表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/62

29話 海神の娘と悪代官屋敷 2/13 つくれトラップハウス

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。


「悩みの種はわかった。しかしエッダさんはなぜ冒険者が嫌いなのになんでギルドの受付に?」


 ダンジョンに住まう一同に冒険者からのストーカー被害を訴える受付嬢のエッダ。話を聞いて行くうちに彼女の冒険者に積み上げてきた思いの丈がわかり、疑問を述べるダン長。冒険者嫌いでギルドの受付などという頻繁に冒険者に関わるはずの仕事に就くのはどういうことかと。


「それが私、冒険者に囲まれる幼少を過ごしたせいか……ああいう生き物が普段どう思ってるか、細かい挙動からつい察せるようになっちゃったんですよぉ……」

(冒険者限定の心理学……!?)

「それで女ひとりで見知らぬ土地で仕事するってなると、嫌な特技でも活かせる仕事を選ぶか、身体を売るしかなかったんですよ……うぅ……」


 怒ったと思えば今度は涙を顔に浮かべるエッダ。冒険者に囲まれて育った生活のせいで、自然と心理学的な技能を持っているということにダン長は同情とも憧憬ともとれない微妙な表情をとってしまう。


(そうか、こういう世界で故郷を出て仕事に就くって俺のいた現代よりずっと厳しいんだな……)

「すまないエッダさん、この世界の感覚に慣れず不躾なことを聞いてしまった」

「いえ、良いんですよ……あなたに限らずマレビトさんってそういうとこありますし」


 ダン長の謝罪を受け流すエッダ。彼女達にしてみれば、戦力目当てに異なる世界から常識に疎い人間をこちらへ呼んだのは自分達――正確には先祖――なのだから、マレビトに責任も無ければ謝られる筋合いも無いという。


「まぁミルス村の就労事情なんてそんなもんだ。エッダも一人で遠い街から知らないとこに越してきて、嫌な仕事にも向き合って生きてるんだ。生活できてるだけで充分頑張っているよ……そんな中でずっと悩みを抱え込んで辛かったろう?」

「ま、魔女様……ってことはやっぱり助けてくれるんですか?」


 マギリアのねぎらいを聞いて、期待に顔を輝かせるエッダ。そもそも当の本人が『対処に困る』と言っただけで見捨てるとは一言も言ってなかったが、冷静沈着を装うたたずまいが冷淡な態度を想起させたのだろう。


「と言っても私達は体裁上は冒険者の守り手だ。アインとやらにダンジョン運営の違法行為がなければ、とれる手段は限られているぞ?」

「うっ……」


 エッダの期待を打ち砕くようにマギリアが事実を告げる。彼女の言う冒険者の違法行為とは、主にダンジョンという閉鎖環境を利用して私怨で他の冒険者を傷つけることや、密売者を連れ込んでのギルドを介さない素材の横流し等である。守護モンスターが冒険者を攻撃するには、それだけの正当性が無ければならない。

 例外的に冒険者の方から腕試し等の理由で挑んできた場合には応戦が認められているが、それでも命を奪うレベルの攻撃は禁じられているのが基本ルールだ。

 

「マギリア、その問題はエッダさんがこのダンジョンに居続けていれば大丈夫だ。ほら、過剰に冒険者を恐れて受付が仕事に来なくなったら窓口の人間が減って、他の受付に負担がのしかかることになるだろ?」

「ほほぅ、それもひとつの運営妨害と言えなくもないな! 少々こじつけくさくなるが、その理屈で私達でもヤツを取り締まれなくもない」


 ダン長は既に解決できていると告げ、マギリアも察しの良さを発揮して彼の意図を見抜く。ストーカー行為がギルドのダンジョン運営に不利益をもたらすならば理由をつけて拘束自体は可能である。


「あぁ、ギルド長や警備隊も流してはいるが彼女の証言自体は聞いているからな。忽然と姿を消せば嫌でもアインが疑われる。だが当然心当たりの無い奴は疑いを晴らすためにもエッダさんを探し回るはずだ」

「そうだな。そうしてこやつを探しにうろちょろしているところを村でなりダンジョンでなり私達で拘束してしまえばいい」

「仮にエッダさんが村を出ていったと勘違いしてアインが追いかけても、結果的にストーカーが村から消えるわけだからデメリットは無いな」


 ダン長とマギリアがストーカーを捕える段取りを立てる。エッダの失踪という情報をギルドに与えることによって間接的にアインを動かし、ダンジョンにおびき寄せる算段だ。エッダが無断で仕事を休んでしまったことも、ギルドからの信頼が厚い守護モンスターが事情を説明すれば職場復帰も可能だろう。


「よかったです……まったく、冒険者との交際が嫌だって故郷を飛び出したのに、こっちに来てもあんなオジサンに絡まれるなんて……あんなのもう死んじゃえばいいのに」


 自分がダンジョンへ誘う釣り餌に使われているとはいえ、ようやく自分の為に動いてくれる者が出来て安心したのか件の冒険者への愚痴を始めるエッダ。彼に貯めた鬱憤は相当のもののようだ。


「しかしアインとやらか、始めに聞いた全身黒甲冑の冒険者なんて私は見た覚えはないな」

「俺もだ。普段から起きている限りは常に出入口はチェックしているが、そんな目立つ奴が来てたら嫌でも覚えてしまうぞ」


 頬杖をついてアインとの面識が無いことに一抹の不安を吐露するマギリア。そしてダン長もダンジョンで冒頭にエッダが述べた格好に該当する冒険者が入ったことが無いことを付け加える。


「でしょうね、アインさんはソロの野良狩り専門ですから」


 それに対してエッダは、あたかもその反応を予想してたかのように落ち着いて言葉を返す。


「隊商の護衛もしないし納品もいつも日帰りで採れる安い素材や薬草しかないから、周囲の評判と裏腹に成果そのものは地味な人です。そして毎日毎日決まって私の窓口で換金してくる変なオジサンですよ」

「ほほぅ、それはそれは凄まじい執着ぶりだな……」


 アインの素行を説明されて顔を強張らせるマギリア。何もこの大陸では魔物はダンジョンにだけ出るものではない。冒険者の目を逃れてダンジョンから出てきた、或いは魔王軍侵攻時に人間に狩られることなく定住した魔物も大勢いる。

 ダンジョンに潜らないタイプの冒険者は、野良の魔物を狩ったり、それらから流通を支える隊商を守る契約を交わして金を稼ぐ。


「小さい仕事で毎日私の窓口に顔を出すことで顔を覚えてもらおうって魂胆なんですよ……実力自体はギルドでも指折りでしょうに、変態で甲斐性も無い残念な人です」

「んー? なんでそんな採取を受けただけで実力があるってわかるんだ。編入審査で的を粉々にでもしたのか?」


 ストーカーが自分にかまけ、実力に見合わない仕事をしていると言うエッダにマギリアが疑問を投げる。彼女は窓口で素材を受け取るだけのやり取りでアインの実力を見抜いてギルドでも上位だと言ってのけるのだ。

 編入審査とは養成所から入る未成年ではなく、成人用に用意された入団枠である。年齢制限の縛りが緩い代わりにこちらは入団後の即戦力が求められる。その審査で度肝を抜くような行為をしたのかとマギリアは問うが、エッダは静かに首を横に振る。


「たたずまいですよ。あの人、着込んだ鎧を全く音を鳴らさずに歩いたりできます。納品に来る時間も毎日5秒とズレませんし、鎧を着崩したこともその重さで呼吸を乱したこともないです……魔物の世界から人間の世界に戻ってきて気が緩むはずのタイミングで、ここまできっちりなのは確かな実力のある人だけです」

「ほほぅ、嫌いって割によーく見てるじゃないか?」

「勝手にそういう風に観えちゃう身体になっただけですぅ……」


 アインが影の実力者である理由をつらつらと語るエッダ。どうやら彼女は好き嫌いに関わらず冒険者の所作から強さが『観えてしまう』らしい。


「そうか、そやつは強いんだな?」

「ああマギリア、エッダさんの言うことを信じるなら強いみたいだな」


 ダン長とマギリアはエッダの太鼓判を聞いて彼が強いと確信を得る。自分が好きな人間の実力を持ち上げるのは容易なことだが、嫌いな相手に高い評価を下すのは心理的な抵抗がある。そのストーカーは彼女をしてそう言わしめるだけの実力者ということだ。


「エッダさんの言うことを信じるなら、やはりギルドに通報して対処させるのは得策じゃないなー」

「あぁそうだな。無理矢理に取り押さえて開き直って暴れられたら何人怪我人が出るかわからんからなー」

「あれ……なんか顔色が違ってきてません? 本当に私を助けてくれるんですか? 事故に見せかけて葬ったりとかしてくれないんですか?」


 相手が強いと聞いてから声色が変わったダン長とマギリア。自分の保護が最優先と思っていたのか、物騒な言葉を添えて慌て気味に尋ねるエッダ。


「ククク……私達は守護モンスター。困った人間を助ける意思は変わらんが、それと同時に欲しい! ここのボスを狩るためそのアインとかいう冒険者の力が!」

「そうそう、円満な解決を望むならエッダさんが安全な環境を用意して第三者の立ち合いのもとで、話し合いをするのが無難だ」

「わ、私がアインさんと話し合うんですかぁ……?」


 当面の目標であるボスを倒すためならストーカーすら味方にしようと企むダンジョン側の様子に驚くエッダ。


「エッダさん、このままアインが一生貴女の前に現れなくなったとしよう。そうなると彼が付け狙う理由がわからない日々がこれからずっと続くんだ。それってとても怖いことだと思うんだ」

「た、たしかに……皆さんがいてくれるなら……」


 戸惑うエッダにダン長が説得を試みる。確かにわからないことは恐怖の根源だ。ここでストーカーを物理的に遠ざけても彼女の人生にはその影がついて回る。一生恐怖を引きずり続けるよりはダンジョンの後ろ盾があるうちにスパっと解決してしまうのも手だとエッダは決意した。


「よーし懐柔成立! そいつが実力者となるとこちらから出向くのは得策じゃないな。その強いケダモノを誘い込んで捕まえる罠が要るなぁ、ダン長?」

「ああ、そのためこのダンジョンを『悪代官の屋敷』に改造する!」

【海神の娘と悪代官屋敷 2/13 つくれトラップハウス】

 冒険者が嫌で故郷から逃げてきたエッダは己の職業適性と望みが噛み合わず冒険者ギルドへ就職した。彼女の相談を聞くうちにマギリアは高いと見抜かれたアインの実力に興味を抱き、将来的にボスを倒す戦力に組み込もうと画策する。ダン長はアインを捕らえ、守護モンスター同伴のもとエッダと面会させるべく、彼を誘い込むための『悪代官屋敷』を作ると宣言する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ