22 アダマス
気落ちするパティを慰めつつ、ギルドへ戻ると騒ぎを聞き付けたジェニーが仁王立ちで待ち構えていた。
「パティ! アンタは、ま~たやらかしたのね!」
「あぅあぅ、ごめんなのじゃ」
「すまない、副ギルド長。騒ぎを上手く収められなかった俺の責任だ」
「いえ、それを言うなら勝手に模擬戦を始めた俺にも責任が……」
「アンタら二人の責任じゃないわ。感情を制御出来ず、大暴れしたこの子の責任よ。甘やかすんじゃない!」
ジェニーの容赦ない拳骨がパティの頭上に落ち、涙目で床に崩れ落ちた。
「ただでさえ身に余る力を持っている所為で暴走しやすいってのに、喧嘩っ早くて困った子だわ」
「ぐぬぬぅ」
唸るパティの襟を掴んで立たせるとジェニーは乱闘後、搬送された怪我人の状況やギルドの決定事項をオリオンとパティに告げた。
「演習場で自分から乱闘に首を突っ込んだ連中の傷は大した事はないわ。治療院で手当てをすれば明日にでも復帰出来るでしょ。それから二人の昇格試験だけど、延期します。本当なら中止の可能性もあったんだけど、大元の原因がロニーの挑発行為にあったようだから大目に見てあげるわ」
「いいんですか?」
「まぁね。本来、挑発行為なんて技量を測る為の模擬戦でやるもんじゃないのよ。それに対戦相手を怒らせた上に負けるなんて、シルバー級として失格よ」
ロニーの行動に失望したジェニーは厳しく言い放った。
「どういう意図であれ、勝ちに逸ったロニーの愚策だったわけね。まあ、彼の事は置いといて……問題は、アンタよ。パティ」
「むぅ、ウチか?」
「そう、アンタ。前にも似たような騒ぎを起こしたし、流石に厳重注意では済ませられまいわね……ふむ」
少し悩んでいたジェニーが、何かしら思い付いたのかオリオンを見た。
「そうだわ。オリオン君、この子とパーティーを組んではどうかしら?」
「パティと?」
「この子を単独で活動させるには問題があるし、オリオン君にもパーティーで活動するのを勧めるつもりだったから丁度良いわ。オリオン君も知っての通り、この子の実力もそれなりにあるから足手まといにはならないでしょ」
パティの実力、特に魔力に関してはオリオンよりも大きいのは確かだ。本人の性格を考えるにブレーキ役が必要なのも分かる。
「その前に一つ、気になってる事があるんです。もしかして、パティも……」
「あぁ、君の予想通りよ。この子も称号持ちなの」
「と言う事は、オリオンも称号持ちなのじゃな。ウチとお揃いじゃ!」
「ギルドとしても君やこの子に期待してるんだけど、実力が突出しているだけにパーティーメンバーをどうするかで悩んでいたのよね。まだ二人だけだけど、単独でやるよりかはまだマシね。オリオン君、この子をお願い出来るかしら?」
「はい、分かりました。これからよろしくな、パティ」
「おう、よろしくなのじゃ。オリオン!」
ジェニーは、さもその場で思い付いたかのようにしていたが、おそらく最初から二人がパーティーを組むように動いていたのだろう。
数少ない称号持ちが同じ試験を受ける事になったのは偶然ではない筈だ。
本来、パーティーを組むメンバーは当人達の自由なのだが、称号持ちの高過ぎる能力とパーティー内の戦力バランスを考えるとそれに釣り合う実力者がなかなか見付からず、ギルドとしてもパーティーを組む事を推奨していても妥当なメンバーを紹介出来ず難儀していた。なので今回の試験で上手くパーティーを組むような流れを作って誘導するつもりだったのだろう。
それが思いがけず騒動となり、試験を中止せざる負えなくなったが何とか最低限の目的を達成出来て、ジェニーは人知れず胸を撫で下ろした。
「さて、めでたくパーティーを結成したわけだけど、パーティー名は何にする?」
「う~ん、パーティー名ですか……パティ、何か良いのはある?」
「ほじゃのぉ……なんぞ景気の良い名前がええのぉ。宝石の名前を入れるのはどうじゃ?」
「宝石か……ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド」
オリオンが宝石の名前を羅列しているとストラクスがポツリと呟いた。
「アダマス……」
「アダマス? 何ですか、それ」
「ダイヤモンドの語源か何かだったと思う。意味は、破壊出来ないとかそういう感じだったかな」
「アダマス、アダマス……破壊出来ない、破れない、決して負けない……うん、いいんじゃないかな。どう? パティ」
「オリオンも気に入ったか。ウチもじゃ! 強くて景気の良い、何とも気合いが入る名前じゃ!」
「それじゃ登録しておくわね。新パーティー『アダマス』の活躍、期待してるわよ」
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カラーディア王国ブラウン伯爵領の領都ダスティーヌにあるブラウン伯爵家の屋敷の一室で、当主のバズティオンはある悩みを抱えていた。
数日前にハーベルの街から届いた一通の知らせが原因だった。差出人は冒険者ギルド長のマーブルからで、内容は過去に紛失したブラウン伯爵家の家宝が街の地下で発見されたというものだった。
最初に手紙を読んだ時、伯爵は何の事かと眉をひそめた。だがハーベルの街と紛失した家宝というワードで、伯爵はそれが水神宝珠の事であると思い至った。手紙には宝珠を含めたアイテムの扱いについて協議したいとあり、その協議に向けて伯爵家の対応を決めるべくバズティオンと家令のロットンが話し合った。
家令のロットンはバズティオンの父親、先代伯爵の頃からブラウン家に仕えていて半世紀に渡ってブラウン伯爵家を支えてきた重臣だ。
バズティオンの信頼も厚く、今回のような難しい案件が発生した際の良き相談相手となっていた。
「ふぅ……今さら水神宝珠が見付かるとは。ロットン、百年前の記録では敵国のリーマイナ王国との戦争時、ハーベルの街への緊急支援目的で水神宝珠がハーベルへ運ばれたんだよな」
「はい、その後戦況が一時的に悪化し街を占拠されてしまいましたが、これを奪還。リーマイナ軍を追い出して、その勢いのまま我がカラーディア王国は戦争に勝利しました。しかし、戦後の調査でハーベルの街から家宝の水神宝珠が消えている事が判明、リーマイナ軍が本国に持ち帰ったと断定し、返還要求が出されました」
ロットンが屋敷の書庫から探し出した古い資料を読み上げた。この辺りの事はバズティオンも知っている事だが確認の為、調べたのだ。
「俺の曾祖父さんの代の事だな。何度も要求を出したがリーマイナは知らぬ存ぜぬの一点張りだったとか……結局、宝珠は戻らず戦後の賠償金の上乗せで解決したんだったか?」
「正確には金貨二千枚、リーマイナ王国の領地の一部を割譲、王族の一人を人質として移住させました」
「宝珠一つでそこまで搾り取ったのか。曾祖父さんも容赦ないな」
「本来ならば、いくら伯爵家の家宝といえどそこまでの価値はありません。しかし、当時は戦勝国と敗戦国。かなりの無茶も通ったと言う事でしょう」
「お陰でリーマイナ王国との関係は、今も微妙だけどな」
バズティオンが家宝の発見を喜べないのには理由がある。それがリーマイナ王国との関係だ。
この百年の間にリーマイナ王国も力を増し、リーマイナ国内でも奪われた領地の奪還を求める声が強まりつつあった。カラーディア王国もそんな隣国の状態に注意を払わなくてはならなず、互いに警戒を強めていた。
そこへ百年前の騒動の原因となった水神宝珠が見付かった。それもカラーディア国内でだ。
もしこの事が公になればリーマイナ王国の不満が爆発するのは間違いない。百年前の汚点を消し去る為に、奪われた領地を取り戻す為に、この事を切っ掛けにして再び戦争に突入する可能性があった。
「どうしたもんか……」
「一番無難な案は、このまま人知れず死蔵するか破壊してしまう事でしょうな。このまま水神宝珠が誰かの手に渡れば、リーマイナ王国も気付きます。そうなれば彼らの怒りは真っ先にバズティオン様に向かうでしょうな。『我らを騙したな』と」
「『ごめ~ん、宝珠あげるから許してね』じゃ無理かな」
「面白い冗談です。ぜひ試してみましょう」
伯爵の冗談にロットンも冗談で返した。ひとしきり笑って、話を戻す。
「破壊するには、ちょっと惜しいな。リーマイナとの因縁が無ければ開拓に使いたいくらいだ」
「そうですな。水を自在に操れる能力はとても魅力的です。人が生きるのに欠かせない水を確保出来るなら、水源に乏しい未開の地でも新たな村が作れますからな」
「さて、どうするか……」
伯爵家が所有権を持っていない以上、宝珠は誰かの手に渡る。そうなれば宝珠の存在がリーマイナにバレる。かと言って対価を支払って伯爵家が宝珠を手に入れてもリーマイナの目は誤魔化せず、いずれ宝珠の存在に気付く。
ここは安全策を取って、まだ情報が出回っていない内に破壊すべきかと伯爵が諦めかけた時、ロットンが何かを思い付いた。
「一つ、手を思いつきました」
「ほぅ、リーマイナ王国に気付かれずに宝珠を使えるようにする方法があるのか?」
「水神宝珠は大変価値の高い物ですが、能力自体はありふれた物です。火、風、水などを操る道具は世界中に沢山あります。ただその中でも水神宝珠の力は群を抜いて高い為、皆の注目を集めてしまう。これが別の形、例えば杖であったり壺などであれば、水神宝珠とは無関係と認識されるのではないでしょうか」
「……そうか! リメイクだな? 魔道具師の手で水神宝珠の力を別の道具に移してしまおうというわけか!」
「はい。リーマイナ王国との関係もあくまで『水神宝珠』についてです。それ以外の道具を我々がどう使おうと問題にはならない筈です」
「よし! その手で行こう。口の固い魔道具師を探さないとな。それと宝珠を持って行く役目を誰にするか考えんといかん」
「バズティオン様が動いては領内の間者に気取られる可能性がありますからな。ここは慎重に選ばないとなりません」
領内は勿論、屋敷の中にも間者が紛れている可能性があり常に聞き耳を立てていると思われる。下手な人選をすれば今以上に情報が漏洩する危険性があった。
「口が固く裏切る可能性が低い者か……」
「……シャーリィお嬢様は如何でしょう」
「うん? 娘か? あの子に任せても目立つ……そうか伯爵令嬢の『シャーリィ・フォン・ブラウン』ではなく、冒険者『シャーリィ・ベル』として任せるのか! 仮の身分で動くなら多少は目眩ましになるな」
ブラウン伯爵家は武を重んじる家風だ。その為、バズティオンの子供らは幼い頃から武術や魔法の訓練を課されており、その一環として冒険者として活動する者もいた。
バズティオンの長女シャーリィは冒険者として活動している間は訓練の妨げになるとして貴族の身分を隠し、仮の身分『シャーリィ・ベル』を名乗っていた。
ストックが無くなったのでしばらく空きます




