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6話 おはようダンジョン 6/6

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

「隊長、お体の方は……」

「うるさい!」


 1時間後。魔女の家の前に座り込む5つの人影と1個の石材があった。合流した冒険者達は互いの無事を確認し合う。その中でも隊長はハンモック状態で眠っていたのが恥ずかしいのか、気遣う部下への語気が強くなっている。


「しかし、生きて喋るダンジョンなんて初めて見るっスよ。勝手に罠ができたり魔物が出てきたりするわけだよ」

「初めましてだな、ダンジョンの長ことダン長だ。本名は忘れたのでそう呼ばれてしまうようになった」

「ちょっとかわいいかも」


 意思持つダンジョンはこの大陸でも前代未聞らしく、若い軽戦士と神官が興味ありげにダン長を刻んだ石を触っている。


「さて、こちらはおそらく君たちが探している子を保護しているわけだが……どういう事情でこの迷宮まで探しにきたか教えてもらおう」


 マギリアが質問を切り出す。リンを引き渡すかどうか、有利な条件でそれを選ぶための戦いだった。目的の人間を見せる前にまずは相手の素性を知らなければならない。


「俺たちはある者からダンジョンに迷い込んだ子どもの救出を依頼されて、街から来た冒険者だ」


 隊長が代表して口を開く。ダン長とマギリアは、彼らは少なくとも子どもに危害を加えるつもりでダンジョンに踏み込んだわけではないと知ってひとまずは安堵する。


「あー、街の冒険者か。通りで実力のわりに見覚えの無い連中のわけだ。それである者とは?」


 マギリアが先程の供述でひっかかる部分を問い詰める。依頼人は袋に入れて拉致されたはずのリンが迷宮にいることを知ってて依頼をした。そいつが一連の騒動の黒幕である可能性が高いのだ。


「名義はリンの母君だった。自分のために薬草を探しにこの迷宮に行ってしまったという」

「薬草……まぁうちのダンジョンに何種類かはあるが、リンが誘拐されたのは母親が死んでからだ。母親の薬を探しにって依頼とは時系列が合わない」

「ああ。リンの家に行くと、母君が床に伏せっていた。だが、そこでうちのヒルデが魔術が行使された不審な痕跡を感知してな」


 ヒルデと呼ばれた魔術師が答える。彼女は魔物の気配探知に優れ、探索中も索敵を務めていた。


「その依頼人、魔物……アークメイジだったのよ。魔王崇拝派だったそいつは、あの子の母さんの死体を魔術で隠して化けていた」

「俺たち、そいつを倒してから来たんスよ」


 魔術の痕跡ひとつで依頼人に対して魔物探知をしてくるほど慎重な冒険者が来るとは思わなかったのだろう、気配を見抜かれた魔物は冒険者一行に襲い掛かったが返り討ちにあって拘束された。尋問の末に近所の人間に金を握らせて『いなくなっても問題ない人間』を紹介させたということを聞き出した。

 すると、幼い木こりと病気で先の長くない母の家の情報を聞いてこの家庭を標的にした。ここなら子どもの方を誘拐しても、母は探しに行けない。魔物が案内された家に行くと母親は既に死んでいたので余計に都合がよかった。そうしてリンを眠らせて袋に気配遮断の魔術をかけて洞窟に放置し、母親に成りすまして依頼をしたという。魔物を始末して、誘拐された子どもを急いで探しに来たという。


「袋に気配遮断の魔術……袋の中で眠っている間に私達に発見されないようにか。袋から出て外に出ようと彷徨った所を魔物に殺させようと念入りにやりおって」

「これは……リンには聞かせられないな……」


 冒険者達の供述を聞いて怒りを覚える二人。リンの命を奪おうとし、さらに母親との最期の別れを邪魔したことの報いは冒険者達が受けさせてくれた。しかし、近所の人間に売られていたことはショッキングな事実だろう。


「しかし、なんであの魔物はわざわざ母ちゃんのフリして依頼なんかをしたんっスかね?」

「君たち冒険者一行にリンの死体を発見させて、危険性を煽る噂を広げてダンジョンの評判を落とそうとしたという線が強いな」


 軽戦士の疑問に返すマギリアの言葉に冒険者達がざわめくも、いち早く敵の真意を洞察した隊長が答える。


「なるほど。通りで急ぎの割に遠い方の街にまでクエストを持ってきたわけだ……噂を持ち帰る先は人が多い所の方が効果的だからな」


 休戦を経てダンジョンを巡る魔王軍と人間の戦争の形が変わっている空気は、現場の冒険者達にも伝わっているようだ。ダンジョンの魔素を返す返さないでせめぎ合いをしていることはラビス迷宮基地に限った話ではないらしい。


「ほほう、察しのいい冒険者で助かる。いやぁ済まなかった。私はリンを傷つけた黒幕を退治してくれた無実の冒険者をつい捕縛してしまったようだ」


 マギリアが相手の白黒がわからなかったとはいえ、ダン長と協力して誤認逮捕をしてしまったことを謝罪する。


「なあに、先程奇襲を受けた時は驚いたが、我々が間に合わずリンが死んでいては母君の魂の安寧も脅かされていただろう。そしてお主らが無事を確保していなかったら、俺達はダンジョンの悪評を広める魔物の策に乗せられていたところだった!」


 隊長が彼女の謝罪に応じて自らの気持ちを語る。その言葉にはリンを保護してくれたダン長や守護モンスターへの感謝はあれど、自分達を捕えたことへの非難の気持ちは微塵もなかった。この感情も誰の血も流さずに事を収められた結果であることは言うまでもないだろう。


「あまり根に持たないタイプで助かる。まぁ始めにリンを保護してくれたのは他でもない、このダン長なんだがな」

「なるほど、ダン長よ! リンを我々がたどり着くまで守ってくれて感謝する!」


 ことの顛末を全て理解した両者が笑みを浮かべる。ダンジョンでリンが死んでしまえば魔物の目論見通りだった。事情を知る前に探しに来た冒険者達に犠牲を出してたら遺恨を残していたかもしれない。ダン長のおかげでそれがどちらも解決できたのだ。


「ところで、当の本人は?」

「あぁそうだ、もうこっちも終わっているよな」


 隊長がリンの無事について話を振る。こちらも、もし冒険者が白だった場合にきちんと引き渡す際に『手厚く保護している』ことの証明のために他の守護モンスター達に身なりを綺麗にするように依頼していたのだ。魔女の家の中に顔を生やし、中で作業をしているであろうキャンディと連絡をする。


「あらぁダン長ちゃん? そっちはもう終わったかしら?」

「ああ、冒険者の皆さんも白だとわかった。リンを出していいぞ」

「それはよかったわぁ! リンちゃん、ご挨拶しましょ!」


 それを聞いて喜色満面のキャンディがリンを呼びに奥の部屋に行った。それを見送ったダン長は魔女の家の前の5人の下へ戻る。


「大丈夫だそうだ、じきに出てくる」


 ダン長の報告に安心して胸をなで降ろす冒険者一行。待つこと数秒、リンが扉の向こうから現れる。


(何この娘!?)


 ダン長は目を疑った。先ほどまではボロボロの様子を見ていたせいもあってか、そのギャップはダン長にとってはひとしおだった。ヨレヨレの銀髪は滑らかにとかされ、頭の高い位置の二つ結びに整えられている。泥汚れの目立った顔も丁寧に洗われ、白い肌と淡い緑色の目が映える。着ている服も纏っていたボロ布とうってかわって、白を基調とした簡素な装飾の清潔なワンピースと靴に身を包んでいた。


(綺麗にしてとは言ったけど、ここまでしろとは……仮にもダンジョンに来るような格好ではない!)


 身体を拭いて髪をとかす程度のケアを期待していたダン長は、驚きに顔が硬直した。それを知らずか、リンは冒険者達の前に現れて礼を述べる。その様子になぜか冒険者一行もなにか困惑している。


「あの……僕を探してくれてありがとうございます」

「えっと……君がリンくんかね?」

「はい」

「……母親の名前はミラで間違ってないか?」

「はい」


 念願の救助対象との邂逅というのに、やりとりがたどたどしく隊長の表情が硬い。ひょっとしてここまで来て人違いをしてしまったということはないだろうか、とダン長は不安を覚える。


「……近所の者から君は『息子』と聞いたんだが」

「はい」

「キャンディ! キルト! 説明しろォ!!!」


 ダン長は着せ替えを行わせた守護モンスターの2体を呼び出した。ちょっと見た目が中性的といっても、こいつらはこの子を風呂に入れて着せ替えをしたのだ。男とわかって彼(?)にこんな格好をさせたのかと憤る。召喚に応じてやって来た彼らは堂々と回答する。


「あらやだ、脱がす前から一目見て気づいてたわよ? でも、男か女なんかに捉われずにリンちゃんの素材が一番活きるメイクをするのがアタシ流よ! 任せたのはダン長ちゃんじゃなぁい?」

「この場にある服で丈詰めが間に合うのがマギリアのおさがりだっただけだ。我輩やキャンディの服は大きすぎて入らないからな。それともキャンディの妹共の服の方がよかったか?」

(くっ……言い返せない!)


 両者の悪びれない供述を受けて、ダン長は彼らの価値観を信じて全面的に任せた自分に非があると反省した。


「はっはっは、我々を的確に罠にかけてきたダン長殿もまたひっかかったようだな!」

(まったくだ、トラップにかけてたこっちの手元にいたのがとんだトラップ(=男の娘)だ!)


 隊長が哄笑の声にダン長が心の中でツッコミを入れる。


「さて、話が変わるが私が君たちを生かして捕えたかった理由は他にもあるんだ。ダン長にとっても他人事じゃないから聞いてくれ」


 リンの女装について詰問を続けようとしたダン長は、己の身体を手に取ったマギリアに話を遮られる。


「理由?」


 隊長が聞き返す。マギリアの目つきは、これまでにないほど真剣なものになっていた。


「君たちに、いつか目覚めるうちのダンジョンで一番強い奴を討伐する時の手伝いをして欲しいんだ。そのために仲良くなって協力してくれる強力な戦力が欲しい」

「一番強い奴……もしや、このダンジョンのボスか?」

(ボス……皆の表情が一変した……?)


 ボスの存在を予想して冒険者の一行の表情が固まる。マギリアの提案はそんなに突飛なことなのだろうかと、ダン長はこのダンジョンのボスに対して想起を試してみたものの知識が入ってくることはなかった。それはつまり、ダン長にこのダンジョンのボスとの接触が全くなかったことを意味する。


「あぁ、ここのボスはかつて強力なマレビトに追い詰められ、誰にも解除できない結界を張って閉じこもってる強力なドラゴンだ。魔王を深く崇拝してるやつで、恐らく戦争が終わったことも知らない。こいつが目覚めたら暴れて人間の街に攻め込むことは簡単に予想ができる。そうなる前に私は膨大な魔素を死蔵するこいつを倒してダンジョンを肥やしたい」


 マギリアがもしも冒険者達が『白』だった場合に考えていた計画は、ダンジョンのボスを討伐するものだった。それを初めて聞いたダン長は、ふと当然と言えば当然の疑問を投げかける。


「人間達は倒すよう動かなかったのか?」

「あー、最初こそは目覚めに備えて腕利きの冒険者達が駐留していたさ。だが休戦後10年……20年……30年……奴の復活を待っているうちにその冒険者も何度も代替わりをし、いつ目覚めるも定かではないヤツに対策は無駄だと決めてしまった。人間が大掛かりに動くのはドラゴンが暴れてからになるだろうな」


 マギリアはそうなる前にボスを排除したいので、今回知り合った冒険者をその戦力に加えようと計画していることを伝えた。この話しぶりからして彼女はダン長が目覚める前から、こうやって水面下で仲間を集めて一番強い魔物に備えようとしているのは明白だった。


「了解した、ドラゴンが目覚めたら我々に連絡してくれ」

「ありがとう、そいつが今から何年後になるかわからないが信用させてもらうよ。もしくはこっちから結界を外せて攻め込める算段がついた時もな。それでダン長? お前さんが消える方法についても大事なことだ」

「俺の消える方法に何か関係が?」 


 ダン長はマギリアが自分が消える方法について正直に述べることに困惑した。


「簡単な話だ、迷宮基地のボスは超強力な結界を張ってダンジョンの最下層に居座っちまってるが、ラビス迷宮基地の循環器もそこにあるんだ。ダンジョンと同化したダン長も、こいつを壊せばあるいは……」

「俺が成仏できるのか!」

「一番高い可能性を言ったまでだ。ちなみに、さっきも言ったが奴はバリバリの武闘派だ。自然にやつが復活すれば村や街を襲い人々を虐殺し、危険性を再確認した人間はダンジョンごと葬り去るだろう。おお、そうすればダン長も道連れで逝くべきところやらに逝けるだろうな」

「そんな犠牲を払う手段を選ぶわけないだろう!」

(そういうことか……マギリアは危険なボスを倒したいが、ボスを倒せば自ずと俺の生殺与奪を自由にできる循環器がこちらの手元に手に入るわけだ)


 ダン長はマギリアの易きに流れる解決案を拒否しながらも考えた。ダンジョンから危険なドラゴンを排除する。そこまでのマギリアとダン長の目的は一致していたが、その後の道は真逆に別たれていた。


(これからやることが見えたな、ダンジョンを運営して味方を集めてドラゴンを倒す。そうして循環器を破壊して俺はこの世界から去る! しかし魔王とやらにただ魔素を返してやるのも後味が悪い。どうにかして納得できる終わり方を……)

(循環器と道連れにダン長をそのまま望み通りに逝かすわけにはいかん。だがダン長をドラゴン討伐に向かわせるには、循環器入手という餌が必要になる。どうにかして奴を倒すまでに彼に心変わりさせる手段を探さないとなぁ)


 自分を終わらせようとする者と続けさせようとする者、ダンジョン運営を巡り両者の思惑はどのような結末をたどるのか。

【おはようダンジョン 6/6】

 無力化した冒険者のパーティを魔女の家の前に集めて事情聴取を行うダン長とマギリアだが、冒険者達は依頼人の正体を看破した上でリンが心配で探しに来た白と判明。目的のリンが男の子と知らなかったダン長と、彼を女装させたことに悪びれもしない守護モンスター達とのやりとりを尻目に、マギリアは最奥で結界を張って眠る好戦派のボスを倒す為に冒険者一行をスカウトする。彼女はダン長の協力も目論見、ダンジョンコアたる循環器を破壊すればダン長が消えられる可能性を示唆して討伐に協力させる。

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