表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/62

47話 黒炎の領主と継承の儀式③ 状況整理をしよう

キャラが思いつく対策を行えない理由の説明などの対策会議で前話と分割になりました。テンポの良い情報整理が上手い書き手は凄いと思います

 宴会中に曲者の気配を察知し、棒手裏剣を投げるキャニュオン領密偵のサキ。宴の空気が一変し、一同に緊張が走る。


「……サキよ。君はここの壁に穴を開けるつもりかい?」


 しかし、彼女の投げ放たれた飛び道具は何にも刺さることはなかった。先程までの機嫌の良さから一転して、厳かな雰囲気で彼女の行いを問うスパーダ。気が付けば彼女の投げた棒手裏剣は彼の指に挟まれていた。


「も、申し訳ありません! 何者かが音も無く潜んでいる気配を察知したので……ただ」

「ただ?」

「温泉と料理で拙者の鼻も利かず場所の特定は……ただ『そこにいるのはお見通しだ』感を出したくてつい……」


 問い詰められたサキは、かしこまって狼藉について弁明する。若い領民がノリと勢いで生きているキャニュオン領は、密偵の少女も雰囲気に引っ張られるタイプのようだ。


「だからって領主様に向けて刃を投げる奴があるか、バカタレ!」

「見間違いじゃ無いの?」

「ひょっとして密命で溜まったストレス?」


 スパーダならあの程度の攻撃は問題にならないせいか、周囲は怒りよりも呆れと疑いの感情をサキに向ける。サキは恥ずかしさで顔を赤らめ、口元の布を外して感情を露わにする。


「違うもん、スパイいたもん!」

(……)


 サキは目に涙を浮かべて己の勘の正しさを主張する。敵側のやり取りとはいえ、争点のキルトもいたたまれない気持ちになってしまう。


「待ちたまえ君達! 下々が僕の美しさを無視できぬよう、僕も領民の言い分を無視しない! さぁ、誰か魔力か魔物の探知魔術を!」

「そうですね、念の為」

(ちっ……)


 スパーダはサキを庇い、護衛の誰かに探知魔術の使用を命じる。彼は透明人間の守護モンスターを知っているが、隠密魔術を施した冒険者の両方の可能性も考えての指示だ。護衛の一人が荷物から杖を取り出す様子を見て、キルトは退散を余儀なくされる。


「足音?」

「ほらいた! 幻じゃなかった!」

「まさかニンジャか?」

「馬鹿言え、本当にニンジャなら今頃我々の首と胴は既にバラバラになっておるわ」


 キルトはあえて僅かに音を出して立ち去り、サキが得意げに己の正しさを主張する。しかし一同に音の主を目で追うことはできず、ただ場が混乱するばかりであった。


「探知はどうだ?」

「……どちらも引っかかりませんね。よほど素早く逃げたか、音も含めて気のせいか。私達はこのタタミという床材に詳しくないですから、動いた圧力を受けて離れたところで音が鳴る可能性も……」


 スパーダに成果を問われた魔術師の冒険者は、両方の探知が不発に終わったことを報告する。魔術師の反応はどっちつかずであったが、キルトが立てた足音の騒ぎに気をとられ詠唱が遅れたのが原因だった。


(こうなった以上こいつらは張り込めん、ここらが潮時だな)


 相手側の密偵に疑われた時点で、認証魔術や魔物探知などの手段で存在が看破される可能性が常に付きまとう。キルトは相手が探知をかける前に、躊躇なく屋外に脱出していた。


「ならば密偵はいたんだよ! 理由は、こっちならサキが敵の手先を追い払ったことになるからだ!」

「領主様!」

「やったじゃねえかサキ、お手柄だぞ! 密偵対決はお前が勝ったんだ!」

「や、やったー!!」

(それにしてもこいつら本当に苦手だ……)


 ノリと勢いで動きつつも勘の良い集団。聞き耳を立てずとも外まで響く騒ぎ声を拾ってしまうキルトは彼らをそう評した。







「以上、キャニュオン領主の情報だ」

「ほほう。領民に人気の領主様代理は、魔萃晶回収の功績でもって慣習を打ち破ろうっていうのだな」

(マギリアってほんと魔術関係ないと簡潔に整理できるな……)


 昼過ぎの魔女の家のリビングで、一仕事を終えたキルトの報告を受けるダン長とマギリア。相手の目的だけでなく、相手側の密偵にエッダがマークされていたこと、スパーダが魔萃晶がマギリアの手にあると推理していること、妹の成人と挙式というタイムリミットを抱えていること等の情報も入手することができた。


「まだ魔萃晶と人工太陽の関係がバレてないのは朗報だが、向こうの密偵が動く以上時間の問題だな」


 キルトが相手側の密偵の動きについて補足を入れる。サキに存在を疑われている上に村人扱いである彼女の監視は守護モンスターの仕事の範囲外で、バレれば別の問題に発展する恐れがある。人工太陽を調べる彼女を追うのは得策ではない。


「お疲れ様キルト。本当に1日でここまで調べてくれるなんて驚いたぞ」

「辛抱強く張っていても都合よく欲しい話題は転がってこない。大勢を利用して、我輩が奴らに紛れて会話を誘導しただけよ」


 朝の宴会の会話のいくつかは、透明化したキルトがスパーダに投げかけたものだった。諜報活動の経験を経て、キルトはダン長とは違った形で他人の演技を心得ていた。


「ところで、もともとスパーダが連れてくる予定だったその老人というのは? 妹の将来の義父で立場の高い臣下というのはわかったが……」


 マギリアは陽気な一団と打って変わって暗い様子の老人の情報を求めるも、キルトにも宝剣を守る為に同時の入浴を拒否していた以上の物が得られなかった。


「旧時代の伝統を知る世代の人間で、側室の子が無理矢理領主を継ごうというのが面白くないのだろう」

「だがキルト……魔萃晶を手に入れて領に大きく貢献したとしても、それくらいで形勢逆転に繋がるのか?」


 ダン長はキルトにスパーダがやってきたその発端について疑問を呈する。現代日本に暮らしていたダン長には、貴族の跡継ぎ争いにどうしても実感が湧かない。


「今の貴族の始祖の多くは王に次ぐ戦争の功労者で、神業使いのマレビトが多い。この世界の伝統に縛られぬ親に育てられれば、その認識は子や孫にも伝わるものだ」

「……功績ひとつでひっくり返るくらい不安定なんだな、この大陸は」


 今の大陸は正室継ぐべしという空気が薄れ、民衆が望むなら伝統を無視するのもやむなしの情勢となっている。若い世代にも魔王から旧領を守れなかった前時代の老臣よりも、人類の居住地を取り戻した勇者に従う風潮が生まれつつあった。


「でもそのお爺さん……スパーダさんが正式な領主になるのが嫌なのに、なんでついて来てるんです?」


 リンがその老臣について素朴な疑問を述べる。キルトの報告によると大勢の護衛は勝手についてきたらしいが、スパーダの同伴は元から老臣だけとの二人旅の予定だった。


「そうだな。聞き入れられずに諦めたか、慣習を覆す力など無いと高をくくっていて、かつ領内が富かになる分には損は無いんじゃないか?」

「いーや、スパーダは魔萃晶を手に入れたらウチの冒険者と揉め事になる。私が思うにそれを口実に失脚させるために見届ける気だ」

「案外自分からスパーダを言いくるめて来させたのかもな。単独で乗り込ませて、魔物にやられてくれれば跡継ぎ問題はスッキリする」


 リンの疑問について三者三様の意見を出す一同。ダン長は老臣が伝統に胡坐をかいていると判断し、マギリアは入手後に予想されるトラブルを見越しての放置と推理する。そしてキルトは彼がスパーダの死すらも望んでいると懐疑的だが、手持ちの情報だけではいずれも否定も肯定もできない。


「何にせよ他所様の跡目問題で巻き込まないでほしいんだが……魔萃晶は取られたくないけど、奴に死なれるのも困るんだよー」


 どの可能性でも共通しているのは、スパーダの戦いがダンジョン内で繰り広げられることだ。人工太陽に何かがあれば村の損になり、冒険者が命を落とそうものなら守護モンスター達の実績に傷がつく。マギリアはこの厄介事を改めて認識し、テーブルに上半身を投げ出してうなだれる。


「マギリア、今からギルドがマギリアから魔萃晶ごと人工太陽を買えないのか?」

「所有権がハイランドの領主にある以上、いくら私に金を出してもギルドのものにならん。その金は人工太陽で生まれた利益の分け前扱いになるな」


 ダンジョンに踏み入られる対策として予めギルドに宝を売れないか尋ねたダン長にマギリアは不可能と答える。制度上、貴族がダンジョンに隠した宝を合法的に私物化していいのは冒険者だけだ。

 当時の貴族達は魔物が欲さないことを前提に宝を隠したが、価値を理解して封印を解ける魔物がいるのは思惑の外だった。その宝が悪事に使われて被害を出すようであれば回収を兼ねた討伐依頼も出るだろうが、その魔物が人間に友好的なのは更に想定外だったのだろう。魔物が手にした場合の宝の扱いは決まっておらず、用途の善悪に関わらず魔物は正式な所有権を持てない。


「先に他の冒険者さん達に取ってもらって、後で返してもらう形で預かってもらうのはどうでしょう?」

「時期が悪い。預けた奴が懐柔されてスパーダ側に転べば我輩達が詰むぞ」


 続いてリンが一時預かりの作戦を提案するもキルトが却下する。平時ならマギリアが言ったような抑止力が働くが、スパーダ達の出方次第でそれを当てにした預かり作戦が狂いかねない。


「懐柔……って何ですか?」

「リンにはまだわからんだろうな。例えばキャニュオン領での地位をちらつかせて、身柄ごと魔萃晶を抱き込む取引を持ち掛けられてみろ。ダンジョンの外で冒険者が狙われたら我輩達に防ぐ術は無い」

(人工太陽の利益……取引……)


 リンの作戦の穴を指摘するキルトの会話を聞きながらダン長は考え込む。元をただせば領主が冒険者を活気づけるために手放した宝物で、それを魔物が加工しようが冒険者が回収しようが問題は無い。彼はなんとか両者が納得できる妥協点を探り出そうとしていた。


「よし……ギルドの時間稼ぎは待てない。こちらからアクションを起こそう」

「ダン長……それって?」


 ダン長が次の取るべき行動を宣言する。リンがダン長得意の能力で解決するだろうという期待を込めた前フリをする。


「取引だ、スパーダにはマギリアの持ってるちっちゃい塊で満足して帰ってもらおう!」

「え……?」


 ダン長のダンジョンメイキングとは一切関係の無い意思表示に一同は騒然とする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ