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2話 おはようダンジョン 2/6

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

 魔女に家の中に案内され、人一人と石一個が玄関を上がる。壁の奥まで掘り込んでいるのか彼が思っていた以上に内装は広かった。リビングには木で設えた家具類や石の暖炉、どこかへか続いてる部屋への扉がいくつかある。森に迷った子どもを太らせて喰うようなイメージは全く連想されなかった。案内をしてくれたマギリアは、子どもを椅子に座らせてパンとスープを差し出した。顔が刻まれた石は机に敷いたランチョンマットの上に置かれ、彼女のミミズクのようなフードは椅子の背もたれにかけられている。


「ところでなぜダン長が喋ることができるようになったかというとだな? 結論から言うと魔力を刻んだ顔の形に合わせて効率的に扱うことに成功したからだ。魔力は万能で奇跡の力ではあるが行使する時のロスも大きい。普通の人間が身にある魔力をバカ正直に使い切っても石ころひとつ浮かせることもできん。例えるなら人間達の間には型をとって焼く菓子があるだろう? 魔力だけで何かを行使するということはその型を使わずにわざわざ大鍋で焼いたものを望む形に指で削って作るようなものだ。だから通常、行使においても術式という魔力を流し込む鋳型が必要になる。そうやって魔力を術式を通して発した奇跡を魔術と言ってだな……この理論をダン長に適用させると、顔の型を取ることで少ない魔力を顔の機能に合わせて運用できているわけだ。ダン長が視力や聴力を意識するために魔力を垂れ流しにしていた先程までと同様、魔力をガンガン注いで無理くり空気の振動を発生させることもできたかもしれんが、それを言語と認識させるには――」

「待った待った待った! 早口で情報の洪水を浴びせかけるな!」

「おや、すまんすまん……魔術のことでつい早口になってしまった。興味無いなら『成功したからだ』まで覚えてくれればよいぞ。ダン長が聞きたいことを聞いてくれ!」


 開口一番、ダン長の対面して座るマギリアが、顎に手をおいて興奮した様子で超早口で専門分野を語り始める。言葉を遮られると反省して質問の権利を譲ってくれた。差し当たっては――


「マギリア、『ダン長』ってなんだ?」

「ん? このダンジョンこと、ラビス迷宮基地を統べるリーダーの呼び名だ。ダンジョンのおさを略してダン長♪」


 平然とダン長など珍妙な名前を告げる彼女に、彼の石の肉体がピシッとヒビが入る。彼は無意識のうちに自分の感情の動きに合わせて彫った部分を移動させて記号的な表情を作るようになっていた。


「いや、俺の名前は…………あれ?」


 彼は困惑していた。自分の名前を思い出そうとして、ありえない事実が突き付けられた。普段から自分の名前を思い出すなんて馴染みの無い思考であり、なぜなら本来は自分の名前など意識しないでも覚えているものだ。それが——―


「思い出せない……」


「ほほう、思い出せないのなら名前が無いよりは有った方が良いだろう? 君もそう思うだろ……えっと」


 マギリアは横でスープに口をつけはじめていた子に話を振る。


「リンっていいます。助けてくれてありがとうございました、ダン長」


 助けられた銀髪の少女ことリンは、ダン長と名付けられた石に向き直りお礼を言う。治療魔術と温かい食事のおかげで体調は良くなったものの、まだ元気のない表情をしている。


「うむ、こちらこそ助かってくれてありがとう! だがダン長はやめてくれ!」

「フフン、やめて欲しかったら馴染む前に自分の名前を思い出すことだな」


 マギリアが笑いながら横槍を入れてくる。


(おのれ、本名がわからないのなら適当にでっち上げてでもダン長よりもマシな名前を……真っ先に思い浮かんだ名前……『暗黒詩人サメバード』……いやこの名前で乗り切ろうとするのは危険だ! やめておこう! なぜなら俺は……)


 彼は本名を思い出せないのならと適当にそれっぽい名前を出そうとした。しかし自分の弱点を自覚して思いとどまる。


(割と作ったキャラにのめり込むタイプだ! 暗黒詩人サメバードなど名乗れば暗黒詩人に成り切ってしまう! 今でさえ若干ダンジョンの長と勝手に祭り上げられて大仰な口調になりつつある!)


 彼はロールプレイに執心する人間だった。現実にいる人間で言えば憑依型の役者に近い気質を持っている。その癖が災いし、先ほどから『ダン長』などという『団長』と語感の似ている名前をつけられ、口調が大仰なものになってしまうのを自覚してても止められない事態になっていた。ちなみにネーミングセンスの問題は彼は自覚していない。


「どうしたダン長、そんなに悩んで?」

「ダン長? 具合が悪いんですか?」


 両者は彼の悩みも知らずにしきりにダン長という名前で呼びかけてくる。彼は望んではいないものの代替案の無い新しい名前に困惑しつつも


(やっとこの子が名乗ってくれた! 確かにリンは俺に助けられたことを自覚こそすれど、その俺が見えなかった! どこに向かって話せばいいのかわからなくても無理がないはずだ。喋れるだけじゃなくて、俺が石ころという偶像を得たおかげでリンとも会話ができるんだな!)


 彼(以下、ダン長)は内心でようやくリンと言葉でのやりとりができたことを改めて確信して喜びに打ち震えていた。しかしそのままでは自分を取り巻く状況の解明に進展がない。ダン長は真実を求めて次の質問をすることにした。


「いや、なんでもない。それでマギリア? なんで俺はこうやって罠や魔物を動かせて、あまつさえダン長なんて呼ばれるようになったんだ?」

「ほほう、いきなり核心に迫る質問だな。私の仮説混じりで聞いて欲しい。それはあんたが、このダンジョンに召喚されたマレビトがすぐ死んでしまい、100年を経てここと同化して目覚めた存在だからだ!」

「……!」


 ダン長の質問に対して、マギリアは最初から聞かれたらこう答えようと決めていたかのようによどみなく答えた。ダン長の方も今までの能力の発露のせいで軽い見当がついていた。マレビトという単語についても、自分がもといた世界でも異郷から来た神や人間をそう呼ぶ文化背景があることを知っていたので違和感はない。

 しかし百年前に己が召喚されて死んだという文言に対しては突然ぶつけられた衝撃的な情報だった。僅かながらも彼は未だにこの光景が夢で、体験したことも起きてから作る次のシナリオに活かせる経験ではないかとという現実味の無い意識がどこかに残っていたからだ。


「ってことで、改めて何か聞きたいことはあるか? 私にわかる限りでなんでも答えてあげるぞ」


 愕然とするダン長をよそにマギリアは話を続ける。ダン長は混乱した思考を整理して聞きたいこと、聞いておくべきことをひねり出す。


「……なんでダンジョンで人間が俺を召喚したんだよ、それと死んで100年経ってるってなんでわかるんだ?」

「ほほう、それについちゃあダン長にとって不幸な情報なんだが……話してもいいか?」

「……」


 召喚されてすぐ死んだだの100年たっただのという前提から、いいことよりも悪いことの方が多いだろうと予感はしていたダン長だった。異世界召喚。彼が愛好していたTRPGのシステムにもそういう事象に巻き込まれるという前提でキャラクターを作って遊ぶものがあったこともあり予備知識もあってどことなく心の準備はできていた。それでも悪いことと聞いて、知ってしまうことに躊躇してしまう。


「じゃあ……頼む」


 それでも何も聞かないことには話が進まないと決心し、ダン長は身に降りかかった情報を求めることにした。


「なら先の質問に答えるがな、召喚の動機はこのダンジョンを制圧するためだったのだ」

「ダンジョンを制圧……」

「大前提として、この大陸の魔物というのは常に一定の総力を保っている。死んだ全ての魔物の力は魔王城にある循環器サーキュレーターと呼ばれる核に還り、次に生まれる魔物の糧となるという生々流転を繰り返しているんだ。その循環器から配分される魔物の生まれの強さと成長限界を決める魔物の素養を略して魔素と言ってな」

(魔素……極小であれか!)


 その説明を受けてダン長の持つ魔物知識にあった魔素の説明に答えが出た。配分される魔素が極小ということは、それだけ彼らは弱小個体ということとなる。しかし、その魔素の総量が常に保存されるということを聞いたダン長の胸に嫌な想像が浮かぶ。彼は弱小な魔物でも人間を殺せる強さを持つということを既に知っていたからだ。そんな魔物が大陸に常に居続けるということは――


「待てよ、それじゃあ魔物といくら戦っても……」

「ああ、倒して数を減らせば次に生まれる魔物が強くなり、倒さなければ増えた数で圧倒されることになる。この尽きぬ魔物の力にいくつもの人間の国が攻め落とされた」


 マギリアによれば、追い詰められた人類にとどめを加えるべく魔王軍は次の攻撃手段に出たという。総ての魔素の4割を用いて作った小型の循環器を攻め込んだ人間の領土に持ち込み、いくつもの中継基地や前線基地を作った。こうして基地で魔素の循環が完結し、基地深部の循環器が破壊されないよう魔王軍は魔術を使い表層に侵入者を拒む罠や要害を設け、その一方で魔物を生み育てるための群生地と表層とを自由に行き来させられるようになった。


「なるほど、そういった基地が人間からダンジョンと呼ばれるものになったんだな?」

「あぁそうだ。ダン長が使っていた罠の出し入れや魔物の設置はダンジョンの核である循環器の機能だ。人間が入るのに厳しく魔物が出るのに容易な拠点をいくつも作られて、さらに人類は数を減らした。と、ここまでは魔王軍の思うがままだったが、人間達にはある奥の手があった」

「……それが異世界転移か」


 ダン長が思い浮かんだ奥の手は異世界――彼から見て現代の地球――から人を呼ぶ魔術。首肯したマギリアが続けるには彼らは次元の壁を超える時に人類の水準を超えた異能の力を授けられるため、短い訓練期間で人間の即戦力として期待されるという。次元の穴は偶然にも関東地方と繋がりを持ち、多くの日本人が呼ばれたという。呼ばれた救世主達が残存した人間の軍と手を組んで討ち勢力を取り戻すのと同時に、ダンジョンは別の意味を持ち始めた。


「マレビトという後ろ盾を得た人間がダンジョンを調べて循環器の性質に気づいたか、循環器を破壊して魔素を本拠地にむざむざ還すよりもそこを制圧することを目的にしたというわけだ」


 魔王は総力の4割という無視できない数値を割り振った。もしも全てのダンジョンを人間の物にしてしまえばそれだけで魔王軍の戦力が6割に減衰する。そう判断した人間は表層を制圧して魔物をダンジョンに閉じ込めた。時に人間達がダンジョンに入植をして狩った魔物の肉や素材を売りながら暮らす時期もあったという。そうして魔王軍から人間達がダンジョンを守るという奇妙な状況が生まれたそうだ。


「そこから人間と魔王軍の戦争はダンジョンをめぐる陣取り合戦に移行したわけだ」

「なるほど、そんな時に俺がダンジョンで召喚されたわけか」

「まぁ、当の戦争は50年も前に終わってしまったんだがな。人間優位な状態での休戦協定により、取り戻した人間の領土と魔王軍の領土との不可侵条約が結ばれた」


 ダン長の感覚からは100年も前の戦争が、今終わっていても不自然なことはない。むしろ自分が呼ばれてからも数十年も戦い続けているのが長いと感じるくらいだった。


「戦争に生き残った人間達はダンジョンの傍に村を作り、村と村の間を繋ぐ要所に街を作った。ダンジョンの監視は国の正規軍だけでなく、契約して狩猟権を得た傭兵や民兵も参加した。彼らは生態系の調査と狩った魔物の素材を人間達の生活にもたらすことで生計を立てる冒険者となったわけだ!」

「おお、冒険者!」


 ここに来て聞き覚えのある単語が出てきてダン長は顔をほころばせる。彼の生前愛好していたソード・エンドでもプレイヤーはこうやって冒険者と呼ばれるキャラを作っては参加者と協力して楽しんでいたのだ。


「そして魔物の側からダンジョン運営に協力している私は守護モンスターと呼ばれている。遭難した冒険者の保護や、軽いダンジョンの整備などをやってるよ」

「ああ、さっき言った人間の味方ってそういう意味か……」


 リンの救助を頼む時に絞り込んだ候補の『話の通じる魔物』が6体。それが人間の味方である守護モンスターの存在であることをダン長は理解した。


「私の治療と救助の代償は有り金の半分、これでけっこう稼げるんだぞ? 人間は危険なダンジョンに常駐せずに済み、私らは命を保証される上に人間の文化の恩恵に預かれるという、ウィンウィンの関係だよ」

「お金が半分……お前の仕業だったのか……」

「?」


 ダン長はようやく守護モンスターの意味と仕事を理解した。お金が半分になるゲームでもこういうコッソリ人間の味方をする魔物がいたのだろうか、と彼は思う。


(しかし、少なくとも100年以上も前から人間が入り続けているのか。次元の穴が関東地方に空いた……大半が日本人ならこうなっても珍しくないのか)

「マギリア、こっちの世界で日本語って……」

「あぁ、100年以上前から流入し続けてるおかげでマレビトの言葉が長く伝わっててな。召喚が行われた頻度による地方差は激しいが、この辺じゃ村の小僧でも話せるのは珍しくない」


 彼はそこまで聞いて、あえて無視してきた疑問に回答を得た。リンが自分に最初に呼びかけた言葉が日本語だった。現地の人間にとって普通の人間にできないことができる存在はマレビトであると予想して、勘でこちらの言語を使ったのだろう。

 そしてダンジョンの長を略してダン長というマギリアのつけたネーミング。これには長を【ちょう】と【おさ】の音訓を使い分ける日本語の言語文化が必要になる。彼女によると召喚頻度に応じて当たり前のように日本語が混じってる地方もあれば、逆に全く入らない地方もあるらしい。

 魔王軍の前線基地が作られたような戦闘が過酷な地域なら、呼んだ人間と連携をとるために現地民側が接触的に日本語を学ぶ必要性に駆られるのも妥当な話だ。


「それで次の目の質問の方だが……なんでダン長が100年前に死んで混ざったのを知っていたかと言うとだな」

「お、おう……」


 マギリアは話を切り替えて質問を切り替える。先程は殆ど自分のいる世界の説明だったが、次はより自分の置かれた状況に近い答えが返ってくると思って、ダン長は固唾を飲んで回答を待つ。


「私が調べたー♪」

「えっ」


 前よりも簡素な返答に思わず声をもらす。


「調べたって……どうやって?」

「ダン長さぁ、今日から自分がダンジョンを動かせるようになったと思い違いしてるんじゃないか? おそらく私が来るよりも前から罠を動かしたり魔物への呼びかけをしていたんだぞ。私も初めて見た時は吃驚した。覚えのないところに罠が置いてあったり、壁に生やした目が魔物や私の動きを追いかけたり」

「なんと、前から俺は動いてたのか!?」

「ここ数年のダン長は動きが活発で、半覚醒状態と休眠状態を繰り返していたが……急に叩き起こされるようなショックなことが目の前で起こったのか?」

(ショック……リンのことか……)


 大人しく寝ていられない事態の心当たりに、ダン長は目が覚めて少しした後に目の前でリンが襲われそうになった件を思い出す。


「しかし、初めて不自然な動きを見せた時は謎と期待が尽きなかったぞ。前代未聞の生きるダンジョンは魔物か? 人間か? 好奇心そそられまくりの謎生物! 仕事のかたわらで調べに調べるに決まってるじゃないか!」


 目を輝かせてテンション高く語るマギリア。それを聞くダン長はある怪現象の答えに思い当たった。


(待てよ……俺は目覚めて間もないはずの迷宮の情報を知っていることがあった。もしやあれは目覚める前から見聞きしていた情報だったのか? 入ってくる情報もダンジョンに関わるものばかりだからその可能性がある!)


 マギリアが言うにはダン長にはダンジョンに同化してから意思が目覚める間の期間があったというのだ。一般的に人間の記憶の始まりは3歳か4歳ごろからと言われ、大部分の人間はそれ以前に体験したことを忘れてしまっている。流れ込んだ知らない記憶は人間で言うその時期に得たダンジョンの情報がもたらされたのではないだろうか。確証こそないが、彼にとってそれが一番おさまりがいいのでそう思うことにした。


「あの……おかげで俺が目が覚める前から動いていたというのはわかった。だが俺が無意識にダンジョンを動かしてる間に、マギリアに粗相とかしてないか?」


 そしてダン長は気にかかったことを馬鹿正直に尋ねてしまった。意識の無い間の行動なんてまるで深酒した酔っ払いだ。虎になって目の前の恩人に狼藉を働いてないか心配になった。


「…………」

(聞かなければよかった!)


 マギリアは無言で目を逸らした。彼女のどっちとも取れる反応にダン長は困惑する。


「そしてある日、壁に生えた口がマレビトの言葉を喋った事で私はダンジョンを動かしてるのはマレビトと確信した! そして人間の保有する召喚記録まで調べに調べたのさ!」

「召喚記録……?」

「今までに召喚されたマレビトの年齢性別、どんな仕事をしたか、元の世界に帰ったか、あるいはこちらで生涯を終えたかのデータだ。それによるとこのダンジョンで召喚を行われたマレビトで、素性がわからないまま死んだという記録が残されている、両方の条件を満たしたのはダン長しかおらん!」

「う、嬉しくない……」


 気を取り直して推理を述べて、ビシッと決めるマギリアに対してダン長は嬉しそうではなかった。死んだことを嬉々として語られるのも気分が良くないのも当然と言えば当然なのだ。


「で、死因は召喚直後に崩落した天井に押しつぶされて圧死と記録にあるな。ダン長が自分の名前を思い出せないのも、死ぬ前に酷く頭でも打ったんだろうな」

「ああ、目覚めた当初は変なところで寝たのかと思ってたから召喚されたという自覚も無かった」


 自分が召喚された覚えの無さ、記憶の混乱、その答え合わせがまさかの召喚直後の圧死という記録にダン長は驚愕を深める。転移してから数秒で死ぬ人間も珍しい、異世界転移でも記録的短さである。


「ま、まあそれでも日本語を理解した現地の人間がダンジョンに埋め込まれた可能性もなくはないか?」

「そういう可能性もあるが、無意識下だった頃の寝言が当時の文化圏にない言語だったからな……なあ、『怪人・ドスニャンコ音頭』ってどういう意味だ? 他には……」

「俺だ! 俺です! 俺でいいです! いや決して俺の名前というわけではなくて!」

(1年前に作ったシナリオのラスボスじゃないか……!)


 ダン長はまるで親戚が自分の幼い頃の恥ずかしい話を語るような羞恥心を覚えて、敬語まで交えてマギリアの言葉を止めた。


(いやー、怪人・ドスニャンコ音頭まではセーフ……もしも学生時代に片想いだった女子の名前まで言われたら恥ずかしくて死ぬところだった!)

「さぁさぁ、次は何を聞きたい?」


 ダン長の羞恥は知らずに、喜んで話を続けようと質問を催促してくる。よほどダン長の目覚めを楽しみにしていたのだろう。


「そうだな……それでもうひとつ、一番大事なことだ……これだけは聞いておきたい」

「ん?」

「どうすれば俺は消えることができる?」

「えっ」


 マギリアの顔が硬直する。

【おはようダンジョン2/6】

 己の名前を思い出せない『彼』はマギリアの言われるままにダン長を名乗り、自分がこの状況に置かれるようになった経緯について質問をする。マギリアは戦後に集めた資料の状況証拠から、ダン長が魔王軍と人類のダンジョンを巡る陣取り合戦の最中に呼び出された人間がダンジョンで死亡し、ダンジョンと同化した存在という仮説を立てる。そして意気揚々と質問を迫るマギリアに対して、ダン長は自分が消える方法を尋ねるのだった。

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