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25 餓者髑髏

 シャーリィがダンテの工房を探しに出掛け、残されたオリオンとパティは廃村に滞在中の拠点となる建物の掃除を開始した。


「それじゃ始めようか。俺はシーツの洗濯をするからパティは中の掃除を頼むよ」

「了解じゃ。ん~、掃除人を三体召喚じゃ」


 パティが杖で地面を突くと魔法陣が展開し、掃除道具を携えたエプロン姿の骸骨兵が三体現れた。


「よし。お掃除、開始なのじゃ」


 召喚された骸骨兵達が窓を開け、埃を払い、家具を水拭きしていく。手際よく掃除を進める姿にオリオンは感嘆のため息をついた。


「はぁ~、相変わらず便利なスキルだな」


 オリオンは放置されていた盥に水を張り、人数分のシーツを洗濯していく。数年分の汚れで瞬く間に水が濁り、何度も水を入れ替えてようやく汚れ落とすと固く絞って脱水する。

 この日は天気も良く、数時間もあれば干したシーツも乾くだろう。


「さて、次は……」

「オリオン、何やら客のようじゃぞ」


 いつの間にか近くに来ていたパティが二人に近付く女の存在を知らせた。


 この廃村は、周辺で活動する冒険者には野宿をするのに都合の良い場所だ。オリオン達以外にも利用する者が居てもおかしくはない。


 偶然居合わせた旅人か冒険者なのかと様子を見ていたが、歩み寄る女が静かに剣鉈を抜き駆け足になるとオリオン達も身構えた。


「それ以上近付いたらこちらに危害を加える意思有りと見なし……って、止まらないか」


 念の為の警告だったが女戦士が応える様子もなく距離を詰めてくる。


「やるぞ、オリオン」

「仕方ない。気を付けろよ、パティ」


 パティが杖を突くと剣と盾を装備した骸骨兵が十体召喚された。

 武装した骸骨を前にしても女戦士は動揺せず、無表情のまま先頭の骸骨兵と切り結んだ。


「何じゃ、覇気の無い奴じゃのう。盗賊という感じでもないし、何なんじゃコイツは?」


 女の細腕で盾を構える骸骨兵をその装備ごといとも容易く両断していく。


「むむ、やるのう」


 十体の骸骨兵だけでは戦力が足りないと判断したパティは、さらに追加で三十体以上の剣士や槍士を召喚した。


 それらの軍勢が一斉に女戦士に挑み掛かった。女戦士が数体の骸骨剣士を斬り伏せる間にも打ち寄せる荒波のように骸骨達の刃が襲い掛かる。時には骸骨兵の背後から骨の隙間を縫って槍の穂先が突き出される。


 それらの攻撃を女戦士は手にした剣鉈で強引に凪払い、骸骨兵達を破壊していく。飛び散る大量の骨の破片に紛れて低い姿勢で間合いを詰めたオリオンが真下から跳び上がるように攻撃を加える。


 骸骨兵の相手をしていて一瞬反応が遅れた女戦士だったがギリギリで黄金斧を剣鉈で受け止めた。押し切ろうとオリオンが力を込めるが剣鉈はびくともせず、逆にオリオンの方が女戦士の膂力に押し負け、剣鉈の刃が迫り来る。


「なんっ……つぅ、怪力だよ。くそっ」


 力勝負を諦め、刃を逸らして剣鉈を回避すると女戦士が体勢を崩し前のめりになり、その隙を突いて後頭部目掛けて黄金斧を振り下ろそうとした。


 だがそれより先に女戦士がオリオンの足を掴むと、()()()()()()持ち上げてオリオンの身体を空へと放り投げてしまった。


「嘘だろおぉぉ!」

「おうおう、大した怪力じゃな。大鬼並みではないか」


 オリオンを数メートル先へ投げ飛ばし、残されたパティへ狙いを定めた女戦士が駆け出した。応戦する骸骨兵など数秒と経たずに砕かれる。


「マズい。パティ、逃げろッ!」

「ふん、まぁ見ておれ……共食らえ、狂骨の兵。集いて一身となれ『餓者髑髏(スカルタイタン)』!」


 地面に散らばる骨の破片と新たに魔法陣から吐き出された骨が絡み合い、巨大な塊となっていく。そして完成したのは上半身だけだが、それでも人の十数倍はあるであろう巨大な骸骨だった。


「お主は大鬼並みだが、こっちは巨人じゃ。キツいのを食らうがよい」


 巨人な骸骨兵と肩に乗るパティ。巨人相手に攻めあぐねて呆然と見上げる女戦士。そうしている間にも餓者髑髏が拳を振り上げた。

 巨大な骨腕が動くことで風が巻き起こり、立ち尽くす女戦士目掛けて巨大な拳が振り下ろされた。

 辺りに衝撃と共に轟音が鳴り響き、吹き荒れる突風が土煙を上げる。


「パティ、やったか」

「おう、バッチリじゃ」


 土煙が晴れ、陥没した地面に女戦士が倒れている。構えを解いた餓者髑髏が意識を失った女戦士を掴み、拘束した。意識が戻ったところで最早、抵抗する力は残っていないだろうが念の為だ。


「さぁて。コイツ、どうするかの? まだ息はあるが殺すか?」

「いや、出来れば情報を取りたいな。この巨大な骸骨はまだ維持出来るのか?」

「もうしばらくは大丈夫じゃ。シャーリィが戻ってきたら尋問でもするか。しかし、口を割るかのぉ?」

「どうだろうな。生粋の暗殺者なら難しいかも知れないが……」


 戦闘終了後、ダンテを連れて血相を変えて戻ってきてシャーリィが餓者髑髏を見てさらに驚いていた。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「だぁーはっはっは! あのナンバーズがこうもあっさり負けるなんてなぁ! いくら初期型とは言え、冒険者を軽く凌駕するくらいの性能はある筈なんだがなぁ。くっくっくっ、全く以て面白い! 面白いじゃねぇか!」


 巨大な骸骨に掴まれた女戦士を見て爆笑するダンテ。そんなダンテをオリオン達は遠巻きに不審者を見るような目で警戒していた。


「あの、シャーリィさん。この人が例の?」

「ええ、そうらしいわ。魔道具師ダンテ。私も知らなかったんだけど、どうやらリーマイナ王国を出奔してうちの国に密入国していたようね。色々と秘密を抱えている所為でリーマイナから付け狙われていたようなの。今回、仕事を依頼する為にウチで所在を調べたんだけど運悪くリーマイナの間者にもバレて、追っ手が掛かったってわけ」

「はぁ、それがあの女戦士って訳ですか」

「それと私を襲った六号と呼ばれる男とウチに潜入していた間者のドナールね。それにしても大した怪我もなく、よく倒せたわね。私の方はダンテの助力が無ければ危なかったのに……ちょっと複雑だわ」

「まぁ運良くって感じですよ。それよりあの女戦士はどうします? 捕虜にして情報を取りますか?」

「そうねぇ……」


 おそらくリーマイナ王国独自の技術で作られたであろう『ナンバーズ』という特殊兵士。捕虜にした所で隣国との関係を考慮すると果たしてブラウン家だけで対処して良いものかとシャーリィが悩んでいるとダンテが話しに割り込んできた。


「情報は取れないと思うぜ」

「それは、どういう意味かしら?」

「コイツら『ナンバーズ』は基本的に自我というものが無いんだ。上から命令された事だけに従うように作られている。だから意識が戻ったところでまともに会話すらしないのさ」

「そこまで徹底されとるのか。何ともヘンテコな奴らじゃのう」

「コイツらは『鍛えられた兵士』ではなく、そういうふうに『設計された兵器』なんだよ。だから自由意思というものが無い、ついでに言えば未来もな」

「未来? それはどういう事?」

「考えてもみなよ。自国の重要機密の塊とも言える兵器を他国で使う場合、一番避けなくてはならないのは奪われてその技術を盗まれる事だろ? だからコイツら『ナンバーズ』には時限式の自壊処理が施されていて、本国に戻って再調整しない限り近い内に身体が崩壊して死んじまうのさ」

「そんな……」


 ダンテの話を聞き、敵ながらあまりの境遇に思わず同情しそうになるオリオンだった。

 戦闘時なら何の躊躇いもなく命を奪えるが、戦闘が終わった後となると途端に甘さが出る。それはオリオンの欠点と言える。


「ドナールの奴は始末したが事前に俺の情報は本国に伝えている筈だ。この場所がリーマイナの奴らにバレた以上、俺はトンズラさせてもらうぜ。せいぜいアンタらもしばらくは気を付けるこった。『ナンバーズ』を倒せるだけの戦力をリーマイナの奴らが放置するとは思えねぇからよ」

「ちょっと待って。逃げるというならその前に仕事を頼みたいんだけど」

「あん? 仕事ぉ? 悪いが今は余裕がねぇ。いつ追加の追っ手が来るか分からねぇからな。それともアンタん家で俺を匿ってくれんのかい?」


 元々、伯爵家当主のバズティオンはダンテを受け入れる意思があったが、ダンテがリーマイナに追われているとなると少し話が変わってくる。

 少なくとも領都へ連れていく前に話し合う必要があるだろう。


「そうねぇ、お父様に連絡しないといけないから少し時間を貰えないかしら? 出来ればしばらく私に同行して欲しいんだけど。どうかしら?」

「俺としてはここから移動して、隠れ家とついでに研究出来るような設備を提供してくれんなら何処でもいいんだけどよぉ」

「そうね、その条件についても確認してみるわ。じゃあまずはハーベルの街まで一緒に来て」

「しゃあねな。しばらく厄介になるぜ」


 シャーリィとダンテの話し合いが済むと、今度はシャーリィがオリオンに頭を下げた。


「そういう訳で……ごめんなさい! 試験を中止させて欲しいの! 今の状況ではここに留まって試験を続行するのはリスクが高いのよ」

「まぁ、そうですよね。またリーマイナの連中に絡まれたら面倒ですし、中止はやむを得ないかと思います」

「ほじゃのぉ……でも、二度も試験が中止になるとは。ウチらもよくよく運が無いのぉ」

「ハーベルの冒険者ギルドには、私の都合で試験中止になったから貴方達にペナルティが付かないように進言しておくわ。本当にごめんなさいね」

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