34 水の奏者
「あらまぁ、ずいぶんと街を満喫したみたいね」
用事を済ませ、先に帰宅していたシャーリィがシムニアを連れたオリオン達を玄関で出迎えた。
よほどパティの事が気に入ったのか、シムニアは屋敷に着くまでの道中でパティを連れて色々な店を回っては買い物をしていった。次から次へと積み重なる荷物は荷物係となったオリオンの魔法袋に納めていったが遂には袋の容量を超え、屋敷に帰り着く頃には土産物や食べ物で両手が塞がってしまった。
「はぁい、シャーリィ。久しぶりね、二年ぶりくらいかしら」
「えぇ、元気そうねシム。それにしても街の代表者がわざわざ出向いてくれるなんて悪いわね。忙しいんじゃないの?」
「うちの部下は優秀だから、少しくらい空けても平気よ。それにパティちゃんとも仲良くなれたんだから有意義だったわ、ねぇ~パティちゃん」
シャーリィと話す時の凛々しさとは打って変わって、パティには締まりのない笑顔で話し掛けている。
「何か知らんが、シムニアが色々ご馳走してくれたんじゃ」
「シムニアなんて余所余所しいわ。お姉ちゃんって呼んでもいいのよ」
「ずっとこの調子なんじゃが」
「あ~、シムは昔から小さい物とか可愛い物が好きなのよね。あと本人は子供好きなんだけど、本人が思うほど子供達からは好かれないのよ」
「そうなのか? 優しそうなのにのぅ」
「うぅ! パティちゃんってば……お姉ちゃん嬉しくて泣きそう」
嬉しさのあまりやたらとテンションが高い旧友の姿に呆れつつシャーリィが屋敷の中へと促す。
「兎に角、中へどうぞ。マーガレットがお茶を淹れるわ」
「あら、嬉しい。マーガレットさんのお茶も久しぶりね。そうそう、途中で美味しいお茶請け用のお菓子を買って来たの。皆で食べましょ」
シムニアとパティが屋敷の中へと進み、荷物を抱えたオリオンが最後に入っていった。
「え~と、シムニア様が言ってたお菓子の箱はどれだったかな」
「お疲れ様、オリオン。シムったら、オリオンを小間使いみたいに扱って……あのテンションで買い物したから大変だったでしょ」
「ははは、シムニア様には街で助けてもらいましたからこの位は。ところでシャーリィさん、ダンテは帰ってますか」
「えぇ、ついさっき帰ってきたわよ。帰るなり嬉々として工房の改造を始めたけど……やたら機嫌が良かったようだけど何か良い事でもあったの?」
「あ~……まぁ、それなりに」
「ふ~ん。まぁいいわ、それよりお茶にしましょ」
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「パティちゃん。お姉ちゃんの膝の上、空いてるわよ」
ソファーに腰掛け、自分の両足を叩いてパティを招き寄せようとするシムニアだったが。
「嫌じゃ」
「シム、いい加減に落ち着きなさい。五、六才の幼児じゃあるまいしパティがそこまで甘えるわけないでしょ」
「むぅ」
即座に拒否され、シムニアは不満そうに頬を膨らませた。
テーブルには少し甘味のある紅茶と果実を混ぜ込んだ焼き菓子が並ぶ。オリオンとパティは珍しい焼き菓子に思わず夢中になって食べた。そんな二人を微笑ましそうにシャーリィ達が見守る。
歓談しながら静かな時間を過ごしていると窓辺に小型の鳥ゴーレムが止まり、窓ガラスをつついた。
「鳥じゃの」
「鳥型の警備ゴーレムだな。何か用なのかな?」
オリオンが窓を開けると隙間から部屋の中へと入り込み、ぐるりと部屋の中を一周するとシムニアな肩に止まった。
「うっ」
「あらら、部下さんに見付かっちゃったわねシム。休憩は終わりって事かしら」
「はあ、そうね。仕方ない……シャーリィ、お茶ご馳走さま」
気怠そうにため息をつき、シムニアは立ち上がった。
「パティちゃん達はもうしばらく街に居るんでしょ? また今度食事に行きましょうね。旅立つ時は見送りもするから声を掛けてね。それから……」
「はいはい、分かったから早く仕事に戻りなさい」
シャーリィは未練たらしく動こうとしないシムニアの背中を押して強引に部屋の外へと追い出した。
「面白い姉ちゃんじゃったの」
「普段はもうちょっと凛々しいんだけどね。『水の奏者』なんて呼ばれる程の魔法使いで街の皆から慕われているわ」
「そう言えばそんな名で呼ばれてましたね。慕われているなら子供人気も有りそうな気がするんですけど」
「ん~……彼女、街の治安維持の仕事もしてるから身長の高さと仕事服の雰囲気も相まって割りと怖がられる事も多いのよね。何て言うか猛獣を遠巻きに眺められるような感じ? だから小さい子供なんかは近寄りがたいみたい。本人も外で仕事してる時は意識して気を引き締めてる感じなんだけど、自室で寛ぐ時は可愛い物に囲まれたいんだって」
「はぁ、なるほど。普段からそんな感じだから物怖じしないパティが気に入ったと」
「そうね。良かったら仲良くしてあげてパティ」
「ふむ……今度は会ったらシム姉と呼んだらいいかの」
「ふふ、きっと喜ぶわ」
そんな会話をしていると、突然部屋の扉が開いてダンテが飛び込んで来た。
「イエェーーーイィ! 良い匂いさせてんなぁ!」
「ぅわっ! びっくりしたぁ……ノックくらいしなさいよ、ダンテ!」
シャーリィの小言など無視してダンテは皿に残っていた焼き菓子を頬張り、ソファーに飛び乗った。
「凄腕の天才技師って誰の事だぁ? そう、おれオレ俺OREええぇ~~!」
「うっざ……」
「喜べシャーリィ姐さん、製作は順調だぜ。俺の技術の粋を結集させた至高の一品があと数日で完成する」
「分かったからソファーから降りなさい!」
一頻り燥いで満足したのか素直にソファーに座り直したダンテが鼻を動かして匂いを嗅いだ。
「ん~? 何か香水のような匂いが……シャーリィ姐さんからは感じない洒落た女の匂いがするぜ」
「あんた、いい加減にしないと本気でシバくわよ。ついさっきまで私の友人の子爵令嬢がいたのよ」
「この街の子爵令嬢かい? てぇ事は有名な『水の奏者』様か」
「ダンテもシムニア様の二つ名を知ってたんだな。もしかして結構な有名人なのか?」
「そりゃもちろん。海上戦においては一軍に匹敵する程の猛者って話だ。冒険者じゃねぇが冒険者ギルドのランクで測るなら、その実力はゴールド級は確実だと言われてるな」
「ゴールド級とな! シャーリィより強いとは凄いのじゃな」
何気ないパティの一言にシャーリィの眉がピクリと反応した。
「あのねぇ、言っときますけど一般的に魔法使いは集団・遠距離戦を得意としていて剣士は個人戦を得意としているの。どちらがより戦果を挙げやすいかなんて明白でしょ。それにシムとの対戦成績じゃ、私の方が勝率は高いのよ」
「魔法使いと剣士の対戦だろ? そりゃ近距離なら剣士の方が有利なのは当然だわな」
「……なぁに? 私が弱いと言いたいわけ? だったらその実力の程を身体で実感させてあげましょうか!」
「おっとっと、休憩終了。ほんじゃ作業に戻るとするぜ」
言うだけ言って残りの焼き菓子を持ち逃げしたダンテは工房に戻って行った。
「まったく! 依頼が終わったら本格的に折檻してやろうかしら!」
「まぁまぁ落ち着いて。新しくお茶淹れますね」
「そうじゃ、街で買った苺のパイがあった筈。一緒に食べよう、シャーリィ」
「むぅ……頂くわ」




