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17 ギルド・オブ・エース

「……ぎるど、おぶ……えーす?」

「何だ、知らんのか? かなり有名な大会なのだがな」

「まぁ、オリオン君は冒険者ギルドに登録をしていませんし、この街で暮らしている訳でもありませんから。良ければ私の方から説明しましょうか?」

「うむ、頼む」


 ジェニーが前に出て首を傾げるオリオンに説明を始めた。


「ギルド・オブ・エースというのはね、周辺国が年一回、順番に開催している戦闘技術を競う大会なの。来年開催されるギルド・オブ・エースはうちの国で開催されるから伯爵様はそれにオリオン君の参加を求めているのよ」

「でも、俺は冒険者ギルドには……」

「そこは大丈夫よ。参加資格は二つ、まず一つ目は開催国の国民である事。二つ目は所属ギルドのギルド長または、高位貴族の推薦を得る事なのよ。大会に参加出来るのも冒険者ギルドだけじゃなく、傭兵ギルド、商業ギルド、鍛冶ギルド、流通ギルドなどの国から公認されているギルドも対象なのよ」

「冒険者ギルドや傭兵ギルドはともかく、それ以外のギルドもですか?」

「そう。必ずしも戦闘を主体とするギルドでなくてもいいの。オリオン君の例のように普段はギルドに所属していなかったり戦闘とは無縁の仕事をしている者の中にも強者はいる。そういった埋もれた逸材を見出だす為に、伯爵様のような高位貴族達は普段から目を光らせているわ」


 ここまで説明を聞いてオリオンは、先程伯爵が言っていた霊薬を渡す条件が『大会に参加する』だった事を思い出した。


「あの伯爵様、霊薬を頂ける条件はギルド・オブ・エースに参加しろって話ですよね? 優勝しろとかでは無く、参加するだけ……その、最初に負けて敗退する可能性もあるんですが」

「心配するな、条件は間違っておらん。来年の大会に参加するだけで良い。ついでに参加を決意してくれるなら、霊薬はこの場で渡してやろう」


 破格を通り越して不自然な条件だ。オリオンがその条件の裏事情を見抜く事が出来ず困惑していると、伯爵は苦笑した。


「すぐに飛び付かぬ位には冷静だな。お前が不審に思うのも無理は無い。だがそれは杞憂だ。この霊薬だが、二度と手に入らないという事は無い。私ほどの貴族ならば手に入れる機会はそれなりにある。それにお前が大会に参加すればかなり良いところまで行くと思うぞ?」

「えぇ、私もそう思います。優勝まで行くかどうかは、大会までの一年間でどれだけ実力を伸ばせるかによるわね」


 伯爵とジェニーは揃ってオリオンを強く推してくる。その事がオリオンには不思議に思えた。


「国中の強者が集まる大会なんですよね? そこへ俺なんかが出ても……」

「ぶぁーはっはっは! お前は世の中というものを知らんな。腕に覚えがある者が自惚れる事もあれば、その逆もあるのか。よし、ならばやる気を引き出してやろう」


 領軍が討伐出来ずにいた盗賊団の大蜘蛛を倒した者とは思えないほど控えめなオリオンを笑い飛ばした伯爵は、追加で条件を付けた。


「もしも大会で三位以内に入れたら、このバズティオン・フォン・ブラウン伯爵の名に於いて願いを一つ叶えてやろう」

「願いを一つ?」

「そう、一つだ。法に触れぬ限り、どんな無茶な願いでも構わんぞ。なんなら俺の三歳になる娘の婿になるか? 俺によく似た可愛い娘だぞ」

「えぇ~と……」


 反応に困る冗談にオリオンの言葉が詰まる。


「まぁ、その辺はゆっくり考えろ。で、どうだ? ギルド・オブ・エースに参加するか? 報酬は霊薬と願い一つだ」

「……はい。どこまで期待に添えるか分かりませんが全力を尽くします」

「よし! では早速手続きをしてくれ、ジェニー」


 霊薬の入った小箱を受け取り、オリオンとルナはジェニーに連れられて部屋を退出した。

 残った伯爵とギルド長のマーブルは紅茶を飲みつつ、談笑する。


「あのバズ坊やが霊薬と願い一つを払うなんて、ずいぶんとあの少年を気に入ったようね」

「ふふ、まぁな。しかし、称号持ちのくせにずいぶんと慎重だったな。俺があの年の頃はもっと……」

「誰もが貴方くらい無鉄砲では無いわよ。セドリックから厳しく鍛えられたんでしょ。あれなら一年後には本当に優勝も見えて来るわね」

「あぁ、楽しみな事だ」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 ハーベルからサジッタ村への帰り道、荷馬車の上でオリオンが冒険者ギルドであった事を村長に話した。


「ほえぇ~、ご領主様に会ったのか。失礼な事はせんじゃったろうな」

「まぁ、多分。でも、厳つい見た目だったけど気さくで良い人でしたよ。あと甘い物好き」

「ふむ。なら今度、蜂蜜菓子を作って献上したら喜んでくれるかの?」

「ふふ、きっと喜んでくれると思うわ。もしかしたらお代わりを要求されるかも。ね、オリオン」


 その後、皆に要らぬ心配を掛けないよう称号の話は省略し、ギルド・オブ・エースと報酬の話をした。


「そうか。ご領主様が期待を寄せておるんじゃ気張らんといかんぞ、オリオンよ」

「はい。それで、この霊薬はセドリックさんの傷の治療で使うとして三位以内に入ったら伯爵様が願いを一つ聞いてくれるそうなんです。何が良いですかね」

「何が、とは? オリオンの好きにすれば良かろう」

「そうだよ。身体を張るのはオリオンなんだから、村の為なんて考えず自分の好きに願えば良いじゃん。それこそ貴族に成るのも夢じゃないよ」

「う~ん、そう言われてもなぁ……欲しい物は自分で手に入れたいし、これと言って叶えて貰いたい事は無いんだよなぁ」

「え~欲が無いなぁ。私だったら部屋一杯の服とかアクセサリーとか貰うけどなぁ」

「まぁゆっくり考える事じゃな。今は何も思い付かなくても、そのうち叶えたい願いが見つかるじゃろうて」


 そうして荷馬車がサジッタ村に到着するとオリオンはセドリックが寝かされている救護テントを訪れ、常駐する医師に伯爵から貰った霊薬を渡した。


「ほぅこれが噂に聞く霊薬……ご領主様から直接譲り受けたという事なら本物なのだろう。見たところ二回分くらいの量がありそうだな。君、一回分はセドリックさんに使うとして残りはどうする? そのまま保管してもいいし、効能を少し落として量を増やしてもいい」

「増やせるんですか? じゃあ他の自警団員の怪我も治せますか」

「そうだね。全員分は無いが重傷な患者を回復させるのには足りそうだ。やるかね?」

「お願いします。何か必要な材料はありますか」

「いや、大丈夫。常備している材料で足りるよ。では、この半分をセドリックさんに飲ませてやるといい。私は薬の調合に取り掛かるとするよ」


 小瓶の中身を器に移し、医師は別のテントへ移動していった。


 小瓶を手にしたオリオンがベッドで眠っていたセドリックを起こし、その手に小瓶を握らせた。


「セドリックさん、この薬を飲んで下さい」

「ん? 薬? 痛み止めか何かか? 苦いのは好きじゃねぇんだが」

「我慢して下さい。溢さないように気を付けて」


 セドリックは小瓶を口元に持ってくるとゆっくりと飲み込んだ。


「うげぇ……マズぅ」

「……ど、どうですか」

「どうって? すげぇ苦い……ん?」


 不意にセドリックは身体のあちこちに痒みを感じた。特に強いのは顔に巻かれた目の部分で思わず掻いてしまう。


「これ、魔法薬か……ずいぶんと効能が強そうだ」


 指が引っ掛かり包帯が外れるとそれまで真っ暗だったセドリックの視界に色鮮やかな景色が広がった。だが、驚きは傷の治癒だけでは無かった。


「セドリックさん、目が……」

「あぁ……見える」


 両方の瞼を開き、失われた両目で周囲を見渡した。片手で交互に目を塞ぎ、間違いなく古傷が癒えている事を確認したセドリックは自分が飲んだ薬の小瓶を見詰め、オリオンを問い質した。


「お前、この薬はどうしたんだ。街で売ってるような魔法薬じゃないだろ?」

「はい、ハーベルの街に入らしていたご領主様と話す機会がありまして、事情を話したらお持ちだった薬を下さったんです」

「下さったって……そんな馬鹿な。高位貴族の領主がたかが村人一人の為に、こんな凄まじい効能の薬を与える筈がねぇ! オリオン、お前一体何をした!? 領主と変な取り引きでもしたんじゃねぇだろうな!」


 過去に嫌な経験でもしたのかセドリックは貴族との関わりには消極的で、借りを作る事は危険だと考えていた。そんな時に自分の負傷が原因でオリオンが貴族と取り引きをしたのでは無いかと慌てた。


 まだ経験の浅いオリオンでは巧妙な貴族のやり方を見抜けず一方的で不利な条件を飲まされたのでは無いかと危惧したのだ。


「落ち着いて下さい。取り引きというか、条件付きでこの薬を頂いたんです……」


 興奮気味のセドリックを宥めて、オリオンは称号を得た事、ギルド・オブ・エースに参加する事、それを条件に薬を貰った事を説明した。


「……そうか。ギルド・オブ・エースにお前を……なるほどな。領主が貴重な薬を手放したのは、恩に着せて称号持ちを動かす為だったか」

「元々の条件は大会に参加するだけで良かったんですよ。俺はあんまり自信が無いんですけど三位以内に入れば追加で願いを一つ叶えて下さるそうです」

「まぁ、大会上位に入るのは大抵称号持ちだからな。領主が推すのも無理ねぇか……オリオン、お前はどうしたい?」

「どうって……普通に参加するだけじゃ駄目ですか?」

「俺の見立てじゃ優勝はおろか三位以内は難しいな。参加するだけが目的ならそれでも良い、が……勿体なくねぇか? せっかく派手な舞台に立つんだ。自分の力を示すのも悪くねぇと思うぞ。それに称号持ちとなったなら、色々と面倒が降り掛かるかもしれねぇ。実力不足で泣きを見るより、圧倒的な強さを身に付けて払い除けちまえ」


 セドリックの言葉に耳を傾け、オリオンは深く考える。いつ何時、今回のような危険が襲ってくるか分からない。強くなくては守りたいものも守れない。


「今以上に強くなるには、どうすれば……」

「その為には、オリオン。お前は村を出るべきだ」


 セドリックから衝撃的な言葉が出た。

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