3話 おはようダンジョン 3/6
【今回の三文あらすじ】
「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。
TRPGを愛好する男は、不幸にも召喚地点への敵襲とタイミングが被ったせいで異世界転移されて5秒で死んでしまった。100年の時が経って目覚めた先でダンジョンを操る力を得た彼は、迷った男の子を助けることで己の能力を自覚し、彼をダン長と呼ぶ人類の味方になった守護モンスターの魔女の助けを得て自分の状況を確認した。己の状況を一通り確認したダン長は、自分が消える方法を尋ねる。
「き……消える?」
「ぶしつけな質問で申し訳ないと思っている。俺の意識はどうすればこのダンジョンから解放される?」
マギリアが慌てて聞き返した疑問に、ダン長がきっぱりと答える。彼女の嬉々とした表情は崩れ、一転して困惑したものになる。
「寿命も無く魔物も罠も操れる身になったんだぞ? ダンジョン覗き放題だぞ? なーんで消えようとするんだ?」
と、逆にマギリアの方から質問が飛んでくる。
「単純な話だ、宗教ごとに呼ばれ方は違うが人間死んだら逝くべきところに逝くのが正しい生き方だ。仮に神の慈悲か呪いかで、『次』で前世の記憶を持って生まれたとしてもそれが一個の命であれば俺も全うしよう。だが今の俺は死後の精神のみで身体も命も無い。これではまるでダンジョンにへばりつく亡霊じゃないか!」
ダン長は堂々と自論で返す。現世で生き続けようと転移先で生きうと死んだらその時点で人生は終わりで、今の自分は死してなお現世に留まり続ける幽霊だと例える。
「不運で死んだからと言って『続き』を求めるのは主義に反する! ゲームで例えるならクズ運が原因だろうとロストしたキャラで続行などただの我儘だ! ゲームのキャラにさせないことは俺も尚更したくないから成仏を求める! 以上!」
例えば彼の愛好するTRPG【ソード・エンド】では参加者が製作したキャラの体力が無くなると死亡する。剣と魔法の世界ゆえ、魔法によって復活することもできるがその際に敵対勢力である不死の神に目を付けられる。何度も復活するうちに不死の神の手に落ちると、完全に敵となりキャラクターは参加者側の物では無くなってしまう。ロストのある他のシステムでもまた、作ったキャラクターは最終的に死亡等でプレイが続けられなくなればそれで終わる。通常、再び同じシステムでその世界を体験したければ新しいキャラを作る。彼はその仕組みに従って死んだ命を使い回すことを良しとしないと主張するのだ。
「うぅ……しかし何も遊戯に例えなくても……」
マギリアは顔が崩れるレベルでしょぼくれている。いたたまれなくなったダン長もなんとかフォローしようとする。
「違う、ゲームよりも真面目に考えてる。死んだ命に安易に『続き』があるなどと期待など持てば、生きることや生き残らせることに真剣味が持てなくなる。そんな気持ちでいたなら俺は逃げるリンを助ける為に必死になれなかっただろう。それに、それが真実としたら俺はもう100年前の人間なのだろう? 俺を待っている卓ゲー仲間も、身勝手にもこの世界に呼び寄せた人間達も生きてはいまい……会いたい人間も、文句を言ってやりたい人間もいないこの世界に未練も無いからな」」
ダン長はそう言ってリンの方を見る。しょぼくれたマギリアも顔を戻してそちらへ顔を向ける。
「リンを……ああっ!」
ダン長が大声をあげる。リンはちょうど食事を終えていた。
「なんでリンはあの時魔物から逃げていたんだ?」
「おお、それもそうだ。ダン長への状況説明で後回しになってしまった。うちのダンジョンはミルス村……最寄りの村から子どもが来れない距離では無いが……リンの顔は見た覚えがないな」
ダン長に続いてマギリアが言葉を重ねる。二人はダン長の現状確認のために、リンの事情を放置してしまっていたことを思い出した。話題を振られたリンは自分の事情を語る。
「えっと……マギリアさんの言うとおり、僕は村の人間じゃありません。近くの山で木こりをしながら病気の母さんと2人で暮らしてました」
「山の……なんでそんなとこに2人で?」
リンの答えにダン長は困惑する。彼が聞かされてきたのは魔物との戦争の歴史ばかりで、近隣の事情すら把握できていなかった。
「あぁ、戦争後の情勢の説明がまだだったか……端折って教えるとだな。休戦後も人間がダンジョンを管理し続ける一方で、魔王は循環器を破壊し、軍を再編するための魔素を回収する機会を常に伺っている。ダンジョンを守る為に近隣に新しく村を作ったのは先程話したが、魔物と違って数も無限ではない人間は近隣の村々を統廃合して移住させる必要があった。リンは新しい村に行かなかった連中の子孫ってわけだな」
マギリアは戦後の大陸の情勢を語る。魔物と違って人間の数は有限だ。管理のためダンジョンの周りに街や村を作るのなら、他の住民から集める必要があるのは当然だった。
「つまり山間の村から移住しなかった残りの人達か……」
「ダンジョン近くに住むのを恐れたり愛郷心から離れたくなかったりで拒む者も出るさ。新しい村にだって受け入れる人数に上限もある」
「尚更おかしいぞ、近くの子じゃないなら尚更ダンジョンにいるのは不自然だろう?」
様々な理由でダンジョン近くへの移住からあぶれた人間達が村から離れて暮らしている。マギリアがそう補足してくれたが、そのせいで余計に疑問が深まってしまった。ますますリンのようなダンジョンから離れた場所に暮らす人間がここに来る道理が無い。
「それが……僕にもわからないんです」
「「ん?」」
リンにもこのダンジョンに入った心当たりがなのだという。今度は二人して首をかしげる。
「病気の母さんがもうどうもできなくなって、死んだ後の埋葬と弔いを手伝ってもらおうと近くの人を呼びに行った時に誰かに眠らされて……気が付いたら真っ暗で……僕は袋に入れられて迷宮に捨てられてたみたいです」
袋から抜け出して出口もわからないまま彷徨っていたところを魔物に追われ、そこでダン長に助けられたという。
「それで俺の前に走ってきたのか」
「早く家に帰りたい……ちゃんと母さんを弔ってあげたいです……」
身の安全を確保されて、リンは置いてきた母の弔いができなかったことを気にかけ始めた。ダン長はその様子を不憫に思いつつも、気がかりなことがあった。
「でもなんで山を越えてダンジョンまでリンを? 捨てられたってことか? 魔物に殺されたことにして……」
「あー。養えなくなった子をダンジョンに捨てるのも戦時中にはあったようだが、ダンジョンが人間の資源と化した今でそんなことやる人間が……だいたい、子どもとはいえ病床の母を看ながら生活できる者をわざわざ間引くメリットも人間にないだろう」
マギリアは怒りを帯びた表情で分析を始める。
「ダンジョンは確かに本来は人間の敵である魔物の巣窟だ、潜った冒険者が戦いや探索で死ぬのは仕方ないことだ。だがわざわざ子どもを魔物の餌にしようなどと、犯人がわかればしょっ引いてやりたいところだが……」
(人間の味方やってる方が珍しいだろうが……それでも魔物にそう言ってくれる者がいるのは嬉しいことだ)
守護モンスターという立場上、ダンジョンを人の命を奪う場に利用されることに怒るのは当然のことだ。ダン長としても誰の思惑だろうと魔物に子どもを差し出す行為は看過できないものだった。
「こんなことする奴に心当たりは無いのか?」
「ダンジョン嫌いの人間か悪知恵を付けた魔物か、まだ確たる証拠も無い。だが子どもがダンジョンで死んで得をする連中になら心当たりはあるぞ」
「「?」」
目が覚めたばかりで情勢に疎いダン長と、ただ巻き込まれただけのリンには物事の繋がりにいまいちピンとこなかった。
「ダン長よ、先の戦争で魔王軍が負けたのはなぜだ?」
「そりゃ、各地に分散したダンジョンを制圧されて力を削がれたからだろう」
「で、魔王軍はダンジョンをどうしたいと思う?」
「あるだけ人間の資源になるだけだ。ダンジョンの魔素を回収したいはずだ」
「ああそうだ、それで休戦協定によって直接攻め込めない魔王軍は、どうやってそれを回収すればいい?」
「……人間側からダンジョンを手放すように仕向ける?」
「当たりだ」
ダン長の答えにマギリアは首肯する。民間人の、しかも子どもが死ねばダンジョンの評判に関わる問題に発展する。街や村がダンジョンを御しきれていないのではないかという声が出る。犯人はリンをダンジョンの悪評を立てる為の生贄にして、循環器を破壊して放棄させる足掛かりにしようとしたのではないかとマギリアは考えている。
「だが、こんなことして効果が期待できるのか?」
世界情勢に疎いダン長は率直に疑問に思った。例えば現代にある遊園地などで不慮の事故で死人が出た場合、それが原因で閉園を余儀なくされるケースがあった。だが、それを魔物が現れるダンジョンに当てはめていいものかわからなかった。
「死亡事故そのものはダンジョンの長い歴史の1ページだ。そもそも無限のリソースに甘えたゴリ押しばかりだった魔王軍には諜報戦の歴史が浅い。それに、どんな手段が有効かというのもダンジョンの特性ごとに異なる。人間の心をどう攻めれば効果があるか、協定に抵触しない範囲でなんでも試すさ。子どもがダンジョンで殺されたという情報の流布がダンジョン運営を妨害するのに有効と知れたらこれからもっと――」
「子どもを実験体にしようと言うのか! 黒幕が人間だろうと魔物だろうと、そんなこと見過ごせん!」
「お、おう……ダン長ならそう言ってくれると思ったよ」
ダン長はリンをダンジョンで死なせようとした何者かの思惑に激昂した。この策謀が成立したら今後のこの迷宮、ひいては他のダンジョンでも同じように子どもが利用され続けることになるかもしれないのだ。彼はこの元凶をどうしても裁いてやらなければならない気持ちになった。
「マギリア、リンは自分が袋に入れられていたと言っていた! それを調べればこの娘を捨てた犯人の手がかりがわかるかもしれない!」
「ああ、石ころに目を刻めば目の前が見えるようになったダン長だ。洞窟内の石にも目や耳を刻めばなんぼでも見聞きできるだろう。私がつけてた観測記録では12まで目が同時に出たことがある」
「ふむ、まさに壁に耳あり障子に目ありというやつだ!」
「メアリー?」
ダン長は頭の中に再び迷宮の地図を思い描き、まずはリンを発見した通路に目を刻みそこに魔力を流した。すると、頭の中に見覚えのある通路が監視カメラの映像のように映る。
(よし、ここからでも見ることができるな! 当然だがここにリンの言う袋は無かったな。ならば……)
魔女の家の部屋にいながら迷宮を眺める能力を得たダン長は、最初に刻んだ場所を中心に目を刻む位置を放射状に広げていく。広域になるにつれダン長の視界は数十、数百のマルチティスプレイ状態となっていく。もっとも彼の元は人間であるため、視界が一度に処理できる映像の数には限りがあるが。
(思考が重い! 数百の目を一度に監視するにはかなりの負荷がかかる……脳ミソ5つぐらい欲し……あっ!)
「誰かが迷宮で戦ってるぞ」
袋を探すために視覚を迷宮内に広げていたダン長は、その一角で魔物を相手にしている武装した人間の集団を発見する。探知のためにいくつも広げていた目をその光景に集中させて観察する。
「本当か?」
「ああ、武器を持って戦ってる。人数は4人だ」
「ってことは、冒険者だな」
「冒険者……もしかしてこの子を探しに来たんじゃないのか?」
「待った、タイミングが偶然にすぎる。まだ素材採取の依頼で来たって言われた方が納得できる。向こうの会話をもう少し観察して目的を暴いて欲しい」
そう言われてダン長が冒険者の戦いの観察を続ける。前衛に鎧を着こんだ戦士の男が剣を振るい、魔術師と神官のような女が二人で後方支援をする。その中間で弓で討ち漏らした敵を対処する軽装の男がいる4人パーティだ。ダン長が観察を始めて十数秒もすると、彼らはたちまち倍以上もいたゴブリンを無傷で全滅させた。
「アーサー隊長、これで全部よ。周囲に魔物の気配はないわ」
「わかった。死体の処理は後だ、探索を急ぐぞ」
魔術師の女がそう言うと、隊長と呼ばれた鎧の男が剣についた血を振り落として納めながら答える。その会話を聞いて、魔女の家にいるダン長はマギリアに報告を行う。
「前衛が一人と後衛が三人の四人組の冒険者、ゴブリンの死体を無視して何かを急いでいる。冒険者って魔物を素材にして生計立ててるんじゃないのか?」
「ゴブリンは肉は食えんし素材になる部分も少ないが、処理もせずに行くのは感心せんな……」
「それにしても、冒険者も普通に日本語使うんだな」
「戦争で活躍した者の子孫や戦後に偶発的な事故で来るマレビトも、なにかと冒険者になりたがるからな。あと、知性ある敵対的な魔物へ聞かれても意味が通じないマレビトの言葉は便利だし」
「ふむ、俺にとっては好都合だ……通路を進み始めた、追ってみる!」
マギリアへの報告もそこそこに、ダン長は冒険者一行の追跡を続ける。耳目を生やした石を移動させれば誰かに察知されるかもしれないので、移動した方向に新しい顔を作る。部屋にいながら遠くの迷宮に何度か顔を出現させ直しながら動向を観察する様を、二人は固唾を飲んで見守っている。
(強い……)
ダン長は冒険者達の戦いを観ていて実感した。彼らは個々が実力者に加え一糸乱れぬ連携を見せる。ゴブリンのような配分された魔素が極小の雑魚はともかく、それより強力な魔物も次々と撃破している。役割分担も完璧で、的確に魔物の弱点を突いて手傷らしい怪我すら無く迷宮を駆け回る。重戦士の隊長は全ての攻撃を防ぎながら剛腕で敵を切り伏せ、女魔術師の撃つ攻撃呪文の威力など、先ほどマギリアが使った炎の槍を超えているとすら感じる。軽装の男は弓で的確な援護をしながらも探索中は先陣を切り罠を探知しては解除していく。女神官は「これじゃ私が回復や補助かけるまでもないよね」などつぶやき余裕の構えをしている。ダン長は易々と迷宮を探索する彼らの目的を知るべく注意深く目と耳を凝らしていると、数分後に次の会話が耳に届く。
「あー、ここ一回通った道っスよ。引き返します?」
手に持った洞窟の地図に現在地をマーキングしながら軽装の男が隊長に報告する。おそらく罠の解除だけでなくマッピングも担当する偵察役を兼ねているのだろう。彼に隊長が言葉を返す。
「いや、相手は子どもだ。見落としや入れ違いの恐れもある。俺達はこの迷宮は初めてなんだ、一度通った道もくまなく探すぞ」
その会話を聞いてダン長は冒険者達の目的をリンを探しに来たと確信する。
「お、彼らはリンを探しにきたんだ! これで引き渡せば解決じゃないか?」
「いや、そういうことか……まだ偶然素材を採りに来た連中だったらどんなによかったか……」
解決の期待が沸き上がるダン長に対して、マギリアは浮かない表情でブツブツとつぶやいている。
「どうしたんだ? 冒険者がリンを探しているんだぞ」
「冒険者なら誰だって白だと信用できるわけがない」
「白……?」
「ギルドを介さない裏取引のための素材採取、事故に見せかけた他の冒険者の置き去り。資格があるのをいいことに人の目の少ないところで人道にもとる行為をする冒険者はいくらでも見て来た」
「……なるほど」
プレイヤーが冒険者となるTRPGでは、人間に味方する魔物や罪もない人間に危害を加える行為をする冒険者はそうそう生まれない。中には密猟や暴行を働く冒険者もいることにはいるが、それは主人公に退治される役割を持つ悪の冒険者だ。だがこの世界には役割を持つ悪などなく、マギリアは冒険者の資格とダンジョンという閉鎖された環境を利用して犯罪を行う連中を見て来たのだろう。その経験差から冒険者に対する警戒心に開きが生まれているのだ。
「それに先程、私がリンを捨てたことを魔王軍の工作活動だと疑っていたがな。この作戦にも色々偶然任せなところもあるが、一番の致命的な穴があるんだ」
「穴?」
「村の外に住んでる子どもがダンジョンで死んだからって、それを誰が知るんだ?」
「あ……」
ダン長は気付いた。ミルス村にとっては村の外で暮らしているリンは馴染みの無い人間だ。誘拐されてもそれに気づく人間もいない。周囲の知り合いだってまず行方不明を疑うだろう。子どもがダンジョンの魔物に殺されたとしても、死体を食い荒らされるまでに人間達に知る手段が無く、犯人の目論見は空振りに終わる。そこで利用しようとしたのがダンジョンに潜り、魔物と戦う冒険者だ。犯人は『ダンジョンで子どもの死体が見つかった』という情報を広めるために冒険者を寄越したのではないか、とマギリアは推理している。
「このまま引き渡すのは危ないって言いたいのか?」
「本当にリンを心配して訪れた可能性もあるが……腹黒い冒険者が『ダンジョンに子どもの死体』という情報を作りたい場合に、目の前に生きていた標的がいたら、もしダン長が連中ならどうする?」
「……ッ」
彼らがダンジョンを貶める為に人間を手にかけるかもしれない。ダン長は思わず恐ろしい想像をしてしまう。そんなこと、冒険者がするわけがない。その言葉がどうしても出てこなかったのだ。
「マギリア、守護モンスター達であいつらを追い払えないのか?」
連中が犯罪を働く可能性を危惧し、守護モンスターに撃退の選択肢を迫るダン長。彼が知っている限りではこちらは6体、数の上では向こうよりは優勢である。
「私らが正当性無しにぶっ飛ばしたら立場上罰せられるし、今の連中はただダンジョンに潜ってモンスターを狩っているだけで何の問題行為もしていない。それに撃退した後で『守護モンスターが人間を不当に傷つけた』なんて噂を流布されちゃ、結局のところダンジョンの評判を落としたい奴の目論見通りだ……子どもが死ぬよかマシではあるがな」
マギリアは躊躇している。守護モンスターという人間を保護する立場が裏目に出ているようだ。この分では他に5体いるという守護モンスターも同様の立場だろう。
「逆に守護モンスターを冒険者が倒すことも一応は禁じられてるが、万が一連中が黒なら子どもを死なす作戦に乗るような連中だ。『そんなん知るか』と問答無用で斬りかかってくる可能性もある」
「真意のわからん相手にこの娘を渡すか、守護モンスターが戦って人間側の不興を買うかって二択を迫られてるわけか」
「そうだが、ここでまごまごしてても何も進まん。私が出て話をつけてこよう。連中のところに召喚できるか?」
マギリアがフードを被り席を立つ。仕事の問題でこちらから人間に無茶はできないのに、向こうはその紳士協定を守ってくれる保証はない。彼女はその不利な戦いを仕掛けにいこうというのだ。
「待ってくれ、それだとマギリアが相手に危害を加えて罰されるか、逆に殺されるかもしれないってことか?」
「そうなるかもしれんが……まぁ問題ない。たとえ私が追い出されたとしても、穴埋めしてくれそうな奴も目の前にいるしな」
ダン長が絶句する。目の前の魔女は正体不明の冒険者の前に己が身を投げ出そうというのだ。ダン長のTRPGの経験上、自己犠牲に走ったキャラを放置して納得がいく結果になった経験は一度も無い。架空の遊戯ですらそんな流れになる度に無力感に唇を噛みしめていたのだから、現実でそんなことが起こればそれ以上の後味の悪さだろう。だから彼は宣言した。
「俺があの冒険者達を拘束する」
【おはようダンジョン 3/6】
ダン長は自分が消えるべき理由を力説している傍らで、迷宮に入りこんだリンの事情を気にしだす。重病の母と山で暮らす木こりのリンは、母の死に際に何者かに連れ去られてダンジョンに連れられたと供述する。マギリアの話す魔王軍の狙いとダン長が己の能力で聞き耳を立てた侵入のタイミングが良すぎる冒険者の会話から陰謀の可能性を察し、彼は魂胆の見えない冒険者に相対しようとするマギリアを制止して己の力で彼らを捕らえようと決意する。




