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1話 おはようダンジョン 1/6

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

 百年前に魔王軍と戦う何者かに召喚された男は、不幸にもタイミングが重なった敵の奇襲により生き埋めにされた。意識が目覚めると肉体を失った代わりに、迷宮の地形を把握し、罠や魔物を動かす能力を手に入れていた。そんな中で目の前に現れた魔物から逃げる子どもを保護する。彼は己の能力を把握しながら安全地帯【魔女の家】に迷子を導くことに成功した。


(とりあえずこの娘を安全そうな場所に送ることはできたけど……ちゃんと来てくれるだろうか?)


 安全地帯の1つである魔女の家の前。迷宮の中でも一際開けた空間にレンガ造りの素朴な建物がある。家と名付けられても屋根は無く迷宮の天井まで壁がそびえ、ドアと窓と簡素な庭が見えるだけだ。『話のわかる魔物』を呼ぶことを選択した手前、来る前にドアをノックしていいものか彼も目の前の銀髪の子も迷っていた。


(こうしててもしょうがない、扉を開けて――)


 召喚を選択して数秒、ゴブリンを罠の上に出した時と同じ光が彼らの背後に出現する。光の中から現れたのは、20代前半の容姿をした女性だった。紫を基調とした服の上から黒いミミズクを思わせるシルエットのフードを被り、柑子色の髪と金色の目、明らかに普通の人間とは違う雰囲気を纏っている。


(魔女……魔女だな? ということは……魔女の家、まずいな!)


 彼はその容姿から魔女を連想し、同時にここの家主ではないかと推測した。子どもと家と、その女性の位置関係に嫌な予感を覚える。現れた時の彼女の笑みもその予感を加速させる。


「承った、初めての仕事は泥棒退治か!」


 彼の心配通り、呼び出された魔女は勘違いを起こし戦闘態勢に入った。彼女が脚のホルダーから腕ほどの長さの杖を取り出して、手首を返す。杖は根元を中心に数本に分かれ、杖の間に光る文字が浮かぶ。杖よりも鉄扇を思わせる武器を泥棒ではないに向けるとその背後から炎の槍が数本現れる。振り向いた迷子は尻餅をついて動けなくなってしまう。誤解を解くための語る言葉を持たない彼は焦った。あれが当たれば人の命を奪えると容易に想像がついている。


(魔法? 魔術? まずい、とにかくあの娘を守る方法だ!)


 炎の槍が奔るまでの間に、彼は守る手段を必死に模索した。ここまでの間にこうして念じればこの迷宮にある罠や魔物の情報など、彼の人生に存在しないはずの記憶が時折入ってくることを学習していた。


【マディックハンド】

 近くを通った者を捕まえるよう設計された罠。マッドゴーレムを素材にした想像に応じて魔力を込めると伸び縮みする手。魔力を抜くと固まる。


(マディック……泥の手!?とにかくこれで炎の槍を遮れば……)


 彼がこの罠の発動を必死に念じると、土気色をした手が床石を砕きながら何本も現れた。それとほぼ同時に魔女の方から炎の槍が発射された。


(動いた……けど泥のままで防げるか!? 固まるには魔力を抜くらしいがどうやって? いや、操作が出来たということは魔力を込めて想像したってことだ! なら固めるには逆にこれから意識を手放せばいいのか?)


 彼は勘で創造した手から意識を外す。読み通り蠢いていた手の動きがだんだん鈍くなり、流動していた表面が硬化し始める。瞬間、放たれた炎の槍と衝突――




しなかった。


(外した?)


 魔女から放たれた炎の槍は子どもどころか泥の手にすら届かず前方の床に刺さっている。その刺さった槍の配置から見るに最初から当てる気の無い攻撃であることは明らかだった。


「守った? ……おーい、この悪童を追い払って欲しいのでは無かったのか? 先に言うが泥棒相手でも頼まれようが殺しはやらんぞ」


 ポカンとした顔で首をかしげながら魔女が虚空に話しかける。目の前で攻撃を見た子も恐怖で声を出すこともできず、沈黙が訪れる。


(ぜんっぜん違う! 説明できない俺も悪いんだけど! いや……それよりも最初から俺が呼んだと自覚して向こうから話しかけてきた? この魔女はいったい……)


【アークメイジ】

 魔術を専門とする魔物、メイジの上位種。戦闘や生活において様々な魔術を行使する。人間に近い容姿のため正体を隠して街中で暮らす個体もいる。


 彼の疑問に対して植え付けられる記憶はこのように回答する。


(正体を隠して街で暮らせる……目の前のはどうか知らないがコボルドやゴブリンと比べれば理性的な方なんだな? どうにかして話をしてあの娘を……あれ? だめだ、視界がふらつく?)


 彼は今の意識すれば視界が動いてしまう自分の問題点を自覚した。幸いにして魔女の家まで連れてくる段階で主に意識していたのは保護対象だけだったし、先程までも魔女の突然の攻撃を凌ごうとしたことに必死になっていた。しかし状況が膠着した途端、注意の対象が複数なのが災いして均等に意識を割くことになってしまった。視界が両者の間をぐるぐると回り続けてしまっている。


(話をするどころか前を見ることすらできん! 内臓があったら吐いてたレベルだ! 誰か……)


「早くこいつに顔を刻め! 魔力が尽きてしまうぞ!」


 転げまわる視界の中、突然聞こえた魔女の声。手には先ほどのマディックハンドで押しのけられた床石か何かが握られている。解決法に始めから気づいていたかのような振る舞いに動揺を隠せないが、彼は信じるほかなかった。


(と、とにかく言うことを聞くしか無い! 尽きるってなら速さ優先で簡単な記号で……丸と三角で目と口を、耳は三日月型でいいか)


 彼は地図を2度目に描いた時のように魔女の手に持った石の塊に簡素な顔のパーツになるように削り取る。彼は速さを重要視したせいか四角い石に刻まれたのはまるで小学生が作る段ボールのロボットみたいな顔になった。すると先ほどまでの混乱した視界は一転して落ち着き、自分を見下ろす魔女の顔が真正面にくる。心なしか先ほどまで視ていた視界と比べてくっきりと映るように思えた。


「ぁ……見える……喋れる!?」


 再びまともに景色が見えることに感嘆の声を漏らすと同時に、自分が不意に発した声を聴きとったことで気が付いた。彼に声が戻ったのだ。こうして、彼はこの世界で初めての石ひとつ分の肉体を手に入れたのだった。


「ほほう、もう喋れるようだな? その石を動かせばあちこち自由に見ることができるだろう」

「あ……ありがとう! あと誤解させてすまなかったが、あの女の子は泥棒じゃなくて迷子! 安全な場所があると知って俺がここまで案内していたんです!」

「おおそうか、こちらこそ勘違いしてすまなかった!」


 彼は礼を言って石を移動させて魔女の手から飛び出し、左右を見回す。彼女の言う通り石を向けた方向にきちんと視界が移動できる。再び石を彼女の方へ向ける。初めて自分に助言をくれた存在を前にして、彼の胸にこれまでで生まれた沢山の疑問に答えてくれるのではないかという期待が湧き上がってくる。


「それにしてもあなたは誰です? どうして喋れるようにできたんですか?」

「私はマギフィリア・フォールラック。長いからマギリアでいいぞ。私はこのダンジョンの守護モンスター……端的に言えば人間の味方のクールな魔術師だ。後者の質問に関しちゃ込み入った話になるから中で話すぞ」


 マギリアと答えた女性はそこまで答えてから握っていた石から目を離して銀髪の子の方を見る。


「それにそこの子も休ませてやらんとな。まともな飯が出るとこは別の安全地帯だが、恐らく人の移動はさせられないのだろう?」


 と言って再び彼を右手に取りもう片手に持った杖の束を収める。尽きない疑問を追いやって彼は自分が連れて来た子どもの怪我を思い出す。


「そうだ、あの子は怪我した足でここまで歩いて、中で怪我の手当ても――」

「もう治した」


 彼がそれを聞いて石の身体を回転させて子どもの方を見ると、土の汚れはまだ残っているものの傷一つ無い足になっていた。杖を向けただけで怪我を治したことに彼は驚いていたが、その間にマギリアはニッコニコ笑いながら治療した子を助け起こすと手に持った石とまとめて家に連れ込んだ。


「さぁさぁ続きは私の家でだ。私だってずっと話をするのを楽しみにしていたんだ。堅苦しい敬語はお互い抜きにしようじゃないか、ダン長♪」

(だんちょう……?)


 馴染みの無い言葉を添えて。

【おはようダンジョン 1/6】

 安全地帯で呼び出した魔女は『彼』が目覚め、力を行使することを認識すると近くの石塊に顔を彫るよう指示する。正確な知覚と会話の手段を手に入れた『彼』は、マギフィリア・フォールラックと名乗る魔女(愛称・マギリア)に連れられ彼女の家で話をする次第となった。彼女は子どもの傷を癒し、彼をダンジョンの長もとい『ダン長』と呼ぶ。

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