プロローグ 誘導ミッション
【今回の三文あらすじ】
「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。
どこかの迷宮で目が覚めた男は自分の身体を失ったことを知る。その時に魔物から逃げる子どもと遭遇する。とっさに魔物に離れろと念じると魔物が離れた。無理に動こうとして崩れた壁と思い通りに動く石から、彼は自分が壁になっているのではないかと推理した。
「あわわわ……」
(あの女の子が驚いている……それはそうだ、目の前でただの石が踊りだしたら俺だってビビる。ひとまず自分がどうなったかは後回し、夢とはいえ子どもが死ぬのは見たくない)
置かれた状況を試す為に石を躍らせたことで子どもを驚かせたことを反省し、彼は気持ちを切り替えた。
(さっき流れ込んだ記憶にあった迷宮基地とやらがここのことなら……ここは迷宮の通路か? だとしたら外か安全な場所に連れていってあげられないだろうか)
彼は身体の無い自分にもできることを探していた。こうしている間にも銀髪の子は疲労の色濃い身体に鞭打って、とぼとぼと逃げてきた方と逆へと通路を歩き始めている。進みながら不安げに左右を見渡す表情からは、行き先の安全の確信が皆無であることが見て取れる。
(そうだ! さっきの魔物の情報みたいに頭にこの先の道がわからないか? 記憶が書き換えられていくのはまるで別の生き物になっていくみたいで正直怖いが、四の五の言う余裕は無いな!)
彼はこの迷宮と思しき場所の地形図を求めて念じた。先ほどのコボルドの知識が流れ込んだ怪現象を逆に利用しようとしたのだ。しばらくして、彼の頭の中に迷宮基地の構造が浮かび上がってくる。迷宮とは言葉の通りで、自分達はゲームブックで見るような複雑に入り組んだ通路と小部屋がで構成された広大な四角い空間にいることがわかった。
(これは……迷路だな。これで危険な化け物……いや魔物が出てこないならテーマパークに来たみたいでちょっと歩いてみたい気もするんだが。まずは現在地の確認だな、闇雲に動き回って魔物と遭遇したらまずいぞ)
地図があっても現在地がわからなければ無用の長物。彼は自分達がいる位置を知りたいと念じた。それに応えるように意識に描かれた地図に緑色の光る点が明滅する。
(今の場所を知りたいと思って点いた場所だから……ここが俺かあの娘の現在地でいいんだな? 迷宮の真ん中に近い。出口は南側にあるみたいだが縮尺が念じても出てこないんじゃ距離もわからんし、もっと近くに安全な場所があればそこで休ませた方がいい。それと清潔な水だな……何日飲まず食わずかもわからないし、足の傷に泥が入ってないかも心配だ)
安全地帯への誘導もだが、人間が生き延びることにあたって水の確保は最優先だ。行き先のわからない迷宮の中で両方の条件を満たす場所がある保証こそ無いが、それでも探さないわけにはいかなかった。
(頼むぞ安全で水が確保できる場所。あった……それも3カ所も! 迷宮などと危なっかしいニュアンスの建物に3つもあるなんてついてるな……それで、一番近いものは……)
【魔女の家】
ラビス迷宮基地にある安全地帯のひとつ。ここには傷つき迷い込んだ人間を保護して外に送り出してくれる魔女が住んでいる。
安全地帯の中で一番近い場所の情報が入り、脳内地図に該当する場所らしき地点に青い光が灯る。その中で一番近い地点に誘導させることにした。距離がわからないので角を曲がる回数で換算する。ここから3回も曲がればたどり着くが、無視できない問題がいくつも残っている。
(黄色く光る罠の表示が……この迷宮には罠があるのか。この娘には危険だろうし、ひとまずどんな罠か知っておかないとな)
安全地帯までを最短で結ぶ進路上には迷宮に仕掛けられた罠がいくつか表示されていた。正体を調べてみなければならない。彼は試しに進路上にある最も近い2つの罠を調査することにした。視界を地図上の該当する場所まで動かすと、頭に罠の情報が浮かんでくる。
【落とし穴】
この罠の上を通過した生き物に反応して発動。対象を下の階層に落とす。
【ベクトル床】
この罠の上を通過した生き物に反応して発動。対象を矢印の方角へ強制的に移動させる。
(落とし穴はまずい! 仮に落ちて生きてたとしてもこの階層でボロボロになる女の子が下の階層とやらで生存する可能性は無い。あの娘が通る前にさっきの魔物みたいに排除できないか……即できた!!)
コボルドを撤退させるよりも爆速で該当する地点から落とし穴の反応が無くなった。
(ん? 落とし穴って言うのはあらかじめ掘った地面にフタで隠すもんじゃないのか。こうやって『無くなれ』で無くなったりするもんなのか?)
彼の疑問をよそに、銀髪の子は元々落とし穴のあった地点を無事に通りすぎる。彼は安堵して次の罠への対処を考えた。ベクトル床。彼からすれば効果を鵜呑みにするなら落とし穴に比べれば毒気は無いように思えるが、この状況にあって知らないものを信用はとてもできない。RPGの踏んだら障害物まで進み続ける床みたいなものかもしれないし、アクションゲームの樽や大砲みたいな飛び方をするかもしれない。
(幸いにも矢印は3回曲がり最初のT字路の方に向いている、移動が緩やかならこの子に踏ませれば楽をさせてやれるが……仮にも罠だ、滅茶苦茶すっ飛んだら危なすぎる……生き物でいいなら魔物で……何か適当なので試さないとな!)
彼は罠の効果を検証するために魔物に踏ませることにした。さっき逃げたコボルドが近くにいるなら念じて連れてこさせようとしたものの、先ほど追い回してた魔物が進路の先から現れたらあの子は逆方向に逃げ出してしまうだろうと思い留まる。
(コボルド以外にこの迷宮に魔物はいないのか!? あっ……)
【群生地に生息する魔物一覧】
スライム、ゴブリン、マッドゴーレム、オーク、スチールビートル、トロール、オレガンバッタ、ワイバーン……
『迷宮の魔物』を知りたいと願った途端、彼の頭にとてつもない数の魔物の情報が思い浮かんでくる。彼の遊んでいたゲームに出てくるものから聞き覚えのない名前まで。処理する時間の余裕はとても無いので、早くに思い浮かんだゴブリンを実験体に選ぶことにした。
(痛む頭は無いが酷く疲れる……ここらで止めておこう! ゴブリン、あそこのベクトル床の上に出てきてくれないか?)
彼が念じたと同時に光の帯が出現し、やがて収束して光が消える頃には目の前の子よりさらに背丈の低い、耳と鼻の尖った彩度の低い肌をした小鬼が現れた。ベクトル床の真上に。
「ンギャアアァァ……グフッ!」
金槌を木の板に叩きつけたような音がしたと思えば、光る矢印を付与されたゴブリンがパチンコ弾のようにすっ飛んでいく。視界の外へ消えて数秒後、何かが壁にぶつかった音が響き、静寂が戻った。歩いていた迷い子は今の現象に何が起こったかわからず足を止めてしまう。
(油断してあの娘に踏ませたら大変なことになっていたぞ! そういえばすっとんだ奴は!?)
足を止めた子どもから視界を一旦T字路の向こうに移してみると、壁に激突したゴブリンが大股を広げて気絶していた。
(彼か彼女か、このゴブリンには申し訳ないことをした! 申し訳ついでにあの娘が通る時に復活して襲ってきても困るし、片付いてもらえればな)
彼が退去を命じると出現時と同じような光が現れてゴブリンを包み込み、分かれ道に魔物の影は無くなった。
(群生地ってのは迷宮とは別のところにあるのか? そこから俺が魔物を出したり下げたりできるのか。まるで召喚だな……あの女の子は足を止めてしまったけど、これを使えば上手く誘導できるかもしれない)
ベクトル床の効力を確かめたまではよかったが、おかげで目的地を目指していた救助対象は驚いて足を止めてしまった。その代わりに今までの試行錯誤で彼は有用な情報を手に入れていた。少なくとも目の前の子は魔物を恐れるということだ。
(この娘に向かって欲しい方向と逆の方に魔物を出現させればいいな……コボルドを呼ぶか。威嚇だけさせよう、威嚇だけだぞ! 何かしたらお前らの足元に落とし穴出すからな!)
そう思いついた彼は想定した進路と反対側にコボルドを2匹出現させた。2匹の魔物は骨の武器を振り回して唸る。彼の指示通りに魔物は足を止めたまま見送るようにふるまい、子どもは来た道を引き返す選択肢も無く前進を始めた。
(しかし、俺のコレは視界かどうかわからんが、あの娘には目の前がちゃんと見えているのか……?)
【迷宮の視界】
洞窟に漂う魔力に反応して光る特殊な石材が一定間隔で仕込まれている。外ほど明るくないが照明を別に用意する必要があるほど暗くはない。
その間も彼が疑問に思った途端に、存在しなかったはずの記憶が刷り込まれる。彼はこの現象に慣れてしまいつつあった。
(迷宮の地形掌握に罠の把握と撤去、石の操作に魔物の召喚と撤退と使役。できることはだいたいわかってきたが、思えばそれもこの娘のおかげだな)
彼は考えた。もし自分の前にこの子が現れなかったら、夢が覚めるまで迷宮の片隅で自分の置かれた状況を延々と考え続けていただろう。悩めば悩むほど考え方が悪い方向へ傾いたかもしれない。その意識が守るという目的のために使われているおかげで悩む余裕を奪われているのだ。
(願わくば、この娘が無事にここを出られるように……)
彼がそう祈っている間におずおずと進みだした子が先ほどのT字路へ到達した。左右どちらに進もうか考えあぐねた様子できょろきょろしている。ここで無視できない次の問題が現れた。彼が地形を把握することができても、他者に伝える手段が無いのだ。ここから3度道を曲がらなければいけなかったが、間違いの道に魔物を配置するだけで解決できる保証もない。来た道を引き返したり、破れかぶれで魔物を突破しようとする恐れもあるのだ。
(あの娘に安全地帯への道筋と罠の場所を知ってくれたら助かるんだがな。そうだ、石を操作できるなら壁に地図を彫り込めないか?)
やれることが思いついたら次々と試すのが探索の鉄則だと、彼は学んでいた。
(何を書くこと……起きるまで次のラスボスを忘れないうちにメモしてくか。『暗黒詩人サメバード』……と。よし、石に彫り込むようにすれば字は書けるな!)
彼は石で次のシナリオで冒険者に立ちはだかる予定のラスボスの名前を刻み、改めて字を書けることを確信した。その調子で留まっている子どもに目的地までのルートを刻む。ガリガリと正面の石壁いっぱいに簡単な地図と道順の矢印を刻み、『この順路通りに進んで!』という文字を地図の下に彫り込んだ。ひとまずは最初のT字路は右に進めば目的地に近づくことができる。彼はその子が自分の言葉を介し、アドバイスを信じてくれることを祈った。
「ぴっ!?」
だが、目の前で急に壁に巨大な図が彫り込まれたことに驚き、銀髪の子は慌てて駆けだしてしまった。進路こそ想定通りに右に向かっているが、走られるとこれからの追跡と進路上のクリアリングが間に合わなくなるかもしれない。
(しまった! その先の罠と魔物の排除はまだ済んでないぞ!? 助けていたつもりでいい気になっていた……あの女の子に日本の文字がわかる保証だってないのに、信用するしない以前に俺の存在すら認識されていないんだった! しかし足が速いなあの娘、俺の追跡が追いつかないぞ!)
彼の視界の移動速度が遅いのか向こうの足が速いのか、視界は追いつけず見失ってしまう。彼は頭に地図を浮かべれば罠や魔物の位置は表示されるが、肝心の人間のいる場所は表示されてくれないのをもどかしく感じていた。
「っわぁぁぁ!?」
(まずい、どこかの罠にかかった!?)
しばらくの間をおいて、視界の向こうから悲鳴が聞こえてくる。焦る気持ちを抑えて急ぐ彼の意識が追いつくと悲鳴の主は壁に磔にされていた。近づいて凝視すると、正確には壁に生えた1メートルを超える植物が伸ばす蔦に四肢を捕らえられていたことがわかる。動けなくなった子どもが苦しそうにうめく。
「ぁ……」
(あれはなんだ、罠か? 魔物か?)
【イビルプラント】
ラビス迷宮基地に生息する植物型の魔物。壁や天井に根を張り、付近を通る生物に絡みつき活力と魔力を吸い取って栄養にする。配分される魔素は極小。
彼の頭に魔物の情報が流れ込んでくる。
(魔物だったか……なら今すぐに退散させられるはずだ)
彼は魔物の暴行を止めさせようと念じる。これまで通りならコボルドやゴブリンのように出したり引っ込めたりは自由のはずと思っていた。しかし――
(退散されない? 言うこと聞かんタイプの魔物もいるのか? それとも人間を捕えている間は制御できないのか?)
イビルプラントは彼の命令などどこ吹く風で獲物から力を吸い続けている。早くしなければ自分の焦りが原因で人を魔物に襲わせて死なせてしまう、そう思った彼は正確に魔物の説明を思い返す。
(こいつが壁に根を張っているなら、石壁の間を縫ってその向こうの土か何かに根を張っているはずだ。俺が迷宮の石を動かして……いや、根本ごとひっくり返せばあいつを引っこ抜けるんじゃないか!?)
彼は魔物が根付く全ての土を通路の方向へ全力でぶちまけるよう念じる。植物が地面に根を張る力というものは強靭なもので、動かすために念じる強さは彼が先ほど石を躍らせるために動かしたものの比ではなかった。
(硬ッ!? こんな石のスキマにもビッチリ根を張るだなんて、涙の数だけ強くなるわけだ! だけど、こっちも人の命がかかってるんだ!)
しかし、それで攻める手を緩めるわけにはいかなかった。その魔物の懐には少しずつ死が近づいている人間がいる。彼はより強い意思を万力のような力に替えて土に対する干渉を続ける。
(どっこいしょぉぉぉっ!)
土を引っ張っている彼の感覚に、ぶちりと細かく枝分かれした根のひとつが千切れる感触が伝わって来た。その箇所が千切れたら後は総崩れ。ぶちぶちと音をたててイビルプラントが張っていた根が、土に残された細かい根を残して母なる大地から別れを告げる。
(よし、後はコボルドを召喚して骨みたいな武器で女の子に絡んだ蔦を……ってもう外れている?)
彼は魔物を土から引きはがしたところで救助を試みようとしたが、幸いにして既にイビルプラントの拘束は外れていた。
(自分で脱出したのか? 俺がアイツを掘り起こした隙を伺って……ともあれこの娘が身軽で助かった。後は……ベクトル床とやらでこいつを遠ざけるか)
彼は無事に安堵したと同時にひとつ思案した。今の自分は魔物の召喚と退散を己の裁定で行うことができるのだ。そうであるならば、自分で罠の解除ができるのなら……それに対応しているはずの罠の設置も行えるのではないかと。
(それが思惑から外れていたらいたでコボルドに襲撃させてこいつを倒す次善策はあるが……どうだ?)
彼が念じてから数秒後、期待通りにイビルプラントが落ちた場所の上にベクトル床が設置された。前にゴブリンが飛ばされた時と同じ音を立てて通路の向こうの視界の外へと魔物は消えていった。
(罠をしかけようと思ったら数秒ラグが発生するのか……相手が自力で動かない植物型の魔物だからなんとかなったな。あれだけ飛ばせば戻ってくることもないだろう)
彼はこの場の危険は去ったと確信した。
(しかしこれはどうする?俺ができることはこの迷宮の中への働きかけ……この女の子がここからどう動くか制御できないんだが……)
彼は悩む。一度地図を出して逃げられた経験がある彼は、自分の次の誘導が目論見通り運ぶという確信が持てないのだった。そうして次の手を考えあぐねているところに――
「あのっ! 誰か見ているんですか?」
(なっ……日本語!? まぁ夢ならそういうこともあるか! それよりも……)
突然の呼びかけに彼は思考を止めてしまった。確かに、今まであの子を取り巻く現象を向こうの立場で振り返ってみると不可解なものばかりだ。危害を加えようとした魔物が撤退し、自分に先んじて魔物が罠を踏み、あまつさえ自分を捕まえた魔物が突然壁から引きはがされて吹き飛んだのだ。何者かの意思が介入しているのではないかと当事者から疑問が出るのは当然だった。当人は天の助けかと思って虚空を向いてるので、こちらからその子の正面に来るように視界を調整した。
「信じて……いいんでしょうか?」
(はっ……)
今まで自分に降りかかってきたことからそう判断したのか、それとも己には疑う余裕が無いので縋ろうとしているのか、自分の味方と判断して質問をしてきた。しかし肉体を持たない彼には首肯する手段がない。できることは改めてその子がいる近くの壁に安全地帯への地図を改めて彫るしかなかった。相手の名前も知りたいので、ついでに彼は地図の横に『名前を教えて欲しい』と彫り込んで名前を知ろうとした。
「……わかりました」
(読み書き自体はできないのか、名前は教えてもらえなかった……だけどやっと意思の疎通が出来た気がする!)
肯定した銀髪の子は示された道をのそのそと歩き始めた。その姿を見て、彼は今の状況に陥ってから誰かと初めて意思の疎通が成り立ったことに感動して打ち震えていた。イビルプラントを撃退したことで信頼を得たのか、その足取りは先ほどまでの無理くりな誘導と打って変わって、示された方角へ積極的に向かっていくように見えた。そして残る2つの曲がり角も正解の方面を曲がり、想定していた安全地帯【魔女の家】へ到達することができた。
(ひとまずは安心……とにかく俺やこの娘がいる状況の説明が欲しいな。いや、それもだが出来ればこの娘をきちんと保護してくれる話のわかるやつが欲しい……人間を呼べたらありがたいんだけど俺の呼べるのが罠か魔物だけだからな)
彼がそう念じた途端、脳裏に人間と話がわかる魔物のリストが浮かび始める。該当する魔物は6体存在することを知った。
(6体、6体か……いや迷宮なんかに6体いるだけでもありがたい! なら一番人間に優しいやつを頼む)
この娘を保護してくれて、ついでに自分の状況がわかる魔物を呼びたい。彼はそう願うことにして魔物の応答を待った。
――迷宮の一角――
西洋風のやや古めかしいデザインのバーにしつらえた部屋。その席に座る2体の魔物とカウンターでグラスを拭く1体の魔物がいる。
「ぬぅ、なにやら風が我輩に語り掛けてくる……」
魔物のうち1体がグラスをテーブルに置き、顔を上げる。
「違うわ! これがダンジョンからの呼びかけ……愛の囁き!」
カウンター越しに別の魔物がグラスを拭きながら返答する。
「ほほう? こうまでに明瞭に呼びかけてきたのは初めてだ……」
足を組んで席に座っていたもう1体の魔物が、嬉しそうに声をあげる。
「「つまり?」」
先に反応した2体がその声に聞き返す。足を組んだ魔物は満面の笑顔で宣言する。
「ああ、我らがダンジョンの長の目覚めだ!」
【プロローグ 誘導ミッション】
魔物から助けた子どもを安全な場所に連れて行こうと望んだ『彼』の脳内に、迷宮の地図と安全地帯の情報が流れこんでくる。彼は手に入れた能力の効果を試行錯誤しながら、安全地帯『魔女の家』へと子どもを誘導することに成功する。その一方で、意思疎通が可能な魔物を求めるダンジョンからの呼び声に反応する3体の魔物がいた。




