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23 シャーリィ・ベル

 とある日、冒険者パーティー『アダマス』が依頼を終えてギルドに帰ってくると職員に呼び止められた。


「オリオンさん、パティさん、ちょっとよろしいですか?」

「はい、何でしょう」

「実は『アダマス』に指名依頼が来ているんですがどうしますか?」

「指名依頼ですか?」

「はて? ウチらはまだブロンズじゃぞ。さほど名が売れるほどの活躍はしておらんと思うが?」


 指名依頼とは、その名の通り依頼人が冒険者を指名して直接依頼を出す方法で、特別な能力を有するか、或いは知名度の高い冒険者に対して行われる事が多い。

 『アダマス』はまだ経歴が浅く、指名を受けるほど名は知られていない筈なのだ。


「指名を出したのはギルド長です。少々込み入った事情があるようで……それで、どうしますか?」


 職員が再度問うと、オリオンはパティに視線を向けて無言で確認すると、パティも頷き返した。


「受けます」

「良かった。では、詳しい話は別室にて行います。こちらにどうぞ」


 職員に案内されて、建物の奥へ行くと一つの部屋の前で止まった。ノックをして部屋に入るとギルド長のマーブルと見知らぬ女騎士が二人を出迎えた。


 年の頃はオリオンよりも少し上くらい。軽装鎧と側に置いた二本の長剣、どちらも優雅な装飾が施された気品を感じさせる逸品である。一見するだけで貴族の持ち物と分かる。


「よく来てくれたわね、二人とも。さぁ、そこに座って。お茶でもいかが?」


 女騎士と対面するようにソファーを勧められ、二人が着席するとマーブルが新しく二人分の紅茶を淹れた。


「さて、こちらにいるのがシャーリィさん。あのブラウン伯爵の娘さんなのよ。今回、うちのギルドにとある依頼を出してきたんだけど、『アダマス』の二人が適任だと思って私が推薦したの」

「シャーリィ・フォン・ブラウンよ。ブラウン領都の冒険者ギルドに所属していて、シルバー級の冒険者としても活動しているの。今回は父の名代としてここへ来たわ。よろしくね」

「よろしく、なのじゃ!」

「よろしくお願いします。あの、俺達はブロンズ級ですけど、いいんですか?」

「階級の事なら気にしてないわ。マーブルさんから二人の実力はシルバー級以上だと聞いているから」


 貴族家の令嬢とは思えないほど気さくに話すシャーリィの様子は、父親のバズティオンとよく似ている。冒険者として活動している事も影響しているのかもしれない。


「では依頼内容を説明するわね。『アダマス』の二人にはシャーリィさんをフルクト地方の廃村にある魔道工房まで護衛して欲しいのよ。そして、そこで『アダマス』の昇格試験を行おうと思うの」

「おっ! ついにウチらの昇格試験か! 今度こそ成功させんとな」

「そうだな。ところでフルクト地方の……廃村? ですか。そんな所に店を開いている人なんているんですか?」

「ええ、本当よ。名前はダンテ。かなり偏屈な性格のようで以前住んでいた街で騒ぎを起こして追放処分になりその後は消息不明だったんだけど、魔物の被害で数年前に廃村になった跡地にいつの間にか住み着いて工房を開いているようなのよ」


 廃村という事は、水源などはあっても生活に必要な物は遠出をしなければ手に入らないような不便な環境だろう。それでもその場所で工房を開くからには相応の理由があるのだろうか。


「父のバズティオンの指示で私がそのダンテ技師にアイテム作成を依頼しに行く事になったの。それも秘密裏にね」

「秘密ですか……では、詳しい内容は聞かない方がいいんですかね」

「そうね。色々と理由があるけど、この依頼に対して伯爵がかなり警戒しているのは確かね。出来るだけ情報を制限しようとしているわ。シャーリィさんの目的をカモフラージュするのに『アダマス』の昇格試験を利用しようとするのも伯爵からの意向に沿う為よ」

「つまり俺達は、護衛対象兼試験官であるシャーリィ様をお連れして廃村に向かえばいいんですね。そしてそこでのシャーリィ様の行動には一切関与しない、と」

「ええ、そうして頂戴。それと試験内容だけどフルクト地方に生息する魔物の分布調査をお願いね。数日がかりで行動をするから廃村を野営地として利用するのに十分な理由となるわ。後は現地で試験官の『シャーリィ・ベル』さんの指示に従ってね」

「『シャーリィ・ベル』?」


 マーブルの説明の中でシャーリィの名前が違っていた事にオリオンが疑問に思っているとシャーリィが答えた。


「私のもう一つの名前よ。冒険者として活動している間は貴族ではなく一般人として活動しているの。だから私に対して敬語も様付けも不要よ」

「はぁ、そうですか。分かりました……え~と、シャーリィさん」

「うふふ、よろしくね」


 話が終わり出発準備の為に建物を出ようとするとギルド職員がシャーリィを呼び止め、一枚のメモを手渡した。


「何ですか、それ?」

「ギルド間の魔法通信を利用した伝言ね。どうやら実家からの伝言のようだわ」


 領都ダスティーヌの冒険者ギルドから送られてきた内容をシャーリィが確認する。


『家中に不審な動きあり。注意せよ』


「ふ~ん……」

「シャーリィさん?」

「何でも無いわ。行きましょ」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 ハーベルの街から廃村近くの街道まで乗合馬車で移動し、そこから目的地まで徒歩で向かう。


「ここに来るまで色んな人に聞いたんですけど、廃村の事は知っててもそこに人が住んでるのも店がある事も知らないみたいですね。本当に廃村に住んでいるんですか?」

「おまけにここいらで不気味な魔物が出ると噂になっとったのぉ。四足だの、三つ目だの尋常ならざる姿をしとるとか。ウチらの討伐目的の魔物もそんなんなのかの?」

「まぁ、商売っ気の無い人みたいだから宣伝なんかもしてないだろうし、誰も知らなくても無理ないわ。それと討伐目的の魔物は、そうね……五種類を目標にしましょうか。護衛対象である私は手を出さないから、二人で協力して守ってね」


 馬車を降り、廃村に続く唯一の道を歩きながら魔物を探していると奇妙な足跡を見付けた。


「なんじゃろ、コレ」

「魔物、じゃないな……でも人の靴跡にしては大き過ぎる」


 地面に残った長方形の跡が規則正しく続いている。一つの足跡の長さはおよそ四十センチほど。


「う~ん、世の中には巨人族という人間もいるから一概に否定は出来ないけど……この辺りでの目撃情報は無いから多分違うわね」

「跡の形も人のソレとは全然違いますよね。何て言うか……板で押し付けたみたいに見事な長方形だ」

「それにしてもデッカいのぉ、一歩の歩幅でウチは三歩は進めるぞ」


 地面に残った足跡を追って進んでいくと目的の廃村まで続いていた。


 人が居なくなって月日が経ち、風雨と魔物に荒らされて形が崩れた家屋の他に、まだ使えそうな形を残している家もあった。

 廃村の中にあった共用の井戸を発見し、汲み上げた水の質を調べた。


「うん。飲み水として使えるわね」

「変な物が入って無くて良かったですね。これで水に困らずに済む」

「シャーリィ! オリオン! ここの家は家具が残っとるぞ! ここを拠点にしよう」


 近くの家を調べていたパティが窓から顔を出して言った。


「それじゃそこを使わせて貰いましょうか。二人は中の掃除をお願いね。その間に私は用事を済ませてくるわ」

「例の工房ですね、分かりました」

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