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7話 迷宮崩落

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

 TRPGを愛好する男は、不幸にも召喚地点への敵襲とタイミングが被ったせいで異世界転移されて5秒で死んでしまった。100年の時が経って目覚めた先でダンジョンを操る力を得た彼は、迷った男の子を助けることで己の能力を自覚し、彼をダン長と呼ぶ人類の味方になった守護モンスターの魔女・マギリアの支援を得て自分の状況を確認した。彼女の言うにはダンジョンの核を壊せば現世から解放されるという。ダンジョンを富ませたい魔物達と、この世から去りたいダンジョンと同化したダン長のダンジョン運営がこれから始まる。



 ラビス迷宮基地。100年以上前から人間と魔王軍の戦いが繰り広げられていたダンジョンのひとつである。激化する戦争の中でこの施設で異世界転移直後に死んでしまった男は、何の因果かそのダンジョンと同化して今の時代に目が覚めてしまった。


「と、いうことで俺の生殺与奪に関わりそうなダンジョンの核である循環器……これを手にするために味方を集めなきゃいけないわけだな、マギリア?」

「ああ、魔王崇拝なここのボスは戦時中に強力な冒険者に追い詰められた末に張った結界に引き籠っている。起きれば暴れるのは目に見えているぞ♪……でも、本当にダン長は循環器を手にしたら消えてしまう気か?」

「ああ、こんな身体になったというのもあるが、たとえ元の世界に戻れたとしても百年後じゃ生きている知り合いもいないし……この世界においても一言物申してやりたい俺を呼んだ奴も生きていないだろうからな!」


 ダン長と呼ばれるその死人は石のブロックに自分の目と耳と口を刻むことで、周囲とのコミュニケーションを可能としていた。話しかけているのはこのダンジョンの管理を手伝っている魔女、守護モンスターのマギリアである。柑子色の髪と金色の目、黒いミミズクを思わせるフードを被った彼女は彼との会話を楽しんでいた。


「だから起きる前に循環器を守るボスの討伐を仕掛けるために仲間を集めているのは理解できるんだが……なんでリンがここに残っているんだ!? しかも女の子の格好のまま!」


 人間の味方であるマギリアが拠点としている魔女の家の前、そこには以前にダンジョンで助けて冒険者一行に引き渡したはずの少年の姿があった。彼を探しに来た冒険者達に渡してマギリアと一緒に送り出したはずだが、翌日になってマギリアが連れて帰ってきてしまったのだ。ツーサイドアップにした銀髪と、白を基調とした服を着ているのはキャンディ達に魔改造された時のままだった。それに加えて追加されたは腰のベルトに沢山の物が入るようなポケットが付属しており、ワンピースの上から別に膝丈の固い布地のスカートをはいている。そして急所だけを守る最低限の革の装備に、ベルトに細剣を帯びて武装している。


「なんでもなにも、小僧にはもう身寄りも無いだろう。冒険者になりたいと言うから、師匠として私が育てることにしたんだ」

「はい、今日から師匠です!」


 マギリアの返答とリンの装備を見てダン長が察する。どうやら彼を冒険者として育成しようというのだ。確かに母親を亡くした今、山に彼の身寄りはいない。それに、子どもを魔物に売り飛ばす人間が近場にいるとなるとあまり置いていていい環境とも思えない。


「だからって魔物が育てていいもんなのか?」

「問題ないさ。戦時中からテイマー制度と言って理性のある魔物を育てて他の魔物と戦わせたり、貴族や豪商が子どもの教育係に賢い魔物を抜擢したりしてたからな。私は村の冒険者ギルドにパイプがあるから育てば斡旋もできるぞ」

「家に置いてきた道具とかも持ってきました! ダン長、師匠、これからよろしくお願いします!」


 どうやらダンジョンの外で合意を得て連れてきたらしい。戦時から人間達も魔物の総力のいくらかを自分の物にするために工夫を欠かさなかったらしい。魔物が子どもを育てることに前例が無いわけでもなくて、周りが同意しているならダン長本人からしても構わない。女の子の格好をさせることの答えにはなってはいないが。


「リン、これからお前は守られる立場から冒険者として人々とダンジョンを守る立場となる。冒険者はダンジョンの生態を管理し、採った魔物の素材を文明の発展に寄与させるのが仕事。それこそが尽きぬ魔王軍に勝つため、人間達が召喚などという拉致まがいの手段に頼ることなく選んだ道だ。努々忘れることないようにな」

「はい!」


 マギリアが真面目な顔をして冒険者の使命を教える。リンの元気な返事を聞いて満足して、彼女はポンと手を叩く。


「はーい難しい話終わり! 差し当たっては、リンにはダンジョンで己の身を守る術を身に着けてもらう。重戦士には体格が足りんし、魔法職は単騎向けじゃないし育成に時間がかかる。ということで軽戦士として育てて後の適正を見ることにする」

「それは俺も同意する! リン、一人前になるまでは不用意に魔物を寄せたりさせないからな!」


 率先して戦闘対応力を求めるなら、マギリアの言う方針が正しいのだろう。それでも一人前の冒険者になる前に万が一があっては先日彼を守った意味が無くなってしまう。合意の上とはいえ、育成にはこちらが細心の注意を払わなければならない。


「だから、独りで生きられるまでは私と寝食を共にしよう♪」

「待てい」


 マギリアが笑顔でそう言いながらリンを抱きかかえる。白い服に彼女の黒い長手袋が絡み、リンは照れて言葉を失っている。何も言えない彼をダン長は庇おうとする。


「待つんだマギリア。リン、歳はいくつだ?」

「12です」

「やはり見た目通りの歳だ! お前の格好で四六時中一緒にいるのはまずい!」


 マギリアの見た目は20代前半の若い女性のもの。それが10代前半の女装少年と同棲するというのだ。人を育てる以上ダンジョンの安全地帯に住まわせる他は無いが、ダン長にはどうしても拭いきれない不安の種があった。


「何がまずい?」


 彼女はリンを抱きしめたまま、ダン長の持つ懸念に自覚の無い様子でポカンと答える。


「マギリアの服の露出がまずい! 布面積のわりに脚も肩もヘソも出して、ソシャゲの女かお前は」

「肌の露わ加減がか? しかしなぁ、ダンジョンは魔物にとって家のようなもんだ。私だって街に遊びに行くときは村娘の格好をするから、家でくらい好きな格好をさせてくれよ」


 マギリアも言い返す。家でくらい好きな格好をさせてくれ、と。マギリアの衣装は長手袋や靴下などで手先足先は覆われているが、肩やヘソは露出し、スカートのスリットから脚が覗いているという少々刺激的なものだ。それでも、家の中なら好きな服を着ているのは誰かに咎められるものではない。


「その物言いが許されるのは一人暮らしだけだぞ。二人暮らししてリンがお前から悪いことを教わったらどうする?」

「悪いこと……?」

「リンがお前みたいな格好に目覚めたりとかだな!」


 ダン長も頑として譲らない。家に他人を住まわせて、まして年下の異性との同棲でそれは通用しないと。心配する先が若干ズレているような気がするが、それを指摘できる者はこの場にいなかった。


「なぁ、リンも恥ずかしいだろう? それに、その格好は嫌じゃないのか?」


 向こうも意地をはるのでダン長はマギリアの説得を諦め、リンに意見を求める。


「え? 師匠やダンジョンの皆さんが用意してくれた服だから、むしろ着れて嬉しいぐらいですけど」

「ん?」


 訝るダン長。山の中で長いこと暮らしていた彼は現代人より他者との関りが薄いため、服飾は男物はこう女物はこうあるべきといった常識に疎いのだろう。


「それと……この姿の僕を見た時にダン長に女の子って間違われてたの、おもしろかった……ふふ……ごめんなさい……」


 リンはきっぱりと自分の衣装が気に入ってると答える。おまけに性別を勘違いしていたダン長を笑みでからかってくる。吹き出したのを申し訳なく思ったのか顔を覆ってそっぽを向いてしまう。


(……礼儀正しいと思ってたけど、悪戯好きなところは年頃の子だな)


 からかわれながらもダン長は不思議と不愉快にならなかった。むしろ今までのリンの態度は子どもにしては折り目正しいものだった。山の中で病気の母を世話しながら生きてきたせいで大人びた性格になってしまったのだろう。そんな彼の素の性格は悪戯好きなことを知って、のびのび育つのならリンをダンジョンで育てるのもアリかとダン長は考えた。


「それはそうと、マギリアの服装の問題は別だ! もっと着込んでほしい!」


 リンの意見からの切り崩しを諦め、マギリアの露出問題解決は正攻法に戻る。


「そうは言うがなー、迷宮は地熱の影響で結構蒸し暑いんだ。群生地を照らす人工太陽(※)が地下から温めてるせいでな」

「地下に群生地? 人工太陽!?」

「知らんのか? 群生地は迷宮の地下だ。肝心の結界竜は更に下の層にいる」


 ダン長は今まで魔物を出し入れする群生地のことを、どこか迷宮に隣接などしていると思い込んでいた。迷宮の地下に仮の太陽を作って魔物達が育っているとは初耳だった。


「待った、その割に群生地も下層も俺が知覚できないんだが?」


 マギリアの説明にダン長は疑問に思った。目覚めて以来思い返しで得た知識の中には群生地についての情報が無いし、地下にあると聞いて現に群生地に顔を生やそうとしてみるが視界が開けることもなかったし、耳が地下での出来事の音を捉えることもなかった。


「それはそうだ。人間も怪我や特別な器具を使わずして、自分の骨や内臓を見ることは叶わないだろう?」

「言われてみれば確かにそうだ! いつか群生地や下層を見られるようになれるだろうか!?」

「なってもらわなきゃ私も困る。そのためにもダンジョンを取り巻く問題解決に取り掛かっていかなきゃな」

「今の問題がそれ言うか?」


 ダン長の当面の問題は、マギリアとリンの同棲に関する課題だった。彼女の言うには迷宮は地熱でそこそこ暑いらしい。熱さと寒さもわからなくなったダン長としては、その辺を無頓着に咎めてしまったのに申し訳なさもある。


「つまりだ、迷宮の風通しを良くして涼しくなればリンの前でいかがわしい格好をしないわけだ」

「ほほう、どうやって風通しをよくするのかわからんが考えてやろう」


 リンを抱っこしたままでマギリアはニヤニヤと笑う。ダン長が何をするのかを楽しみに待っているのだろう。


「見てろ、自由にダンジョンを作り替えるダン長としての初仕事だ! まずは魔物と罠を退避させて……」


 彼は召喚直後にダンジョンで死んでから100年、核である循環器と同化したらしくダンジョンを操作する力を得た。一部を除く魔物の操作と召喚・退散、罠の出し入れ、物質の操作を司ることができる。まずは、動くダンジョンに巻き込まれないよう、自然に出ている魔物を地下の群生地に避難させる。脳内の地図を展開させ、魔物の反応がある場所に顔を生やしては片付けるが、従う理性の無い分は仕方ないが諦める。


「避難完了。迷宮を見て回ったが、冒険者もこの分なら今日は探索はしていないみたいだな。次は動かして罠が誤作動しないよう全部片づける」


 ダン長の次の作業は罠の撤去。彼は罠はどこから来てどこに行くのか気にかかったが、群生地か下層に罠をまとめて置いておく場所でもあるのだろうと結論付けた。先程の作業と同様に罠を片付けていき、迷宮から罠が無くなったことを確認する。


「最後は物体操作だ、二人とも軒下まで下がってくれ! 迷宮としてどうかと思うが窓や吹き抜けと天窓を増やして空気の通り道を作れば……」


 加えてダン長は壁や天井など、物質を自由に操作することもできる。地熱により迷宮が蒸されるのなら、外壁に窓を作って空気を入れ、吹き抜けを作りそこに窓を設ける。そうすれば温められて上昇する空気の逃げ場が生まれて温度は下がる。彼は脳内地図の適当な場所に顔をつけ、そこから外壁の石材と土壁をバリバリと剥がす。そして天井も同時に崩す。まずは暑いと文句を言う当の本人の家の周りの天井をあちこち崩した。そして崩れた周囲から石材を組み上げて高い部分を――


(ん……? 変だな……目の前が暗く……)


 その時、ダン長に異常事態が発生した。複数個開いていた視界の全てが急にブラックアウトし、ダンジョンは自分の操作を受け付けなくなる。吹き抜けを作るための天井工事の最中に、一塊の重たい土や石材を動かす手を止めてしまえばどうなるか、わかっていてもダン長にはどうすることもできなかった。


「おいおい、ちょっとこれマズいんじゃ……」

「ダン長……どうしたんです!?」


 様子を黙って見物していたマギリアとリンは困惑した。先ほどまで会話していた目の高さに浮いた石塊が重力に引かれて床に落ち、それに続いて迷宮の各地からガラガラと致命的な何かが崩落する音が聞こえる。


「…………」

「ダン長、しっかりしてください! ダン長!」

「やれやれ、迷宮中の魔物の使役に罠の撤去に大掛かりな地形操作……一度にやったら魔力も尽きて当然だ。回復までそうしていろ」


 力の抜けた石ころの前に座りこんで声をかけるリンと、立ったまま呆れかえるマギリア。こうして、ダン長の初仕事は迷宮崩落というさんざんな結果に終わったのだった。



(※読まないでください)

「ちなみに人工太陽というのはだな! 手早く言えば私が構築した群生地の地上を照らす熱と光をもたらす大魔術だ。私が来た時の従来の照明は群生地の天蓋に1つだけの大きなものしかなかったんだ。人間達が入植を始めた頃に製作したオンオフしかない簡素なものだったが、私はそのシステムに大掛かりな改修を加えて12セットに分割したんだ。朝の6時から夕方6時にかけて照らす魔鉱石が天蓋の東から西へ移っていくんだ。魔鉱石のオンオフは1つあたり5分を示す12個の小さな石の光が一周する間に行われる。魔鉱石はそれぞれを示す時刻になる10分前から光り始め、50分に達してから消え始めることで、常に一定の光量を保っているんだ。それの光を辿れば群生地においても時刻がわかるという寸法だ! しかし12時間もの間、群生地を照らし続ける大魔術なんて私一人の魔力ではとても賄えない。そこでここに住む魔物からわずかずつ魔力を吸い続けるように吸魔魔術をエンチャントしたんだ。地下で太陽の恩恵に預かるための税のようなものだな! しかし逞しいのは人間だ。人工太陽の列に隣接するように地下水路を設けて、それをミルス村にひいたんだ。温められて魔力を帯びた水が村に届く頃には風呂にちょうどいいぬるさになっていて、この魔力温泉を村の観光資源にしてしまったんだな! 冒険で使った魔力を手早く補充できることから主に魔術師達に評判が良くて、もちろん私も遊びに行く時は必ず浸かっているな!」

【迷宮崩落】

 ダン長は己の立てた目標を守護モンスターの魔女・マギリアと確認しながらも、彼女に弟子入りしたばかりか女装を続けるリンの格好に物申す。12歳のリンには誘惑が多い露出度だとダン長は抗議するも、マギリアはダンジョン地下の群生地を照らす人工太陽の影響で迷宮内は常に温かいと反論する。ならば風通しを良くしようとダン長はダンジョンの地形を丸ごと操作しようとするも、魔力切れを起こして中途半端なところで強制中断してしまい、迷宮の天井が崩落してしまう。

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