26 偽金
廃村からハーベルに戻ったシャーリィはギルドの魔法通信を利用して領都にいるバズティオンに状況を報告し、判断を仰いだ。
その後の返信で受け入れ態勢を整える為、数日の間待機するように指示が出た。
「父から受け入れると連絡が来たわ。貴方の隠れ家としてブラウン伯爵家が所有する別荘を提供する予定よ。あそこには以前、御用鍛冶師が使っていた工房が残っていて多少改装が必要だけど貴方が望む設備があるわ」
「おう、分かったぜ。行ってから自分で好きに改造させてもらうさ。それでその別荘とやらにはいつ出発するんだ?」
「そうね、向こうの準備も必要だから五日後に出発しましょうか」
「よし、それまでは暇なんだよな! じゃあ、ちょっくら出掛けて来るぜ」
「ちょっと! いくら暇だからってウロウロされても困るわ。貴方、自分が追われている身だという事を忘れないでよ」
「へいへい、気ぃ付けるよ」
シャーリィの制止する声を気にも留めず、ダンテは足早に立ち去った。
「全くもう! 勝手な人ね」
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ハーベルの街の片隅にある入り組んだ路地の奥。地元民でさえ……いや、地元民ならば足を運ばないであろう貧民街にダンテは訪れた。
こういった場所では独自のルールが存在し、街の役人が管理する健全な店では手に入らないような違法な物も普通に売り買いされている所でもある。
「ふ~ん、毒属性の魔石か……ちと純度が足りねぇな。親父、もっと強いのは無ぇのか?」
「馬鹿言うな、一見には売れねぇよ。これ以上の物が欲しけりゃ、ここの顔役から免状でも貰ってこい」
「ちっ……ケチくせぇな」
悪態を吐いて店を後にしたダンテが貧民街を散策していると柄の悪い数人の男に前後を挟まれた。
「テメェ、魔道具師のダンテだな?」
「何だぁ? 俺に何か用かよ」
ダンテの問い掛けに男達は答える代わりに鉄の棒やナイフを取り出し、ジリジリと包囲を縮めて近付いてくる。
「おいおい、俺が何かしたか?」
「しただろうが。アイオイファミリーの依頼を蹴りやがって……骨の二、三本は覚悟しろよ」
「アイオイ? そんな三流な組織、知らねぇな」
「言いやがったな。怪我で済ませてやろうかと思ったが……構わねぇ、ブッ殺せ!」
組織を侮辱された男が青筋を立てて包囲する仲間に号令をかけてダンテに襲い掛かった。
「血の気の多い奴らだな」
ダンテが懐から小さな装置を取り出し地面に転がすと装置から伸びた触手が周辺の土を取り込んで魔物のような異形の姿を作り出した。
「な、なんだ!」
「魔物か!?」
突如出現した土製のゴーレムに驚いた男達が後退りながら手にした武器を必死に振って威嚇している。
「まだ試作品だが、魔道兵作成装置だぜ」
本来ならば土魔法のゴーレム作成を魔道具で再現したもののようだ。本人の言うようにまだ試作段階のようで、左右の腕の長さが違ったり、頭部にある目が縦向きになっていたり、背中から三本目の足が生えていたりと見た目にかなりの粗さが出ていた。
だがそのチグハグな造形が逆に不気味さを生んでいるようで、鼻息の荒かった男達はすっかり腰が引けていた。
「おい、引くな! 前に出ろ」
「押すなよ。危ねぇな!」
「お前が行けよ!」
異形のゴーレムが身体を大きく振りながら男達に近付いていく。
「くっくっくっ。さぁゴーレムよ、コイツらを……ん?」
ダンテが命令を下す前にゴーレムの頭部に付いている制御装置から煙りが上がり、動きが止まった。
「あ、あれ? ……壊れた?」
慌てるダンテの様子に状況が好転したと気付いた男達が勢い付く。
「ビビらせやがって! テメェら、殺るぞ!」
「ちょいタンマ、タンマ!」
「ふざけんなよ、誰が待つかボケ!」
背を向けて慌てて逃げ出すダンテを男達が追いかける。逃げる途中、ダンテは再び魔道具を使いゴーレムを二体、作り出した。
一本足のゴーレムと腕無しのゴーレムが出来上がったがこちらもすぐに制御装置が故障した。しかし狭い路地で二体のゴーレムが男達の進路を塞ぐ形で停止した事で、ダンテは逃げる時間を稼ぐ事に成功した。
「くそ、邪魔くせぇなコイツ!」
進路を妨害されて苛立った男が彫像と化したゴーレムの足に蹴りを入れると簡単に壊れ、バランスを崩して傾いたゴーレムが男達の方へと倒れた。
「へっへ~、ざまぁねぇな……しかし、小型化した所為で不具合が出たか。あとで改良しねぇとな」
「おっと待ちな。まだ逃がしゃしねぇぞ」
「うげっ……しつけぇな」
襲ってきた男達が瓦礫の下敷きになり、悠々とその場を去ろうとしたダンテの下へ別の刺客が現れた。
「お前に直接な恨みはねぇが、雇われの身なんでな。代金分は働かねぇといけねぇ……悪く思うなよ」
「あ~面倒くせぇな」
元は名のある剣士だったのかもしれない、痩せこけて不健康そうな剣士はゆっくりと剣を抜きダンテに近寄る。
ダンテが先ほどと同じようにゴーレムを作り出す装置を放り投げるが、地面に落ちる前に剣士が踏み込んで横一閃。金属製の装置が真っ二つになった。
「げっ!」
「安心しろ。殺しゃしねぇ……もっとも雇い主はどうするか知らんがな」
「冗談じゃねぇぜ!」
ダンテは叫びながら袖に仕込んでいた玉を剣士に向けて投げた。剣士はダンテの悪足掻きを鼻で笑いながら玉を切った。
切った瞬間、猛烈な勢いで煙幕が広がり辺りを包み込んだ。
「あ~ばよぉ!」
「はぁ、面倒くせぇなぁ」
剣士の視界を煙幕で塞いでいる間にダンテはその場を離脱し、素早く民家の屋根に登って身を隠した。
逃げたダンテを追って剣士が遠くへ離れるまで屋根の上でやり過ごそうと考えたのだ。
「ふぅ、やれやれだ。アイオイファミリーも厄介な用心棒を雇ったもんだ。しばらくは動かねぇ方が良さそうだな……昼寝でもすっか」
安全を確保して気が緩んだダンテは、屋根に寝転んで目を瞑った。
そうして安心したのも束の間、寝転んでいた屋根が切り刻まれてダンテは建物の中に落ちていった。
「ぁ痛たた……な、何が」
「みぃ~つけた」
床に倒れるダンテの首筋に剣士が刃を当てる。
「な、何でバレた……」
「ひひひ、俺は勘が良くてよぉ。冒険者の頃も賞金首になってからも獲物を逃したこたぁねぇのよ」
「元冒険者の賞金首……まさかお前、『偽金のオーム』か?」
「ほう? 俺も有名になったもんだ」
剣士オーム。元ゴールド級の冒険者であったが、とある依頼で依頼人の貴族を殺して賞金首となった。堕ちたゴールド級の冒険者。付いた二つ名が『偽金』。
「とりあえず両腕だけは傷つけるなって言われてるからよぉ……片足くらいは貰っておくか」
「あわわ……!」
オームの腕が一瞬消えたと同時にダンテの左足が浅く切り裂かれた。
「いでえぇえッ!」
「ほれほれ、早く逃げねぇともっと痛い目にあうぜ?」
またオームの腕が消えるとダンテの足元の床が破壊された。オームはニヤニヤと笑いながらダンテをいたぶり続けた。
「ぐぬぬ……」
足を負傷し立ち上がれないダンテは袖口の隠し道具のワイヤーアンカーを窓の外に向けて射出し、脱出を試みた。
「足掻くねぇ……だが!」
窓から外へ出た所で、斬撃だけを飛ばすオームの剣技でワイヤーを断たれ、ダンテは地面に転がった。
「痛てて……くそ、街中だからって武装を解除するんじゃなかったぜ」
愛用の魔法銃を置いてきた事を悔やむダンテだったが、恐らくダンテの腕では例え装備が整っていたとしてもオームを相手にするのは不可能だっただろう。
「さて、そろそろ終いに……しようか!」
地面を這うダンテの背後でオームが剣を振り下ろす。
襲い来る激痛を覚悟して目を瞑ったダンテだったが、オームの狂刃は乱入者によって防がれた。
「街中で騒ぎがあるから来てみれば……アンタかよ、ダンテ」
「オオ、オリオンちゅわああぁん!!」
「あぁ、何だ小僧? 邪魔だぞ」
乱入してきたオリオンの首を狙って、オームの高速剣が走る。
「おっと」
「何だと!?」
加減したとは言え、一瞬で首を飛ばす筈の斬撃が事もなく弾かれた事にオームは驚きながらもさらに追撃する。
「むっ。危ないな」
二度、三度と必殺の剣を防がれオームの顔から余裕が消えた。素早く後方に下がり間合いを取る。
「俺もずいぶんと鈍ったようだ……こんな小僧の首一つ落とせんとは」
「これ以上街中で暴れるなら容赦しないぞ」
「小僧が……いいだろう。簡単に殺れそうにねぇなら、仕切り直させてもらうぜ」
オリオンを相手にするのは容易な事では無いと悟ったオームはオリオンの言葉に応じて警戒しながら身を引き、立ち去った。
「ふぅ……大丈夫か、ダンテ」
「あ~痛てぇ。しかし良かったのかよ、オリオン。アイツ、賞金首だぞ? 捕まえれば金になったのによ」
「ふ~ん。まぁ別に無理に捕まえる必要は無いな。あのまま争っても周りに被害が出そうだったし、アンタも居たからな」
「へへ、何だよ。そんなに俺の事、大事に思ってくれてんのかよ。照れるぜ」
「いや、アンタの為じゃねぇよ。シャーリィさんがアンタを必要としてるから気を使っただけだよ」
「何だよ~、もっと俺を大事にしろよ~」
「……意外と元気だな、アンタ」




