29 襲撃の夜
オリオン達を乗せた馬車が前日の降雨による足留めで遅れた分を取り戻そうと街道をひた走る。
そんな馬車の様子を少し離れた高台から監視する集団がいた。目立たぬよう木々の陰に隠れ潜み、馬車の進む先を見逃さぬように怪しい人影が望遠鏡で確認していた。
「よし。予想通り奴らが昨日の雨で足を止めていた分だけ、こっちは先回り出来たな」
「連中が予定外の道を進む可能性は?」
「無ぇな。整備された街道以外はまだ昨日の雨の影響でぬかるんでる。下手に道を外れれば車輪が泥に嵌まるだけだ。魔物の襲撃を警戒している以上、身動きが取れなくなるような愚行は避ける筈だ」
「じゃあ、手筈通りか」
「おう、今夜仕掛けるぞ。オームに知らせておけ」
馬車を監視しているのはアイオイファミリーの構成員で、オリオンへのリベンジを果たす為にオームがファミリーのボスから借りた者達だ。
昨日の豪雨でオリオン達がサジッタ村で雨宿りしている間に先行し、襲撃の準備を整えていた。
オリオン達を監視していた男が拠点で待機しているオームに知らせるように仲間に声を掛けたが声を掛けられた男は顔をしかめ、露骨に拒否するような態度を取った。
「俺が知らせんのか? あの野郎、どこで手に入れたか知らねぇが妙な魔剣を使い始めてから様子がより一層おかしくなってきてんだぞ。声を掛けた途端、こっちに切りかかってくるかもしれねぇんだが……」
「ああ、呪い付きの魔剣らしいな……遠くから刺激しねぇように話せば大丈夫だろ。さっさといけよ」
「はぁ、仕方ねぇ」
渋っていた男も観念して、拠点にしている森の中の野営地へと向かった。
男が野営地に近付くと辺りに嗅ぎ慣れた血の臭いが漂っていた。
「やれやれ、また派手にやったな。野郎の気晴らしで相手をさせられた魔物が哀れに思えてくるぜ」
野営地の傍には細切れにされた魔物の肉片が散乱し、飛び散った鮮血が地面を汚していた。その中心で山と積まれた死体に腰掛けたオームが虚ろな目で男を出迎えた。
「よぉ……連中を見つけたかい」
「あ、あぁ。ちゃんと見つけたぞ。今夜、仕掛けるそうだ。アンタもそれでいいな」
「わかった。楽しみに待ってるぜ……ひひひ」
オームは懐から紫色の薬液が入った小さな注射針を取り出し、自らの首に打ち込んだ。
紫色の薬液を注入したオームの身体が小刻みに震え、口と鼻からダラダラと体液を零れた。
オームの異常な様子に思わず男が後退る。ふと、足下を見ると使い終わって空になった注射針が数個、地面に転がっていた。
「おぁ……あっ……がは、はぁ」
「ア、アンタ、それ……何本目だよ。いくらアンタでも狂人薬の過剰摂取で死ぬぞ」
「ぁ~……へ、いきさ。くひひ、最高の気分ダゼ。ひひ」
ゆっくりと立ち上がり魔剣を引き摺りながらふらふらと歩き始めたオームの前に、充満する血の臭いに誘われて興奮した岩頭獣鬼が鼻息を荒くして現れた。
「や、やべぇ! 武器潰しのオークじゃねぇか。おい、オー……」
「くひひっ! ヒャッハアアァァ!」
男がオームに注意を促す前にオームは岩頭獣鬼に飛び掛かり、手にした魔剣を一閃させた。
岩頭獣鬼を攻撃するオームの斬撃は以前ほどの鋭さはなく、男の目でも捉えられる程遅かった。剣の軌道は丸見えで力任せに剣を振るっているようにしか見えなかった。
「薬で腕が鈍っちまってるんじゃ……」
狂人薬の影響で精神が錯乱し、剣の腕が落ちてしまったのではないかと危惧している男の目の前でオームの一撃が岩頭獣鬼の胴を裂いたかと思った瞬間、岩頭獣鬼の身体の刃が当たっていない筈の部分にまで幾つもの斬撃が走り、強固な身体がバラバラに切り刻まれた。
「な、何だ……今の攻撃は。一度に何十回も斬ったってのか?」
「ふひ、オレの剣、気が刃とナり暴風の、ようにぃぃ……襲うの、さ」
至近距離で返り血を浴びて全身を真っ赤に濡らしたオームが満足そうに答えた。
「今度こそぉ……バラして、ヤルぜぇ」
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太陽が傾き、暗くなる前に夜を明かすのに適当な場所を見付けたオリオン達はテントを広げて野宿の準備を始めた。
「それじゃ私は夕食の準備をするからオリオンとパティは薪を集めてきてくれる? ダンテは私を手伝ってちょうだい」
「分かりました。行こうか、パティ」
「うむ、ウチの骸骨兵で手分けすればあっという間じゃ」
オリオンとパティは連れ立って森へと行き、残されたダンテは欠伸をしながら。
「あ、俺ちょっと用事があるから」
「何言ってんの。手伝いなさい」
「いやいや、頼まれてるアイテムの設計で良いアイデアがちょ~~~ど閃いたんよ。姐さんからの大事な依頼だから手は抜きたくないんだよねぇ。つぅ訳で、メシ時まで仕事してっから」
一方的にそう言うとダンテはテントの中に引っ込んでしまった。アイテム作成を依頼している身としては強く出れず、シャーリィは唇を噛み締めてテントを睨みつけた。
「全く、もう! ……軽く一服、盛ってやろうかしら」
しばらくして乾いた薪を抱えた二人が戻り、三人で手早く調理を済ませて夕食を取った。日が沈み、最初の見張り役としてダンテが焚き火の前に残り他の三人はテントの中で先に休む事となった。




