表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/62

34話 海神の娘と悪代官屋敷 7/13 通話の完成とトラブル

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

 ここはラビス迷宮基地の魔女の家。時は少し遡り、リンとフリッカに手紙を持たせて送り届けた直後。腕利きの新米冒険者からストーカー被害を受けた冒険者ギルド受付のエッダと、このダンジョンに当人を呼び込む罠を仕掛けた魔女のマギリアが、近づく決戦の予感にそわそわした様子でコーヒーに口を付けながら会話を交わしていた。


「リンちゃん達が無事に手紙を届けられたとしたら、アインさんが正午を過ぎたあたりでここにくるんですよね……?」

「十中八九な。私達の偽の結婚の報を聞いて、大慌てで飛び込んでくるだろう……ちょうど入り口も分けておいてあるしな」


 エッダの不安に対してマギリアは予想を淡々と話す。朝にダンジョンにやってきた冒険者達が探索を始めた後、閉鎖中だった『悪代官屋敷』への入り口を解放して『守護モンスター・マギフィリア様と受付嬢・エッダ様の結婚式場はこちら』という注釈を付け加えている。

 普通の冒険者には何のことかわからないから迂闊に踏み込まないだろうし、アインが彼女に激しい執着を抱いているのならば迷わずこちらを選ぶことは簡単に予測される。


「私が魔物と結婚するだなんて知らせを流しても、この村の冒険者達は慌てないって驚きです」

「私達の積み上げた信頼ありきだがな。人間に姿形や人生観が似ている魔物も確かにいるが、いざ人間と結ばれて長続きしたケースは聞かないな。だいたい2~30年くらいか」

「いや結構続いてるじゃないですか!」


 マギリアが人間と魔物との恋愛事情について語る。仮に相思相愛、周囲の理解もあって無事に結ばれても双方の根本的な価値観が異なってくる。例えば死んだ伴侶を剥製にして永く保存するのを善しとする魔物がいた場合、亡骸を弔いたい人間側の遺族と諍いが生まれるのは目に見えている。今のマギリアの言葉のように20年超の時を短く感じるのも、人間と魔物の恋愛が上手くいきにくい原因なのだろう。


「まぁ、お前とアインなんて人間同士の色恋沙汰で揉めてるだろうが」

「う……」


 価値観を同じくするはずの人間同士での恋愛トラブルをつっつくマギリアと、一本取られたとしょぼくれるエッダだった。


「心配するでない。私達がお前をケダモノの毒牙から守り、私達の陣営で飼いならす。そのために私は昨日、ダン長と酔っぱらいどものテストプレイに付き合いながら書状をしたためたんだ……なあダン長?」

「おぉ、どうしたマギリア?」


 マギリアが卓上の直方体の石の中心を指先でトントンと叩く。その瞬間、表面に刻まれた錠前のアイコンが付いた丸い模様が形を変え、簡素な目と口を描いて相槌を返す。かつて召喚された元人間のダン長の声だ。本名は本人も忘れている。


「おお、明らかに休眠中だったのに本当に触るだけで起動するとはな」

「ああ! アクア達のプライベートは大事にしたいが、それでも俺がいつでも出られるようにしないといけないからな」


 ダン長は自分がこうやって起動している限り、ダンジョンを管理する己の魔力の自動回復が追いつかない欠点を実感していた。ダン長にはこうしてダンジョン内の物体に目や耳を彫って魔力を流すことで、その物体を中心にした視覚や聴覚を得る特技があった。だが現在アインを捕えるために作った悪代官屋敷、その最初の関門の見張りを任せたサキュバス三姉妹のプライベートを守る為に出現の確認を取らないといけない手間が存在した。

 そこでダン長は触覚の投影を試して、感度を接触による刺激を受けるまで反応しなくなるように調整した。常に光や音を受容し続ける従来のと異なり、触覚のみの展開は魔力の消費を大きく抑えられた。

 さらにダンジョンの守護モンスター達がダン長の触覚を付与した物体を持ち歩けば、力を借りたいタイミングで任意に呼び出すことができるようになった。


「セーブモードならダンジョン内に複数置いておいても、俺の魔力ことダンジョンポイントは回復を続けるからな。アクア達の番人の間で導入してから便利だとわかってこれを皆の家に設置したんだよな」


 番人の間で試運転した半起動ダン長は予想以上の好評だった。この石をタップすればいつでもダン長と話せる上に、ダン長も用の無い時はダンジョンポイントを回復できるという両者が得する仕様だからだ。そこで普段使いにも応用しようとダンジョン各地の安全地帯にも1個ずつ半起動ダン長を用意することにした。


「っと……噂をすればキャンディの酒場の俺が起動した。マギリアと話があるそうだ」

「そうか、じゃあ私をあっちに送るかキャンディを呼ぶといい」


 ダン長はここから遠く離れた別の拠点で己が起動したのを知覚した。向こうの自分はキャンディの要請を受けてマギリアとの連絡を望んでいる。


「いや、マギリアはそこにいていい。言いたいことを向こうの俺に話すようにキャンディに伝えた。俺が中継してキャンディの言葉をここで話す」

「ほほう、キャンディの言葉をここにいながら聞けるということか! 画期的な発明だ!」

(いやしかし、まさか異世界に飛ばされた俺自身がスマホになることになるとはな)


 魔女の家のダン長が提案したのは双方の自分を介した『通信』。守護モンスター達はダン長との召喚や持ち物の移動許可などのやり取りを直接脳内で可能だが、細かい言葉を交わすことはできないし、当然魔物同士では意思疎通すらできない。この場で遠くの情報を手に入れる事の優位性を理解しているマギリアは高揚した口ぶりでダン長の言葉を待つ。


「大変よマギちゃん! 今ウチに冒険者の女の子が駆けこんできたんだけど、この子のお兄さんが群生地の北の洞窟で魔物と戦っている時に洞窟が崩れて生き埋めになっちゃったの!」

「んなっ……」


 ダン長の口から自身の声で、かつごっついオネェのインキュバスことキャンディの口調でマギリアに情報が伝わる。どうやらこの迷宮基地のさらに下層、このダンジョンで生態系を維持する群生地で冒険者の身にトラブルが起きたらしい。彼の口から伝えられた冒険者の危機にマギリアは目を丸くする。


「崩れた洞窟を掘り返すのは私が力仕事でやるけど、埋もれたお兄さんの治療はマギちゃんの力が必要になるわ!」

「き、記念すべき最初の遠隔会話がアクシデントの報告か!」

(クズ運……)


 普段なら矢も楯もたまらず冒険者を助けようと飛び出していたであえろうマギリアが、エッダとダン長の石を交互に見る。はたして悪代官屋敷の迎撃態勢を整えた日にトラブルが起きたのか、トラブルが起きる日に悪代官屋敷でアインを迎え撃つ予定を立ててしまったのか。


「こういう救援依頼は月に数回は発生するがしかしよりにもよって今日か! すでにアインを呼ぶためにリンを遣わしたから予定の修正も利かん……救助に何時間かかるかわからん。今日はエッダの護衛が……」

「マギリア! この悪代官屋敷を作る時に提示した条件を忘れたのか!」


 目の前のエッダの護衛と今しがた発生した冒険者の救助要請。同時に舞い降りたふたつの仕事に迷うマギリアにダン長が一喝する。悪代官屋敷を作る時の課題にあった『通常のダンジョン運営の業務も平行すること』を遵守するならば、危機に陥った冒険者の救助はいつもどおり行わなければならない。


 「俺は群生地への干渉ができないから下の仕事はマギリア達にやってもらうしかない。ストーカーの方はこっちに任せて救助に専念してくれ。経験上、群生地への転送は場所がランダムになるらしいから北側の出入口の召喚の方が安牌だな?」

「ああ、キャンディに伝えてくれ。準備は出来たから一緒に出入口に召喚されてくれと!」


 表層にしか干渉ができないダン長は下層での冒険者の救助を行えない。よって守護モンスター達に向かってもらう他はないのだった。


「しかし、従来ならキャンディが自宅で救助要請を受けたら私のところに徒歩で赴いて事情を説明して、そこからさらに徒歩で群生地に向かって……この過程省略でこんなにも短縮できるなんて……」

「感動はそっちの冒険者を生きて救助できてからにしてくれ」

「ああ、わかった。こちらの救助活動が終わり次第合流するが、アインの対処はキルトとアクア達に任せたぞ!」


 そう言ってフードを羽織り、魔女の家からダンジョンの北端へ転送されるマギリア。室内の人影は話し相手と護衛を失って動揺しているエッダだけが残されていた。


「えぇ……私一人残されるんですかぁ?」

「大丈夫! リン達が手紙を届けるまでアインはエッダさんの居場所を知ることはないし、マギリアの家は魔物も入ってこないし安全だ……少なくとも正午までは」

「ひー」

(さて、できるだけ使えるダンジョンポイントを確保するために……正午の見張りがイグニスの担当だから、店にいるはずのアクアに起こしてもらうまで休眠状態に移るとするか)


 守護モンスターを二体特定の位置に転送するのにはそこそこのダンジョンポイントが必要になる。正午を過ぎれば高確率でアインがエッダを取り戻すために殴り込んでくる。ダン長は己の再起動を酒場に待機しているアクアに任せ、余力の確保のために正午まで休みをとることにした。






「ダン長さん、ほら起きて。お昼よ」 

「おおもう正午か……ってえらい賑やかになったな」


 サキュバス三姉妹の長女(自称サキュバスのキャンディを含めると四姉妹の次女)のアクアの指がダン長を起こす。酒場のダン長は店内を見回すと彼女に加えて末妹のウェンティと透明人間のキルトが同席しており、さらに真ん中のテーブルで酒を飲んでいるダンジョン工の三人が出迎えてくれた。


「ほっほっほ。アインとやらがアクアちゃん達の誰で捕まえられるか! それともワシらが調整した屋敷の罠に負けるのか!? それをここから楽しませてもらいますぞ」

「ママが間に合うんなら突破できんだろうなぁ! 今晩のビール賭けてもいい!」

「今晩と言わず昼から飲んでるでしょ……じゃあ第二の間のスケさんに賭けます」


 ここで今日の顛末を楽しみにしていると言うダンジョン工のリーダーであるイワシ。その奥でママ(キャンディの愛称)に賭けるウデップシと、スケさん(キルトの愛称)に賭けるアシコシがアインがどこで捕まるか賭け事をしている。


(エッダさんが一人で震えてるマギリアの所と比べてえらい騒がしいな……探索中の冒険者に見つかるリスクが無きゃこっちに連れてきてもよかったんだが)


 ダン長はゴールである魔女の家のお通夜のような雰囲気と見比べて空気の違いに愕然としている。現在ダン長が展開している耳目は3つ。ダンジョンの入り口を見張ってアインを捕捉するためのものと、魔女の家で嘆くエッダをなだめているものと、酒場でアインの冒険で得た情報を伝えるものだ。


「アクア、マギリア達は間に合わなかったか……」

「そうみたいだけど、姐さん達抜きでもやれることをやるだけよ。まったく、こっちは真面目に女の敵を成敗しようってのにおじさん達は遊び感覚ね」

「テストプレイに付き合ってくれた対価だから、イワシ爺さん達が内々で楽しむことに俺からは文句は言えん」


 ダン長は魔女の家に冒険者の救助と治療を終えたマギリアが帰って来ていることを期待したが、それは敵わなかった。酒場にキャンディが帰ってきていないことから、どちらもまだ下で作業中であることが想像される。不慮のアクシデントに戦力が半減した悪代官屋敷の番人たちをよそに、誰が勝つかで騒ぐ酔っぱらい達をアクアは流し目で睨む。


「でもイワシさん、今からそんなに飲んでちゃ結果を聞く頃には酔いつぶれちゃうよー?」

「ウェンティはダン長の思惑がわからんのか? 出入口のダン長がアインの戦いを追いかけて、ここでリアルタイムに『実況』するんだ」

「ええージッキョー? 何それー?」


 作戦が頭に入ってない能天気なウェンティが投げかけた質問にキルトが答える。この大陸にどれだけのマレビト-召喚された現代人-の文化が根付いているかは地域差や個人差もあるが、どうやらキルトに限って言えば実況中継の概念を理解していたようだ。


「出入口とここのダン長が意識を共有していることを活かして、アインの戦いの様子をここで語るらしいのだ。情報は戦いの肝だからな、ここで戦う前からアインの手の内を知って突破口を探る。もっとも、ダンジョンの罠でやられるようだったら杞憂に終わるんだが」


 ダン長に代わり実況の意図を解説をしてくれるキルトにウェンティは「すごーい」と気の抜けた返事をしている。アインをいずれ目覚めるダンジョンのボスを討つ戦力にする為に、こうして回りくどくダンジョンの面子で捕まえようとしている。

 アインが罠であっさり捕まって終わるならエッダの安寧は容易く訪れるが、その戦力としては期待外れに終わってしまう。


「はははっ、そいつが最初の部屋にもたどり着けずに捕まるようなヘタレだったら問答無用で警備隊に……」

「どうしたダン長?」

「ダンジョンの玄関に話に聞いた通りの鎧の……来たぞっ!」


 談話の最中に出入口のダン長の視界が、向かいの壁に刻まれた式場の案内を憎らしげに見つめていた重装備の戦士が左折する姿を捉えた。ストーカーと被害者とダンジョン運営、思惑が重なる悪代官の屋敷の戦いが始まる。

【海神の娘と悪代官屋敷 7/13 通話の完成とトラブル】

 アインを釣る為の手紙をリン達に届けた当日の魔女の家で、サキュバスの間の不都合を考慮したダン長が導入していた通信機能を利用してキャンディから連絡が来た。「地下の群生地にて冒険者が洞窟に生き埋めになった」ことを知った一同は、通常業務を遂行すべくキャンディとマギリアが救助に赴いた。正午を過ぎダン長の情報伝達の高速化により酒場で実況の体勢を整えたところで、件のストーカーことアインがダンジョンの入り口に現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ