32 カジノ
特にトラブルが起こる事もなく無事に夜が明け、オリオン達は目的地に向けて馬車を走らせた。
その道中、馬車の中で話題になったのはオリオンの新たな装備『蜂牙』についてだった。
「ところでダンテ。昨日は疲れてたから聞かなかったけど、蜂牙ってサジッタ村で捕まえた魔閃甲蜂を素材にしてるんだよな」
「ああ、そうだよ」
「サジッタ村に泊まったのが一昨日だろ? それにしては蜂牙が出来上がるのがずいぶんと早くないか」
「実は蜂牙の元となった防具と仕組みは前からコツコツと作ってたんだよ。サジッタ村に着く前には六、七割くらい出来上がっててな。サジッタ村で魔閃甲蜂を見付けてから気分が乗っちまってよぉ。そっから一気に改造して最終調整してぼちぼちテストでもしようかって時に昨日の騒ぎがあってよぉ。いや~備えあれば何とやらだったな」
「オリオンの助けになったから良いけど、私の依頼を放ったらかしにしている事も忘れないでよね」
「わぁーてるって。蜂牙とは違ってシャーリィ姐さんの依頼は腰を据えて取り掛からなきゃいけねぇからよ、設備が整うまでは手が付けらんねぇのよ。因みにまだ設計段階だからデザインに希望があれば聞くぜ」
「そうねぇ……なるべく元の形を残さない方向で進めてちょうだい。あとアイテムの効果は変えずに戦闘用ではなく日常生活で使えるようにしてね」
「ふむふむ。日常生活、ね。だとすると攻撃力よりも効果範囲、耐久性を重視した方がいいか。デザインに注文がねぇんなら、俺好みにしても構わねぇかな」
「よっぽど変じゃ無ければね。一応、ブラウン伯爵家の家宝になるかもしれないんだから貴族家としての品位を損なわないようにしてね」
「品位を、ね。ふふ、了解」
含みのあるダンテの笑いにシャーリィは一抹の不安を感じた。
「おぉ! 見ろ、海と街が見えるぞ!」
ひと足先に目的地を見付けたパティが声を弾ませた。
「あそこが目的の街ザザティークよ。王国屈指の観光地で多くの貴族が別荘を構えているの」
「ここってブラウン伯爵様の領地じゃないんですよね?」
「ええ、そうよ。ブルーノ子爵が治めているわ。ブラウン伯爵領とブルーノ子爵領は領地が接している関係で昔から付き合いがあってね、子爵令嬢のシムニアとは学生時代の同級生でもあるの」
「へぇ、じゃあそのシムニア様とは幼馴染みって訳ですか」
「そうね、ちょっとしたライバルって感じかしら」
馬車がザザティークの正門前に近付くと街へ入ろうとする長蛇の列が続いていた。
列はゆっくりとだが止まる事なく進んでいてさほど時間を掛けずに街の中へと入れそうだ。
「そこそこスムーズに進んでんのな。普通、こういう大きな街に入るにゃあ厳しい検閲がありそうなのに」
「そう言えば……ん? 何だアレ」
オリオンが空を見上げた時、上空を飛んでいる物体に気付いた。鳥のような姿をしているが生物ではなく、よく見ると機械仕掛けのゴーレムのようだ。
「あれはザザティークの治安を担っている警備ゴーレムの一体だよ。この街には鳥型、猫型、犬型、人型さまざまな種類のゴーレムがあちこちにいて目を光らせているんだよ」
「はえ~。んじゃ、もしかしてあの鳥は透視か何かで上から俺達を調べてんのか?」
「そうよ。それで問題無いと判断されればすぐに街に入れるわ。兵士が数人がかりでチェックするより効率が良いからこの列の減りも早いのよ」
そんな会話をしている間にも馬車は進み、検査の順番が回ってきた。人型のゴーレムを連れた検査場の兵士が馬車に近付き、シャーリィに一礼した。
「ようこそ、シャーリィ・ベル殿。お連れの方は三名ですな」
「ええ、私の冒険者仲間よ。通ってもいいかしら」
「はい、どうぞ」
事前のチェックで問題無しと判断され、馬車はあっさりと検査場を通過した。
「あの兵士とシャーリィさんは顔見知りだったんですか?」
「違うわよ。彼が私の名前を知っていたのは、以前この街に来た時に登録した私の情報をあの人型ゴーレムが共有していたからよ。毎日数百人を検査するのに、過去に訪れた者の顔まで全て憶えてるわけないもの」
「は~、なるほど……何だかこの街の魔法技術って他より高くないですか?」
「そうね、この街は貴族が多く訪れるから特に治安維持には気を使っているのもあるけど統治しているブルーノ子爵家が名高い魔法使いを多く輩出している家なのよ。だから自然と領内の魔法技術も高くなっているわけ」
正門前で見た警備ゴーレム以外にも絵柄が動く広告看板や、水が舞い踊る噴水、空を飛ぶ馬車など初めて見る光景にオリオンとパティは圧倒され、言葉も出なかった。
「何とも羨ましい限りだよな。知ってたか? これだけの魔道具があるのにどれも魔力切れの心配が無いんだぜ」
「そうなのか? じゃあ魔力源はどうしてるんだろう。やっぱり魔石とか?」
「魔石だとしても魔力切れにはなるじゃろ。それに街中の魔道具の魔力を全部を魔石で賄おうと思えば途方もない数になる。流石に無理じゃろ」
オリオンとパティであれこれ考えてみるが正解には至らず、代わりにシャーリィが答えを教えてくれた。
「一部は魔石を使った物もあるけど大多数の魔道具は土地の魔力を利用してるのよ。この街は世界でも数少ない高魔力が自然と沸き上がるパワースポットなの」
「そんな土地があるんですか? ……そういう好条件の土地だから魔法技術が発展したって訳ですか」
「そうね。それも要因の一つだと思うわ」
馬車が街中を進んでいると派手な装飾が輝く煌びやかな建物の前を通り過ぎた。
「何か派手な建物ですね。劇場かな」
「ちっちっち、知らねぇのかオリオン。あそこは大人の社交場カジノだよ、カ・ジ・ノ! ザザティークでも指折りの人気スポットなんだぜ。ひひひ、いやぁ楽しみだなぁ」
「はぁ……行くなとは言わないけど、のめり込み過ぎないようにしてね」
「わぁーてるって、後で案内してやるぜオリオン」
「ウチも行ってみたい」
「残念、お子さまはお呼びじゃねぇの。成人未満は入場お断りなんだよ」
「なんじゃつまらん」
そうこうしているうちに馬車は大通りから少し離れた場所へ移動した。広い庭園のある大きな屋敷が建ち並ぶ区域で、貴族の住まいのようだ。
とある屋敷の前に馬車が近寄ると閉じられていた鉄柵の門扉が独りでに開き、道を開けた。
「ここがうちの別荘よ。今、管理人を紹介するわね」
屋敷の前で馬車を停めるとタイミングよく屋敷の中から一人の年配の女性が姿を現した。
「ようこそ、お嬢様! お待ちしておりました。お久しぶりでございますね」
「久しぶり、マーガレット。元気そうね」
「ええ、勿論。それだけが取り柄でございますから……そちらの方々がお客様ですね。旦那様よりお話は伺っております」
「こっちの二人は私が雇った冒険者でオリオンとパティよ。それでそっちの彼がしばらく逗留するダンテ」
「ちぃーっす。お世話になりやーす」
軽すぎるダンテの挨拶にも動じる事なくマーガレットは微笑み返した。
「この屋敷の管理を任されているマーガレットと申します。皆様、長旅でお疲れでございましょう、どうぞ中へ」
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「それじゃ私はちょっと挨拶に行ってくるから皆は自由にしてちょうだい。オリオンとパティも二、三日はこの屋敷に泊まってゆっくりと街を観光していくといいわ」
「はい、ありがとうございます」
「お世話になるのじゃ」
そう言ってシャーリィは出掛けて行き、パティは買い物にダンテとオリオンはカジノへと向かった。
派手な看板と装飾、入り口前には礼服姿の警備兵が立ち客を出迎えている。
「そんじゃ邪魔するぜぇ」
「いらっしゃいませ、二名様ですね。どうぞ心ゆくまでお楽しみ下さい」
厳つい顔でニコリと笑い、警備兵は二人を中へと招き入れた。
二人と入れ代わりに出てくる客の様子は喜色満面で浮かれる者と肩を落とし力無く俯く者に二分される。
「さぁ~て、どれから手を付けっかな。カードにスロット、ルーレットにダイスか……おっ! 景品表か、どれどれ」
「カジノで遊ぶには専用のコインを買わないといけないのか……コイン一枚が銀貨一枚ぃ!? バカ高いじゃないか! ダンテ、こんな所で遊んでたらあっという間に破産するぞ」
オリオンがカジノコインのレートの高さに恐れ慄いている横でダンテが景品表の項目を食い入るように見詰めていた。
「どうした、ダンテ?」
「マジかよ……。おい、オリオンあそこ見てみろ。景品表の上の欄」
「上の欄? え~と交換枚数が三千枚? 金貨何百枚分だよ」
「そこじゃねぇ! 品名の方だ!」
「え~と『霊獣の毛皮』ってあるけど……本物かな?」
「こういう所で偽物を出す訳ねぇだろ。しっかり鑑定済みの品ばかりさ。つまり、本物の霊獣の毛皮が景品として出てるって事だ。オリオン、何とかしてアレをゲットするぞ!」
「カジノコイン三千枚だぞ? 絶対無理だよ」
「あの霊獣の毛皮があればシャーリィ姐さんから受けた依頼で役に立つんだよ。お前やパティだって数日は屋敷で世話になるんだろ? その恩を返すと思ってさ、協力してくれよぉ」
「むむ、確かに……でも俺はゲームで勝てるほど運も良くないし技術も持って無いぞ? どうやって三千枚も稼ぐんだ?」
「ふっふっふ、それについては俺に考えがある」
ダンテは不敵な笑みを浮かべて目まぐるしく回転するスロットマシンを見た。




