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20話 匠と亡霊 10/13 神の恩寵と人の心

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

「「駆け出しクーン!!!」」


 浮橋の間の水上通路の障害物を話しあうダン長とダンジョン工達は、ペンデュラムを改造した振り子を利用したハンマーを作ることにした。そして実験のために耐久テスト用の木偶人形・駆け出しクンを平均台に乗せ、20キロの樽を振り子に接着してぶつけていた。結果、吹き飛ばされた人形は水面を1mほど滑り、千切れた片腕と背中を水面に浮かべてグッタリしたまま動かなくなった。


「実験結果! 20キロでも効くものは効く! ママの肉体が頑強すぎるだけじゃ! アシコシ、回収よろしく!」

「オーケーリーダー……おわぁ!」


 イワシが顎髭を撫でながらつぶやいて、アシコシに回収を頼む。彼もまた普段からダンジョンに潜る冒険者やら守護モンスターやらを見過ぎてややダメージに対する感覚が鈍っていたようだ。そして了解して平均台を渡ろうとしたアシコシだったが、ダン長が反応するより素早く動いた弊害で台が沈んで驚きの声をあげる。


「おわっ、すまんアシコシ! ダンジョンポイントの追加が遅れた! あとイワシ爺さん、駆け出しクンの回収は物体移動で済むから大丈夫だ!」


 ダン長は水に落ちたアシコシに謝罪して傷ついた駆け出しクンを陸地へ戻した。アシコシが水に沈んだ原因は、ジャッキをリフトアップするのにマネキン人形が乗れる程度のダンジョンポイントしかつぎ込んでいなかったため、急に乗られた衝撃で足場が沈んだためだった。


「……いやぁ、乗り込んだら急に沈むんですからびっくりしましたよ」


 泳いで足場まで戻ってから愚痴をこぼすアシコシ。ウデップシの手を借りて岸に戻る姿を見ながらダン長は彼の言葉を反芻していた。


(そうか……あのジャッキの構造は衝撃に合わせて凹むんだよな……待てよ、ならこれをハンマーに応用すれば……)

「イワシ爺さん、これを見てくれ! こうすれば威力はハンマーと相手で折半だ!」


 今のやりとりでパンタグラフ機構の使い道を思いついたダン長が改めて壁に図面を描きこむ。樽の上下をハンマーの打面と見立てて、それを軸と接合する部分にある木枠とひし形のリンク機構で繋ぐ。

 ぶつかった衝撃は、この木枠が動いて縮むことで減衰できる。当たった側が凹むことで衝撃を和らげる、理屈としてはピコピコハンマーや刺したら引っ込むマジックナイフと同じである。

 さらなる利点としては、この構造物だけなら樽本体よりもかなり軽くすることもできる。イワシの目算ではあるが、これでハンマーは3~4キロ程度まで重量を抑えることができるらしい。


「面白そうじゃのう! やってみようじゃないか!」


 仕組みと目的を理解したイワシが、2人に指示をして数十分で1つ組み上げた。水の中に沈める必要がないため魔物の骨ではなく木で作られた枠から、柄の両側に前後2つずつ伸び縮みするマジックハンドのようにパンタグラフ機構が伸びて樽の蓋に接合している。これで蓋に命中した時に軸側にひっこんで衝撃を和らげることができるだろう。

 試しにこの振り子を救助した駆け出しクンにぶつけてみると、先程の酒樽の一撃の4分の1も飛ばずおだやかに着水する。


「よっしゃ!これを5カ所分設置すれば安全なハンマーが振れるな!」

「「「イヨッシャェェーイ!!」」」


 設計完了した安全なハンマーにテンションを上げるダンジョン工達。数時間もかければこの機構を量産してすべての柄に安全なハンマーを設置することができるだろう。


「それじゃあ今日の作業はここぐらいまでにしておこう。外はもう真夜中だぞ!」

「そうね、細かい調整なんかは後日でもできるから今日は休んじゃいなさい。イワシちゃんたち、明日から通常のダンジョン整備と一緒に作業しなきゃならないんだから!」


 ダン長の作業終了の言葉にキャンディも同意する。明日からのダンジョン工達は再び始まる通常業務の空き時間に、こちらの作業を手伝うことになる。がやがやと今日の作業の出来具合を語り合いながら入り口にいるマギリアに浮遊魔術の付与を頼んで部屋を出るダンジョン工達。


「……待ってよ」


 そのダンジョン工達の行動を止めたのは、フリッカの声だった。ずっと横で立って歩く訓練をしていた彼女は、楽しんで作業を進めるおじさん達に言いたい事があるようだった。おじさん達も無視せず足を止める。


「なんでアンタたち朝から夜遅くまでこんなことやってんの……休みの日に」

「「「ん? ダンジョン工事が好きだから?」」」

「違う! そもそもこれって私のためとか言ってやってるんだろ!? だけど私はゴーストで、しかもアンタ達を攻撃したんだよ! なんでこんな……」


 フリッカの表情から感じ取れるのは混乱の感情だった。なぜ目の前の人間達は襲い掛かってきていたゴーストのためにここまでするのか。彼女からすればダンジョンに入る大多数の人間は冒険者で、かつ自分達ゴーストを嫌うので、ここまでしてもらう理由が思い当たらないのだ。その言葉を受けたおじさん達はポカンと眼を見開いていた。


「……いや襲ったと言っても魔物って人間を襲うのが当たり前だし?」

「ガハハ! そもそも俺達はそれを承知で外で呑んでたからなぁ!」


 相手が自分を襲ってきた魔物ということを全く気にも留めないアシコシとウデップシ。そもそもそれを覚悟で迷宮で呑んでいたので、フリッカの攻撃に対して何も根に持っていなかった。


「娘っ子や。ワシらは別にゴーストの存在を疎ましく思っておらんよ」

「あぁ?」


 疑問をぶつけてきたフリッカに、今度はイワシから呼びかけてきた。


「漁師が海に挑むように、冒険者はダンジョンの命の巡りから少しずつ恩恵をいただいて生活に役立ておる。そういう意味じゃ、ダンジョンもまた自然の一部と言えるの。その巡りの中にゴーストがいるの、神様に人間の心が自然と一緒にいることを許されているようで……ちょっと嬉しく思っちゃうの」

「……」

「まぁ、生まれるゴーストの未練が殆ど恨みつらみの類だから退治されちゃうが、娘っ子くらい毒気の無いお願いなら、素直に聞いて送ってあげたいってのもあるかの」


 イワシの贈った言葉に目頭を熱くして黙り込むフリッカ。彼らの宗教観では、魔物は元々は自分達を見守る神が与えた尽きない資源である。イワシはその命の巡りに人の意思が宿ることも、神の恩寵の中に人間が許されていることだと解釈していた。フリッカをなだめた彼らを追って、守護モンスター達も浮橋の間を後にする。


「……マギリアがこのダンジョンから離れない理由、分かる気がする」

「ん?」


 帰り道でマギリアに話しかけるダン長。1か月ほどダン長の心のどこかにひっかかっていた疑問。彼女の知能ならどこのダンジョンででも守護モンスターの仕事ができるはずだ。故郷でもないうえに、いつ危険なドラゴンが目覚めるとも思えない迷宮基地を選んで住み込む理由が思い当たらなかった。しかしここ2日間、気のいいダンジョン工達と本格的に接することで彼はその答えを得たような気がした。


「ドラゴンを倒して、このダンジョンと皆を守りたいんだな」

「は? ただ顔も知らん相手に尻尾巻いて逃げる趣味が無いだけだが?」


 ひたすら都合よく解釈するダン長と、解釈違いに抗議するマギリアを最後尾にして一行はアスレチック予定地を後にした。





 牢獄跡の工事に取り掛かり始めて約10日が経過した。ダンジョン工達の助力は通常業務の傍らの手伝いになったため3つ目の部屋の工事ペースは下がって完成が遅れたが、その分動く床のバランスや軌道の調整と、理想的なハンマーの振れ幅等の設定に注力することができた。

 フリッカの歩行訓練も順調で、重量が無くて足への負担が無いためか一度慣れれば普通の人間よりも活発に動けるようになっていた。スカートの中が見えるとゴーストとバレるからと、マギリアからサマーソルトキックの禁止令が出るほどだった。


「ダン長さん、チラシとポスターができたわ!」


 そんな順調な時に今朝方、魔女の家に上がり込んで喜色満面で報告してきたのはサキュバス姉妹次女のアクアだった。広報を担当してもらっていた彼女たちは、通常の仕事の合間合間にせっせとこれらを作ってくれていたのだ。バーに顔を生やすとイグニスとウェンティが紙を持って完成の喜びにはしゃいでいた。


「おお、こっちも3つ目の部屋が昨日終わったばかりだ。よし、アスレチック開催はダンジョン工の休日になる3日後だ!」


 万全の準備を確信したダン長が開催を宣言する。

【匠と亡霊 10/13 神の恩寵と人の心】

 テスト用の駆け出しクンが振り子ハンマーで破壊されたので、ダンジョン工達は対象に安全にぶつかるクッション性の高い構造に改造した。今日の作業を切り上げる彼らをフリッカが呼び止め、なぜ魔物の自分のためにここまでするのかと問う。彼女の存在を自然の一部と受け入れる気のいいダンジョン工達を見て、ダン長はマギリアがダンジョンのボスを倒したい理由を察しつつ、10日でアスレチックを完成させるのだった。

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