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58話 黒炎の領主と継承の儀式⑮(結) 試練の終わりに

今章は試練の洞窟編の最終話です。次はまた短編を挟みながら長編の練り直しをします。

 隣領の跡継ぎ争いに利用されたラビス迷宮基地。それに対してダン長達が用意した試練の洞窟は、予定外の魔物の乱入により中断となった。魔物の出所が挑戦者で領主代理のスパーダが持つ剣であったことから、それを管理していた老臣のディエトロに関与の疑いがかかる。ダン長達は談話スペースにて彼への尋問を始め、マギリアの術式分析とキルトの情報提供によって容疑は揺るがぬものとなった。

 企みが破れ、拘束を余儀なくされたディエトロは開き直り――


「……先代様が上手く統治さえできていれば儂とて何も……じゃが、腕ばかり達者な奴は失政を繰り返し、領地を切り取られ続けた! 挙句の果てに正室の子と側室の子を平等に愛し、坊ちゃまのような思い上がりを生みおった!」


 キャニュオン領は治世が思うようにいかず、支援の見返りに周囲の領主にダンジョンを譲り渡した経緯があった。『勝手知ったる故郷だから』と臣下として領地に帰ってきたディエトロは、長いことそれを横で見てきた。その尻拭いを繰り返しながら、彼の心には次第に野心が芽生えていった。

 領主の血統を己の血筋に取り戻し、実権を握る。その執念が実を結び、野心を嗅ぎとられることなく己の息子と正室の娘・ファルチェの婚姻を取りつけることができた。ところが彼女の成人を控えたある日、代理を務めていたスパーダが伝統を無視し、正式な領主になるよう動き出した。ところが若い世代の領民達は、それを良しとしている。

 スパーダの血筋が本流となればその婚姻の意味が失せる。ディエトロにとっては、万に一つでも彼が領主になっては困るのだった。


「民の安定の為に、実権を儂の家系に取り戻さなければならんのじゃ!」

「……綺麗事を言ったところで、やろうとしたことは暗殺だろう。そもそも、恨むなら領に攻め込んだ魔王軍を恨むべきじゃないか」


 机を叩き己の正義を主張するディエトロ。それを聞くマギリアは呆れ顔で逆恨みと断ずる。


「黙れ! 領と運命を共にした父を置いて脱出させられ、戦うことすら許されなかった儂の気持ちがわかるか! もう少し儂が早く生まれておれば……!」


 戦争が終わったのが50年以上前ともなれば、旧キャニュオン領が魔王軍に滅ぼされたのはさらに前だ。今ここで喚く老爺も当時はまだ幼く、魔王軍との戦いに加われなかった。


「開き直って本音が出たか。よかったなスパーダ、暗殺計画がバレた以上こやつは失脚……異母妹側を推す勢力にとっては大痛手だ」

「……」


 本性を現したディエトロを睨みつけながら、キルトがスパーダの方に声をかける。事が明るみになれば首謀者の一家にも累が及び、ファルチェとの婚姻も解消となる。正室側を推す勢力の中枢を失えば、スパーダ側の体制はより盤石なものとなる。

 しかし、それにもかかわらず彼は浮かない顔のまま沈黙している。


「だいたいよぉ、親父にムカついたからって、そのガキを殺そうってのはなんか違うだろ!」


 ようやく合法的に処罰できると、ディエトロの胸倉をつかみ上げるフリッカ。ダン長とリン、守護モンスター達が揃い踏みしたこの状態では、もはや彼に万に一つの勝機も無い。先程の威勢で全白状したのは、詰みを覚悟したからこその開き直りであった。


「それは違うよ、フリッカ君」

「あー?」


 詰め寄ったフリッカは、あろうことか当の被害者の言葉で制された。逆恨みをする相手の言い分を認めるスパーダを理解できず、彼女は眉をしかめる。


「リンには一度話しただろう。庶民と違って、貴族の僕は受け継ぐべきものの重みが違うのだよ。それが負の感情でも、父への憎しみは僕への憎しみだ」

「スパーダ……」


 最終試練にて横でスパーダの語りを聞いていたダン長は、改めて彼の領を受け継ぐ覚悟の強さを思い知る。


「それにじいやは、暗殺に思い至ったのは僕が領主継続を願ったからと言ってたろう? 僕がファルチェ可愛さに提案などしなければ、じいやは忠実な臣下であり続けていたかもしれないのに」

「スパーダさん、だってそれは妹さんのために……」


 己を非を語るスパーダにリンが反論する。領主になったら身が持たなくなるであろう、異母妹のファルチェを想っての提案を知っているだけに、肩入れする気持ちもひとしおだった。


「ああ。だが、じいやの憎しみは継がせはしない。ここで清算しよう」


 スパーダは隣にいたリンの懐からナイフを抜き取り、机に投げた。刃は机に刺さり、あたかも『引き抜いて使え』と言わんばかりに柄をディエトロの眼前に向けられた。


「魔女殿の計らいを通じて明るみになったのはむしろ僥倖! じいや、僕と決闘しよう」

「なっ……」

「勝った者だけがキャニュオン領に帰る! もしも僕を殺せたら、ダンジョンの魔物に殺されたとでも故郷で好きに吹聴するがいい!」


 武器を手渡して決闘を申し込むスパーダに驚く一同。武芸の名門であるキャニュオン領主と老臣では、普通では勝負にならない。しかし本来の強者は丸腰の上に満身創痍だ。どちらが有利かは判断しがたい。


「永久の別れの前に言いたいことがある。ディエトロは自分がもっと早く生まれていればと嘆いていたが、僕はそうは思わないよ。もし戦死していたら、今まで二代にわたり仕えてくれた臣下はいなかっただろう」


 命の危機に陥れられたことを知ってなお、その張本人に感謝の意を伝えるスパーダ。


「……スパーダ様は先代様よりもずっと清廉であられる。だがその性格では今後、権謀術数の世界を生き抜いてはいけぬでしょう」


 ディエトロは『引導を渡してやろう』と机からナイフを抜き取り、スパーダに向けて構えながら立ち上がる。唐突な決闘宣言に場の空気は急激に張り詰める。


「さあ魔女殿、合図を頼むよ!」

「頭冷やせアホ共がー!」

「「ぐわーーー!?」」


 合図を求められたマギリアは、怒りの咆哮と共に2人へ杖を向け電撃魔術を浴びせる。死なない程度の電気を浴びて、スパーダとディエトロはその場に崩れ落ちた。


「ノリと勢いに酔って何をヤケになってるんだ! ダン長と私達が用意した試練を無駄にする気か!!」

「魔女殿……」


 髪の先をチリチリに焦がしながらかろうじて返答するスパーダ。ディエトロの方は完全に気絶したらしく、フリッカにつつかれている。


「スパーダ様……拙者、スパーダ様がこんなやつに殺されてたら……絶対故郷で黙ってませんよ!」

「サキ……」


 キルトの横で簀巻きになっていたサキが、主君へ向けて思いを告げる。強引に決闘の提案をしたところで、立会人が秘密を守る保証が無い。なにより守護モンスターが、ダンジョン内での冒険者と一般人の命懸けの私闘を見過ごすはずがない。スパーダはノリと勢いに任せて、到底成立しえない提案をしていた。


「しかし、ディエトロをこのままにしては筋が通せない……」


 スパーダが困惑した表情でディエトロを見下ろす。己なりに反意を露わにした臣下を裁こうとした彼を止めた以上、ダンジョン側には対案を示すことが求められる。


「スパーダ、スパーダよ」

「ダンチョー君?」


 その対案が思い浮かんだのか、ダン長がコッソリとスパーダの耳元まで浮遊して耳打ちする。数度のやり取りを終えた後、起き上がったスパーダは目を輝かせながらポーズを取る。


「ハーッハッハッハ、どうやら僕は空気に飲まれて己を見失っていたようだ! 我が領にとって何が真に得かを考え、ここはあえて僕が折れてあげよう!」

「スパーダ?」

「じいやの処遇は後回しだ。僕には、今すぐにでもやるべき事がある!」


 先程までのシリアスな雰囲気から一転し、腰に手をあてて高笑いするスパーダ。ダン長以外はその豹変に顔をしかめるしかなかった。


「おいダン長、何を言ってあのバカに決闘を諦めさせたんだ?」

「ああ、『新しい決闘をおっ始めるなら、こっちの中断した方はキャンセルでいいな』とだけ」

(現金なやつ……)


 己の端末を取り出し、マギリアはダン長が説得した手口を問う。ソードゴーレムを撃退した後にダン長が宣言したのは、あくまで『中断』であって『中止』ではない。スパーダが2勝3敗で全ての試練を切り抜け、残った氷を持って交換所へ向かっていた成績は生きている。


「魔女殿が止めてくれなければ、我が領にもたらされる富をみすみす見逃すところだった! そう、『頭冷やせ』という叫びは僕の自省を期待してのご教示だったという……わけだね?」

「いや、目の前の殺し合いを止めたかっただけだが……都合よく強引に解釈して勝手に成長するのやめてくれんか?」

「マギリアさん、それは求めるだけ無駄……」


 スパーダの過剰なプラス思考に困惑するマギリアだが、身をもって体験したイグニスが肩に手を置いて諦めを促す。


「ところで氷は?」

「あー、氷ならさっきの戦闘で通路に転がったままだぞ。ダン長が中断つった時に、あたしに溶けるの止めさせてた」

「そうか! ならば迅速に交換といこうじゃないか!」


 フリッカが氷の場所と無事を告げると、スパーダは意気揚々と試練へ戻って行った。


「とりあえず交換所にキャンディを送って、ディエトロは動けないように縛って……」

「ぐ……うう……」


 ダン長がキャンディを転送して先回りさせた直後、倒れていたディエトロが目を覚ましてうめき声を上げた。


「坊ちゃまは……?」

「こちらの決闘を再開して、氷を届けに行った」

「再開じゃと……」


 開口一番に主の所在を尋ねるディエトロに、気絶している間にあったことを語るダン長。何事もなかったかのように先約の決闘が再会されたことを聞いて、彼は動揺を隠せない。


「あんなことがあっておきながら……」


 怒りと当惑の感情が入れ混じった声色でディエトロが呟く。今しがた己が暗殺未遂を起こしたにも関わらず、試練を再開させている一同の神経を疑っている。


「あんなこと? なにかあったのか?」

「とぼけるな、儂が……」


 とぼけたようなダン長の口調に、ディエトロが怒りを露わにした。彼は蚊帳の外に閉め出されたような空気に怖気を覚え、自分の所業を語ろうとする。


「儂が……? あんた、俺達の決闘に対して、なにかできたのか?」

「っ!」 


 ダン長の念押しをするような確認に、ディエトロはその狙いを察した。計画の末に生み出した剣の魔物は、指一本触れられずダン長とキャンディに瞬殺された。キルトに秘術と計画を暴かれ、針の筵の中でスパーダから提案された起死回生の決闘も、マギリアに阻まれた。結果だけを見れば、彼には何も果たすことができなかった。

 彼の所業をなかったことにし、あえて許しも裁きもしないことで、『お前は何もできなかったのだ』という無力感を植え付けた。


「なにも……なかった……」

「ということで、スパーダの挑戦、大人しく最後まで見届けようじゃないか」

「……儂は、いったい何をしていたのか……この地に詳しいならと先代様に招かれた時は心から感謝していた、民を導けるなら臣下でも構わぬと思っていたのに……」


 ダン長に促され、完敗を自覚して床に座ったまま項垂れるディエトロ。屈辱か後悔か、その顔を手で覆っている。

 ほどなくして、交換所のダン長から氷を拾ったスパーダが無事到着した報せが届く。かくして温泉事業の収税権を賭けた、スパーダの試練全ての工程が終わった。






「サキから報告があった。ディエトロは体調不良のため、この村に隠居……ということになった」

「隠居だぁ?」


 数日後のラビス迷宮基地、酒場に集まった一同はキルトが聞いてきたキャニュオン領の後日談を語る。最初の話題は、決闘を荒らした犯人の処遇だった。あの流れとは裏腹な穏当な処置にフリッカが疑問の声をあげる。


「何もなかったことにして試合を全うした以上、大っぴらにディエトロを裁くわけにもいかん。とはいえ、奴の一派が暗殺計画を知らんわけでもあるまい……『隠居になった』という結果が何を意味しているかは理解できよう」


 キルトがこの処置になった経緯を解説する。正室派のトップが実質追放された報を聞く同志の困り顔を想像に難くない。


「そして奴の失脚が息子の地位に響いて、ファルチェとの婚約は破棄。スパーダが手に入れた温泉事業の税収25%と守護モンスターのスカウト権も後押しして、次期領主として揺るがぬ立場を得られたそうだ」


 スパーダは対抗勢力の失脚と試練で手に入れた富を合わせて、領主の座を確かにさせた。この報告をもって、この迷宮を巻き込んだ跡継ぎ争いに完全な決着がついたことが、ダンジョンの面々に伝わった。


「ちなみにディエトロはサキがミルス村で預かることになった。謀叛に失敗したのもあるが、スパーダの父に長年抱き続けた恨みをぶちまけたのもあって、抜け殻みたいに大人しくなったそうだ」


 続けてキルトは犯人のディエトロについて語る。サキが銭湯に潜入する時に使った『病床の父の介護のため』という口実に辻褄を合わせ、ディエトロは彼女のセーフハウスに一生軟禁される結末になった。


「あれだけ騒いでたのに、なんか拍子抜けだなー」

「本人だって薄々思ってたのだろう、親への恨みを子にぶつけるのは筋違いだと。そして無理を通すための最後の一線だった『自分の血筋が継げば領はより良くなるはずだ』という望みが断たれたんだ」

「ほーん……」


 あっさり身を引いたディエトロに気の抜けた反応をするフリッカ。彼女に大望を失った老臣の感情などわかるはずもなく、キルトの補足を入れてもなお怪訝な顔をしている。


「やつの心配よりも私達にとっての本題だ。あっちの領に行く2人を決めなきゃならんなぁ」


 マギリアはキャニュオン領のその後にそこまで興味を抱かず、守護モンスター達にとって大事な話題を振る。ディエトロの妨害工作による中止を良しとせず、決闘を続けたことによりスパーダの2勝の結果が残った。


「そうね、2人はあっちで働きに行かなきゃダメなのよね……」

「素直にディエトロの犯行を告発すれば、決闘の結果を有耶無耶にしながらスパーダを領主にできたものをな。我輩達からすれば奴がのし上がる手段など、どちらでもいいのだが」


 ディエトロを裁けば、守護モンスター達を供出する必要がなかったとキルトが愚痴をこぼす。彼の言う通り、人員を2人失うという損をしたうえに、ダンジョンの一同はスパーダが有利になる形で事実の隠蔽に協力したことになる。


「あぁ、合理的に考えるとキルトの言う通りだけどな……それでこの試練を終わらせてしまったら、俺達の頑張りもまた無為になってしまうと思ってな」

「頑張り?」

「俺達がダンジョンを作って、スパーダがそれに挑む。限られたルールの中で全力を尽くして決闘に挑んだんだ。勝ちも負けも、その結果をつまらん横槍でなかったことにされたくなかった」


 ダン長は勝敗に限らず、公正な決闘で得た結果を覆したくない意思を示す。頑張って各部屋の試練を作っていたサキュバスの姉妹達も、うんうんを首を縦に振っていた。その反応を見て、キルトはこれ以上の物言いは無意味と判断し、静かに肩を落とす。


「そうよね、ダン長ちゃんの言ってる方が筋は通ってるけど、やっぱりお別れは寂しいわぁ……」

「心配するな、スパーダを助けたことで私達に有利な条件をもらったぞ。滞在期間はこちらで好きに決めていいと」


 キャンディが避けられない別れに残念そうな顔をするが、慰めるようにマギリアがスパーダと去り際にした交渉内容を話す。


「じゃあ寂しくなったらいつでも帰っていいのね?」

「ああ、だけどちゃんと仕事はして、偉い奴とのコネは作っておくんだぞ」


 ポジティブな情報に明るくなったキャンディにマギリアが釘を刺した。


「じゃあ始めるか。この紐の中に、先っちょが赤くなったのが2本ある。長い別れになるわけじゃないから、恨み言は無しだぞ」


 ダン長が6本の紐を握った泥の手を差し出す。先端が赤い紐を引いてしまった守護モンスターが、キャニュオン領へ遠征することになるクジだ。


「ああそうだったな……では私はこれを……いっせーのーでっ」

「「「はいっ」」」


 マギリアの合図で紐を手に取った6体の守護モンスターが己の運命を選ぶ。その先端の色を見た魔物達の悲喜こもごもが聞こえてくる。


「あらやだ、あたしは外れね!」

「まあいいかなー、スパーダさんは悪い人じゃなさそうだしー」

「よかった。暑苦しい人苦手なんだよ」

「私の部屋の負けが原因でこれじゃ、ちょっと申し訳ないわね……」

「よかったー、私だったらリンを連れて行かなきゃと思った!」

「……待て……待てっ!」


 6体の反応で赤い紐を引いた者が明らかになった。ウェンティとキルトである。

 向こうに行くことになった反応はそれぞれ異なった。最終試練での施しもあって、ウェンティからの印象は悪くないが、明らかに嫌悪感を示していたのはもう片方だった。


「どうしたのーキルトさーん?」

「あその領民はアレだ、面倒くさいんだどいつもこいつも! あの密偵の女にしたってそうだ! 尋問の成果と言いながら不必要な話も沢山聞かされた。スパーダのことも無駄にだ、度を越したシスコンだとか、習い事の中ではゴルフが大得意だとか……」


 数々の偵察活動を経て、キャニュオンの人間にマイナスの先入観を抱いたスパーダ。苦手意識を露わにして抗議をする。


「裏方に慣れてる者の方が、私達の目的を達成するのに適任だと思うんだがなあ」

「せっかくの結界破りの剣がキャンディの拳で折れたのだ、奴の機嫌をとっても無意味だろう?」


 キルトの抗議を受けながらも、彼の能力を評価して行くように促すマギリア。最後のアクシデントで、スパーダの機嫌をとって黒炎の宝剣を使わせてもらう当初の計画が無駄になってしまった。


「ああっ! ごめんなさいね……あたしがパンチで壊しちゃったせいで……」


 持ち主の命を守るためとはいえ、魔物化した剣を破壊してしまったキャンディが謝る。一度魔物化した以上、仕方ないことではあるが、スパーダを味方に引き入れるメリットを失ったのは手痛い損失だ。


「謝る必要は無いさ。だろう、ダン長?」

「あぁ、むしろスパーダの力を借りなくても済む、面倒の少ない手段をとれるかもしれないんだ」


 キャンディをフォローしながら、マギリアとダン長は修正された計画を語り始める。


「助けた礼に、スパーダは俺達に色々な置き土産をしていった」

「置き土産だと?」

「まず、こちらが差し出す予定だった魔萃晶の欠片だな。領主の座が確実になったから、もういらないと」


 ダン長が机の上に小さな石ころを転送する。騒動の発端になった魔萃晶は、無事ダンジョン側に留まることになった。


「そしてなにより、本題はこっちだ。宝剣の刀身……『ディエトロの叛意に気づけずに父の剣を汚させた僕に、これを持つ資格は無い』と、手放すことを決めたようだ」


 続けざまに卓上に現れたのは赤い刀身だった。ソードゴーレムが破壊された後は魔素が流出し、ただの剣に戻った。


「この刃を使えば結界を破れるのか?」

「いや、剣は一振全体で魔術殺しの機能を担っていた。一度壊された以上、同じ物を用意するには素材から術式を刻む工程で作り直さなければならん。これだけの術式付与に耐える素材もそうそう見つからないだろう」


 キルトの問いに残念そうにマギリアが答える。剣が砕けたままでは魔術殺しの機能が働かない。


「だが希望はある。あの剣がスパーダの父の代に作られた宝剣なら、それを打った鍛冶師がいるはずだ。その鍛冶師が存命じゃなくても、技術が継がれているだろう」


 マギリアが告げた事実に、ダン長は希望的観測を加えて補足する。それは暗にキャニュオン領に行く守護モンスター達に、表向きの仕事とは別に、密命が追加されたことを意味していた。


「キルトとウェンティにはキャニュオン領に赴いて、仕事のついでに結界破りの剣を修理してもらう!」

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