第三十五話 サブとエリアールによる魔法訓練 その3
長らくお待たせしました。
3話更新しております。
また、次の投稿予定は、6月です。
月の半分は毎日投稿を目指します。
すみませんがよろしくお願いします。
あと五回をやり切ったあと、訓練場に備え付けられていた休憩スペースに腰を下ろす。見上げた空には雲が一つ二つとゆっくり流れながら浮かんでいる。その雲をぼんやり眺めながら、さっきの訓練を反芻する。そのなかで気付いたことがあった。魔法の実行には“集中”が最初に必要だということ。つまり、パッと一瞬で生成出来ていないということになる。
も、もしの話だが、戦いとなった時このままだったら……。
物理攻撃で二人になってしまう……。
サブ曰く【慣れですよ】とあっさりだが。
慣れ、ねぇ。どうなのだろう。
――カイン様、貴方はこの世界の誰とも違う魔法回路を持っています。しかし、この世界での魔法の使い方は他人と何一つ変わりません。
サブから、魔力の説明の時にこう聞いた。
しかし。しかしだ。本当にそうなのだろうか。
この疑問が胸につっかえる。
「……確かめるしかないか」
立ち上がり、見慣れた結界を訓練場に張り巡らせる。
訓練場内のエリアールの動きを観測する為に。
【補助を開始します】
そうして、エリアールとの訓練を再開する。
「エリアールさん。続き教えて!」
家族のステータスは分かってる。しかし、護衛のステータスは測ったことがない。
「それではー、今度は、お水を出してみましょう! こんな感じです!」
そう言ってエリアールは、右手の人差し指を立て、そこに小さな水球を作り、ふわりと空へ打ち上げる。
水球は上空でパシャっと潰れ、周囲に小雨を降らせる。
同時に、結界が反応する。
サブを通して不要なものを取り除いた情報を、吸収する。
するとやはり、オレとは異なる魔力の通り方をしている。
胸のあたりから、肩、肘、手と通り、周囲の酸素原子を混ぜて火魔法を発現させるがオレのやり方。
対して、エリアールは胸から空気中を媒介して人差し指に空気中に漂う魔力の基である元素と気体の水分子を混ぜ水魔法を発現させている。
なんと例えたら良いだろうか。
少し考える。
しっくり来たのは、有線と無線という言葉だ。
オレは腕という導線を通って魔力を送っている。
対してエリアールは、空気中に指示を出して指先に魔力を集めてる。
見た目は同じでも、中身は違う……?
でも、他人と何一つ変わらない使い方が出来るって……。
【魔法回路型と空間媒介型の二系統が存在する可能性ですか】
……もし、そうなのだとしたら。
感覚を頼りにして実行するより、理論立てて、体系立てて発動することが出来たなら。
指先を見つめる。
そこには、まだ何も灯っていない。
けれど。
心の底が少しだけ、ほんの少しだけだが、動いた気がした。
◆
同じ練習を繰り返し繰り返しで火魔法では、何かに火を付けるまで。水魔法では、500mlの水を生成するまでのことが出来た。
「カイン様、上出来です! 普通の人はこんなにも早く感覚を掴めないので、流石の一言です!」
こう言われたが。
「……そうかな」
感嘆の声では無かった。
確かに、数時間前よりも確実に成長している。
火も水も。
でも……。
「確かに、出来ては居るんだけど、エリアールさんみたいにパッと出せないんだよね」
目の前に上がいると、追い付きたくなってしまうのは人の性なのだろうか。
自分を肯定できない。
「気にしなくてイイんですよ!?」
エリアール曰く、普通の人は複数属性の魔法を扱う事が出来ないとのこと。だから、生涯で一つの属性を扱えるだけでも十二分どころか二十分なんだと。更に、オレはたった数時間で二つも出来ているのだから、と両手をブンブン振り回して力説してくる。
「なんで……、なんで、そんなに自分を肯定しないのですか」
何かきっかけがあったのだろうか。
さっきまで両手をぶんぶん振り回していたエリアールが、ふっと視線を落とした。
「え?」
思わず聞き返す。
空気を読んでいないのは、御愛嬌。
そしてそれは、予想もしていなかった言葉だった。
「普通は……もっと喜ぶんです」
小さな声だった。
「魔法が使えるようになったら、すごく嬉しくて……それだけで十分だって思えるものなんです」
そう言って、エリアールは指先を見つめる。
さっき水球を作った指。
その仕草は、どこか遠いものを思い出しているようにも見えた。
「なんか、感傷的になっちゃいましたね。
今日の訓練はここまでにしておきましょう」
そう言って、エリアールは軽く笑った。
いつもの明るい笑顔。
……のはずなのに。
さっきまでとは、どこか違って見えた。
「え、もう?」
思わず聞き返す。まだ昼前だ。
体力的にも余裕はあるし、正直もう少し試したいこともあった。
「はい! 今日はもう十分すぎるくらい頑張りました!」
今度はいつもの調子で、両手をぱんっと合わせる。
「それに、魔法ってですね」
ふと、そんなことを言う。
「焦って覚えるものでもないんですよ」
少しだけ遠くを見るような目だった。
「ちゃんと時間をかけて、身体に馴染ませるものなんです」
その言葉は、どこか。
経験から出ているように聞こえた。
「……そういうもの?」
「そういうものです」
エリアールは、くすっと笑う。
「少なくとも、私が習った時はそうでした」
――習った時。
すなわち、この人にも師がいるわけだ。
上には上がいる。
まぁ、いいか。
エリアールに追いつけて無いのに、追求してもね。
「じゃあ、今日は終わりか」
立ち上がる。訓練場を見渡す。焦げた跡と、水で濡れた地面。
数時間前までは、火すらまともに出せなかったのに。
「……少しは前に進んだ、のか」
小さく呟く。その時。
「カイン様」
エリアールが呼んだ。
「はい?」
「さっきの話ですけど」
少しだけ照れたように笑う。
「出来るようになったことは、ちゃんと喜んでもいいんですよ?」
一瞬、言葉に詰まる。
でも。
「……そうだな」
そう返して、もう一度指先を見る。
まだ何も灯っていない。
けれど。
さっきより、ほんの少しだけ。
ここに火を灯す未来が、はっきり見える気がした。
エリアール:「そういえば、今日は、
私の事をさん付けでしたよね?」
カイン:「いや、教えを乞うならそのほうがいいかなって」
エリアール:「……そうだったのですね!」
カイン:「……涙ぐむほど?」
エリアール:「よしっ、今日の晩ごはんは、
豪華にいきましょう!」
エリアールは愉快な足取りで、出かけて行ったのだった。
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次回へ続く!




