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プロローグ 転移者着地狩りRTA

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

「遠い昔、我らに無尽の贄をくださりし神々よ……今や彼らは人々に牙を剥き暴虐の限りを……」


 かがり火が照らす薄暗い石壁に囲まれた部屋に初老の男性の朗々とした呪文が響く。語気の高まりに応じ、床に描かれた大きな円の中に小さい丸と三角を敷き詰めた幾何学模様の絵が光を放ち始める。


「神々に才知を授けられしマレビトよ、次元を超え我らが呼び声に応えたまえ……」


 老人の詠唱が数分に渡ったところで、部屋の外から物々しい金属音が近づいてくる。


「何事だ!? 祭壇はまだ召喚の途中だぞ!」


 音の正体は祭壇のある部屋に駆け込もうとした兵士の足音であり、彼は出入り口に控えていた護衛の男達に侵入を止められている。


「報告します! 魔王軍がこの基地の奪還に向けて大規模な奇襲を仕掛けてきました!」

「馬鹿な……敵の立て直しも襲撃も見立てより二か月は早いぞ」


 息も絶え絶えの兵士がその場で告げた報告に護衛の男の一人が狼狽する。


「進軍速度は凄まじく防備も持ちません! 隊長の決定に従い基地を放棄して態勢を……」


 彼が二の句を継ぐ前に部屋の天井から轟音が鳴り響く。報告の通り攻め込んだ魔王軍の手がこの部屋にまで及んだのだろう。激しく部屋が揺れ、天井からレンガが降り注ぐ。もはや崩落は免れないだろう。


「待て! もう召喚が……」


 詠唱を中断して護衛達と共に逃げようとした老人が光の中心に人影を見た。しかしその影も崩れてくる天井に遮られて次第に

見えなくなっていく。


「放せ! せめてマレビトを連れて――」

「お逃げください! 祭壇が崩れます!」


 護衛は呼ばれた『マレビト』を救助しようと駆け寄る老人を引き留め、強引に抱えて部屋から離脱する。護衛に抱えられながら退避する老人が、視界から遠ざかる祭壇跡を睨めつけて歯噛みした。


「無念だ……みすみす神の御使いを……」


 兵達が撤退した石造りの建物の残骸、そこに異形の姿が続々と踏み入れる。そのガレキの山の一角から、力無く横たわる男の手がはみ出ていたのには誰も気が付かなかった。







――それから百年の時が経った――




――――――――――――――――


「――さん、ギリギリになってしまい申し訳ありません。明日のセッションのキャラが出来ました、チェックお願いします!」

「はい、パーティのバランスも大丈夫です。あとはこちらで敵とか調整しますから」

「いやー、今回は新人の子もいるから楽しみだな。このシステムも過疎ってきたし、新規さんに好きになってくれるといいが」

「ええ、軽くシナリオの手直しをするので先に落ちますね。では明日の夜9時に」

「「はーい」」


――――――――――――――――


(あれ……朝のわりに暗いな……?)


 壁も床も天井も石で構成された薄暗い通路で『彼』は目を覚ました。


(とりあえずトースト食って会社……今夜は楽しみにしてたソード・エンドの当日だ! って昨日は何を……こんなところで寝たか?)


 彼が朝食だの夜に遊ぶTRPG(人を集めてルールが書かれた本とサイコロで遊ぶ非電源ゲームのこと)の予定だの、定まらない思考を整理していると見覚えのない景色を見ていることを自覚してしまう。


(どこだここ……拉致か!? ここまでされるほど恨みを買った覚えも無いし、一人身を拉致ってに身代金を求めるバカもいるまい。拉致と言う割に見張りも拘束も無いし、とにかく外に出なきゃな! 今夜のゲームの為にひと月は用意したんだ、サークルの皆も楽しみに待っているだろう)


 見張りや拘束がないことで拉致の可能性を振り払い、彼は足を動かして外に出ようとする。だが――


(歩けない……どういうことだ!?)


 彼の脳がいざ足を動かそうと命令するも、身体がそれに従ってくれない。確かに彼の視界には石の通路が映っている。壁の石と目線を比べて自分が立っていると判断したが、歩こうとすれども視界が微動たりともしなかった。


(身体が動かないんじゃない……動く体が……)


 彼は身体の様子を確かめるため下を見ようと思った。動かない身体に反して眼は正常に動いてくれたようで、視界の大部分を占めていたものは壁から床に変わる。だが、普通の人間が下を向けば当然見えるはずのものがそこに存在しなかった。


(無いっ!)


 頭を支えているはずの胴体も、それに付随する手足も消え失せているのだった。


(考えられるのは……無重力空間に生首だけ浮いている可能性が……いや重力が無きゃ石の壁なんて立たんだろう……)


 今置かれている状況の情報が増えるほど彼の混乱は増していき……


(夢だな! おそらくそういう脱出ゲームみたいなTRPGのやりすぎでこんな妄想をするようになったんだ!)


 思考停止することで混乱から脳を守ることを決めた。


(じきに覚めるだろう。こんな夢でも、起きれば次のシナリオ製作に活かせる貴重な体験になるだろうさ――)

「うあああぁっ!!」


 目覚めてから数秒、通路の先から悲鳴が響いてきた。悲鳴に遅れて複数の足音も続き、彼の元へと近づいている。


(悲鳴!? 目と耳も無いのに……)


 彼は視覚だけでなく聴覚もあることを確信した一方で、通路の先から聞こえてきた悲鳴とその状況が気にかかってしまっている。ほどなくして悲鳴の主が視界に映る。叫びながら走っているのは人間の子どもだった。追手は人間の背丈の半分ほどの二足歩行の生き物だが、頭は犬のようで手には骨を削って尖らせたらしき武器を握っている。


「ギャオオオォォッ!」


 犬頭の異形は獰猛な咆哮をあげて子どもを追いかける。その絵面から危害を加えようとしているのは明白だった。その子は、ちょうど目の前を過ぎたあたりで逃げる足を止めてしまう。


「あ……」

(女の子が魔物に!? どうしたんだ!)


 彼がその子の挙動に疑問を覚え、進路の確認を望んでみると視界が傾く。


「グルルルッ!」


 その先には、追手と同じ姿をした化け物が唸り声を上げながら待ち受けているのが見えた。一本の通路の両側から挟まれて観念したのか、追われていた子どもは壁を背にして化け物を交互に見ている。


(まずい……あのままじゃ)


 化け物を撃退しようにも子どもを逃がそうにも身体が無ければ何もできない。彼が焦る間も唸り声をあげる2匹の犬頭はじりじりと獲物に迫る。数秒後の惨劇を予感させる光景から目を逸らすことすらできない彼は――


(その娘から離れろ!)


 と心の中で叫ぶことしかできなかった。


「グルル……」


 その時、信じられない出来事が起こった。今にも飛びかかろうとしていた2匹の目から殺気が消え、踵を返してそれぞれの現れた通路の先へひょこひょこと歩き去っていった。壁に背をつけたままの子どもの息遣いを残して通路に静寂が戻る。


(なにが起きた? 明らかにこの娘を殺して食うんだろって勢いだったのに。俺が離れろと念じたら急に退いた……なんだったんだ今のは)


 当面の危機を回避した安堵から冷静さを取り戻した彼が、先ほどの襲撃犯の正体を気にかけた時——―


【コボルド】

 大陸に広く分布する犬に似た頭を持つ魔物。雑食で力は強くないが、簡単な道具を扱える器用な面を持つ。ラビス迷宮基地においては配分される魔素は極小。


 と、彼に文字とも音声ともとれない情報が流れ込んでくる。


(ぬわーっ……字? 声? いや、あたかもコレを最初から知っていたかのように記憶が書き換えられている! 迷宮基地とか魔素とか聞きなれない言葉があるが……しかしコボルドか。ソード・エンドの敵に使ってた覚えはある……しかもかなり似てる!)


 植え付けられたような記憶による混乱を逃れるため、彼は元々持っていた記憶の整理に集中する。『使ってた』というのは彼が趣味にしていた剣と魔法のTRPG【ソード・エンド】にてGMゲームマスターと呼ばれる進行役が用意する敵対NPCとして登場させていたという意味である。本にあるデータについてるイメージ図と目の前のリアルな魔物の姿がほぼ一致するとは奇妙な出来事だったが、彼にはそれよりも心配事があった。


(夢とはいえ生で見たのは初めてだったな……いや、こうしちゃいられない! あの娘は無事か?)


 彼は意識を眼前の通路に戻す。状況が落ち着き、その子の現状を確かめる余裕を取り戻すことができた。見た目は10代前半あたりで彼から見れば整った顔立ちをした少女だったが、痩せ気味で腰ほどまでの銀髪は乱れ、服は上下ともあちこち破れている。裸の手足には擦り傷や泥汚れが目立つ。


(迷宮基地とやらがここのことなら、こんなか弱い女の子が魔物がいる場所にどうして……ここまでボロボロになるなんてどのくらい彷徨ってたんだ?)


 彼はその姿を見て肩を貸そうと駆け寄ろうとしたが、身体が無いことを思い出して意識が踏みとどまる。しかし、彼が近づこうと意識したタイミングと連動して、近くの壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


「ぴっ!」


 急な音に驚いて叫び声が上がる。崩れ落ちた壁の石のいくつかは物理法則に抗い地面を這って対象に近づくものの、半分も進まず力無く動かなくなる。


(何でだ? ひとりでに崩れるような様子も無かっただろ!? それに今の動き……まさか)


 不可解な現象にある推測を立て、彼は今動いた分の石を今度は自分の意思で動かそうとする。推測の通り、動かそうと念じていた間だけ石が思った通りに動いている。


(身体が無くなったんじゃない……俺の身体はひょっとして、この壁になっちまってるのか? おお、なんて貴重な体験だ! 起きたら忘れる前に夢日記をつけとかないとな!)


 彼はポジティブだった。

【プロローグ 転移者着地狩りRTA】

 今より100年前、魔王軍を名乗る魔物の群れの奇襲により、人間達による召喚直後に迷宮の崩落に巻き込まれて死んだ男がいた。そして現在、彼は肉体を失ったまま迷宮の中で目覚めることとなる。目の前に逃げてきた子どもを追う魔物を追い払った彼は、現実離れした体験に夢を見ていると結論付けた。

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