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32話 海神の娘と悪代官屋敷 5/13 模様替え、完成!

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

「さて、次の間に予定しているのはキルトだが……」

「アクア達が見張りを担うのであれば、我輩が常駐する必要は無いのだろう? 別に手を加えて居住向けに整える必要はない」

「そ、それもそうだが……」


 ストーカーを捕える為の作戦を立てるダン長だったが、二つ目の間にキルトを召喚して言葉を交わしたところでコーディネートの不必要さを指摘された。最初の間にサキュバス達の私生活要素を持ち込ませたのは、仕事と余暇と休眠の生活サイクルの内の余暇を使って見張りをしてもらう都合があったからだ。

 よって、侵入に気づいてから召喚されればいいだけの他の守護モンスターには、あえて私物を持ち込む必然性が無い。つまり、改装の余地無し。


「せ、せめてこの間の名前だけでも考えようか……? 『モリモリやっくマンの間』とか……?」

「よせ!! 我輩の名前と間違われては敵わんッ!!!」


 せめてもの改装要素で小部屋の名前を考えようとしたが、キルトに全力で拒否されて凹んでしまうダン長だった。


「部屋の内装に凝るヒマがあったら、出入口に出られないような仕掛けでも作ったらどうだ? アインとやらが番人との交戦を拒否して強引に突破しようとしたらどうする」

「ああ、いわゆる『勝敗がつくまで出られない部屋』か……あれはやっちゃダメだ」


 合意の決闘か取り締まりの例外を除いて、基本的に守護モンスターと冒険者は戦わないものだ。今回は後者を口実に番人達がアインに攻撃をしかけるというシチュエーションであるため、アイン側には無理してまで戦う動機が薄い。キルトの懸念通り戦わずしてエッダのもとへ駆け出す恐れがあるのだ。

 ダン長が目覚めた日のように壁をスライドするなり、あるいは鉄格子を降ろすなりして進路や退路を塞ぐこともダン長にはできなくもない。


「『戦わなければ先に行けない』と思わせていると全力で抵抗されてしまうからな、『戦いを避ける手もある』って迷わせ続けた方が有効な時もある。キルトがしくじってもまだ二人も主力がいるしな」

「アインに背水の陣で挑まれたら困るということか。背水の陣と言っても海や川を背後にとって不退転の決意で戦う姿勢を評したモノの例えであって、実際に奴の背後に川があるでもなければ布陣する仲間もいないだろうがな」

「言われんでもわかってる……」


 下手に追い詰めれば、ストーカーが武力に訴えて守護モンスター相手に一線を超えない保証も無い。あえて進退の選択肢を与え続けた方が、敵の力を削げるという理屈をキルトも納得したようだ。

 まずゲームにおける中ボスを倒すまで出入口を塞がれるダンジョンの仕掛けは、ここで倒して手に入れるアイテムが後の仕掛けやボスを攻略するために必要だったりして『どうしても倒してもらわないと困る』ゆえに存在するギミックだ。現実になら壁や鉄格子を破壊して抜けるという選択肢もとれるため、塞げば相手が戦うというダンジョン側の先入観であたるのも危険なのだ。


「出入口にも手を加えないのであれば、ますますこの部屋を改造する必然性が無いじゃないか」

「いや、だって……最初の部屋にあれだけ力入れておいて、もし突破されて次の部屋に来た時に殺風景な部屋が待ってたら『こいつ序盤ばっか凝って後の部分を作るの飽きたんだな』って思われるだろう!」

「ダン長は誰相手の心配をしているんだ……」


 泣き言を言うダン長にツッコミを入れるキルト。ダン長は生前に嗜んでいた趣味の影響で、架空の冒険者が挑むシナリオを何度も作ってきた経験があった。

 そのシナリオは冒険者を演じる人間達との会話で成り立つため、後半に行くたびに本来の筋書とはズレるのが定石だ。ダン長もまた、どうせ思い通りに行かないと決め打ちして、終盤のイベントやギミックを投げて序盤ばかり注力した時にそれを厳しく指摘されたことがあった。


「頼むっ! アクア達が上手くアインを捕まえればこの部屋が不要になるのは百も承知だ! だけど……なんかキルトらしい部屋を作っておきたいっ!」


 なのでダン長はたとえたどり着く望みがあろうとなかろうと、ダンジョンの後半も最低限手を入れた痕跡を作っておきたいという意思が固まってしまった。


「……我輩が所持している衣装、ちょうどほつれや虫食いが無いか点検するための広い部屋が欲しかったところだな。床で汚れるのも困るから敷物も必要だ。あまり衣装に使われない色……例えば青があればいい」

「キルト……!」


 敢えて広い場所が必要な理由を捻出して、部屋の飾りつけを容認してくれたキルト。ダン長は感激してダンジョン工の倉庫にあった青い敷物を一面に敷きつめ、その上にキルトが今まで作ってきた服を並べていく。ものの数十分で上着・ブラウス・スカート・ワンピース・靴下・下着と、服がジャンルごとにカテゴリ分けされてブルーシートの上で綺麗に陳列された部屋が完成した。


「……女物が多いな?」

「うちのダンジョン、リンもそうだが我輩以外だと男も女物を着るからな。村の冒険者向けに売り物を作ることもあるが、重くて無骨な鎧は嫌だと服を欲しがるのは女冒険者だらけだ」


 最初に盗難や紛失が無いか各衣装に番号札をあてて点数を数えて回るキルトの肩に乗って、ダン長は雑談を始める。どうも特殊な服の需要は女性冒険者が圧倒的に多いらしい。鎧と同じ防御性能を確保する前提だと、魔物素材をふんだんに使う服は高くつくのがこの世界での常識だ。

 需要が偏る根底には男女の基礎体力の問題もあるだろうし、例え割高になってもダンジョン探索にもオシャレして行きたいという事情もあるのだろう。


「彼女達はキルトに服を作ってもらうことに抵抗感とか無いのか?」

「素顔が透き通っていてわからんから、我輩の素顔を好きに想像して勝手に安心してしまうのだろう。ちなみに採寸や試着立ち合いの時はサキュバスの誰かに代わってもらう」

「ただしイケメンに限る(想像上)ってやつか……ん?」


 ダン長はキルトとの雑談をしながら不安を憶えていた。


(この絵面、なんか犯罪臭がしないか……?)


 ダン長は生前のテレビニュースで服泥棒が逮捕された時に、警察が押収した衣装をブルーシートの上に並べて点数確認をする様を思い出していた。しかし、犯人も被害者もいないこの場で言うのも気まずくて何も言えないままだった。






(よし、次の第三の間の番人はキャンディだ……)


 ダン長はある程度キルトの作業を見守った後で第三の間の石に顔を生やし、バーにいるキャンディを呼び出して同じような交渉を持ちかける。


「あら、アタシのお部屋もおかざりしたいワケ?」

「そうそう、かくかくしかじかってわけで……」


 第三の間、最後の番人である屈強な自称サキュバスのキャンディにもキルトと同様の話をして事情を説明していた。


「んもぅ、しょうがない子ねぇ! いいわ、アタシの部屋のもので飾っちゃいましょ♪」

「ありがとう……」


 キャンディに頭(全身?)を撫でられて励まされ、ダン長は意気揚々とキャンディの部屋の私物を出そうとする。その途端、小部屋の中に重低音と振動が響き渡る。その手の感覚器を持たないはずのダン長にすら、この部屋が『重くなった』と感じさせる光景が広がった。


(見た目はゴツいが守護モンスターで一番乙女だし、きっと女子力オーラがすさまじいんだろうなと思っていたが……)


 様々な重さのバーベル・ダンベル・ベンチプレス用のベンチにレッグプレス用の台座など、筋トレ用具がひしめき合っていた。部屋の隅にはこの世界の材料で作ったらしき木材と革袋のウォーターサーバーと洗濯済みのボディタオルまで完備している。


「キャンディ、筋トレマニアだったのか……」

「まぁね♪ アタシが今さら鍛えても見た目以外は変わらないものだけどね。だけど昔から頼られるように頑張ってきたマギちゃん見てると、私も負けられないなって!」


 キャンディは彼女なりに、強キャラを目指していたマギリアへの対抗心からビルドアップを試し続けているらしい。


(中ボスがピアノ弾いたり筋トレしながら待ってるって考えると、なんか戦いづらいな……いや、その印象をアインに植え付けることでこちらが有利になると思えば、むしろこういう生活感のある中ボス部屋の方がいいのか!)


 ダン長は苦労してダンジョンを駆け抜けてこんな空間にたどり着くアインを想像したが、それが有利になるならばと開き直ってしまった。







(よし、後は部屋と部屋を繋ぐ部分だが……思えば世界最古であるクレタ島の迷宮はこういう分岐の道とかも無いクソ長い一本道だったそうだな)


 一人一部屋をあてがわれたキルトとキャンディにはトラブルは起こらず、部屋の改装を終えたところで通路に手を加えることにした。迷宮の一角という限られた面積でアインの消耗を目指すなら走りにくい道路を用意する方がいい。マギリア達との会議の末に完成した悪代官屋敷の設計図通りに、壁を動かしたり片付けたりして一本道の長い道に整地していく。


(光源の石を減らしてやや暗くして、視界を狭めるようにしてしまうか。追い打ちで地面のあちこちに窪みを作って転ぶようにしてしまえ)


 ダンジョンの壁を操作しながら視界のことを思い立ったダン長だったが、ここで真っ暗にしてしまうとアインの監視ができなくなる。松明でも持たせれば視界確保の負担を増やせるだろうが、万が一暗視か視力に頼らない探索ができてしまうとアインの独壇場になってしまうので下手な決め打ちはできない。


(……しかし、さっきまでは守護モンスターの誰かと話しながらだったのに、急に黙々と一人でやる作業になったな)


 TRPGの愛好家として数多のシナリオを作ってきた生前のダン長にとって、一人での作業は慣れてないわけでは無い。しかし、ここに来てから騒がしいのが当たり前だったダンジョンメイキングに、自身の感覚が変わっていたことに気が付いた。


(守護モンスター以外で俺が味方にできる魔物で一番強いのはリザードマンか。罠は落とし穴系統のものは使えないが、相手が甲冑の重戦士ってならこの電磁床の罠が刺さるかもな)


 ダン長が使える能力は、ダンジョン内の物質操作と罠の設置・撤去と魔物の召喚・退散だ。強すぎる魔物や理性の無い魔物は味方にできないので、あくまで勝ちを狙うのではなく消耗を期して魔物の召喚地点を定める。魔物に連勝して勢いがついたところをひっかけるために、曲がった直後など見つかりにくいところに罠を仕掛ける。


(……しかし一人で作っていると、この迷路がちゃんとしてるか客観的に見てくれる相手が欲しいな。マギリアでも呼ぶか?)

「はぁ……テストプレイに付き合ってくれる者がどこかに落ちてないかぁ」


 ダン長が一人でダンジョンを改装し始めて四時間、ため息とともに初めての言葉を発した。彼が冒険の筋書きを作った後にいつも悩むのは、その筋書きがきちんと機能するかを一人で確かめる手段が無いことだった。何度も身内にテストプレイとして遊んでもらって、改善点をあぶりだして完成度を上げていくうちに、遊んでもらいたい相手が全員遊び終わっているということも幾度かあった。


「ダン長、わしらわしら」

「うわっ!? イワシ爺さんか、そんな酔ってこの辺歩くと罠にかかってしまうぞ?」

「ほっほっほ♪ こんくらいの罠にかかってるようじゃダンジョン工の仕事が務まりませんわい」


 ダン長が急に背後から話しかけられて振り返ると、三人組のおじさんがいた。彼らはダンジョン工という人間側の技術を活かして保全をする職人たちだ。その中でもこの頭脳労働担当のイワシ・腕力担当のウデップシ・素早いアシコシの三人は、仕事の無い時もこうしてダンジョンに酒呑みにくるような連中だ。キャンディの店で事情を聞いて興味が湧いてやってきたのか、三人とも赤ら顔になっている。

 

「手伝ってくれるのはありがたいが、どうしても守って欲しい条件がみっつある。一つはこの悪代官屋敷の情報は村にはまだ言わないこと。知られたら完成を待たずにアインが来る可能性があるからな」

「もちろんでさぁ!」


 条件その一は、この計画を万が一にでもアインに知られないための守秘義務だった。日に焼けた大男のウデップシが快活に答える。


「もう一つは、マギリアの立ち合いのもとでテストすること。もし罠にかかって怪我しても俺では治せない」

「わかってますよ……死にたいわけじゃないですし」


 条件その二は、治癒魔術が使えるマギリアの監督のもとで動くことだった。細身のアシコシがボソボソ声で答える。


「最後の一つ、先に酔いを醒ましてくるんだ! 酔ったままテストプレイをされてたまるか!」

「ほっほっほ♪ では魔女様にお伺いを立てに行きがてら散歩でもしましょうか」

(まったく……寂しいと感じる暇も無いな)


 条件その三は、三人の酔い覚ましだ。酔ったままのテストプレイは危ないだけではなく、奇妙な行動も出てくる。ダン長も卓を囲む時に酔っ払った参加者にシナリオを明後日の方向へ放り投げられたことがある。呆れながらもダンジョン工の助力に温かい気持ちになったダン長は作業を進めながら別の顔を造り、ダンジョン工達の護衛を兼ねながら魔女の家へと同行するのだった。







「なあマギリア、ダンジョン工のオッサン達にも仕事を――」

「こらぁマギリア! 私を除け者にするんじゃねえ!」


 魔女の家に到着したダンジョン工達が頼み込もうとすると、白ずくめの先客が既に直談判をしていた。循環器のエラーで人間の思念に魔素が付与された魔物・ゴーストのフリッカである。現状、彼女だけ番人の仕事をもらえていないのである。彼女は仕事をくれない魔女の肩にしがみついて耳元で『仕事をよこせ』と叫んでいた。


「やれやれ。まだ研修も終わってない青二才が、大人しく皿洗いでもしていればよかろう」


 やる気はあっても長らく封印されていて戦闘経験も乏しいフリッカに、中ボス部屋の番人が務まらないのは自明の理である。そんな彼女に大人しく研修に戻れとマギリアがたしなめる。この喧嘩が終わるまで口を挟む余地が無いと諦めたダン長達は部屋の隅に移動した。


「意外でした……自分から仕事をしたいなんて申し出る守護モンスターがいるなんて」


 彼女らのキャットファイトを同じく部屋の端で目を丸くして見ていたエッダがダン長達に気づき、感心したような声で話しかける。


「皆が人に関わるのを楽しんで仕事しているからな、周りに感化されたんだろう。エッダさんの故郷のダンジョンにもこういう守護モンスターがいるのか?」

「いえ、もっと事務的で淡泊な半魚人みたいな連中ばかりですけど……」

「ああー、まあ海の底ではな……」


 ダン長とエッダが両ダンジョンの守護モンスターの関りについて語っていた。海の中で生活をする魔物にとっては、人間の文化に興味を抱いて私生活への学びを得る要素は見出し難いだろう。


(そうか、他所から来た人間にとっては入居先のダンジョンと人間の関係に疎いのは当たり前のことなんだよな……そうか! この認識のズレを利用すれば!)

「思いついたぞ! アインを確実に一人で呼ぶ方法!」

「「んぅ?」」


 ダン長はエッダとの会話で、他の課題を優先するため後回しにしていた課題へのアイデアを閃く。その声を聞いてマギリアとフリッカが喧嘩をやめて声の主の方を振り向く。


「フリッカ喜べ、お前の初仕事だ!」


 ダン長の宣言に、フリッカが期待に顔をほころばせる。

【海神の娘と悪代官屋敷 5/13 模様替え、完成!】

 第二の間でキルトは手抜きを疑われたくないダン長の懇願を受け入れ、衣装の点検の為にブルーシートの上に作ってきた衣服を並べる部屋にした。キャンディもまた第三の間をトレーニングルームに改装し、番人の間の工事が完了する。噂を聞きつけたダンジョン工3人のテストプレイの許可をマギリアに得るべくダン長が魔女の家へ向かうと、除け者にされたとマギリアに抗議するフリッカがおり、アインを個人で寄越すためにダン長は彼女に初仕事を任せる。

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