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22話 匠と亡霊 12/13 アクシデント

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

 ダン長達はゴーストの少女・フリッカの生前のやり残したことを果たすため、村の少年達を集めてダンジョンの造りを活かしてアスレチック大会を開いた。3つの関門のうち、1つ目の動く床ゾーンはフリッカ・村の少年のアルとピートの順に全員無事に突破することができた。


「じゃあ次は、ハンマーロードだよ! ここを叩いたら20秒の間だけ道が水の中から現れるから、左右に振れるハンマーを避けながら進んでね!」


 引率のリンが2つ目の浮橋の間に作った施設を紹介する。リンが入り口側の石を叩くと直線距離にして20mほどの水面に狭い幅の石の道が出現し、少年達は好奇から驚きの声をあげた。この部屋にも前の部屋同様に基礎を造り終わった時から各部に改良がされていた。

 まずはゴール側の周囲から泳いで上がるという反則を防止するための壁。これはキルトが地味な作業を厭わず完成させてくれたものだ。そして、ぶつかるとその分引っ込んで衝撃を優しく伝えるハンマー本体には、黒い皮の覆いがされている。その色と光沢からまるで本物のハンマーみたいな威圧感を与えるが、ぶつかるとハンマーの本体同様に潰れてくれる素材だ。そして、水質の維持と溺れた者の救助用に2体のスライムを召喚して泳がせている。人が入った時には既にダン長が操作して安全を確保しているが、それを知らない挑戦者に多少の緊張感を与えているようだ。

 前の空間では落下の恐怖感こそあったものの、慎重を期せば何分でも石板の上に留まっていられた。しかし今回は20秒の時間制限という枷がつけられている。ハンマーをかいくぐるタイミングをいつまでも伺っていては、足場が水に沈んで再挑戦を余儀なくされてしまう。


「のうダン長、大会というものは儚いものですなぁ」

「んん?」


 ダンジョン工や守護モンスター達は、各部屋の側面に設けられた観客席で子ども達がハンマーを避けながらよたよた渡る様を応援しながら眺めている。ダンジョン工のリーダー、賢いおじさんのイワシが客席側にいるダン長の石に話しかける。


「こんな何日も苦労かけていろんな仕掛けを作っても、たったの数分で走り抜けられてしまう。普段はダンジョンの中に子どもを呼ぶことも無いから、これも今回限りじゃろう。相手が味わう時間よりも、こちらが備える時間が長いのは何事にも通じることとはいえ……」


 大会が終われば今までしてきた己の仕事が無に返るのではないかと嘆くイワシ。彼らの仕事は罠やダンジョンの設備の点検と補修。つまりダンジョンの恒常性の維持というこの先何年も使ってもらうための施工であり、いわば使い切りの施設を作るのは珍しいことだった。


(そうだな……俺もGMした時とか、同じことを思ったことはあるな。舞台背景の資料とか集めたりバランスとか調整して、何十時間もかけて作ったやつが、いざセッションするとその10分の1ぐらいの時間で終わってしまうんだよな)


 ダン長はその言葉を聞いて自分の経験と照らし合わせる。彼はTRPGで自作シナリオ等を作る時は予定した舞台の時代背景・登場人物に実在の人物がいればその背景・当時の流行り等も調べるタイプの人間だった。さらに参加者が苦労しながらも満足しながらクリアできるよう自前のキャラを使って何度もテストプレイして難易度を調整したりする。その作業に夢中になって仲間内だけで遊ぶだけのシナリオ1つ作るのに数日かかるのもザラだった。


「俺もわかるよ爺さん。祭りが終わった後の寂しさというか、やり切った後に感じるあの虚脱感」

「ダン長……」

「だけど見てくれ、渡ってる子らの一生懸命な顔。あれ見てたら俺達がやってきたこと、あの子達の中に残ってくれるんじゃないかって思わないか」


 ダン長が挑戦者達に言及する。話している間にフリッカが渡り終えて2番目のアルが走者になっていた。彼がハンマーに苦戦しているのを見かねて、先に渡ったフリッカが向こう岸から叫んでアドバイスを送り、後に控えたピートは振り子の動きに合わせて首を振って静かにタイミングを計っている。3人が3人、このダンジョンに対して夢中になっているのだ。


「遊んでもらった相手に楽しんでもらえたら、俺はそれで報われるんだ」

「楽しんでもらえる……そんな感覚、久しく味わってなかったのう……ワシらの工事、むしろ恨まれたりするくらいで……」


 ダン長からしたら数十時間の労苦も、参加者の『楽しかった』の言葉ひとつで作った甲斐を感じて満足できるのだ。ダン長の言葉に涙をこらえるイワシの横で、ウデップシとアシコシも感慨深げに少年達の攻略を眺めていた。一度攻略されて低下した難易度を誤解して奥まで突撃して死ぬ冒険者や密猟者を、怪我で済ませるために良かれとダンジョンを元に戻し続けてきたダンジョン工達。罠に撃退された冒険者に恨まれることはあれど、陰に埋もれた彼らの仕事は中々には評価されない。


「作ったらずっと楽しめるやつは村に用意すればいいだろう。アナログで楽しめる遊具とか、俺がいなくなるまでにいろいろ教えるからな」 

「おお、終わったら楽しみにしとりますぞ!」

(爺さん達はともかく……キルトもめちゃこっち見てる……)


 長く楽しめるものは終わってから別のを作ればいいとダン長のフォローを受けて元気になるおじさん達。なぜかキルトも興味ありげに遠くからこっちを凝視している。


「第一走者フリッカ。落下4回、記録は2分38秒! 第二走者アル。落下2回、記録は2分55秒! 第三走者ピート。落下0回、記録は45秒!」

「うぐぐ……今回は1位なれんかった……」


 そんなやりとりの間に、浮橋の間で開催された競技の結果が出た。今回は落下回数と時間の相関関係は薄く、落下の多かったフリッカよりもアルの方が遅い結果になった。フリッカにはハンマーが当たるという物理的なダメージへの恐怖感が薄かったので、力任せに突っ込んでガンガン落ちては何度も復帰したのだった。その4度も落ちた惨状を見たアルは足が強張り、スタートからしばらく動けないままでいたのだ。そして5分余りハンマーが揺れる法則を計っていたピートが、あるタイミングで駆け抜けることで1度も当たらずに突っ切れることを発見して勇気の突貫を行ったのだった。


「合計得点はアルくんが1点、ピートくんが2点、フリッカちゃんが3点で1位だね。最後の部屋の挑戦にタイムボーナスがもらえるよ」


 この部屋までの順位から計算した得点をリンが計算する。着順から2・1・0点を割り振られているので、1位2位のフリッカが3点、2位3位のアルが1点、3位1位のピートが2点となった。


「浮動床では勇気を、ハンマーロードではフットワークを試したけど……今度はみんなの知恵を試させてもらうよ!」


 次の間に移動しながらリンがアナウンスを続ける。勇気・フットワークときて次の部屋は少年達の知恵試しだ。かつての牢獄で朽ちた鉄格子がそのまま残されたコンビニほどの大きさの牢獄の部屋、今はそこが大きな壁で手前と奥が仕切られている。壁には人一人が通れそうな丸い穴が20ほど開けられており、手前側の床には柔らかそうなマットが敷かれている。穴の上には大陸共通語とマレビトの言葉(日本語)での文字や図が書かれた木の板が1つずつ貼り付けられていた。






「ここが最後の部屋、物理的知恵の輪だよ! 本当に通れる穴は1つだけ。もし間違った穴を通ろうとすると……1分間のペナルティがあります♪」


 全ての木の板にはきちんと考えれば子どもでも解ける論理パズルやクイズと、それの答えが書かれている。正答の書かれた穴を抜ければ向こう側に抜けられるが、誤答の穴には通過を妨げてしまう仕掛けがされている。誤答の穴に入るお手付きをしたら、1分間他の問題に挑戦できなくなるという。


「タイムボーナスのあるフリッカちゃんが最初に挑戦して、1分後に2番のピートくん、2分後にアルくんがスタートだよ。穴の向こう側には診察券の引換券が入ってる宝箱が置いてあるから、最初に正解の穴をくぐって宝箱を開けた子の優勝です!」


 リンが簡潔にルールを説明する。つまり正解の穴を通れた者が宝を手にするルールで、誤答の穴を避けながら正解の穴を探すというものだ。1回間違えるごとにペナルティがあっては当てずっぽうは効かないが、累計ポイントが高い者は後に続く走者に対して最初の設問をリスク無しで間違えることができる。4人以上参加者がいたら0ポイントの子がさらに1分遅れる予定だったが、3人とも最低限1ポイントは取れたのでタイム差は2分となった。


(しかし、3人に対して穴が20は問題を作りすぎたな……皆詰まってグダッたりしないかな?)

(ダン長? そもそもこの大会、5人とか10人とかもう少し集まるのを想定して作ってたからこうもなってしまうだろう)


 客席側のダン長とマギリアが穴の作り過ぎで難易度が上がってしまった裏話を話す。子どもが集まらなかった原因のサキュバス姉妹に聞かれては良くないので声量をおさえていたが、一同はもう少し大掛かりなイベントを予期していたのだった。


「じゃあ第一走者、フリッカちゃんどうぞ! ピートくんは1分後にスタートだからね!」


 開催側の愚痴を他所に、純粋に競技を楽しむ子ども達だった。フリッカがさっそく正面の穴に近づいて問題を見る。


【正直者は1人だけ】

問.この中には正直者が一人だけいます。


A「Bはうそつきだ。私は正直者だ」

B「私は正直者だ」

C「Aはうそつきだ。私は正直者だ」


答.彼らの中での正直者はBである。


 木の板にはよくある論理パズルが書かれていた。これは3人の誰かが正解の正直者であると仮定して、他の2人の言葉をうそつきという前提で矛盾が発生しないかどうかを確認して、誰が正直者なら他2人の言葉が矛盾しないかを導き出す。この問題の場合、Aを正直者だと仮定するとBとCがうそつきとなる。すると嘘吐きのBが自分を正直者と言うのと、嘘吐きのCがAをうそつきと言うことが嘘であることに矛盾が発生せず、正直者がAであることになる。

 つまりBと答えているこの穴は誤答の穴である。難しいものになるとこれが4人とか5人とかなるが、ダン長は子ども用の簡単でシンプルなものを選んだ。


「うーん……」


 それに対面するフリッカだったが、指を3本立てて彼女なりにいろいろと考えているうちに、目がグルグルし始めた。どうやら直情的なフリッカは論理的な思考が苦手らしく、かなり頭を悩ませている。


「パス!」


 20秒ほど考えて、彼女は目の前の穴を誤答とも正答とも判断せず次の穴に向かう。左隣の穴の設問を読み始める。


【木箱はいくつ?】

問.このマスの上に木箱がいくつあるか?

答.9つ。


 今度は立方体を数える初歩的な空間認識のクイズである。5×5のマス目の上に、マスと同じ大きさの箱が積みあがっている。2段目に積まれた箱はそれより下の段を同じ箱で支えられており、その箱は周りに置かれている別の箱に隠されている。回答の9という数字は表面に見える箱だけを数えた場合の数であり、見えないところで上の段の箱を支えている箱を数えるともっと多い。よってこの穴も誤答である。


「いちにぃさん……えっと……うぐぐ……」


 図に描かれた箱を指で数えながら迷い始めるフリッカ。穴の前で考えだしてから10秒が経過して、迷いは焦りと慌てに変化してきた。総合1位の選手が自由に動ける時間は30秒しか残っていない。


(どうしようどうしよう! これ正解なのか!? だけどもしさっきパスしたのが正解の穴だったら、私マヌケじゃんかよ……)


 有利なはずの先陣を切るフリッカにもプレッシャーがあった。このまま30秒も経てばもう1人と、さらに1分経てば全員と条件が一緒になってしまう。


「くっ……これだ! きゃあぁ!?」


 焦りからフリッカが正解を決め打ちして目の前の穴をくぐろうとするが、上半身を壁の向こうに乗り出した途端に悲鳴を上げた。充分に人が通れるスペースがあったはずの穴が、彼女の胴体をガッチリと捕まえて放さないのだ。かくして不正解者は前にも後ろにも進むことができず、壁に拘束されてしまった。


「おーおー、さっそく引っかかってくれたな。壁に埋め込んだちくわに」

「俺の知っているちくわと随分違ったが、あいつの生態はこの部屋のギミックに随分役にたったなぁ……」


【ちくわ】

 ラビス迷宮基地の水場に棲息する弾力のある円筒形の魔物。輪の中に引き込んだ対象を矢のように打ち出して気絶させてから捕食する。打ち出す勢いの強さはちくわの長さに依存する。配分される魔素は低い。捕食して身体にため込んだ魚介のエキスが染みてとても美味。


 ダン長は前2部屋の大きさに比べて牢獄跡の狭さから、運動能力を活かした競技は難しいと判断して知恵比べをさせることにした。クイズ形式にしても初日に神官少女をハメた〇×のパネルは拘束時間が長すぎるということで、お手軽なものを模索した。そこで死後も魔力を込めれば細胞が動くちくわの生態を利用して、通った者を捕まえて放出する仕掛けを開発した。

 フルサイズなら矢のようにかっとぶちくわの弾力でも、壁程度の長さに切り分ければ手前のマットに落ちる程度の勢いしか生み出せない。こうして、不正解者を捕まえて手前側に排出させるギミックを完成させたのだった。ちなみに1分の拘束時間はダン長がダンジョンポイントを費やして時間を調整している。


「なんだ……これっ? ヌルヌルする! 動け……なぁ……」


 胴体を拘束されてうめき声をあげながらフリッカが脚をバタバタさせる。その様子を生唾を飲み込んで見ていた背後の少年達はしばらく固まっていたが、互いに目を見合わせて拘束された少女の元へ向かう。

 

「大丈夫フリッカちゃん!?」

「今出してやるからな!」


 1分間のペナルティの内容がこの拘束だと知ってか知らずか、彼女の薄幸な生い立ちを勝手に想像していた少年達は彼女を助けようと近寄る。


「引っ張れば抜けるかな……」

「ねぇちょっと! 心配しなくても1分経てばこれは……」


 リンの制止も聞かず、少年達がフリッカを救助しようと彼女の脚を掴んで引っ張り始める。氷で貼り付けていたとはいえ、一体化していない脚はフリッカが意図していないタイミングの急激な負荷に耐えられずあえなく胴体との別れを告げた。


「え……足が……」

「うわあああああ!!」


 少年達からしたらいきなり少女を助けようと掴んだ脚がもげたという光景に驚いて、部屋の外に猛ダッシュで逃げ出してしまった。壁の向こうのフリッカは、足を掴まれて取り外されたことに気が付いて青ざめてしまう。


「あのガキ、抜きやがった!」

「まずい、キルト、キャンディ! あの子達を追いかけてくれ!」

「「了解!」」


 フリッカが魔物であったことが少年達にバレたことでマギリアが驚く。ダン長は少年達が逃げた方向に不安を覚えて、キルトとキャンディを横窓の外に召喚して追いかけさせる。安全面に配慮したアトラクションとはいえ、安全なのはそれが引率の人間と観客がいることが前提だ。慌てた人間が走ってどんな事故が起こるかはわからない。


「ひっ……!」

「フリッカ? 今度はどうした!?」


 逃げる子ども達を彼らに追いかけさせた途端、ぽつんと残されたフリッカのあげた悲鳴に反応してダン長が牢獄跡の奥の方に顔を生やして現状を確認する。


「グルルルル……」


 彼女の目の前にあった正解者への報酬だったはずの宝箱、それがカタカタと動き始め、その中から唸り声が聞こえてきた。宝箱のガチガチという開閉音に合わせて開閉口から垣間見える獣のような牙に思わず目が向く。


「ミミックだ!」

「ミミックだと!?」

【匠と亡霊 12/13 アクシデント】

 アトラクションの盛り上がりを儚げに眺めるダン長とイワシの視線を浴びながら、フリッカのハンマーロード踏破は2着に終わった。牢獄跡を改装したステージは知恵を試す間だったが、最初にスタートしたフリッカは誤答により1分間の拘束を余儀なくされる。過剰に心配した少年達は救助しようと足を引っ張ったせいで外れた義足に驚いて逃げ出してしまい、取り残されたフリッカの目の前で宝箱に擬態したミミックが正体を現す。

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