53話 黒炎の領主と継承の儀式⑨ 黒炎と白蛇
戦闘における軽戦士の仕事は魔物に決定打を与えることではない。臨機応変に動き、前衛の背後や後衛の術士を襲わせないことだ。時には敵の目を惹く囮になることも求められ、味方を置いて逃げることも許されない。
味方の攻撃態勢が整うまで、フリーになった敵からの被害を抑えるのに徹する。それが大陸における軽戦士の基礎戦術だった。
「「グルルル……」」
リンに斬りつけられた2体のオークも、ナイフ程度で人並み外れた硬さの筋骨は断てず、戦いの興奮に痛みを忘れ相手を睨みつけている。その目の色に怒りを帯び、一本道の逆側で戦うスパーダ達を意識の外に追いやっていた。
「「ガアァッ!」」
軽戦士によって敵を抑えるのに有効な間合いは様々で、防衛に徹しながら真っ向に立ち向かう者もいれば、距離を保ちつつ飛び道具で攻撃し続ける者もいる。当然、リーチの短いナイフを構えるリンは前者だ。
「行くよ」
鎧を着こんだスパーダと違い、命を守る装備は革製の最低限なもの。にも関わらずリンは迫る魔物に自分から突っ込んでいく。彼がとった距離は密着状態、まともな武器の打ち合いすら望めないインファイトの間合いだ。
魔物達は武術を知らない。相手とは密着状態、武器を振れる距離をとるか、武器を捨てて掴みかかるか、あるいは噛みつくか。勝敗を分ける無数の選択から最適を瞬時に導き出すための、身体に覚えさせる鍛錬の積み重ねが存在しないのだ。それも体格や知能、手足の数が大きく異なる種族ごとに、特徴に合った武器や立ち回りがバラバラなためだ。このような環境では魔物全体で共有・継承できる理論やノウハウが育ちにくい。知能の高い魔物が繰り出す格闘術の殆どは我流で、人間の積み上げた武術と比べその練度は圧倒的に劣る。
リンはそのように戦闘面の師であるキルトから教えられた。
「ヌガァ!?」
生まれ持つ膂力に任せたオークの攻撃はリンに掠りもしない。彼は密着状態を維持しながらオークの右に左に翻弄する。オークからしても腱や太い血管を斬られる恐れがある以上、非力とはいえナイフを持って纏わりつく相手を無視することはできない。しかし苦し紛れに空いた手を振り回しても、リンはそれすら避けてナイフで切り傷を与える。
「「グオォォッ!」」
(オーク達の動き、ダン長の手に比べれば止まってるも同じだね)
リンはその動作を氷を抱えながら、2体のオーク相手に交互に行う。彼の同世代とかけ離れた体力と柔らかい筋肉によって織りなす回避術は、キルトの直線的な速さとは対照的な曲線的な速さだった。
戦闘訓練の内容は、今日までひたすらに避けることだった。リンは四方八方から襲い掛かるダン長が伸ばす泥の手を回避し続けた。捕まれば実戦で受ける致命傷の代わりに、そのまま泥の手達に泣くまでくすぐられてきた。手加減しては将来のためにならないと、キルトもダン長も攻撃も罰も一切手を抜いてくれなかった。2人の厳格な指導により今のリンの回避術は、同時に十二本の手を相手しながらナイフで腕に数字を刻めるまでになった。
無論オークの鈍重な手では至近距離のリンを捕らえることは叶わない。逃げることもできず迂闊に手を出せばそこを斬られる。体中浅い切り傷だらけにされたオーク達は怒りを通り越して焦りを覚え始める。
「グヌゥ……」
初撃に加わらなかった3体目のオークは斧を握りしめ、戦いに加わるか迷っていた。2体の周りを高速で動き回るリンを狙っても、下手を打てば同族に斧を当ててしまうかもしれない。相手は満足に武器を振れず、周囲も味方への巻き添えを恐れて手出し辛い。噛みつくか掴むかさえできれば打開の目はあるが、それすら回避できるリンにとって魔物とのゼロ距離は、一般人が思う以上の安全地帯だった。
「そこだ!」
リンの仕事は早々に終わった。正面のオーク3体の掃討を終えたスパーダが踵を返し、一息にこちら側の3体も斬り伏せたのだ。リンに手こずって隙を晒していた2体はそれぞれ首と胴体を両断され、後方で控えていた1体も勢いのままに袈裟斬りにされた。追い打ちとばかりに黒い炎がオーク達の身を焦がし、初戦は挑戦者側の無傷の勝利となった。
「スパーダさんお見事です! なんかこう、黒い炎がメラメラってカッコいいですね!」
「ハーハッハッハ! そうだろうそうだろう、リンも後方の敵の引きつけご苦労だった! オーク共を翻弄する姿、白い大蛇が這いずり回るようだったよ!」
「へ、蛇……」
相方の健闘を互いに褒め合うも、思いも寄らないワードチョイスにリンは表情が固まる。例の回避術を目で追う第三者からすれば、リンの白い髪と服が曲線的に激しく動く軌道が、獲物に巻き付くようにうねる白蛇に見えなくもない。
「矮躯を逆手にとって懐に潜り込むとは、童女のナリに見合わず練られた戦法じゃないか」
「まあいいでしょう、氷が溶けないうちに先を進みますよ」
スパーダの言葉に気を良くしたリンが先頭を歩き始める。性別を間違えられることに喜ぶのは、悪戯好きな面があるこの子が持つ癖だった。
「と、スパーダ達は颯爽と通路の奥へと歩いていくのだった。一連の戦闘で眼前の子どもにダンジョンを歩かせることへの彼の不安は拭われ、朗らかに先導するリンを安堵の混じった表情で追うのだった」
談話室の実況席、2人の様子を観察するダン長が結果を待つ者達に向けて仔細に伝えている。弟子が怪我無く初めての実戦を終えたというのに、師のマギリアは満足げな周囲と対照的に、どこか浮かない表情をしている。
「私だって黒い炎くらい出せる! いや、赤でも白でも黄色でも!」
不満の原因はリンがスパーダの黒い炎を纏う剣技を見て目を輝かせていたというダン長からの情報だった。マギリアは魔術で自分の周囲に色とりどりの火の玉を生み出して彼に対抗する。
「マギリア……あの年頃の子どもは皆ああなるんだって。むしろ大人になってから罹ると余計に性質が悪い」
「そ、そういうもんなのか……?」
ダン長はマギリアの嫉妬にも似た焦りを諭す。超常の人物に憧れ、自分を重ねて背伸びをする時期。それは救国の英雄譚か漫画やライトノベルかの違いというだけで、時代や場所を問わず遍在するものだった。
リンが冒険者の戦いを目の当たりにしたのは初めてだ。同じ人間なのだから将来的にここまで強くなれるかもしれない。人間たるリンの同族の強者への憧れは、魔物達へ向ける思慕とは別種の感情である。
「まあしかしご老体……スパーダの宝剣、そなたが魔物との戦いを申し出るだけの価値はあったな。もっとも、オーク共程度ではその真価を発揮できんようだが」
「戦わずして決闘を終えてしまえば、せっかくの武器が勿体ないからのう」
平静を取り戻したマギリアがディエトロへ話を振る。宝剣の効果を褒めつつも、言外にダンジョンのボスを守る結界に使わせたいという意思が含まれていた。対するディエトロ老は真意も知らず、恐縮するような態度で答える。
「おっ、リン達が分かれ道に着いた! 氷はまだほとんど減ってないぞ」
そのやり取りに差し挟むように、フリッカが挑戦者が分かれ道、4つの鍵がついた大きな扉前に到達したことを報告する。彼女はその白い指で机に広げた地図上のコマをつまんで進める。冒険の状況解説はダン長とフリッカの分業体制で、彼女の仕事はコマの管理と氷の減り具合の経過報告だ。
「ほほう、それで連中はまずどの試練に挑む?」
「左下……火の試練だな」
マギリアの問いに答えながら、フリッカはコマを木の字に分岐した通路の左下の方へ進めていく。字面から想像できる最も氷を溶かしそうな火の試練に、まだ完全に近い状態のうちに挑もうという決断だろう。
「……ようこそ火の試練に」
「イグニスさん、その服どうしたんですか!?」
「姉さんが選んでくれた。キルトさんの部屋の服自由にしていいって」
真っ暗な部屋で唯一の光源から、火の試練の番人・イグニスの声が響く。見慣れていたはずの彼女の姿にリンは驚く。露出の高い私服とは違い黒いローブを羽織り、右手に鎌を、左手にランタンを構えている。そして頭上にはドクロのお面をつけており、どこか死神を連想させる姿だ。
キルトが自室の服を使う許可を下したくだりをリンは知らない。そもそもキルトは許可していない。姉のアクアが『我輩の不在の間、部屋の衣類の管理は任せる』という言葉を拡大解釈して、姉妹達に好き放題に衣装を貸し出しているのだ。『ちょっとでも雰囲気出して相手に威圧できれば御の字』という思惑もあって、ダン長も共犯だった。
「ふぅん、死神か……しかし部屋は真っ暗、火も君の持ってるランタンくらいじゃあないか」
スパーダはその風体に動じず、イメージに反する室内の火の気の無さを指摘する。ランタンに照らされた光景は墓場をイメージしているのか、枯れ木を模したオブジェに囲まれて墓石や棺桶が散在している。
「火は挑戦者につけてもらう。私が魔術でちょうど2分間だけ燃え続ける炎を作るから、それが消えるまでに全ての松明に火を移せばスパーダサンの勝ち。松明は全部で24個、これを移動させるのはルール違反」
「そうか、僕自身がこの世を照らすかがり火として輝けと言うのだね!」
(お望み通り焚火にでも突き落としてやろうか……)
質問も織り込み済みとばかりにイグニスが淡々とルールの説明をするも、スパーダは何をどう解釈したのか理解しがたい反応をする。ダン長が指示したキルトの盤外戦術が活きており、スパーダは試験の内容は初見であった。イグニスは苦い顔をしてスパーダの妄言を聞き流した。
「それで、君達守護モンスターをもらえる条件は何かな?」
「5回以内に達成すること。私はここで制限時間を知らせる曲を弾いてるから、火が消えたら貰いに戻って」
喧しいナルシストが苦手らしく、イグニスは言うだけ言ってスパーダに備え付けの布が巻かれた木の棒を渡す。守護モンスターを手に入れるには、24個全ての松明への着火を5回以内に成功しなければならない。
室内はやや広いとはいえ、成人の冒険者であれば2分で駆け回るのは不可能ではない。闇雲に松明を探して時間を浪費しないよう、火を灯すべきターゲットの配置を覚えるのが重要になる。
「ハーッハッハッハ! 5回もチャンスをくれるとはずいぶん呑気なことだねぇ!? だけど僕には氷を残らせる義務もある。見ていたまえ、僕の手にかかれば5回と言わず1回で充分さ!」
「……早く始めるよ」
密室のせいで余計に声が反響して哄笑がうるさいのか、苛立たしげに手早く紙を広げピアノの前に座るイグニス。同じく早く終わるのに越したことはないスパーダは無言で渡された木の棒を差し出す。
「刻灼……はい、今から2分ね」
「さぁリンよ、僕に続きたまえ!」
イグニスは2分間きっかりだけ燃える火を生み出し、ピアノを演奏し始める。それを見て意気揚々と駆け出すスパーダ。リンは彼の持つ松明の灯りを頼りに追従する。
「くっ……なぜだっ! これでもう3周目だぞ! また半分も点けられないうちに終わってしまった!」
遠くで輝くランタンの方角から聞こえる音楽が三度途切れた。開始前に見せた態度とは裏腹に、ダンジョンに入って初めての挫折に膝をつくスパーダ。
(苦戦しているな……まあ、イグニスが示すヒントに気づかなければ基本無理ゲーだからな)
スパーダの苦難を観察するダン長はこの部屋の難易度を振り返る。
4回までミスをしていいという高難度の条件は温情でも慢心でもない。この手の作業の最初の数度は、配置を覚える、あるいはその法則を探す為に捨てるのが定石だ。攻略法を見つけなければ眼前の挑戦者のように、何度も初見と同じ状態で挑まされることになる。
スパーダは過剰な己への自信が祟り、立て続けに3度も鼻っ柱を圧し折られた。
「続けるの? 他の部屋に行くの?」
屈しかけたスパーダに、イグニスが遠くから冷たく言い放つ。彼女が演奏をしていない間の部屋は真っ暗なので、ゲームの外で配置を覚えることは叶わない。続けるには彼女から火を貰わなければならない。火を貰えば否応なしに演奏が始まる。
「……少し考えさせてくれ」
ノリと勢いのキャニュオン領主が、ここに来て初めて己にブレーキをかけた。3回の失敗を経て、スパーダなりに体感したこのゲームの一連の法則を頭の中で咀嚼する。
(松明の位置はランダム……遠く離れている場合もあればすぐ近くにあることもある。近くを走り回って倒さないための警告用か、松明周りには一段高い線らしきものが引いてあるな。外周やピアノの周りに松明は無く、どれも線の間かその周りに集まっている)
スパーダは思考を巡らせながら部屋の内装を振り返る。追従するリンはヒントを出すわけにもいかず、勝負の行方を心配そうに眺めているだけだった。部屋に入る前はほぼ崩れの無かった氷も、今では表面が溶け始めている。
(この松明の集まりが部屋中央に走る溝を挟んで2か所……きっとあのサキュバスの演奏と同じく、何か法則性があるはずだ)
スパーダは椅子に座りながら己の様子を伺うイグニスの方をちらりと一瞥する。彼女は試練が始まってから火を与えるか演奏しか行っていない。
(2分を告げる試験官の曲はシンプル極まりない。イントロを含めてほぼ15秒でループする曲を8回で1セット……なぜだ、なぜ時間制限が2分なら素直に2分の曲を弾かない?)
イグニスを凝視し、彼女の演奏に考えを巡らすスパーダ。火の試練を彩るBGMは1ループが非常に短いながら癖になるワルツ調のピアノソロ。音楽の心得がある者であれば1日も練習すれば覚えられる簡単な曲だった。
これまでもスパーダは頭の中で秒数を数え、彼女が密かに速弾きして不正を行っていないか確かめていた。しかし3度の挑戦を経て頭の中の秒数と曲の終わりがほぼ一致、その疑いは晴れていた。
「次やるの?」
「もちろんだとも! ところで、さっきから試験官殿の曲が耳に残って集中できない……いや、貶しているわけではない。もう少し集中できるのは弾けないのかね?」
「それは無理」
4度目の挑戦の前に曲の変更を頼むスパーダだったが、イグニスからは取り付く島もない即答が帰ってくる。
(なるほど……この曲の何かがヒントなんだ!)
変更拒否から己の推理に確信を得たスパーダの、4度目の挑戦が始まった。
「……どうしたの?」
「フッ……せっかくだから、しっかり耳に刻もうと思ってね!」
今回を捨て、イグニスに貼り付き曲の観察に専念するスパーダ。目を閉じ聴覚を研ぎ澄まし、リズムをとるように足を動かしたり、メロディの音程に合わせて指を上下させたりして分析する。
(短いうえにメロディがやけに少ない……両手とも伴奏に使っている時間の方が長いんじゃないか? メロディらしき音は20とちょっと……21、2、3、4!?)
「ハッ!?」
松明の総数とメロディの音数の一致に気が付き、頭に電流が走るスパーダ。
「リン、この部屋の床に引かれた線の数はどうなっていた?」
「確か5本ずつ引かれてましたね」
急なスパーダの質問に、リンはすんなりと答えを返す。
「解けたぞこの部屋の謎がっ! 松明の位置が音階に対応してるんだな!?」
「その通り。はい楽譜」
スパーダがイグニスに振り返り叫ぶ。正解を聞いた彼女は広げていた1枚の紙を渡す。スパーダがランタンの灯りを頼りにその紙をジックリ観察する。紙にはたった二行の単純な五本線の上に24個の丸が書いてあった。楽譜と思っていたものは拍子記号も調号も無い、現代でもこの大陸でも譜面として成立していない紙切れだった。
アドリブでイントロと伴奏を足してこれを曲として成立させ、時間を精緻に計りながら弾けるイグニスに必要ではなかった。挑戦者向けのヒントだった紙を見て、スパーダは宝の地図を見つけたかのような喜びを見せる。
「なるほど、これを参考にして走れば……!」
スパーダはイグニスから火を貰い、再度のリベンジに試練の部屋をひた走る。確信を持って進む彼の足取りは今までよりも早く、かつ効率的に松明を灯していく。
「24……これで全部だ!」
1分45秒後、部屋の対面側からスパーダの叫び声が響く。天井から部屋を俯瞰するダン長の確認を経て、彼の攻略が証明された。
「しかし、素直に試験官殿が楽譜を渡してくれたということは……」
「うん。これ6回目」
部屋の出入り口に戻ってきたスパーダは少し浮かない顔をしている。曲と松明の連動に気が付いた後に、リンが地面に引かれた線の数を教え、イグニスが楽譜を渡した時点で察しがついていたようだった。
大成功の芽が摘まれたからこその協力。現代のゲームで言えば失敗のし過ぎで難易度が下がったのと同じである。
「……僕の敗因は自信に任せて最初の3度を無駄にしたことか」
「惜しかったね。じゃあこれ、火の試練の鍵」
己が敗因を語るスパーダに、イグニスが懐から一本の鍵を取り出して渡す。把手が赤く彩られた鍵で、突破した試練の属性を示すかのような紋様が刻まれていた。
「しかしなかなか趣深い試練だった。この敗北を己を振り返る糧としよう!」
「満足したならなによりだよ。ね、ダン長さん」
(嬉しそうだなイグニス……頑張ってたもんな)
スパーダからの好評に気を良くしたイグニスはダン長の端末を撫でる。
アクアの部屋の出来を見て対抗心を燃やしたイグニスは、部屋のギミックを考えに考えていた。その末に己の特技であるピアノを、ダンジョンの謎解きに絡めようと決めた。現代知識と経験を活かし、それを傍で支えていたダン長は、彼女が成果を上げられたことを我が事のように喜ぶ。
「そう……これは聞くことが肝心、つまり領主たる者の下々の声に耳を傾ける姿勢を問うたわけだ! この試練により僕の器はより研ぎ澄まされただろう!」
「どうしようダン長さん、私の謎解きを強引に解釈したうえに勝手に成長してきた!」
(本人が損しないならいいんじゃないかな……)
スパーダに良いように受け取られて慌てるイグニス。対してダン長は生前に自分の作ったキャラやシナリオが、周囲に勝手な解釈をされることに慣れていたので平然としていた。
(それにしてもイグニス、俺の呼び方ちょっと柔らかくなったか?)
ダンジョン側の勝利の余韻を他所に、ダン長はイグニスの自分を呼ぶ時特有の硬さが取れたのに気づく。
「ふ……ふふふ……」
「「「?」」」
敗北を喫したスパーダから笑い声が響く。その真意を知る者はおらず、イグニスもダン長もリンも、ただ首をかしげるばかりであった。
(この感覚はなんだ……? 僕の推理とダンジョンの仕掛けが噛み合った現象が、全身に言い知れぬ高揚を及ぼす!)
いわば「脳汁が出る」状態に陥り、高揚感を覚えて興奮するスパーダ。早解きにこそ失敗したものの、彼が自力でダンジョンの謎を解いたことに違いは無い。
ダンジョンの中で全てを観測できるダン長も、冒険者達の心情を知ることはできない。彼自身に灯った目の輝きを、与えてしまったダン長達は知らなかった。
イグニスが弾いていた曲のイメージは、時のオカリナの風車小屋のBGMを想起してもらえると助かります。




