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16 交換条件

 二人掛けのソファーに座るオリオンとルナの対面のソファーにバズティオン・フォン・ブラウン伯爵が座り、杖をついたマーブルは奥の一人用のソファーに座った。


 お茶の用意の為、ジェニーが席を外す。無言のまま誰も口を開かず、場の空気はとても重苦しいものになっていた。


 年長のマーブルは雰囲気など無視してニコニコと微笑んでいるが二人の正面に座る伯爵は腕を組み仏頂面でオリオンを見ている。


 荒鷲のような伯爵の視線に耐えきれないのか目を逸らして俯き、冷や汗を流すオリオンとルナ。


「(な、何で領主様がここに?)」

「(そんな事よりスッゴい睨まれてるよぉ、オリオン)」


 何か無礼でも働いたのかと小声で話す二人の下へ、紅茶と菓子を持ってジェニーが戻ってきた。物音を立てぬように縮こまる二人を見て、何もせず座っているマーブルを咎めるように見た。


「え? 何ですかこの雰囲気。葬式じゃないんですから、少しは二人の緊張を解して下さいよ、ギルド長」

「あらあら、ごめんなさいね」


 軽い謝罪で流す上司に呆れた様子でため息を吐き、ジェニーが紅茶を入れてそれぞれの前に置く。


 オリオンとルナの前にも紅茶と菓子が置かれたが、二人に手を付ける余裕など無い。


「さて……」


 伯爵が組んでいた腕を解き、目の前の二人が思わずビクつく。

 伯爵は懐に手を入れて金属製の小瓶を取り出すと中身の液体を紅茶の中に入れた。


「ふむ……」


 紅茶を一嗅ぎして香りを楽しむと頰が緩み、若干口角が上がった。そして、出された焼き菓子を頬張ると目尻が下がり満面の笑みを浮かべた。


 この男、骨付き肉を食い千切る様が似合いそうな顔なのに。


「(甘党……)」

「(ねぇねぇ。さっき紅茶に入れてたのって、多分うちのサジッタの秘酒じゃない?)」


 少しだけ香ってきた匂いに気付いたルナが伯爵の入れた液体の正体を言い当てた。厳つい顔とのギャップで少しだけ二人の緊張が解れた時、不意に伯爵が二人に声を掛けた。


「時に少年、少女」

「は、はい! すいません」

「ご、ごめんなさい!」


 二人は小声で喋っていた事を咎められるかと思い、反射的に頭を下げた。


「何を謝っているのだ? そこの菓子を食わないのなら貰っても構わんかな」

「え?」

「あ、はぃ……」


 嬉々として二つの皿を引き寄せて満足げな顔でおかわりを食べ始めた。

 そんな様子に唖然とする二人。さっきまで感じていた重圧もすっかり消えていた。


「ちょっと伯爵様。お土産も御用意しますから年下から巻き上げないで下さい」

「良いではないか。あまり食が進まぬようであったし、残しては菓子が可哀想だ。美味しく食してやるのが菓子への思いやりというものだろう。あと、土産は多めに頼むぞ」

「はぁ……食べ過ぎて奥方様に叱られても知りませんよ?」


 ジェニーと伯爵のやり取りを見ていた二人の前にマーブルが自分の分の菓子を二人の前に置いた。


「バズ坊やの言う事にも一理あるわね。嫌いでなければ、お食べなさい」

「坊や呼ばわりはないだろう」

「大きい図体をして甘い物に目が無いんだから。いい加減にしないと下っ腹に響くわよ、バズ坊や」


 最初の印象とは打って変わって、高位貴族とは思えないほど砕けた態度にオリオンとルナが驚き呆れている。


 ジェニーとマーブルは、伯爵の大人げない行動は必要以上に緊張しているオリオンとルナを思っての事だとは察していた。お陰で二人はようやく紅茶と菓子を口にした。


 伯爵が三皿分の菓子を食べ終えるとようやく本題に入った。


「まずはそこの少年、オリオンと言ったか。君の用件を済ませようか」

「はい。俺が先日得た称号について、何かご存知ないかと思い冒険者ギルドへ来ました」

「ふむ、称号とは戦士が戦いの果てに『新たなる段階』に至った事を証明するものだ。獲得する条件は人それぞれだが、共通する部分もある」


 称号に関して知識があるのか伯爵がオリオンの問いに答えた。


「新たなる段階? それはどういう意味ですか?」

「種族としての格が上がる、分かりやすく言えば常人離れした能力を得たと言う事だ」


 伯爵の言葉に心当たりがあるオリオンはハッとする。


「その様子だと自覚はあるようだな」

「はい、幾つか。魔力とか……」

「待て。詳しい内容まで話さなくて良い。何が出来るかは重要な情報だ、取り扱いには注意せよ」


 今オリオンが自覚している能力は、大きく三つある。

 一つ目は、魔力の増大。

 二つ目は、強化された動体視力。

 三つ目は、驚異的な回復力。


「称号によって得た能力は今後大幅に伸びたり、新たに能力を得る事もある。ただマイナスの効果を持つ称号持ちもいる為、そういう成長をする可能性もある。君も出来るだけ早急に能力の把握に務めたまえ」

「はい、分かりました。それと、さっき言っていた獲得する条件で共通する部分というのは……?」

「あぁ、それは……」


 ここで伯爵はチラリとルナの方を見た。何かを気にしている素振りだ。


「? 私が何か?」

「婦女子には少し衝撃的な内容だが、大丈夫かね? 称号持ちに嫌悪感を抱かれては今後の生活に差し障るかもしれんのだが」

「……私は平気だけど。オリオン、私は席を外した方が良い?」


 幼馴染みとして長い付き合いの二人だ。並大抵の事で関係は壊れないという信頼はある。

 だがそれでもオリオンを気遣い、ルナは判断を委ねた。


「大丈夫。ルナはそのまま居てくれ」

「うん。分かった」


 二人の決断を確認した伯爵は話を続けた。


「称号を獲得する共通の条件、それは魔物の力が注ぎ込まれた素材を食らう事だ。これは魔物に認められないと手に入らん」


 何だそんな事かと、少しだけ身構えていたオリオンは拍子抜けした。だが伯爵の話はまだ続く。


「肉や骨、或いは血などを食らう事で本来、人間ではあり得ない魔物固有の『進化』という現象が起こるのだ。つまり、オリオン。お前は人間と魔物、両方の性質を持ったという事だ」

「人間と……魔物」

「見たところ、お前は称号を得た影響が外見にはあまり出ていないようだ。だが世の中には称号を得た事で外見または内面が大きく変化してしまった者達もいる。大昔に称号を得て外見が変わった者が祖となりその特徴を受け継いだ者達が新たな種族となったり、外見も内面も変わり果て人に仇なす魔族となったり……様々だ」


 衝撃的な話の内容にオリオンはいつの間にか膝の上で痛い程、手を握り締めていた。


「それはつまり、俺もいずれ……」

「わからん。さっきも言ったように能力は成長する可能性がある。お前の人生がこの先どうなるかは、神のみぞ知る、だ」


 話を聞き終え、しばしの沈黙の後オリオンは深く深く息を吸い、そしてゆっくりと吐いた。セドリックから教えられた気持ちを落ち着かせる方法だ。


「オリオン……」

「大丈夫だ、ルナ。そんな顔するな。この称号が無ければあの時、俺も皆も助からなかった。もしこの話を先に知っていても、俺は同じように称号を選んでいたさ。俺と皆の未来を守る為にな」


 決して強がりでは無い、いつものオリオンの顔にルナは安堵した。


「なかなかに心も強いようだな。では、もう一つの用件も聞こうか」

「あ、はい。俺の師匠が魔物との戦いで俺を庇ったせいで大怪我を負い、視力を失いました。何とか回復する方法は無いでしょうか」

「ふむ。目の機能を取り戻したい、か。容易いな」

「本当ですか! お願いします、その方法を教えて下さい!」


 テーブルに手をつき頭を下げたオリオンの前に伯爵が四角い小箱を取り出し、開けた。


 中にあったのは透き通った青色の液体が入った小瓶だった。


「これは……?」

「高位貴族というものは何かと敵が多くてな。用心に用心を重ねるものなのだ。これもその用心の一つで服用すれば如何なる毒も呪いも怪我も癒し、失われた四肢さえ再生する霊薬だ」

「!! こ、これが……使わせて下さい!」

「だが、知っての通りこれは大変貴重な薬だ。たかが盗賊団討伐の功績一つで与える事は出来ん。そこで、だ」


 不安げな顔で見上げてくるオリオンの前で、伯爵はニヤリと笑い。


「オリオンよ、来年のギルド・オブ・エースに参加しろ。それがこの霊薬をくれてやる条件だ」

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