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26話 番外編 3/4 魔女の杖作り

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

 ミルス村商店街の武具エリアにある杖専門店。武具全般を扱っている店よりも専門店の方が掘り出し物の逸品や痒い所に手が届く珍品があるのはこちらの世界でも同じなようだ。人間達は衣服と同様魔物の肥料で育てた木材を使って、使用者の限られた魔力の効果を高める杖を作ってきた。

 代表してキャンディが扉を開けて入ると、暗めの落ち着いた店の木の香りが一行を出迎える。個人商店としてもやや狭いと思えるたたずまいに、さまざまなサイズと素材の杖が並んでいる。

 一般的に魔術職の人間や魔物は、杖に埋め込まれた術式を利用して魔術を行使する。使わないと一から術式を構成する手間とその分の魔力が必要になるのだ。杖を介在させることで魔力を魔術に変換するロスを減らしたり、詠唱の簡略化が可能になるのだ。術式の埋め込みは、杖ごとに使える魔術を『登録』する感覚に近いだろう。杖の素材ごとに適した魔術の相性や埋め込める限界数が存在する。


「んもう、マギちゃんそんなにくっ付いてたら見るもの見れないでしょ?」

「キャンディさんはいなくならないよね……?」


 恐る恐るキャンディから手を離し、奥へ歩みを進めるマギリア。店番をしていた細身の男性が不安げな客の姿を見て驚く。


「魔女様じゃないですか! どうしてこんな店に?」


 驚いた店員が彼女を見て質問を投げかける。実は過去にも魔術道具を物色しに数度か来店したことはあったが、村娘の姿をしていたため店側の印象に残ることはなかった。


「えっとね、新しい杖が欲しくて」

「そんな、ウチで扱ってる杖で魔女様のを超える品なんて……」

(この人の言う通り、流石にこの杖と同等の性能は置いてないかな)


 店員の謙遜を聞いてマギリアは背中に背負った長杖に意識を向ける。特殊な効果を持つ杖は強い魔物で育てた樹を多く使うほどその効果が高まるので、同じ素材で比べれば長い杖は強力だがそれだけ重く長く、荷物になったり扱いが難しくなる。マギリアは他の武器甲冑の類を装備しないことで機動力を確保していた。


「そうかもしれないけど、ちょっと狭いとこ通りにくくて。といってもコレ折りたくないし、同じくらい強くて普段使いできるのが欲しいかなって」

「はいっ! ぜひお好きな物をお選びください!」


 小さくて性能を損なわない杖をという目的を掲げ、マギリアは適当に言い繕って店内の短杖を手に取り、先端を弄ったり魔力を注いだりして反応を調べ始める。彼女が今装備している杖は冒険者達からの貰い物で特別なものであり、見栄えのバランスのために壊す選択肢は始めからなかった。


「確かにめぼしいものはないね……短いスタイルに切り替えたいと思ったんだけど、それで弱くなっちゃ本末転倒よね」

「見て見てマギちゃん! アタシあまり魔術に詳しくないけど、こうやっていっぱい持てば強いんじゃないかしら!」


 思い悩むマギリアにキャンディが両手の指の間に短い杖を挟んでポーズをとりながら呼びかける。その両手から4本ずつ杖先が伸び、あたかもかぎ爪が生えているかのようだった。その姿に彼女はポカンと呆気に取られてしまう。


「何本同時持ちは試したことがあるけど、詠唱する口が1つしかないから術式で登録した魔術は1つずつしか使えないわ。それに――」


 決めポーズをとるキャンディをフォローするマギリア。杖の複数本同時持ちは増やすごとのメリットとデメリットが釣り合わないという。複数の杖の術式や補助効果が一度に利用できる代わりに携帯性が悪くなり、効果被り等の無駄や魔力の誤入による暴発が多くなってしまうのだ。他の魔術師も試して諦めたのか、結局雑魚杖を一度に持つより多くの術式を仕込んだ杖を用途に応じて1本ずつ持ち替えるスタイルが主流になってしまった。と早口でキャンディに魔術師たちが杖の複数持ちを諦めた歴史を語る。


「ということなの! でも杖いっぱい持って『これだけの杖を一度に使いこなせるヤツ……!』って思わせるのはいいアイデアだね」

「……うん、そうね!」


 キャンディは思考停止したまま長話に適当に相槌を打つ。そして魔術に疎いキャンディの単純な発想から何かを思いついたマギリアは店の一角へと赴いた。


「店員さん、この『無地の杖』今あるだけください!」

「ええっ!? こんなにですかぁ!?」


 『無地の杖』というのは、まだ術式を埋め込まれていない自作用の杖のことだが、彼女はそれを全部買っていくというのだ。驚いた店員は思い切りの良さに驚いた。無地の杖は術式が未入力な分だけ安価で購入できる。

 魔術師が己の好きに術式を杖に入れるケースは無くも無い。しかし1本作るのに数日ほど時間がかかり、素材の強度を超える術式を入れると杖が割れて無駄になってしまう。実際に多くの魔術師が店売りで妥協するか、多額の対価で職人に任せている。


「冒険者が来ない日でダンジョンにいるのも暇だし、やっぱり自分で自分用の杖作ろうと思って」

(キルトさんも服作りをゼロから頑張っているんだし、私も店売りで妥協したら申し訳ないよね!)


 キルトが受けているであろう試練に負けじと奮起して、オリジナルの杖を作ることにして十数本の無地の杖を買って帰るマギリアだった。






「ねえキャンディさんこの杖どうかな!? 乾さんってマレビトが持ってたあのセンスってのを参考にしたの!」


 1週間後のサキュバスの酒場で大喜びで自分の工作の成果を語るマギリア。彼女の手には、扇状に展開する4本の短い杖が握られていた。正確には1本の杖を縦4つに等分して扇子の骨に見立て、要の代わりにから根本を木釘でつないだものだった。ここの守護モンスターで最も素早いキルトを一瞬で捕まえた糸使いを強キャラ認定したマギリアは、彼女が扇いでいた扇子の構造を見習ってみたのだ。


「あらやだ、素敵ね! もう完成したの?」

「姐さんったら気が早いわ、ここから術式を入れてくのよ。ね、マギリアさん?」


 扇子状の杖の開閉を見てはしゃぐキャンディだが、横から多少魔術に詳しい妹のアクアが訂正を加える。最初の1週間はひたすら買って来た杖をこの形に加工する作業に宛て、ここから術式という魔術の設計図を入れる作業が始まる。


「そうそう! 術式の込め過ぎで壊れた杖は魔術的な効果が消えてただの棒切れになっちゃうから、今から集中してやらなきゃね! 今の杖だって詰まってるヤツは100や200じゃないんだから、それを超えるモノを作らなきゃ仕事に使えないわ」


 アクアに相槌を打って、これから始まる難題に立ち向かう決意を固めるマギリア。彼女の言う通り欲をかいて許容量を超える数の魔術を登録すると、杖が無駄になってしまう。どの素材で作られた杖がいくつ分の術式に耐えられるかの見極めには経験が必要で、それゆえに多くの魔術師には杖製作専門の熟練職人が必要になるのだ。


「詳しいことはわからないけど頑張ってねマギちゃん! あ、そうだわ。これは耳寄り情報なんだけど、所謂『強く見える態度や言葉遣い』ってやつ?」

「えっ!」


 キャンディの言葉に期待の声をあげるマギリア。彼女が課題にしていた3つ目のヒントになりえる情報だったからだ。


「本当? どこで聞いたの!?」

「ふふ……伊達にここで何度も酔った冒険者達とお話してないわ。それで、体格が小さくても強くて頼られる冒険者さんの話は聞いたことないかって何人かに話題を振ってみたの」

「ふんふん……」


 この1週間、裏でキャンディも動いてくれていた。店の営業の傍らで小さくとも頼られる有力な冒険者の逸話を集めていたらしい。興味を引いたマギリアは鼻息を荒くして続きを聞こうとする。


「マギちゃんそのお顔はアウトよ! 頼りがいのある人は、些細なことでそうやって感情を表に出さないの! その小さい英雄さん達もそうやって周りの信頼を集めていたんだから」

「えっ?」


 つい期待の感情がストレートに出てしまい、キャンディに注意をされてしまう。


「ホラ、もし冒険者の皆がピンチで慌ててるところでマギちゃんも一緒になって慌てていると、皆は誰を頼っていいかわからなくなるでしょ? 皆が焦ってても、たとえ自分自身が焦っていても表に出さず振り回されない。それがマギちゃんが目指すべき『クール』ってやつよ」

「くーる……」


 クールすなわち冷静沈着。ピンチでも焦りや不安などの感情を表に出さずに落ち着いた者がいれば、周りもパニックにならずにその人を頼れるというものだ。ただし今のマギリアは人並みによく笑いよく泣く、善し悪しに感情に正直な人格をしている。


「そうねぇ、今のマギちゃんも充分魅力的だけど……強そうになりたいって言うなら目指してみるのもいいんじゃないかしら?」

「だ、だけどただでさえ杖作りだってお仕事の合間になるのに……感情のコントロールなんて杖作りが終わってからになるよね」

 

 頼られるに足るふるまいを身に着ける必要であることをマギリアは頭で理解しているものの、起きている間は通常の守護モンスターの営業・休みの間は杖作りに専念することを予定していて、感情制御の特訓なんて手を付ける身体が足りないのだ。


「あら、マギリアさん? 私達サキュバスの能力を忘れた? 起きてる時間が忙しいなら寝ている間に私が相手するわ」

「え?」

 

 微笑む次女のアクア。サキュバスは夢枕に出て相手を誑かす魔物で、それは意図的に相手の夢に出られることを意味している。起きている間にやる時間が取れないなら、下の妹達が時間を作って睡眠学習の相手をするというのだ。

 

「姐さんはこっちの能力に関しては苦手だけど、私達なら魔力の続く限り夢の中で付き合ってあげられるわよ?」

「こっちの心配はしなくていい……ローテーションで私もやるから……」

「クールのコツー、村でいろいろ勉強して仕入れてあげるからねー」


 サキュバス少女のアクア・イグニス・ウェンティの3体がマギリアを囲って支援を提案する。戦争が終わり、魔王軍を抜けて放浪の身だった彼女達に安住の地を用意していた先輩に対する尊敬と感謝の念はキャンディに負けず劣らず強い。美少女の外見をしたサキュバス達に包囲された彼女は顔を赤らめて萎縮する。


(近い近い! サキュバスの距離感ってこういうものなの……?)


 こうして自分を変えると誓った魔女は、守護モンスターの仕事をこなす合間に自作の杖を作りながら、寝る間も惜しまず逆に利用してクールな立ち振る舞いを精神に叩き込む生活を始めることとなった。

【番外編 3/4 魔女の杖作り】

 服飾の修業の為にキルトを手放した一行は武器の問題を解決するために杖の店に立ち寄るが、今の杖を上回る品物が無いのを見て術式を自ら埋め込む用の杖の素材を買い込む。『強キャラ』を目指すマギリアは、キルトを一瞬で捕まえたカンダタの店主の持つ扇子をヒントに新しい杖の形を考案する。マギリアは術式を埋め込む作業と並行して、弱そうな『言動』を克服するためにアクア達サキュバスの睡眠学習を受けることになった。

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