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ヴォーヴナルグ帝国に転生したオレは何かへ下剋上するつもりですがなにか?  作者: 砂糖
第三章

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第三十六話 休日返上

 

 今日は日曜日。

 なのに、今、オレがいる場所は、ηクラス(第七クラス)の教室。

 そう、休日返上で出校している。

 何故か?

 それは、時を遡り――


 昨日、エリアールとの訓練後の夕飯時。

 ゴルドの「俺はこんなに美味いのを食ったのは初めてだ」を再び聞いて直ぐの事。

 ドアが叩かれた。


 ゴルドが、「折角の美味い飯中(めしちゅう)なのにな」とブツブツ文句を言いながら、玄関に出る。


「――――――?」

「――――――――――――――」


 会話は分からないが、驚いている事は分かる。


「――――――!?」


 会話を終えたのか、ゴルドは焦ってテーブルに戻ってきた。

 その手に何かを持って。


「おい、坊主! ヤベェ事が起きたみたいだぞ! ほら、これ!」

 そう言って机の上に少し乱暴に赤い封書を置く。

 それを見たエリアールが一瞬ピクッとなり、もとに戻る。

 赤い封書には見慣れない紋章が刻まれた封蝋が押されていた。

 いや――見慣れない、というより。


「……学園?」


 思わず声が漏れる。

 ゴルドは腕を組みながら、うんうんと頷いた。


「そう、それだそれ。俺も最初見た時ビビったぞ。こんな立派な封蝋、お貴族様んとこでも滅多に見ねぇ」


 確かに、ただの手紙ではない。

 封蝋の刻印は、はっきりと帝国学園の紋章を象っている。

 つまりこれは――公式通知。


「中、見た?」


 オレがそう聞くと、ゴルドは首を振った。


「いや、宛名が坊主だったからな。勝手に開けるのもどうかと思ってよ」


 珍しくまともな判断だ。

 封蝋を指でなぞる。

 変な感じはしない。普通の封書だ。


「じゃあ、開けるぞ」


 指で封蝋を割り、中の紙を取り出す。

 広げる。

 そこに書かれていたのは、短い文章だった。


 ─────────────


 カイン・フォルシオン殿


 貴殿を魔術研究会に招待する。


 よって、明日朝、通常クラスに出頭せよ。


 魔術研究会会長 ゲイツ・ドル


 ─────────────


 ……何故?

 特にオレは学園で問題を起こした覚えもないし、誰かと深くまで関わった事もあまり無い。

 というか、あのモブダブルを気絶させて(?)、ミレニアも倒した(?)事で、オレはクラス内である意味孤立しているから、関わるも何もないが……。

 そんな感じで、疑問だけが湧くという状況だ。


「魔術研究会って、何だ?」


 紙をピラピラしながら呟く。


 この学園には、確かに前世でいう部活のような組織――研究会があるとは知っている。

 いくつか挙げると、魔術研究理論、魔道具研究、古代魔法研究、錬金術研究など。


 だが。


「オレ、そんなのに誘われるような事した覚え無いんだけど」


 正直な感想だった。


 すると、ゴルドが腕を組んだまま言う。


「けどよぉ、学園から直で来るってのは普通な感じじゃねぇぞ!」

「普通じゃない?」

「確かにそうですね。大体は教師経由だったりしますね」

「だろ? 封書なんてよっほどだ」


 ……なるほど。


「……つまり?」

「面倒なこったな」


 ゴルドはあっさりと言い放った。


「いや雑だな」


 思わずツッコむ。

 だが、言っていること自体は間違っていない気もする。

 学園からの直通招待。しかも研究会。

 普通じゃない。だからこそ――面倒だ。


【警戒レベルを一段階引き上げることを推奨します】


 サブの声が、いつもより僅かに硬い。


(そこまでか?)

【情報不足です。不確定要素が多すぎます】


 ……確かに。


 もう一度、手紙を見る。

 短い文章。無駄がない。

 命令に近い招待状。


「出頭せよ、ね……」


 無意識に、眉が寄る。


「……行かれるのですか?」


 エリアールが、静かに口を開いた。

 いつもの明るさはない。

 ほんの少しだけ、慎重に言葉を選んでいるように見えた。


「まぁ、無視するわけにもいかないだろ」


 学園からの正式な呼び出し。

 行かなければ、それはそれで問題になる可能性がある。


「所詮は研究会でしょ?」


 軽く言ったつもりだった。

 だが。


「……“所詮”ではない可能性もあります」


 エリアールの返答は、予想より重かった。


「研究会は、表向きは自由研究の集まりですが……実際は、派閥や思想の集まりでもありますから」


「派閥?」


 聞き返す。


「はい。特に“魔術研究会”は――」


 そこで、言葉が一瞬だけ止まる。


「……少し、特殊です」


 濁した。

 いや、“濁した”というより、“言わなかった”。


(……今の、引っかかるな)


 さっきの封書を見た時の反応。

 そして今の言い淀み。


 点と点が、まだ線にはならない。

 だが、無関係とも思えない。


【記録しています。関連性の検証を継続します】


 サブが淡々と補足する。


「まぁいいや。行ってみりゃ分かるだろ」


 あえて軽く言う。


 正直、気にはなる。

 けど――ここで考えても答えは出ない。


「坊主、大丈夫か?」


 ゴルドが珍しく真面目な声を出す。


「なんかヤバそうなら、すぐ戻って来いよ。教室の前で立っておいて、その時になったら、力ずくでも連れ戻してやるからよ」

「それはそれで問題になりそうだけどな……」


 苦笑する。

 でも。

 少しだけ、安心した。


「大丈夫だよ。ちょっと顔出してくるだけだし」


 そう言って、手紙を折りたたみ、ポケットにしまう。

 不安と不信感もともに添えて。




 ─────────────



 そして、現在。


 教室の外で待機しているゴルドの存在感を除けば、誰もいない静けさだけが()()()()()、窓からは朝のやわらかい日差しが机を照らす。


 違和感は、「そこにある」ことだ。


 一ヶ所だけ、そこだけが、不審に光が跳ね返るような感じ。

 歩み寄り、手で触れる。

 そこに実体が在るのかを確かめるために。


 すると、コンっと木製の扉を叩いたような音が不意にも鳴ってしまう。


「どうぞ」


 その不明な「なにか」から聞こえた。

 同時に、輪郭をなぞるかのように「なにか」が重厚な「扉」に変化する。


「……は?」


 思わず、声が漏れる。


【空間構造の変質を確認】


 サブの報告が入る。


 だが、それどころじゃない。


 目の前にあるのは、ただの扉じゃない。

 “世界が書き換わった結果”としての扉だ。


(……魔法、か?)


 いや、違う。

 少なくとも、オレのやり方でも、エリアールのやり方でもない。



「どうぞ」


 もう一度、声がした。

 中から。

 最初からそこにいたかのように。


 手を伸ばす。

 触れる。

 冷たい。

 確かな実体。

 だが、存在としては明らかにおかしい。


 小さく息を吐く。


 昨日、考えていたことが頭をよぎる。

 有線か、無線か。

 回路か、空間か。

 その答えが――


「ここにあるってことか」


 口の端が、わずかに上がる。

 恐怖も違和感もある。

 だが、それ以上に。

「……面白い」

 一言、そう呟いて。


 オレは、扉に手をかけた。


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