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33話 海神の娘と悪代官屋敷 6/13 フリッカの初仕事!

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

 良く晴れたとある一日の早朝、やや開けた街道を歩くふたつの人影があった。ひとつは女装した人間の少年で、もうひとつは風に揺れる青い炎のような下半身を持つ霊体の少女である。出発点はこの大陸のダンジョンのひとつであるラビス迷宮基地、目的地はそのダンジョンを管理するミルス村だ。この二人はダンジョンから村へと歩みを進めているのだった。


「あぁ、マギリアのヤツの言った通りこの道って本当に魔物が出ないんだな!」

「毎日誰かしらの冒険者が通ってるからね」


 霊体の少女・フリッカが退屈な旅路に愚痴を切り出す。道の左右を身ながら只々身体を進めるその道筋に嫌気がさして甲高い声をあげる。それに答える少年はリン、ダンジョンで預かって冒険者にしようと育てている元孤児だった。

 リンの言う通り、ふたりはここまでの道中で数組の冒険者とすれ違っていた。それも背後にあるダンジョンから採れる資源はミルス村の冒険者の重要な収入源であり、村の財源だからだ。そうして毎日魔物狩りが通る道だと本能的に学習した魔物達は、彼らを避けて滅多に現れなくなった。それが受付嬢にすぎないエッダが無傷でダンジョンへたどり着けた証である。


「でも、コボルドでも出てくれば修行の成果を見せられたのになー」

「オイオイ好戦的だな」

「だって、せっかくあの時から師匠に戦闘訓練を追加してもらった意味が無いじゃん……」

「あー、思い出させんな! 壁にハマったのがこっ恥ずかしい……」 


 フリッカの指摘にそこまで言ったリンが目を伏せてため息をもらす。数か月前にアスレチック大会を開いた時、リンは戦闘経験の無さのせいで事故で湧いた魔物の攻撃を止められなかった。それに危機感を覚えた師匠のマギリアは生存術一辺倒だった彼の訓練に戦いの基礎を加えるようになった。ダンジョンの魔物操作を司るダン長の監督のもと、リンは着々と戦闘能力を身に着けていたのだった。


「それでリン、手紙は落としてないよな? コレ届けるのがあたし達の仕事なんだから」

「大丈夫、こうして鞄に入れてるから」


 アスレチックの時の恥ずかしい思い出から避けるようにフリッカが話題を逸らす。リンの言う通り彼の鞄の中にはフリッカが初めて受ける『仕事』が入っている。リンは彼女に確認させるため一通の封筒を取り出して見せる。そして二人はこの手紙を受け取った時のダン長達とのやり取りを思い返していた。


――――――――――――――――――――


「フリッカ、リン。この手紙をミルス村の冒険者ギルドに届けてくれ。これを見せさえすれば、アイン以外の人達はエッダさんがいなくなったことを心配しなくなるだろう」


 通信技術が発達した現代と違い、電話などの連絡が出来ないミルス村において欠勤の扱いは異なる。他人の業務に支障は出れども連絡無しに1日休んだくらいでは軽い風邪などと思って、休んだ理由は翌日にそれとなく尋ねるくらいの緩さだ。

 だがエッダが相談に来たのが1日目として、翌日から工事を始め、翌々日に工事の続きとテストプレイを行って3日と経てば事情が変わってくる。3日も職場に来なければ、重い病気を患ったと疑って家に訪ねる可能性があると村との交流が長いマギリアは分析する。そして自宅にエッダが不在であることがわかれば、翌日からはギルドメンバーの労力を割いての捜索が始まるのは目に見えている。

 こうしてエッダを留め続けることに限界が生じる4日目の朝、リンとフリッカはギルドに事情を知らせる為の連絡の任務を受けてミルス村への道中を進んでいたのだった。


――――――――――――――――――――


「ってことで、こいつをギルドに渡せば連中は安心するんだよな?」

「うん、それでダン長が指定した手紙を渡す時間はちょうど正午……アインさんが納品に来る時間らしいけど、ちょっと早過ぎちゃったね」

「じゃあ先に何か食べてこうぜー」


 リンは心配気味に早く出過ぎたことを思い返しながら、大事な手紙を風に飛ばされて失くさないように鞄にしまう。その時に袋の底で財布が転がり、その中の銀貨同士が擦れる音を立てた。

 二人は出がけの際にマギリアから手間賃をもらっていた。距離だけで言えば日帰りで子どもが行き来できなくもないが、この手紙を渡した日に始まるであろうアインとの戦いに彼らを巻き込まないよう、仕事を終えたら一泊するよう計らったのだ。


「食事は『ハチワレ』の煮魚料理がオススメだ。味を盗んでぜひ家でも食べられるようにしてくれ。温泉近くの宿屋なら私の名前を出せばどこでも安く泊まれるぞ。おみやげは『白馬のごろ寝』の白饅頭がいいな。えっとそれと……」


 リンはそんなことを言って銀貨や銅貨をパンパンに詰めた財布を渡してきた師匠の顔を思い出していた。村での相場を知っているリンから見れば、彼女の言っていた通りに使ってもかなり余る金額だ。おつかいにかこつけて弟子にお小遣いをあげたかったのか、はたまた単に同居してからリンに一手に引き受けさせている家事への給金なのか察しづらい額だった。


「そうだ、時間もお金も余裕があるから先に寄りたいところがあるんだけど」

「どこだー?」

「薪問屋のモブジさんとこ。僕が山から採ってきた薪を買ってくれた人だよ」


 エッダが長いこと姿を見せないとギルドに心配されるという懸念を横で聞いて、リンは自分が顔を出さないで心配をかけていそうな数少ない知り合いのことを思い浮かべていた。木こりをしていた頃のリンはそのモブジという男に薪を売っていた。


「こうしてダンジョンに住んでから会う機会が無かったし、お世話になってたお礼に美味しいもの持って挨拶しとこうかなって」

「せっかくの小遣いを……くそ真面目か」


 モブジは山の中で母と暮らす貧しい少年を憐れんで、間違えて薪に適さない木材を運んできた日も相場通りの値段で買い取ったりと便宜を図ってくれていた。リンも仕事の失敗を申し訳ないと思いつつも、貰わなければ母まで飢えさせてしまうと恥を忍んで受け取り続けていた。まだ10代前半の彼だが、そんな義理の積み重ねをこうして少しずつ返そうとしているのだ。


「そうだモブジさん、今の僕を見てあの時の薪売りだってどれくらいで気が付くかな……」

「真面目か……?」


 この格好のまま挨拶して相手を困惑させてやろうと企んでクスクスと笑うリンと、それをジト目で見るフリッカが並んで歩きながら村へと入って行った。






 ミルス村はラビス迷宮基地を管理する為に拓かれた村で、冒険者と守護モンスターの良好な関係のおかげでダンジョンの資源を有効に活用して一般的な村のイメージよりは栄えていた。発展に協力したマレビト―昔の日本人たち―の影響か、一昔前の洋風ファンタジーの街並みにところどころ和のテイストが混ざっている。

 正午の数分前、そんな村の要所である冒険者ギルドにリンとフリッカが並んで入ってきた。そこそこ広い内装に現代で言う役所や郵便局のように複数の窓口が開かれているが、冒険者が魔物の死体を直に持ち込むためかそれらに比べて少々血生臭い雰囲気がある。来訪を知らせるベルに反応して、入り口近くのテーブル席にいた冒険者のグループが二人を見やる。


「おお、リンちゃんにフリッカちゃんじゃねぇか。こっちで見るのは珍しいな」


 彼らはダンジョンで過ごす二人と面識があったので気さくに声をかける。リンは笑顔でその声に答えるが、フリッカは反射的に彼の背後に回る。通例ではゴーストは倒しても資源にならないせいで冒険者から軽んじられることも多く、協力者となって日が浅い彼女は冒険者慣れしていなかった。ダン長とマギリアはそういうことを鑑みて、村に慣れた人間のリンに付き添いをさせたのだった。


(ところで、アインってのはまだかー? それっぽいヤツは見当たらないけど。この作戦はアイツの前でやらなきゃ意味ないんだろ?)

(確か決まった時間に来るって言ってたけど、エッダさんがいないから時間がズレてるのかも)


 手ごろな席に座りながらヒソヒソと話をするリンとフリッカ。可能な限りアインがギルド内にいる間に受付に手紙を渡すのが彼らの仕事だが、そのタイミングが中々やってこない。納品窓口の方はエッダの不在を手の空いた職員やギルド長が代行して補っているが、スムーズに動いているとは言えなかった。


「リンちゃん、そういやここ最近エッダちゃん……ここの新米受付の子が来てないんだがよ。ギルド長が昨日の昼休みに家に行ったけど留守でさ」

「そ、そうですか」


 アインを待つこと数分、リンは納品を終えた中年男性の冒険者に話かけられる。師の家に当人がいるとは口が裂けても言えず、動揺を隠してつい生返事をしてしまう。


「ま、ダンジョン住まいじゃ顔見知りにはなってないか! 俺らもできる範囲で探しちゃいるんだがよ、魔女様達にも心当たり無いか聞いておいてくれよ」

「あ……はいっ!」

(おいリン! 来たぞ!)

「あっ……この辺で失礼します!」


 核心に触れられそうになったリンの裏返った返事と同時に扉のベルが鳴り、件の人物が入って来た。隙間なく黒い鎧に身を包むストーカー容疑者、鎧戦士のアインである。彼を確認したフリッカはリンの肩を叩き耳打ちする。会話を無理矢理切り上げた二人は一目散に依頼受注窓口へ向かい、話しかけていた冒険者はそれを呆然と見送っていた。


「こんにちは、守護モンスターのフリッカと付き添いのリンです」

「おや、可愛らしいお嬢さん達だね」


 やや高めの窓口にひょっこり顔を出したリン達に、穏やかな雰囲気の中年男性が笑顔で答える。リンの鞄から手紙をむしり取ったフリッカが机の上に手紙を差し出す。


「あたしらマギリアが書いた手紙を持ってきたんだ。何書いてるかわからんからオッサンが代わりに読んでくれ」

「えっと、こちらの受付をしているエッダさんのことらしいです」

「なっ……えっ?」


 フリッカの頼みにリンが補足を加える。それを聞いて血相を変え、卓上のペーパーナイフを取り出し封を切るギルド長。リンが周囲を見ると、今の発言が聞こえた一部の冒険者達がどよめいて聞き耳を立てている。その中にはエッダの姿を求めて窓口を眺めていたアインも含まれていた。


(よし、ダン長の狙い通りアインさんも食いついている)


 ここまでは事前に聞いた作戦通りだった。リン達も冒険者達も、封を開けて手紙を広げるギルド長の代読を固唾を飲んで待つ。


「なになに……『私マギフィリア=フォールラックは、受付のエッダちゃんと結婚します』だって!?」


 ギルド長の叫びが、一部のどよめきを屋内全ての冒険者のざわめきに変えた。別の窓口で納品を受けていた職員も手を止めて窓口をガン見している。書いてる内容自体を知らなかったリン達も目を白くして固まっている。


「『親愛なる冒険者及びギルド職員の諸君、見てる~? 恐らくこの手紙を読んでいる頃には、新米の受付嬢が謎の失踪を遂げたことに並々ならぬ不安を抱えていることだろう。つい先月知り合ったお宅の受付嬢のエッダちゃんに一目惚れをしてしまってな。3日前の朝に職場へ向かう彼女を攫って私の家に連れ込んで婚約を申し込んだ。ちなみにプロポーズの言葉はヨイデハナイカだ』だって」


 ギルド長が読み始めたものの、数文にして頭を抱える。


「ん、ここからは筆跡が変わっているな……エッダちゃんの字だ。『ギルドの皆さん、見てます~? 私、魔女様にヨイデハナイカされてしまいました……今日から魔女様のお嫁さんになります。ごめんなさい! 私の胃袋、リンちゃんが作るご飯の形にされちゃいました』……ぐっ……うぅ……」

(((がんばってギルド長!)))

 

 キツそうに頭を抱え続けながら我慢して読み続けるギルド長と、それを心の声で応援する一同。マギリアの字だけではエッダがそこに居るという証明にはならない。そこで共同で字を書かせ、両者の字を知っているであろうギルド長に読ませることで本人がいると念押しをさせたのだ。


「こ、ここからはまた魔女様の字か……『そしてついに今日、ダンジョンで式を挙げる用意が整ったのだよ。結婚式を壊したければ来るがよい、ラビス迷宮遺跡は今や結婚を邪魔する者を全て跳ね返す悪代官屋敷と化した! 私の家までのみっつの部屋に私の結婚を祝福する守護モンスター達が番人として立ちふさがっている。第一の間の番人はサキュバスの』……残りは番人のリストか」


 ギルド長がそこまで読んでから、ため息をついて手紙を机に戻す。


「しばらく姿を見せないと思ったら……なんだ、魔女様の所にいるのか」

(!?)


 手紙を途中で読むのを止めたギルド長だが、その表情は先程までの緊迫したものではなく心からの安堵の色を帯びていた。その豹変っぷりに一瞬驚くリンとフリッカだが、彼らの耳にも先程までの緊張感が欠片も感じられない周囲の声が届いてくる。


「かわいそうにエッダちゃん、魔女様のイタズラに巻き込まれたんだな」

「乗るだけ面倒くさそうだから放っておこうぜ。どうせ誰も行かなかったら帰ってくるだろう」

「でもよォ、仮に魔女様が相当の女好きでマジで一目惚れしてたらどうする? リンちゃんみたいな年下の女の子を家に住まわせてるしよ」

「女でもいいなら私にも魔女様とワンチャンあったってわけ?」

「魔女様とエッダちゃんの新婚生活かぁ……間に挟まりてぇー……」


 ダン長が目覚めた翌日にイタズラをしかけるほどのマギリアの遊び好きは、長年の付き合いのあるギルドの冒険者達には知れ渡っていた。エッダに同情する者、放置しても問題ないと断ずる者、リンの容姿からマギリアの性癖を勘繰る者、それにかこつけて自分が百合に挟まる妄想をするハゲ。自分の性別を勘違いする一部の冒険者の反応に気を良くしたリンを傍目に、フリッカはダン長の狙いに気が付いていた。


(こいつら、完全に気が抜けてやがる。よっぽどアイツのこと信頼してんだな)


 思い思いに言ってる冒険者達だが、共通しているのは『マギリアのところにいるなら問題ない』という感想だ。ギルド内の空気はエッダの所在が明らかになった安堵感が、窓口が減った迷惑を上回っている。それは自分達の親や祖父母の世代からずっと村を支えてきた彼女への安心から来ていた。その空気を共有していないのは、ただ一人わなわなと腕を振るわせている鎧戦士だけだった。


「エッダが魔物と結婚だとぉ……認めん、認めんぞ!」

「おいおい、アイン? 魔女様のことだから本気にすんな……ああ、聞かずに行っちまった……」


 アインはそう叫ぶと、ギルドを飛び出し一目散にダンジョンへと駆けて行った。長くこのダンジョンと生きた先輩達と、一度もダンジョンに入らない新米の守護モンスターへの認識の違い。それを利用してアインを孤立させようとダン長が発案し、マギリアとエッダが昨日のうちに書状を書いた。周囲の冒険者達も彼を引き留めようと声をかけるも既に追いつくこともできず、やれやれのポーズで見送るほか無かった。


「よし、うまく釣れたな。仕事も終わったし村で遊んでこうぜー」

「うん……そうだね」


 アインを単独でダンジョンに招くという悪代官屋敷作戦の第一条件をクリアさせたリンとフリッカ。リンは守護モンスターの皆が無事に戦いを乗り切ることを願って、アインが駆けて行った方向を見送るのだった。


「この結婚式を、ブチ壊す……!」


 たとえラビス迷宮基地がアインにとって未踏のダンジョンであっても、管理の為に作られた村である。村の出入り口にある案内の立札を守り、道なりに進めば迷うことは無い。エッダの結婚を認めない彼は、式を崩壊させる宣言をして猛然と駆けていくのだった。

【海神の娘と悪代官屋敷 6/13 フリッカの初仕事!】

 ダン長から仕事を言い渡され、ある日の朝に手紙を持ってミルス村へと向かうリンとフリッカ。冒険者ギルドでは自宅にもいないエッダの行方を心配する人々の声も見られ、ダン長達の策は彼らを安心させながらもアインを釣り出すものだった。リン達はエッダがマギリアと結婚したという偽情報をアインに流し、彼らの中で唯一焦って飛び出したアインの背中を見送るのだった。

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