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19話 匠と亡霊 9/13 ハンマーロード

【今回の三文あらすじ】

「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。

「私が『ぎそく』つけろって……!? ぎそくってなんだ?」

「お前義足もわからずにノリで驚いてたのか。私達が歩くのに使っている足をお前にもくっつけるんだ、ゴーストだとわかったら人間と遊んでもらえないぞ?」

 

 他の参加予定の子ども達と条件を揃える為にフリッカに義足を付けるのは、元から予定していたアスレチック大会を開くための必要な工程のひとつであった。義足が何かも知らずに驚いていたフリッカを、マギリアが首根っこを捕まえて座らせる。


「初めて見るがゴーストって触れるもんだな……」

「あー、ゴーストはただの思念体じゃない。魔素を配分された魔物の一種だ。魔力を皮膜のように纏わせて肉体のように干渉できる。そうでもなければ着てる服なんてずり落ちてしまうだろう?」


 ゴーストは魔力で肉体の代わりを作っている。ゲームで言うなら耐久力が魔力に依存しているため、魔力が切れたら完全消滅してしまう。素材が残らないのが冒険者に無益と判断される所以である。


「イワシ爺さん、在庫に義足はあるか?」

「人間につける為のものじゃないが、ゴーストが動かすなら『駆け出しクン』の残骸でええじゃろ」

「駆け出しクン……残骸……おお、出てきた」


 ダン長が駆け出しクンから残骸を絞り込んで転送すると、マネキンのパーツらしき木製の足が何セットか出てきた。

 駆け出しクンとは、ダンジョン工が修理した罠を設置した時にきちんと作動するか、作動したとして冒険者のどこに命中するかを確かめるためのダミー人形なのだ。抵抗もできず罠に巻き込まれる姿から『罠回避能力の乏しい駆け出しの冒険者』という皮肉でその名が付けられた。破壊され続けた彼らの犠牲は、ダンジョン運営の礎になっている。

 イワシは到着した駆け出しクンのパーツから、小柄な冒険者モデルの脚を2つ見繕ってフリッカに差し出す。彼女はそうする以外にやむを得ないと判断し、青白い焚火のような下半身の端にそれをくっつけた。


「そう、それで重力に従うイメージで脚を基点にそこに立ってみろ」

「おおー! 私の足みたいじゃねーか!」


 マギリアに立たせてもらうと、先程までの不安そうな表情からガラッと切り替わり、初めて己の足で迷宮の床を踏む感触にテンションをあげるフリッカ。接着面は魔力の身体に対してマッドゴーレムを使うわけにもいかず、彼女の氷魔術で固めている。

 その身長はリンよりやや低いくらいで、ひざ下まであるスカートからスラリと伸びる白い脚は彼女の白い肌とよく馴染んで色白の人間と言っても違和感が少ない見た目になっている。


「しかしこの人形達、筋肉の付き方とか、脚のラインまで人間みたいだ……壊される前提の人形なのにな」

「ほっほっほ♪ 村の人形師に腕のいいのがおりましてな! 自分の作った精巧な人形が無惨に壊された姿に悦ぶキワモノで、返ってきたパーツに頬ずりするわキスするわで依頼人をドン引かせる達人でもございますじゃ」

(異世界メカバレオタクか……変な奴は嫌いじゃない、機会があれば会ってみたいな!)


 フリッカの脚や自分が転送したパーツの出来具合に感心するダン長。よく観察すると筋肉質のものや細身の体型までバリエーションに富み、足の指など細部まで成形して樹脂で仕上げられている。イワシの話によると、村には自分の人形が壊される様に興奮するド変態の神腕人形師がいるらしい。ダン長はまだ見ぬ変態の存在に胸をときめかせた。


「だーっ! 急に手を離すな!」

「わかったわかった……おーいダン長、こっちはフリッカの練習がある。後の作業は皆に任せるぞ」


 向こう側に視線を戻すと、フリッカがマギリアにしがみついて震えていた。流石に彼女の歩行訓練に付き合う以上、ここで脱落は免れないだろう。彼女たちは浮橋の間の入り口側の一角で練習を開始する。


「よし、あっちはマギリアに任せて作業の続きだ」

「それでダン長? この部屋の作業はこれだけで全部か?」


 彼女達の練習を眺めながらつぶやいていると、力自慢のウデップシが問う。前の吊り橋の間にしかけたギミックに比べると、時間内に濡れた平均台を渡るだけなのだ。確かに簡素に思われても仕方がないだろう。


「確かにこれじゃただの平均台だからな。だが例えば、この狭い道を通るのに邪魔するものがあったらもっと面白くなると思わないか? イワシ爺さん、なんかそれっぽいアイテムは無いか?」

「狭い道の邪魔をする……おお、であれば長らく封印していた『あの』仕掛けがあるでしょう」

「しかしリーダー、封印と言っても単に危ないからって撤去して倉庫でホコリ被ってるやつじゃないですか!」

「……そうそう」


 ダン長の浮橋の間に一味仕掛けを加えるアイデア。イワシ老人が『あの』と強調しながら候補を語るも、ウデップシとアシコシがその危険性を訴える。


「それをワシらとダン長で安全に活用するんじゃろう! さ、ダン長『ペンデュラム』を転送してくだされ」

(ペンデュラム……? 『あの』と言っただけで部下達が慌てるブツか……念の為に想起しとくか)


【ペンデュラム】

 長い鋼鉄の軸に複数本ぶら下がった振り子の鎌。北の群生地に繋がる出入口前の一本道に仕掛けられていたが、その破壊力から休戦後の整地の際に撤去された。今は倉庫に解体された部品が保管されている。軸の鉄柱×1 振り子の大鎌×5


(一本道に振り子の鎌……ああ、なんかダンジョンでよくあるやつだな!)


「ちなみにダン長、持ってくる時は周囲の物が崩れないようにしてくだされ。こいつはまだ出来立てで何もなかった倉庫に突っ込んだはいいものの、使う機会が無いままどんどん物が増えていくうちに奥に引っ込んでってのう……持ち出すにも倉庫の中身をほぼ全部出さなきゃならんし、溶かして鉄材にするには大きすぎて困っとったわい」

「……まさか資材をくれるって名目で倉庫整理をさせたいわけじゃないだろうな?」

「なんのことじゃろうかのう……」


 ダン長の指摘にすっとぼけるイワシ老人。ペンデュラムはいわゆるタンスならぬ倉庫の肥やしになっていたらしい。ダン長は呼び寄せる前に倉庫に顔を生やして倉庫の奥を確認し、それらしき鋼鉄の柱と傍らに立てかけられた数本の大鎌を発見した。これらが急に消えて崩れる恐れのありそうな資材を物体操作で片づけておく。


「安全確認ヨシ! ペンデュラム、召喚!」


 ダンジョンにありがちな一本道と振り子の罠、ダン長はイワシの助言に従いその罠を召喚する。こういう罠は振り子の先には、鉄球や斧が付いていて往々にして殺傷力が高い。このダンジョンにおけるペンデュラムも危険すぎて、戦争後には守護モンスターとダンジョン工の手で片づけられていた。

 暗い倉庫からここに転送して初めてダン長にも全容がはっきりと見て取れた。長い。長すぎてこの部屋の奥行に入りきらずに少しはみ出てしまっているくらいだ。長さ数十メートルの太い鉄柱の軸に、5か所の幅が細くなった部分がある。その細い部分にセットして、振り子運動のように動かせそうな数メートルの柄を持つ大鎌が5本。大鎌の反対側の柄の先の金具をハメる構造の罠だ。


「たしかに、こんな危なっかしいものを子どものアスレチックには使えないな……振り子なら、一度動かしてしまえば摩擦と空気抵抗のロスをダンジョンポイントで補い続ければずっと働いてくれるんだがなぁ」

「……んな即死トラップ、子どもどころじゃなくて冒険者相手にも仕掛けられないですよ」


 ダン長の感想に冷静にアシコシがツッコミを入れる。即死はマギリアの治癒魔術でもさすがに手が付けられないらしいので、この手の即死トラップは片付けられていた。即死トラップが撤去されたと聞いて、ダン長はリンを誘導していた時のことを思い出した。


「だけど、危険度で言えば落とし穴は片付けないんだ? 下の階層……群生地ってところに落ちてしまうのは冒険者には危なくないか?」

「……落とし穴んところは石の並びがガッツリ変わっちまって、あんなん回避できんヤツに冒険者は務まらないですよ。群生地に直行したい熟練冒険者の為のショートカット用に残ってんだから」

(あれショトカ用の罠かよ……ひょっとして俺が片付けなくてもリンは素通り回避余裕だった……?)

 

 落とし穴についての疑問をアシコシにすると、その回答からダン長はあの危険だと思っていた罠が初歩的なものだったことに愕然とする。


「おっとそれより、この鎌をどうするかだったな……」


 元あった大部屋の天井がここより高かったのか、鎌の柄の長さは水上通路の天井から水面までに対して長すぎる。このまま吊り下げても鎌は水没してしまうだろう。


「「もちろん壊す!」」

「躊躇無いな!? ずっと置いていたダンジョンの物品だろう!?」


 鎌の付いた鋼鉄の振り子の、天井との距離を計算したイワシが印をつけた部分をウデップシのハンマーとキャンディの拳が次々と粉砕していく。ためらいが全く無しにぶち壊す様子にダン長は驚愕する。


「ほっほっほ♪ どうせ魔王軍の手にダンジョンが渡るまで出番が無いに決まっとりますし?」

「じゃあ使ってしまっていいわけだな、有難い!」


 笑顔で答えるイワシ。ダンジョン工達も長年これを持て余していたので、リサイクルには都合がよかったようだ。


「……あぁ、まずいですねこれ」

「どうしたアシコシ、問題発生か?」

「接合部んところのサビが酷い。ナットもネジもサビて固着してしまってる」


 ガンガン壊してる裏で鉄柱の様子を見ていたアシコシが問題を報告する。呼び出した鉄柱は浮橋の間の奥行よりも少し長く、対岸の壁際の水底から前の吊り橋の間の出口まで伸びている。これを部屋の中央に掛けるには通常、数カ所ある鉄柱の接合部を分解して、両端を目標地点に固定させてから改めて接合する必要がある。

 しかし撤去してから放置されていたからか、はたまた魔王軍が整備を怠って運用していたからか、鉄柱同士の端を接合する為のねじ込む部分と、それを強固にするフランジ部分を止めているボルトとナットがサビついて固着してしまっている。鉄柱そのもののサビは軽く、強度こそ問題は無いがこれを分解して接合するには相当の手間が要るだろう。


「心配いらんわい。ダン長、だいたい柄の長さを水面ピッタリにするには天井から30センチほど下ですかな」

(なるほど!)


 イワシは笑顔で設置予定の位置を教える。ダン長は物体操作の能力を活かしてその片側の端を吊り橋の間の中間あたりまで下げて、対岸の壁まで距離をとる。その様子を重量テストを続けていたリンが吃驚して眺めていたが、数秒ほどして助走(?)をつけた鉄柱は浮橋の間の出口側天井のやや下に思い切り突き刺さる。勢いの限り壁に深々と突き刺さしたおかげで、奥行よりも少し長かった鉄柱は反対側を自由に動かす余裕が生まれた。

 これで入り口側の天井真下にも突き刺すことができるようになったので、水平にしてそちら側へも思い切り突き刺す。後はジャッキと同じようにマッドゴーレムの泥で接着する。ダン長の持つマディックハンドが同じ素材なので、高い所の接着はダンジョン工の手を借りずに豪快に済ませる。


「この手に限る」

「「「イヨッシャェェーイ!!」」」

「……なあ、私はフリッカよりあの男どもを監視してないとダメか?」


 ダン長の工事と言うにも憚られる品性の無い突き刺しを眺めて、花火でも見るかのように歓声を上げるダンジョン工のおじさん達。フリッカの両腕を掴みながらよちよち歩かせていたマギリアは呆れてつぶやく。


「さて、後は振り子の先につけるパーツだが……刃物とか尖ったものは当然ダメだが、当たったら平均台では踏ん張れない程度に大きなものが必要だな」

「はてさて、何がいいですかのう……ダンジョンの罠を代わりにくっつけるにしても条件に合うのも難しいのう」

「「あーでもない、こーでもない」」

 

 次の問題は通行を妨害するパーツだが。斧や鉄球など物騒なアイテムはアウトだが、綿毛でも当てて平均台で踏ん張られて止められては障害物の意味が無い。一同は輪になって座り込んで適したアイテムを考える。


「あらあら、うちにある余った空の樽があるわよ? 中が空っぽだし、これなら当たってもそこまで痛くないんじゃないかしら?」

「おお、この振り子の先にくっつけてしまえばハンマーが揺れるみたいで面白いな!」


 キャンディが会議に口を挟む。空になった樽には大きさに比べて軽いものもあるらしく、20キロ程のもので充分なサイズの樽があるらしい。


「いや待てィ、その痛い痛くねえはママの基準じゃないか?」

「あらそうねぇ……ちょっとあのサイズはお子さま達には痛いかしら……」


 頑強なキャンディなら20キロの樽がぶち当たっても痛くも痒くも無いだろうが、子どもの場合はどうだろうかと疑問を覚えるウデップシ。


「「やってみればわかる」」


 ダン長と隣に座るイワシが声を揃えて答える。その間には小柄な駆け出しクンが転送されていた。彼は己の先代たちがどんな仕事を受けていたかを、数十秒後にこの身で味わうこととなるだろう。

【匠と亡霊 9/13 ハンマーロード】

 「宙を飛べば意味ない仕掛けだ」と石の道を評するフリッカに対して、魔物と間違われないために『駆け出しクン』と呼ばれる罠点検用の人形の脚を利用した義足を付けさせて歩行訓練を始める一同。もう一つ要素を加えたいと望むダン長に、イワシは天井から下がる振り込状の鎌『ペンデュラム』を加工して安全に運用することを提案する。一同は鎌の代わりになる妨害アイテムを決める話し合いをし、キャンディが提案した空樽をハンマーのように取り付けたものでテストを行うことになる。

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