?」
「細々した仕事は部下に任せてきたわ。私はちょっと調べ物をね……パティちゃん達、ちょっとシャーリィを借りるわね」
「シム?」
困惑するシャーリィの腕を掴み、オリオン達から少し離れた場所に強引に連れ出すとシムニアはにっこりと笑みを浮かべた。
「シャーリィ。貴方、私に何か言う事があるんじゃな~い?」
「え? 何かって……え~と何かしら、心当たりがないわね」
「あら、惚ける気? 残念だわ。親友である私に隠し事なんて……通用すると思っているの?」
シムニアの表情が一変し、鋭い眼光でシャーリィに睨みを利かす。
「え、え~と私も責任ある立場だから人に言えない事の一つや二つあるから……」
「そうじゃなくて、今回の精霊騒動についてよ。突発的な事件だったにも関わらず特別製の魔封の指輪を用意していたり、製作者がどうの実験がどうのとか言ってたり。貴方達、ずいぶんと怪しいんだけど?」
「うぇ!? き、聞こえてたの?」
「職業柄、気になる事には注意深くなるのよ。それで? まだ白を切るつもりかしら。何だったらブラウン伯爵家の別荘を家宅捜索してもいいのよ。きっと揺るがぬ証拠がゴロゴロ出てくるでしょうねぇ」
「あ、あぅ……」
「決定的な証拠が出てきてからじゃ、いくら親友といえど罪に問わない訳にはいかないわ。でも、今なら多少の融通もきくわよ」
シムニアは優しい声色で話しつつ、短杖でシャーリィの頬を撫でた。
シムニアの尋問に圧され、追い詰められたシャーリィは深くため息をついて観念し、事の詳細を語った。
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「は~ん、人造精霊ねぇ。そんな理論があったなんて初耳だわ。それにしても戦時中に行方知れずになっていた水神宝珠が発見され、そのリメイクをする筈がこんな騒動になるなんてねぇ」
「戦後にリーマイナ王国と宝珠をめぐって揉めたのは貴方も知ってるでしょ? だからダンテには秘密裏に水神宝珠を別のアイテムに作り直して貰う依頼をしていたの。決してこんな騒動を起こすような意図は無かったのよ!」
「まぁ、そうね。ブラウン伯爵家の目的は理解出来るわ。私でも水神宝珠をそのままにするのは危険だと思うし、倉庫に隠し続けるのも勿体無いものね。でも、多少なりとも性格を把握していながらダンテさんを止められなかった責任はあると思うの」
「うっ……それは、確かに」
図星を指されシャーリィの語尾も弱くなる。
「そ、こ、で、よ。シャーリィには二つほどお願いを聞いて欲しいんだけど」
「お願い?」
「そう。一つはダンテさんの事。このまま街に住まわせておくのは容認出来ないから貴方の方で引き取って貰いたいの」
「はぁ、そうね。それは仕方ないか」
今回の一件、シムニアの助力によってシャーリィ達が表立って罰せられる事は無さそうだが騒動の元凶であるダンテをこのまま放置も出来ないので街から出るしかない。
「それで二つ目なんだけど。シャーリィ、貴方パティちゃん達のパーティーに入りなさい」
「え? パーティーに?」
「ええ。実はあの精霊が生み出した水の効果を何とか再現出来ないかと思っているの。新しい魔法を開発するか、錬金術で作り出すかはまだ分からないけど研究をしたいのよ」
「つまり、その研究の為にパティに協力して欲しいって事よね? それなら別に本人に頼めば……」
「もう、鈍いわね。あの水の効果はとても高いわ。強制的に人を眠りに就かせ、水中でも問題無く呼吸が出来て生命を維持出来る水なんて、他には無いのよ? 今回の事件はいずれあちこちに知れ渡る事になる。そうなれば当然、水の効果についても人の耳に入るわ。そうなれば多くの人が研究材料として、あるいは水そのものを求めて動くわよ」
「その人の波がパティに押し寄せてくるって事?」
「そう。錬金術ギルドや医療ギルドならまだしも、海千山千の商業ギルドや流通ギルドを相手にするなんて、普通の冒険者のパティちゃんには荷が重いでしょ? だから貴方が正式にパーティーに加入して防波堤になりなさいな」
「う~ん、でも私も色々と忙しいし……」
シムニアの提案にシャーリィが難色を示すと、シムニアはスッと目を細め。
「あら、断る気? 残念ね、誇り高いブラウン伯爵家の令嬢が他領で騒ぎを起こして捕まるなんて、とんでもない汚点となるわねぇ」
元より断れる状況では無い事を思い出し、シャーリィはがっくりと肩を落とした。
「ぐぅ……分かったわよ」
「おほほ、理解してくれて嬉しいわ」
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オリオン達の下へ戻ってきたシムニアとシャーリィは早速パーティー加入の件をオリオン達に説明した。
「と言うわけで、シャーリィを冒険者パーティー『アダマス』の新メンバーとして迎え入れて欲しいの」
「はぁ、新メンバーですか……シャーリィさんは別の街で冒険者登録してますけど、その辺は大丈夫なんですか?」
「登録についてはどこの支部でも変更可能だから、後は本人同士の合意があれば問題無いわ」
「そういう事なら、俺は歓迎しますよ。パティはどうだ?」
「勿論、ウチも賛成するのじゃ! よろしくの、シャーリィ」
「ええ、こちらこそ。パティには精霊関係で色々と協力して貰うけど、面倒事は私が引き受けるから安心して」
「よく分からんが分かったのじゃ」
『アダマス』への加入はスムーズに決まったが、そこへダンテが一言。
「よぉよぉ、シャーリィ姐さんがパーティーに入ったって事は二人に付いていくって事だよな。だったら俺は街に残ってもいいのかい?」
お目付け役が居なくなるのを期待して、少し嬉しそうな様子のダンテにシャーリィが一喝した。
「貴方も来るのよ! これだけの騒ぎになったんだから残れる訳ないでしょ!」
「ちっ」
「じゃあダンテも入れて四人パーティーって事ですか」
「ちょい待ち。ザザティークを出なきゃいけねぇのは分かったが、俺ぁ冒険者にゃなれないぜ」
「なんでじゃ?」
「俺自身が目立つのは避けたいってのもあるが……多分、冒険者登録のルールに引っ掛かると思う」
「登録のルール? そんなもんあったかの?」
オリオンもパティも冒険者登録の際に特に苦労した覚えが無く、冒険者登録にルールがある事など初めて知った。
「まぁ、ほとんどの奴らには関係無いから知らないのも無理ねぇよ」
「登録のルール……あっ! ダンテ、貴方もしかして罪状持ちなの!?」
少し考え込んでいたシャーリィがその内容を言い当てた。冒険者に限らずあらゆるギルドの加入に際し、領主の定めた法律に違反した重罪人はその罪を償うまで加入は認められないというルールがあるのだ。
「正解。ちょいと前にやらかしてね。街の出入りはともかく、どっかのギルドには入るとかは無理だと思う。ま、入る気もねぇけど」
「え~と、この場合ダンテはパーティーに加入出来ないって事ですか?」
「いえ、パーティーに入れる入れないは自由だから加入はさせましょう。ただ正式な加入ではないからギルドからの報酬は出ないけどね。報酬については別途パーティー資金から出せばいいわ、ダンテもそれでいいわね?」
「あいよ。俺ぁ報酬さえあれば形はどうでもいいよ。立場的には『アダマス』の専属技師って感じかな」
特に拘る理由も無いのでダンテの加入もあっさり決まった。本人曰く、あまり戦闘は得意ではないので裏方に回るようだ。
「サポートメンバーみたいなもんですか」
「そうそう。他の冒険者も専属の商人とか料理人とか錬金術士とかを雇ってたりするから別段おかしくもないわ。それよりダンテ、貴方何をやらかしたの? 街の出入りが出来るって事はそこまでの重罪じゃ無いんでしょうけど」
「いやなに、ムカつく木っ端貴族にちょいと赤っ恥かかせてやったのよ。当時住んでた街からの追放処分にされちまったけど、色々面倒を抱えてたから丁度良いやと思って飛び出したんだよなぁ……懐かしいぜ」
「はぁ、貴方って人は……どこでも問題を起こしているのね」




