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8話 たのしいダンジョン工事

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

ダンジョン運営初日でダン長は魔力を使いすぎて切らしてしまい、工事中の迷宮の天井や壁を落としてしまう。


「ほほう、もう起きたか?」


 硬直していた石がピクリと動いたことを見て、魔女が声をかける。魔女の家の前で己を宿していた石に、ダン長の視覚と聴覚が蘇る。


「……いったいこれは?」

「ダン長は魔力切れを起こしたんだよ。そのせいで迷宮の操作が強制終了した」

「リンはどこだ?」


 ダン長は目の前に柑子色の髪と金の目を持つ魔女、マギリアがいる。しかし意識が消える前に一緒にいた銀髪緑眼の少年、リンがいない。


「後ろ」


 それを聞いて振り向くと、目の前には白いスカートから伸びる2本の脚があった。驚いて上を向くと自分を心配そうに見下ろしているリンの顔が映る。


「よかったです……」


 ダン長はどうやらリンが自分を膝に乗せて介抱(?)していたことに気が付いた。ダン長が意識を取り戻したのに安心して息をつく。


「心配かけてしまったな! すまん!」

(俺としたことが魔力をいくら使っても切れないものだと慢心していた……しかし、俺の魔力と循環器の魔素とは無関係のようだな。魔力切れを起こせば消えるのではないかという期待がどこかにあったのだろうか、少し残念でもある)


 ダン長は心配をかけたことを謝りながらも、魔力の浪費が自分の成仏ショートカットには至らないことを理解してしまう。目が覚めたダン長にマギリアが話しかける。


「それで、気分はどうだ?」

「なんか、視界の四隅が暗い」


 ダン長は取り戻した視覚の異常に自覚した。真正面に見据えたものはまだハッキリわかるが、どうも視界の端に映る箇所がどれも暗い。ダン長は生前遊んでいたアクションゲームで自分が操作キャラの体力が減って来た時に、自分の限界が近づくにつれ視界がぼやけたり狭まったりする仕様に近いものだと解釈する。


「少し待ってくれ、どこまで工事が進んだか確認する…………やっちまったッ!!」


 彼は先程手を加えた場所に顔を生やして各地の状況を確認し、迷宮の作り替えを急いだことを後悔した。魔女の家の真正面も含めた数カ所の天井は、まるで隕石でも落ちたかのように崩れ落ちて見るも無惨な様相を呈していた。冒険者に見られでもしていたら、迷宮が崩壊したと噂されていただろう。


「して、様子はどうだった?」

「地形操作をしていたところが全部崩れた……全く面目ない! ダンジョンがあったら入りたい!」


 ダン長は天井を派手に破壊してしまったことを正直に報告する。前は天井を二カ所乱暴に落としただけで勢い任せに動かしても問題なかったが、工事経験の無いズブの素人に、繊細な石の組み直しは無理があるのは明白だった。


「うわっ! 雨が降って来た!?」

 

 穴の開いた天井からポツポツと雨が流れ込んで来た。ダン長には今まで外の天気どころか、今が朝なのか夜なのかすらもわからなかった。天井の穴から降った雨が迷宮の床を濡らし始めることで、ようやく彼にもわかるようになったのだ。


「ひとまず……退散だな!」


 ダン長はリンに抱えられ、マギリアと共に魔女の家の中に戻った。彼に抱えられ揺れる石壁を視界に捉えながら、気が付いた。先ほど同時に壁に顔を生やした分だけ、視界の暗い影が少しだけ面積を広げていることに気が付く。







「俺の魔力が切れてくるとな、減るに従って視界の端から暗くなっていく。おそらくこれが完全に暗くなると魔力切れを起こして、ある程度回復するまでスリープ状態になる。こうやって石1つを動かしてる間は暗さの割合が変動しない」

「ほほう、つまり消費と自然回復がちょうど釣り合うのが石1つ分の操作状態というわけか。これで己の能力の理解に向けて一歩前進じゃないか! それに私の家の前もちゃーんと涼しくなったしな」

「うぐぐ……それは済まないことをした」

「えっと……その……」


 魔女の家の中で話す2人と1個。皮肉交じりにダン長のしでかしたことを語るマギリア、失態に立つ瀬が無いダン長、どう声をかければいいか戸惑うリンだ。


「しかし今が夜だと思わなかった。空が開けた天井のおかげで初めて空が見えたが、月も星も隠れた雨雲だらけのほぼ真っ黒な夜空だったとは」

「そう見えているのか……ダン長? 窓を作ったらしいけど外の様子はどう見える?」


 ダン長の初めて見た夜空の感想から、マギリアから率直な質問がかえってくる。


「窓……崩れた外壁から外は見えない。南に開いている迷宮の出口もだ。迷宮入り口の境界にある石の門より外は真っ暗な空間が広がっていて外の様子も見えないし、外で起こっている音は何も聞こえてこない。今が夜で雨が降っているだなんてさっき初めてわかったばかりだ」

「群生地と同じで迷宮の外は何も知覚できない状態、か……まぁ失敗は成功の母と言うじゃないか!」

「……そうだな」


 確かに、魔力には限りがあること、尽きかけるとどうなるか、ダンジョンの外を見ることはできないこと、今回の失敗で自己の能力を知ることはできた。ダン長はマギリアに励まされて少しだけ元気を取り戻した。微笑んだ彼女が家の窓から迷宮の開いた天井を眺める。


「ひとまず雨は止んだようだが、また降り出されても困るな。本格的な修繕は村に工事を手配するとして、家の前だけでも応急処置はしておきたいな」

「工事は人間にやってもらうのか」

「さすがに大がかりなやつはな」


 マギリアが自分の家の心配をした。たしかにこれを放置して翌日に川が氾濫するような大雨が降れば家の中も浸水する可能性がある。フードを脱いで立ち上がる彼女の腕に、リンの指が当たる。


「師匠、師匠!」

「ん?」


 リンがマギリアを呼び止める。どうやら彼には何か考えがあるようだ。


「○××○△……」

「ほほう、それはいい考えだ」

(なんだ? 何を喋ったリン!?)


 一瞬だけこちらを見たリンが、マギリアに耳打ちをする。ダン長にはその内容を窺い知る手段は無いが、リンが内緒で何かを打診してマギリアが了承したのは確かなようで、彼らは軍手のような手袋や雑巾、工具類などを物置から探して用意を始める。


(修理するっぽいけど……俺をどうしようって言うんだ……)

「さ、ダン長! 行きましょう!」


 魔力切れ寸前のために自力で洞窟の修繕ができないダン長は、自分をひっつかんで運ぶリンにされるがままになるほかなかった。







「それにしてもダン長、冒険者ってすごいですね」


 修復作業の最中、木製の脚立に登り、崩れそうな天井の石材を棒で突き落しながらリンはダン長に話しかける。


「すごい?」

「僕を探しに来てくれた冒険者の皆さん、師匠と一緒に母さんのお墓まで作ってくれました。払えるお金なんてうちにはなかったのに」

「……ああ、リンを探しに来た人たちか」


 ダン長は先日の出来事を思い出す。冒険者はリンを預かった後、マギリアと同行して一旦彼を家に帰した。その時にどういうやりとりがあったかはダン長は知るすべは無いが、結果的にリンはこちらへやってきた。そして彼らは病死したリンの母親の遺体を埋めてお墓を作ってくれたようだ。冒険者と守護モンスター達で口裏を合わせてくれたのか、近所の人間によって魔王崇拝派の魔物に売られたことは彼は知らないようだ。その近所の人間は口裏合わせの為に『ダンジョンを陥れる策を思いついた魔物に連れていかれるところを見つけて、慌てて冒険者に助けを求めた依頼人』に仕立て上げた。そうすることで彼を裁くことはできなくなったが、その代わりに次は無いと冒険者達は釘を刺しておいた。


「一人で母さんを埋めてたら、きっとあの身体の冷たさに耐えられなかったかもしれません。だから、あんな冒険者の人達は僕の憧れになったんです」

「そうか、俺も出来る限りのことは応援するぞ! ……それにしても、マギリアも墓を作ってくれたのか」


 ダンジョンの外を知覚することができないダン長は、当然外で起こる出来事に干渉することもできない。冒険者と守護モンスターがダンジョンを出た後のことも含めてリンを助けてくれたことに安心した。当の彼女本人は杖の束を広げ、水属性の魔術だろうか降りこんでいた雨水を一カ所に集めていたが、自分の名前が話題に出たのかこちらに振り返った。


「何を言ってるんだか……墓なんて私は手伝ってないぞ。齢百を超えるクールな魔女たる私がいまさらダンジョンに関係ない人間の生き死にになぞ興味持つか」

「師匠……」


 自分が墓を作ったと聞いて否定してくるマギリア。「なんで?」という疑惑の目で見返すリンだが、その表情から彼女がクールぶっていらん嘘ついてるのは明らかに見て取れた。確認のためダン長も彼女の持ち物リストをチェックしてみる。


「マギリア、花瓶に活けてた花どこやった?」

「は? 供えてないが?」

(供えたんだな、リン?)

(はい、供えてくれてました。真っ先に)


 先日の冒険者撃退作戦の時に見たマギリアの持ち物リスト。その中で花瓶に活けていた花がごっそり無くなっていたことを察知する。聞いてもないことを否定するマギリアの自供を聞いて、小声で確認しあうダン長とリン。この話題を続けても仕方が無くなったので2人は黙々と作業に戻ることとなった。


 作業を始めてから数十分が経過したあたりで、ダン長は作業の違和感に気が付く。事故に備えて落ちそうな天井の石材を予め落としておくのは安全上の理由から理解できる。しかし、それどころかリンはその部分以外の石材もどんどん突き落しはじめた。その行為をマギリアは咎めるでもなく開けてしまった穴の周囲の壁を土属性らしき魔術で崩している。リンが頭上一帯の天井の石材を片付けると、次の場所を見定めて降りて脚立をそこまで動かす。


(これじゃあ、天井の穴をむしろ広げてないか?)


 応急処置は開けてしまった穴を塞ぐものかとばかりダン長は思っていたが、二人のやっていることはその真逆で穴を広げて広げた場所周りの壁を取り壊している。天井を諦めて、家の前をため池にでもするつもりだろうかと推測する。


「ん……あとちょっと……」

「リン、それは無茶せずに一度降りて脚立の場所変えてから……」


 作業の最中、リンは脚立の最上段に両足を乗せてやや遠くの石を落としにかかっていた。届くか否かのきわどい範囲だが、ダン長は脚を滑らせる事故が心配で、近くに脚立を立て直すのを提案する。


「でも、この一角はこれで最後ですし……わっ!?」


 しかし、突き出した棒がリンの目算を外れて強く石に当たり、反動で彼の身体が後ろによろける。果たして脚立から足を踏み外してしまい、細い身体が空中に躍り出る。


(いかん、リンが落ちてしまう! マギリアはこっちに気づいてない、だから誰か召喚……)

 

 重力に任せて背中から落下するまでに落下地点を見定めて助けられる魔物を呼ぼうとする。ダン長が念じれば魔物を使役はできるものの、再びの魔力切れまでにどれだけコントロールできるかがわからないので、確実に信用できるものを呼ぶ必要がある。

 

(来てくれキャンディ、リンが危ない)

「いいわよん!!!」


 その瞬間、リンの落下地点に光の柱が現れて、重力に従って落ちていた身体はその光に押しとどめられる。光が収まってから見えた光景は、リンが丸太のような浅黒い腕に抱えられている姿であった。

【たのしいダンジョン工事】

 魔力切れから復活したダン長は、迷宮の崩落で己が空けてしまった天井から雨が降ってきたことで天気の変化に初めて気が付く。雨が降り止んだ後、リンの助言を得たマギリアが応急処置をしに外の修繕を始める。その作業の最中、リンが母との別れを妨害し、さらに自分を殺めようとした魔物を退治してくれた冒険者に憧れを抱いていることを知る。

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