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25話 番外編 2/4 服屋「カンダタ」

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

「おーい、生態調査の報告が終わったぞ」

「ありがとうキルトさん! 先月より帰りが遅かったから気になったけど……」

「少し酒場で情報を仕入れていてな」


 ラビス迷宮基地の一角、サキュバス達が経営する酒場に守護モンスターの一同が集まっていた。その1人である透明人間のキルトは全員で調べまとめた迷宮地下の群生地に生息する魔物達の生態調査をミルス村のギルドへ報告しに行ったのだった。魔物の各種族の生息数も先月から横ばい状態で、絶滅や異常発生を危惧する種も確認されなかった。


「情報?」


 カウンターの向こうからオネェのサキュバス・キャンディが遅刻の原因に対して疑問を投げかける。


「ああ。『マギリアを強キャラにする』という目標には『なぜマギリアが弱く見えるか』という問題点を調べるのが必須だろう。我輩は酒場に寄って酔っぱらい冒険者達からその情報収集をしていた」

「すごっ……どうやってピンポイントに私の弱点聞いたの? 私が頼んでもなかったのにやってくれたの!?」

「いつかマギリアが行き詰まったらどうせ頼んでくることだろうからな。そして我輩、この包帯を解いてしまえば完全に不可視になれる。直接聞かずとも酔っぱらい共の会話に混じって話題を誘導するなど造作もない」


 キルトは己の全身を覆う包帯の一部をつまみながらマギリアの問いに答える。透明人間である彼は自分の居場所を周りに教えるために包帯で全身を包んでいるが、裏を返せば包帯さえ外せば完全に透明になってしまえるのだ。その体質を活かして酒場の会話に混じって会話を誘導してマギリアの印象問題を調べてきてみせた。透明の体質のみならず、魔王軍と人間達の戦争の時に人間側に味方して諜報活動をしていた経験を持つ彼のなせる技である。


「それでお前の弱く見えるポイントだがな……『服装が店売りでやってる駆け出しの魔術師みたい』『杖がデカすぎて身体が小さく見える』『言動が明るい女の子すぎて心配になる』の、3点だな」

「ハッ……そんなに!?」


 つらつらとミルス村の人間がマギリアに抱いていた印象を語るキルト。話始めこそ彼の手腕に感嘆していたマギリアだったが、次々と彼女の見た目上の欠点が述べられて焦ってしまう。


「私が強キャラになるには、服装と武器である杖と言動を修正したらいいんだ……ありがとうキルトさん、先にそのへん探す前に調べてくれて……」

「今も言ったが、言われなくてもいつかは行き詰って我輩に頼りそうな事柄だったからな。見えないところで役立つのが我輩なのだよ」


 かしこまって礼を述べるマギリアに対して手間を減らしたいから先に行動したと弁明するキルト。何はともあれマギリアがなぜ弱く見えてしまうかを確認した守護モンスター達であった。


「といっても貧弱そうに見えるこの服だけど、これでも店売りより防御性能が高い布使ってるんだよ? 強そうな服買ったとしても私が弱くなったら本末転倒だよね」

「そうね。でもオーダーメイドで強い服を作ってもらうにしても、あれって地主とか超一流の冒険者専用ってくらい高いわよね」

「よしっ! 賭場で大勝ちしてくるわ!」

「やめとけやめとけ」


 服の調達方法についてアレコレ頭を悩ませるマギリアとキャンディ。人間達は魔物の素材を肥料にして領内で植物を育てている。それから取られた繊維や、餌にして育てた動物の毛や虫の繭からは素材の性質を引き継ぐ糸が作られる。例えば火を噴く魔物を肥料にして作られた布は耐火性能が高いなどだ。

 マギリアの服も様々な魔物の素材が使われ、ミルス村の服飾店で売られている冒険者向けの製品より高性能な布で織られている。

 見た目を強化して彼女の戦力がダウンしてしまえば本末転倒で、布素材を指定して職人に作ってもらうにしても守護モンスターには手が届かないくらい高額になる。賭け事で稼ごうと提案するマギリアだが、彼女が勝ってきたのを見た試しが無いキルトに制止されてしまう。


「いっそ糸や布からの手作りにしてしまえばいいだろう。それならまだ職人への手間賃が無い分だけ安くなろう」


 行き詰まる一同にキルトが手作りで服を用意することを提案をする。こちらの世界ではオーダーメイドでかかる費用の大半は職人への手間賃であるため、特殊な糸や布を集めて自分達で作るのなら手持ちで足りる希望があった。


「あらやだ名案! でも本格的なのを作るとなると、ここにある裁縫道具じゃ無理じゃない? もし糸から作るなら織機ってのもいるんじゃ……」

「よしっ! 賭場で――」

「やめろ」


 マギリアの提案は無視され、アクア達サキュバスの妹を留守番にして3体は村で使ってない服作りのための機材を探しに行くことになった。







「あのーそれでー……ダンジョンで1日を過ごしているとちょっと手持無沙汰な時間が多くて、布づくりでも趣味にしようかと思って、よければ織機なんか私達に貸してもらえたらなーって」

「ふぅん? それでウチに来たってわけかい?」


 ミルス村の商店街の仕立て屋『カンダタ』を尋ねた守護モンスター達3体と付き添いのギルドの冒険者。店内には完成品の服の他に、家で手仕事をする客層へ向けて様々な効果と色をした糸や布が販売されている。現代では繊維から服を作る工程は様々な職人たちや機械による分業制であるが、この店は糸を仕入れてからの行程は、店の手作業で布を作り色を染め、服を縫う流れが完結していた。

 人間達の噂が原因とは言いづらいマギリアが事情をぼかしながらギルドに相談すると、「魔女様の頼みであれば!」と二つ返事で了解した長が冒険者にここを案内させたのだった。この店は現代日本から呼ばれたマレビトと呼ばれる勇者の1人が開いた服飾店で、彼女の存在をありがたがる現地人がこぞって徒弟となっている。技術を効率的に広めようと村の役所が予算を回して、彼女の指定する道具を用意したのだ。そういう経緯を知るギルド長は養成の為に使う道具が余分にあるという目算があってここに案内させたのだ。

 話を聞いたマレビトの伝統服・キモノに身を包んだ白髪の老婆は、店の椅子にふんぞり返りパタパタと扇子を扇ぎながら鋭く一行を睨み返す。


「なるほどねェ、アタシん所なら確かに余っている子がいるが……ただし、簡単には譲れないよ?」


 老婆は仕事にも育成にも使っていない織機が余っていると答えるも、貸し出しに関しては渋る。その声色からは、少し興味を持った程度の相手に貸す道具は無いという頑なな意思を感じる。


「なぁ婆さん、賃貸料ならギルドの方でもいくらか工面――」

「金の話を言ってんじゃないよ! 半端モンに預けたらこの子が可哀想だってんだ!」


 渋られて金銭面の交渉を始めようとしたお付きの冒険者の胸倉を掴み、老婆が一喝する。


「ふん? あんたの服のここ、自分で縫ったのかい?」

「い、いや……これは先月に――」

「我輩がやった」


 老婆は自分が掴んだ服の傍にある補修跡に目が行き、冒険者に尋ねる。慌てた彼が目を逸らしながら答えると、逸らした目線の先にいたキルトが代わりに名乗り出る。守護モンスターの仕事の一環として、彼は救助した冒険者の破れていた服を修繕したりもしていた。その一方で彼にその仕事を教えたはずのマギリアやキャンディ達は彼ほど器用に縫えなかった。


「ふぅん……そうかい? ふん!」

「ぬおっ!?」


 老婆はここにきて初めて笑みを浮かべると左手に持った扇子を閉じ、空になった手をグッと握る。その瞬間、キルトの包帯に覆われた身体が急に強張り、彼女の手元に引き寄せられてしまった。窓から差し込む光の反射光が、老婆の手から伸びる細い糸が精密に彼の身体を縛っていることを雄弁に語っていた。


「アンタ見込みがあるねぇ! 魔女様よぉ、うちの子を譲る条件としてこいつを預かるよ! 1年でこの乾佳織イヌイ カオリが手芸の最低限の基礎を叩っ込んでやる!」


 キルトの腕を見込んで条件を突き付けてくる老婆。乾佳織と名乗るこのマレビトは、もといた日本では数少なくなってしまった機織り職人だった。召喚特典の異能の力による操糸術で何体もの魔物をくびり戦争を生き抜いた彼女は、布づくりにとどまらず針仕事も始めて服飾店の営業を始めることにした。機械文明にいまだ至らないこちらの世界では彼女の服飾スキルは広く受け入れられ、ここなら後継者がたくさんできると日本への帰還を拒み今日まで永住していたのだ。


「ちょっと婆さん、1年って流石に無茶じゃ……器用とは言っても最初からプロだったお弟子さん達と違ってスケさんは素人だって!」

「ハッ、魔物の頑丈さなら下手な冒険者より知ってらぁ。地獄のスケジュールで工程大短縮だ! 魔物にアタシの技を教えるのは初めてだが、長生きするヤツに技術教えるってのもいいな! アタシが継いできた技が永く後世に残せるってもんだぁ!」


 基礎とはいえ1年で服作りを教えるのは無理と言う冒険者に耳を貸さず、悪い笑顔で夢を語る乾老人。結局キルトを解放することは叶わず、彼を残して一行は叩きだされてしまった。


「行ったか連中は。まったく、地獄のスケジュールとやらでお前が倒れんことを願うばかりだ」

「ほう? 縛られたままそんな口がきけるたぁ、見込みがあるのは手先だけじゃないようだねぇ」


 一行を追い出して2人きりになった店内。老婆に縛られたままのキルトが減らず口を叩く。彼もまた魔王軍から寝返って人間に与した魔物だ。マレビトの知識への興味関心は今まで乾老人に志願した徒弟たちに引けをとらない。


「マギリアの奴に手作りを提案した時点でこうなる可能性があると腹を括っていた。もっとも今は、腹どころか全身を括りつけられているがな!」「くっくっく……私の最期の作品にふさわしいモンに育ってくれるといいけどねぇ!」


 キルトの皮肉めいた冗談に笑いをこらえる乾老人。こうしてしばらくこの透明人間は守護モンスターから、職人のもとで手芸スキルを習得する弟子へと転職する次第となった。今現在のミルス村では彼女の遺した技は多くの職人に引き継がれて息づいている。






「初手でこんな店を案内してしまい、魔女様になんと謝ればいいか……」

「どうしよう……私のせいでキルトさんが」

「ま、まぁお仕事だけならちょっと前に戻るだけだから? キルトちゃんもパワーアップして帰ってくるわよ」


 店から出て通りを歩きながら反省会を開く一同。謝る冒険者と凹むマギリアとフォローするキャンディ。そのフォローの通り、キルトは守護モンスター達の中では最も日が浅い。彼が去ったところでダンジョン管理の体制はキャンディ達4体が入ってきた時に戻るだけなのて無理なことではなかった。

 加えて長寿を持つ魔物の特性上時間に対する感覚も人間と異なっており、1年の別れというのも2から3か月程の気分なのでお互いに悲壮感を抱くこともなかった。

 

「じゃあ、次は杖のお店に向かいますね?」

 

 重苦しくなった一行の空気を察し、話題を武器屋・杖専門店の案内に切り替える冒険者。


「ひょっとしてこれ、私を次のステージに連れていくためにさ……仲間が1人ずつ倒れていくやつ? ってことは次の杖選びでキャンディさんが……?」

「縁起でもないこと言わないの!」


 次はキャンディがステップアップの犠牲の犠牲になることに不安を抱えながら杖の店を目指す彼女達だった。

【番外編 2/4 服屋「カンダタ」】

 マギリアを強キャラへ改造する計画を立てた守護モンスター達だが、『服装』『武器』『言動』に弱く見られるポイントが存在すると村に偵察に出たキルトが報告する。一同が服飾の問題を最初に解決しようと村に織機を借りに行くと、『カンダタ』という衣服の仕立て屋に案内される。カンダタの店主は才能を見込んだキルトを捕まえ、織機の貸し出しの代償に彼を修行させるとほぼ一方的に決めてしまった。

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