17話 匠と亡霊 7/13 設備完成
【今回の三文あらすじ】
「興味があるけど読む時間が取れない」「最新話だけ手っ取り早く追いたい」という需要を考え、あとがきに今回の主な出来事を三文に要約しました。
「よーし、アシコシが石を磨いている間に、落下防止の設計をやろうか」
「おお、確かに子どもが動く床から落ちたら助からない、これをどうやって解決するんですかのう?」
子ども達を遊びたい未練が集まったフリッカを成仏させるためにアスレチックを設計しようとするダン長。施行先に選んだ吊り橋の間の大穴に動く床を作る計画を立てたが、安全のために落ちても大丈夫なようにしなければならない。
「ああ、ダンジョンには網の罠が余るほどあったんだ、それを使って落ちた人間を受け止めるセーフティーネットを下に敷いておく」
ダン長はそう言って、目覚めた初日にやってきた冒険者チームの隊長を捕まえた網の罠をいくつか入り口側に召喚した。この人間を捕まえる罠を活用して動く床から落っこちる人間を受け止める網に改造しようというのだ。
「網の罠は何個もあったからか、穴全体に網を張ってもかなり余るくらい沢山あるな……これは器用なキルトに任せようか。網の端を解いて、壁に刺したペグに結んで固定できるように端々に縄を作って欲しい」
「なるほど、我輩に用か。必要とあらば請け負おう」
キルトは素直に了承してもくもくと作業に入る。ダンジョンの壁にロープをひっかけるペグのような杭を打って、それを縄で結んで固定させて落下者を空中で受け止める網を張る予定だ。
「さて、次はそのペグを壁に固定させる作業だが……これはウデップシに頼めるか?」
「合点だ!」
イワシは老齢で、アシコシは今は移動床を磨いているので、ペグ打ちは余った力仕事担当のつよいおじさんに任せることにする。入り口側に登れても出口側に上らせては移動床の意味が無くなるので網の位置は出入口側の基準点から2mの地点に決定した。この網に連結して、入り口側に昇降用の縄梯子を設置して上部への復帰ができるように設計する。だが床の無い場所で前後左右の壁にペグを刺して回るのは困難な作業になるだろう。
「そうなると、ペグを打ちこむための足場が必要になるが……」
「ほほう、なら私が浮遊の魔術をかけて作業の補助をしてやろう」
そう言ってペグ打ちの作業はつよいおじさんのウデップシと、守護モンスターのマギリアが担当することになった。
「む? 魔女様が浮遊をかけてくださるのなら下に網を張る必要はないのでは!?」
「アホ言え、こういうのは落ちて安全かどうか見えてるのが大事なんだ。お子様と心臓に毛の生えたお前達を一緒にするな。浮与! ほら詠唱が聞こえたら安心して穴に突っ込めるだろうが」
ウデップシは道具を抱えながら率直に必要性を問うが、マギリアが手ずから浮遊魔術をかけて彼を蹴り出した。どうやら浮き始めたら自分の意思で高度を変えられるのか、ウデップシは「へいへい」と言いながら空中を走るようにずんずん進んで壁の一面から作業に取り掛かり始めた。
「よっし! 浮遊予定の床、磨き終わりましたァ!」
「ついでに良かれと思って、『こっから先は危ないぞい』って感じで端から30センチのところにチョークで白線も引いておいたわい」
「でかした!」
役割を分担し終わったダン長がその様子を眺めていると、幽鬼のような細身の男であるアシコシが歓喜の叫びをあげた。ダン長がそちらを振り向いて見てみると、切り出した岩石は見る者の顔が映り込むほど精巧に磨き上げられた大きな石板となっていた。加えてイワシの気遣いでここから先に重心があると危ないというラインが引かれている。
「よーし、さっそくこれを浮かして……リン、試しに乗ってみてくれ。動く床の初稼働だ!」
「はい!」
ダン長が物体操作の能力で大きな石板を水平に50cmほどの高さに浮かせる。流石に網の設計中の大穴の上では試せないので、入り口側の床の上でリンを乗せることにする。元気よく返事をしたリンが、ジャンプして石板に飛び乗る。
(うわっ……思ったより傾く!)
「わっ……ととと!」
人1人分の重さにより水平な浮遊状態を保てずに、ダン長は思わず石板を傾かせてしまう。やや前面に乗り込んだリンは石板から投げ出され、地面に受け身をとって着地する。
「びっくりした!」
「すまんリン! しかし、上に乗られた分の重さでここまで傾くとは……慣らしが必要になるな」
「そうよぉ。最初は上手く行かなくても、できるようになるまで繰り返せばいいのよ」
手の余っているキャンディがフォローを入れてくれる。これからは、乗り込んだタイミングに合わせて浮力のバランスを調整して平行に保つ訓練が必要になる。
「石板に乗っかる役はリンにやってもらうとして、そうなると平行して動作テストもしたいからな……イワシ、アシコシ。同じサイズで床を切り出すから、もう1回頼む」
「「がってんだ!!」」
石板が1個では必要なテストが足りないため、ダン長が次の石を大岩から切り出す。イワシとアシコシが切り出された石を磨き、マークをつける同じ工程を繰り返す。ものの1時間で磨き終えて、2つ目の石板が完成する。ダン長が考えている動く床の水平移動の問題だが、ちょうど迷宮の水平に組まれた壁石のおかげでわかりやすい基準となってくれるだろう。
「ダン長、僕を乗せたまま石切ったりもできるんですね……」
「人間の身体を失った代わりにダンジョンポイントが続く限りどこでも作業できるようになったからな。新しく顔を生やせばこっちで作業しながらだって中庭に咲いてる花の数だってわかる」
「すごい器用なんですね!」
1時間ほどかけて、白線の中でリンがあぐらかいて座っている状態なら完全に安定させられるようになったダン長。リンにはこれから姿勢維持テストの為に歩き回ったり跳ねたりしてもらう予定だが、彼の様子からはまだ先程のように落ちやしないかと不安なしぐさが見て取れる。
それに比べて、ウデップシはマギリアのかけた浮遊魔術の効果に全幅の信頼を預けてガンガンと壁にペグを打ちこんでいく。守護モンスターと村人達の数十年の付き合いがなせる連携なのだろう。
(俺もリンやダンジョンの皆とあのぐらいになれるだろうか……いや、でも俺は循環器を壊して皆の仕事を奪ってしまうんだ。仲良くやるだけお互いその時が辛いだけじゃないのか……?)
事実、ダン長にとってダンジョン製作の作業は楽しかったのだ。フリッカの成仏という目標を掲げてアスレチックと言う手段を講じ、守護モンスターやダンジョン工と共に言葉を交わして力を出し合う。
マギリアと共に冒険者対策のダンジョンを作っていた時のシナリオを作るような喜びを、さらに多くの者と共有している。それに比例するように自分が消えてダンジョンを無くしてしまうことへの罪悪感が増していくことに悩んでいた。
「なーにを悩んだ顔をして作業を見てるんだ?」
匠たちの様子を見ながら葛藤するダン長の石を拾い上げて、マギリアが話しかけてきた。
「ああ……俺がいずれ循環器を壊して消え去るって決めて距離を置いてたのに、いざイワシ爺さん達と一緒に仕事してると楽しいのがひっかかてな……」
「ほほう、楽しいのが嫌ならば今すぐ工事を辞めて、フリッカをぶちのめして浄化してしまうか?」
最初こそダン長は現地の人間達との深い関りを避けていたのに、いざ一緒に作業するとお互いに楽しんでいたことを話す。それに応えて物騒な提案をするマギリアに後ろの方で作業を見てたフリッカが「ひっ」と短い悲鳴を漏らす。
「いや、それとこれとは――」
「同じことだろう。今はどう転んでも消えるフリッカの送り方を選ぼうとしてるんだ。皆で力を合わせて村の子どもと楽しい時を過ごさせようとな。ダン長の存在も、いずれ無くすものだからといって、それまでの過程を有意義なものにする努力を放棄してはもったいなくないか?」
「……」
マギリアはあまり見ない真面目な表情でダン長を諭す。彼女にとってダン長が消えることは不利益になるというのに、真剣に悩みに向き合ってくれている。
「ありがとうマギリア、ちょっと楽になった……ダンジョン工の皆とどう接しようか1か月も迷っていたのに、話してみればあっさり解決するもんだな」
「ふん、悩んだまま半端な仕事をされて事故でも起こされたらたまったものじゃないからな。だいたい、ドラゴン退治に味方を集めるっていうのに、肝心のダン長がそうやって周りと距離を取られては私も困る」
礼を言うダン長だが、彼女からは相変わらずの憎まれ口が返ってくる。
「ああ、俺の時は友達100人ぐらい作って盛大に見送ってもらおうじゃないか。そんで、この迷宮がダンジョンじゃなくなってもイワシ爺さん達の仕事が続けられるように、いっそ迷宮をテーマパークか記念館にでもしてしまうか!」
「おおその意気だが、終わるタイミングを選ぶ主導権を譲ったわけではないからな? 私がいる限りダン長は簡単には消えさせないからな!」
改めてリン達との信頼を築き上げていこうと心がけるダン長。マギリアの激励により作業の監督と己の浮遊石板の調整により一層尽力するようになった。
「ダン長、網の加工はこのくらいでいいか?」
「こっちも杭打ちが終わったぞ!」
作業を眺めて数時間後、網をペグに結ばせる用意ができたキルトと壁にペグを打ち込み終わったウデップシがほぼ同時に作業終了の報告をする。マギリアの浮遊魔術の補助を得ながら、ダンジョン工達は網の端々を壁に固定していく。ものの数十分で、旧吊り橋の間の大穴は隙間なく網が張られることになった。耐久度テストのため、キャンディとウデップシが端材の岩石を投げる。二度切り分けられたとはいえ、その重量は数百キログラムはあるだろう。子どもが落ちることを想定したにしては大きすぎる物体だが、その落下を受けてもギシギシと音を立てて揺れる縄は千切れず、ペグが外れることもなかった。
「「「よっしゃあ! これで第一関門、セーフティーネットの完成だ!」」」
動く床の配置はダン長が平行移動と重量対策の訓練が終わってからになるとして、こうしてダン長と守護モンスターとダンジョン工の力で、ダンジョン式アスレチックの第一歩である保護網を設置することができた。
「おお、後は私が網に浮遊魔術をエンチャントしておいてやろう。あまり高くはないとはいえ落ち方が悪ければケガするかもしれないからな、網に近づくほど落下速度が緩やかになる」
「ん? 補助は嬉しいが、それを俺が動かしてる石板にやってもらえれば随分楽になるんじゃないか?」
マギリアの助力に率直に感謝するも、今まで自分がやってきた平行状態の制御や移動の訓練に意義を見出せなくなるダン長。
「あー? ダメだな。浮与をかけたら術式の影響を受けて乗ったヤツも石板から僅かに浮いてしまうぞ? その浮遊感に逆らって網を掴むのならともかく、ただ乗っただけの石板を動かしてみろ……浮与をかけた石板が急にズレたら……上にいた奴は慣性の影響を受けず……」
「落ちる!?」
ダン長は生前にプレイしていた『最終剣』という激安のアクションゲームのことを思い出した。リフトのように前後に動く床のはずが、上に立つと移動する床に合わせて自分が動かずに落ちてしまう謎の仕様。マギリアの魔術に頼るとそれと同じことが起こってしまうと知って、自分の力で石板の制御をものにしようと心に誓うのだった。
【匠と亡霊 7/13 設備完成】
落下防止ネットを張る為にキルトとウデップシに仕事を振ったダン長は、アシコシが磨いた石板の初浮遊に失敗する。ダン長はリンの協力で上からの衝撃に石板を水平に保つ訓練をしながら、マギリアの魔術に全幅の信頼を置くダンジョン工の仕事を悩ましそうに眺める。その様子を見たマギリアの助言で異世界の人々と深く関わることへのためらいを解消したダン長は、周囲の協力を得てダンジョン式アスレチックの第一歩である落下防止ネットを完成させた。




